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保安官

アングロ・サクソン時代のイングランドにおける公安職。並びにそれを由来とする現在の公安職。 From Wikipedia, the free encyclopedia

シェリフsheriff)は、その官職の発祥の地であるイングランドと歴史的な繋がりを持つ一部の国々に存在する、多様な責務を負う政府官吏英語版である。アイスランドおよびフェロー諸島には、これに類似した、ただし独立して発展した官職として「sýslumaður」が存在し、これは一般に英語で「シェリフ」と翻訳される。

1909年5月25日、ノースカロライナ州ハムレットにて、ヒンソンシェリフと副官たちが押収した100ガロンの違法蒸留器とともに並ぶ図

概要

イギリス英語において、シェリフの政治的または法的官職、その任期、あるいは管轄権は、イングランドおよびウェールズでは「shrievalty」[1]、スコットランドでは「シェリフ管轄区英語版[2]と称される。

現代において、シェリフが担う法的、政治的、および儀礼的な職務の具体的な組み合わせは、国によって大きく異なる。

  • イングランド、北アイルランド、またはウェールズにおいて、シェリフ(またはハイ・シェリフ英語版)は、儀礼的な郡または市の官吏である。
  • スコットランドにおいて、シェリフは裁判官である[3]
  • アイルランド共和国において、一部の郡およびダブリンコークの両市では、シェリフは執達吏に類似した法的官吏である。
  • アメリカ合衆国において、アメリカ合衆国のシェリフ英語版は、州や郡によって職務が異なる宣誓済みの法執行官である。一般にシェリフは選出制の官吏であり、その職務には通常、未法人地域英語版の警備、郡監獄の維持、郡内の裁判所の警備、および(一部の州では)令状や裁判書類の送達が含まれる。これら警察業務や矯正業務に加え、シェリフはその管轄区域内においてしばしば民事法英語版の執行責任を負う[4]。これに加えて、警備および矯正業務のほかに、シェリフはその管轄下における民事法の執行に対してもしばしば責任を負う[5]
  • カナダにおいて、シェリフは様々な形態で存在し、その職務と権限は州によって異なる。一般に、州のシェリフ局は裁判所の囚人の管理・移送、および法的プロセスの執行を担う。一部の州では、シェリフは裁判制度の警備、公職者の保護、および地元警察による捜査の支援を行う。アルバータ州では、シェリフは交通取締りや農村地域での9-1-1通報への対応など、補完的な能力で様々な法執行職務を遂行する。
  • オーストラリアおよび南アフリカ共和国において、シェリフは執達吏に類似した法的官吏である。これらの国々では、郡とシェリフとの間の繋がりは保持されていない。
  • インドにおいて、シェリフは主として儀礼的な官職である。

名称

「シェリフ」(英語: sheriff)は、古英語の scīr-gerefa(shire-reeve)に由来する[6]scīr は州・郡(shire)、gerefa は代官・執行官を意味し、原義としては「州(shire)の代官」に近い[7]

ただし、前征服期イングランドのラテン語文書では、この官職は必ずしも一貫して vicecomes と表記されたわけではない。シャープによれば、995年の文書ではエゼルレッド王の二人のシェリフが praepositi と呼ばれ、1012年の prefectum meum の背後にもシェリフがいる可能性があるという[8]。征服後には、シェリフはearl との関係の中で把握され、公的ラテン語では vicecomes が標準的表現となった[9]。もっとも、この移行は一挙に完了したわけではなく、1068年の文書にはシェリフを minister と記す過渡的用法も見られる[10] より高位の vicecomes がイングランドで確認されるのは1069年の文書である[11]

なお、中世イングランド史料に見える vicecomes は、後世の爵位としての viscountViscount)と単純に同一視すべきではない。シャープは、イングランドにおける vicecomitescomites の関係は、ノルマンディーにおける visconteconte の関係とは異なると述べている[12]。そのため、11–12世紀イングランドの文脈で vicecomes を機械的に「子爵」「副伯」と訳すと、地方官職としてのシェリフを見誤るおそれがある[13]

