猪狩定子
From Wikipedia, the free encyclopedia
東京目黒生まれ。実家は宮大工。男ばかり8人兄弟の最後に、長女として生まれた。父親は戦時下で仕事がなくなり、兄の何人かは終戦後すぐ稼ぐために芸能活動を始めていた。後に定子もこうしたエンターテインメントの方面に加わるのは、こうした事情による。
子どものころから体格が良く、また通っていた学校では女の子らしくしないとダメと言われても、家では男の中で育った環境下であり、相撲や柔道、ボクシングなどに励む兄らに囲まれてたくましく育てられたといい、近所の同級生らと喧嘩になっても負けたことがないという[1]。
長兄のパンらが常磐楽団というバンドを結成すると、定子も加入し、主に東北地方や北海道を回っている。その後兄たちが米軍キャンプ回りで芸能ショーを行いはじめるが、芸能ショーの演目用に、パンはアメリカでは人気であり、パリに行ったときにムーランルージュでみた女子プロレスに目をつけて、さっそく1948年から三鷹市の国際基督教大学裏に道場[2]を建て、定子は彼にレスリングを仕込まれると、同年2月に二人の兄パンとショパンとともに、進駐軍キャンプでのコミカルなレスリング&ボクシングショーで人気を得る。彼女は兄妹の中でただ一人の女性であったため、レスラーに抜擢されたようである。これを兄パンが「パン・スポーツ・ショー」と命名。内容は進駐軍にむけてジャズミュージックに乗せて、ショパンがレフェリーになり、パンと定子がボクシングをする。それが喧嘩になり、レスリングに変わるというものである。ボクシングとレスリングをコミカルに演じていたのであり、つまりはあくまで女子プロレスをヒントに、コミックショーに演目として組み込んだものであったものが、日本最初の女子プロレスとされたのである。
その後も、アクロバット芸人だった田山勝美やストリッパーだった女性らを誘って試合ができる体制を整える。内容はそうしたアクロバットの芸人やストリッパーが、相手選手の腿にはめてあるガーターベルトをはずした方が勝ちというちょっとセクシーなもの(ガーター・マッチ)で、ドタバタコメディの一環として女同士の現代のいうキャットファイトの様相だったという。
コントから始まった女子プロレスであるが、女性への偏見が根強い時代背景もあり、当初は批判にもさらされたという。四十八手などからヒントを得た動きや女性の水着姿でのショーということで勘違いされ、わいせつ物陳列罪で摘発されたこともあったほか、観客から罵倒されたり、牛乳瓶を投げられて後頭部に当たって負傷したりしたというが、定子は何を言われても、自分がしたいと思えることをしていたから、堂々と闘えたと振り返っており、実際1950年代になると女子プロレスの認知度も上がり、女性の選手が増え始め、劇場で女性同士の試合ができるようになったという。そうすると今度はだんだんと客も本格的な試合形式を求めるようになったという[1]。
こうして1954年(昭和29年)11月になると、アメリカから米軍の慰問に訪れた伝説的女子プロレスラー、ミルドレッド・バーク[3]、メイ・ヤングといった当時一流の女子レスラーを招いて「世界女子プロレスリング大試合」が催された。これが日本で最初の女子プロレス興行であり、神戸市の王子体育館(神戸市立王子スポーツセンター)や東京の蔵前国技館など、全国4カ所を回る。こうして大会場で興行を行い、本格的なプロフェッショナル・レスリングが始まると、定子もこの一行の興行に前座で出場している。これは現代のプロレスの試合形式で行われたと言われ、定子が日本最初の女子プロレスラーと言われる所以となる。ただしこの時点で、定子が知っている正式なプロレス技はハンマー投げしか知らなかった[4]が、後にドロップキックを体得し得意技とする。
彼女はこの日本ツアーに参戦すると、その技術を見たバークから渡米を勧められた。が日本に残留することになる。
その後女子プロレスは人気に火がつき、国内で女子プロレス団体が乱立するようになったという[1]。
1955年(昭和30年)9月11日、日大講堂で行われた決定戦で小畑千代&伊藤静江組を破り、田山勝美と組んで初代日本女子ライト級タッグ王座を戴冠。この時チャンピオンベルトを巻いたが、当時、男子のプロレスは認定書のみでチャンピオンベルトは無かったため、このベルトが日本最初のプロレスのチャンピオンベルトともされる。
1959年引退。その後は演芸の仕事を続け、コメディエンヌとして数々の舞台を務めた。後に坊屋三郎などが参加していた東京ボーイズ協会(ボーイズ・バラエティー協会)などに所属し、女性お笑いトリオを結成し、浅草松竹演芸場などの舞台に出演。兄ともども、コメディアンとして長く活躍[1]。
1998年、全日本女子プロレスが創立30周年を機に創設した「女子プロレス殿堂」で、殿堂入り。