さらに、11–12世紀のラテン語史料では、シェリフを表す語は vicecomes に限られない。シャープは、非公的文書や叙述史料において praesesproconsulviceconsulvicedominus などの語が、文脈によってシェリフを意味しうることを論じている[14]。たとえば Ælfric の語彙集では praesesscīr-gerefa に対応し、Exon Domesday に見える viceconsul の一例は、デヴォンのシェリフであった Baldwin を指すとされる。[15]

元来の職務

中世イングランドにおけるシェリフは、単なる名目的官職ではなく、郡における王権の地方執行官として、司法・治安・財政・行政にまたがる広い職務を担った。シャープは、scīr-gerefa を「州における王の官僚機構の頂点」に立つ人物として位置づけている[16]

地方司法との関係では、少なくとも10世紀後半の記録に、ケンブリッジシャーのシェリフである 「Wulfstan of Dalham」 が、二つのハンドレッド英語版を集めた プレアを主宰した例が見える[17]。また、12世紀初頭には county court (州裁判所)において、シェリフや local justiciars (地方司法官)が王冠訴訟や多くの民事訴訟を扱っていたが、その後、ヘンリー1世以降は中央から派遣された裁判官への移管が進み、ヘンリー2世のもとで巡回裁判が拡大していった[18] したがって、シェリフは初期には地方司法の中心にいたが、その独占的地位は12世紀を通じて相対化された[19][20]

治安・執行の面では、『エリーの自由権』に関する研究が、シェリフの通常の介入領域を具体的に示している。それによれば、エリー修道院の liberty (自由権)は、その土地とハンドレッド区におけるシェリフおよびその下級役人の介入に対する包括的免除として成り立っており、一定の private hundred courts (私的百人区裁判所)の開催、 view of frankpledge (フランクプレッジ監察)の実施、公的裁判所でシェリフが扱いうる訴訟の審理、令状返送権、犯罪者の逮捕・収監・裁判・判決執行、さらに罰金および科料の徴収保持が、その内容に含まれていた[21]。これは逆にいえば、シェリフが通常こうした地方司法・行政執行の実務に深く関与していたことを示す[22]

また、12–13世紀には hundred court の上位で、シェリフが年に二度、巡回裁判を開き、そのうちミカエル祭期の巡回では view of frankpledge (フランクプレッジ監察)が実施された。そこで陪審的な12人が重罪を陪審を経て申告し、その結果として被疑者が逮捕され、拘禁者一括審理まで拘禁または保釈されることがあった[23]。このことから、シェリフは単なる裁判所の陪席者ではなく、地域社会の治安維持と犯罪摘発において重要な役割を担っていたことが分かる[24]

財政面では、シェリフは王室財政の郡単位の担い手でもあった。アレックス・ハリソンの研究によれば、中世の sheriff’s farm (シェリフ・ファーム(シェリフが国庫に納める州収入の請負額))は、シェリフがエクスチェッカー(Exchequer)に対して郡の収入を納付する仕組みであり、シェリフは郡レベルでの王収入の徴収・会計・送納に深く関与していた[25]。この点でシェリフは、司法・治安官であるだけでなく、王権の財政的基盤を地方で支える役職でもあった[26]

ヨーロッパ

連合王国

古来、古英語の用語は王の代官たる「リーヴ(reeve)」を指し、王に代わりて「シャイア」あるいは郡を統括せしめた。その名は「(シャイア・リーヴ)」(古英語: scīrgerefa)の短縮に由来する[27][28][29]

シェリフは治安の維持に任じ、戦時には国王を援くべく武装兵英語版を供出した。徴税もまた重き職務にして、各行政区(「ハンドレッド英語版」)より「ゲルド英語版」と称される土地税を徴収。王は査定のため各郡へ書記官と騎士を派遣し、シェリフおよび選抜された地元の騎士とともに協議を行わしめた。確定せしゲルドは、ハンドレッドの騎士および代官の手に拠りてシェリフへ、次いで財務省へと納められた[30]

特定なる貴族に忠誠を誓うシェリフは、その知己なき騎士の経歴を組織的に妨害。有力なる背景を有するシェリフの一族は、所領なき身ながらも司法制度においてイングランドの騎士を凌駕する実質的権力を保持した[31]

この用語と職務はノルマン・コンクエスト以降も保持されたが、数世紀を経てその役割は進化を遂げた。現代におけるシェリフあるいはハイ・シェリフは、儀礼的な官吏に留まる。一部の商業組織は、2004年以前は「シェリフの役人」として知られていた高等裁判所執行官英語版を指すためにこの用語を用いている[32]

イングランドおよびウェールズにおいて、現在もシェリフの職を維持しているのは、ベリック=アポン=ツイード、カンタベリー、カーマーゼン、チェスター、グロスター、ハバーフォードウェスト、リッチフィールド、リンカーン、ニューカッスル、ノリッジ、ノッティンガム、オックスフォード、プール、サウサンプトン、およびヨークの計15都市である。

1985年、当時のグロスター・シェリフであったアンドリュー・グラヴェルスにより「イングランドおよびウェールズ都市・町シェリフ全国協会(NACTSEW)」が創設された。同協会は「イングランドおよびウェールズの都市および町におけるシェリフの古来の官職を保存、強化、および促進すること」を目的としている[33]

スコットランド

スコットランドにおいて、シェリフはシェリフ裁判所英語版の司法職保持者であり、スコットランド司法府英語版の一員を構成する[34]

「シェリフ・プリンシパル」

最上位のシェリフは「シェリフ・プリンシパル英語版」である。彼らは6つのシェリフ管轄区において司法権および行政権を保持し、管轄下の全裁判所の円滑な運営に責任を負う。また、シェリフ控訴裁判所英語版において控訴審シェリフを務め、略式裁判からの量刑および有罪判決に対する控訴を審理する[35]。その他の職務として、北部灯台委員会英語版の委員を務めること[36]、および地元検察官(プロキュレーター・フィスカル英語版)や警察、裁判所審判所局の代表者が集う地域刑事司法評議会の議長を務めることが挙げられる[37]

「シェリフ」

シェリフは民事および刑事事件の大半を取り扱い、起訴対象犯罪英語版には15名の陪審英語版を伴う正式手続英語版を主宰し、略式罪には単独での略式手続を主宰する。資格として法廷弁護士(アドボケート英語版)または事務弁護士としての10年以上の経験を要する。量刑権限は略式手続で最大12か月の禁錮または1万ポンドの罰金、正式手続で最大5年の禁錮または無制限の罰金である[34]

さらに突然死や疑わしい死を調査する「致命的事故調査英語版」を主宰し、事件の再発防止に向けた勧告を行う権限も有する[38][39]

「サマリー・シェリフ」

サマリー・シェリフ英語版」は、簡易手続(Simple Procedure)の民事事件および略式手続の刑事事件を審理する。その権限は略式手続を主宰するシェリフに準じる[40]

アイルランド共和国

アイルランド共和国において、シェリフ(sirriam[41])は、本来郡登記官英語版が遂行すべき機能の一部を代行すべく、1945年裁判所官吏法に基づき任命される[42][43][44]。資格としてシェリフの助手や法廷弁護士、事務弁護士としての5年の経験を要し、実務上は以下の2種類が任命されている[43][45]

  • 4名の専任シェリフ(ダブリン市ダブリン郡コーク市コーク郡)の責任範囲[42][44][46][45]
    • 税務委員会に代わる未払税債務の徴収。
    • 巡回裁判所命令(立ち退きや債権回収)の執行。
    • 公職選挙における選挙管理官。
  • 「税収シェリフ(Revenue sheriffs)」と称される14名のシェリフ。彼らは徴税業務のみを担い、その他の業務は登記官事務所が所管する[42][47][45][48]。個人開業の事務弁護士からなり、特定の「管轄区域」をカバーする。公務員ではないが採用審査を受け、手数料および国からの限定的な契約金により運営される[49][50][51]。また不正を防ぐべく保証金の預け入れを要する[52]

1922年のアイルランド自由国創設以前、制度はイングランドに準じたが、1924年司法裁判所法により新設の巡回裁判所へ移行[53]。1926年裁判所官吏法はハイ・シェリフを廃止、実務を担うアンダー・シェリフも引退とともに郡登記官へ統合される手筈となった[54]。1945年、多忙を極めるダブリン市登記官の職務を補完すべく、1945年法により現行のシェリフ職が再定義されるに至った。1980年代後半には脱税対策の一環として税収シェリフを各地へ導入した[42][47]。1993年、利息の混合管理が懸念されたことを受け[55]、1998年に利息保持を禁じる代わりに契約金を増額する改革を断行した[56]。1988年のアイルランド法改革委員会は制度更新を勧告したが[57]、2023年時点での進捗は限定的である[58]。新型コロナパンデミックによる徴収難を経て[59]、2024年の報告書は債権執行におけるシェリフの有効性を認め、官職の維持を勧告した[60][59][61][62]

アジア

インド

インドでは、かつてのイギリス領プレジデンシーであったムンバイ、コルカタ、およびチェンナイ(1998年廃止)のみがシェリフを有した。18世紀に設立された当初は司法の執行部門であったが、19世紀半ば以降に権限は縮小され、儀礼的な名誉職へと変遷した。現在は市長に次ぐ典礼順位を保持し、非政治的な立場で市の行事や賓客の歓迎を担う。

フィリピン

合衆国の元植民地であるフィリピンにもシェリフ職が存在する。その任務は主として裁判所の令状送達および命令の実施であり、プロセスの有効性を判断することなく機械的にこれを実行する[63]

オセアニア

オーストラリア

1824年、「司法憲章」の公布により、流刑地の刑務所監督権が憲兵司令官英語版からシェリフへ移譲された。シェリフは死刑執行や囚人移送を司り、ゴート島等の徒刑囚英語版を管理。1867年以降は独立した刑務所局がその役割を担うようになった[64]

現在、ニューサウスウェールズ州では裁判所警備や陪審員管理、令状執行を行い[65]、ビクトリア州では未払い罰金や判決債務の回収を主導。西オーストラリア州では書類送達および陪審名簿作成を担うなど、州ごとにその権限は細分化されている[66][67][68]

ニュージーランド

上位裁判所の官吏であり、高等裁判所の登記官が自動的にその職を兼ねる。

北アメリカ

カナダ

全州および準州で運営される。主に法廷警備、加害者移送、民事判決執行に関与[69][70][71]。カナダ刑法の下で「治安維持官英語版」と定義される[72]

アルバータ州

法廷警備、加害者移送、商用車安全、野生生物保護執行を担う[73][74]。2006年からはハイウェイ・パトロールも運営し、地元警察を補完する[75]。2019年からは農村部での9-1-1通報にも対応している[76]。2023年にはカルガリー等で市警察との共同パトロールも実施された[77]

ブリティッシュコロンビア州

法廷警備と移送を担当[78]。裁判所命令の発行は民間委託された執達吏の責任である[79]

ニューファンドランド・ラブラドール州

各裁判所への保護・執行を提供[80]。緊急事態準備プログラム下で警察支援も行う[81]

ノバスコシア州

司法関係者や公衆の安全に焦点を当てる。各郡に配属され、囚人移送や裁判所命令執行を担う[82]

オンタリオ州

陪審員選定や債権回収、立ち退きを所管する[83]。法廷警備や移送は地元警察等が担当する[84]

ケベック州

陪審員選定プロセスを担当[85]。財産押収・売却時の執行状も扱う[86]

アメリカ合衆国

最高位の文民法執行官を務める選出制郡官吏である[4][5]。立ち退き、資産押収、令状送達、郡監獄の管理、法廷警備を担う。植民地時代の1640年代から記録がある[87]

南アフリカ共和国

裁判所の執行部門であり、召喚状送達や不動産の差し押さえ、取り壊し命令執行に重要な役割を果たす。司法大臣により任命され、1986年シェリフ法により規定される[88]

関連する官職

ノルウェー

2021年まで、合衆国のシェリフに類似した機能を果たす「レンスマン英語版」が存在した。2000年に民事職務が警察へ移管されたことで警察との差異は消失。現在は警察署長等の名称へと移行している。

アイスランド

国家管理者であり、行政権およびシェリフ事務所の長としての権限を有する[89]。1262年から1264年の間に批准された「古誓約」に端を発する最古のポストである[90]。婚姻事項、相続[91]、手数料徴収、ライセンス発行などを担う[92]。一部では警察本部長を兼ねる[93]

副シェリフ

副シェリフdeputy sheriff)は、シェリフの指揮下で同等の職務を遂行する官吏である。

脚注

参考文献

関連項目

外部リンク

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