琴歌譜
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本書は、宮中の大歌所(おおうたどころ)で和琴の教習用に用いられたとされる譜本で、全1巻から成る孤本である。
1924年(大正13年)、佐佐木信綱によって現陽明文庫所蔵の写本が発見された。当時は東京の近衛家邸宅に所蔵されており、前年の関東大震災によって被災した近衛文麿が京都帝国大学附属図書館に保管を委託していた(佐佐木 1933, p. 353)。
編者は未詳。現存する写本の奥書には、天元4年(981年)10月21日に多安家が大歌師前丹波掾多安樹より借りて書写した旨が記されている。原本の成立年代は不明であるが、仮名の用法(コの上代特殊仮名遣いの区別)などから貞観年間(859年 - 877年)以前と考えられており、平安時代初期の歌謡を知る上で貴重な資料となっている。
内容
巻頭の漢文序では、中国の古典音楽論を引用しており、音楽を世界の調和の枢要と位置づけている。特に琴歌を高雅なものとし、律令の法や礼楽と相関させる思想が説かれている。
収録曲
歌詞は万葉仮名で記されており、同曲異歌や異曲同歌を含めて全22種(曲数としては19曲)が収録されている。 曲名の多くには「歌」(7曲)または「扶理・振(ぶり)」(9曲)の語が付されている。11種には由来が付されている。
収録されているのは19曲(18種)、歌詞があるものは22種(21種)である。収録曲数が複雑なのは、阿遊陀扶理が3曲、酒坐歌が2曲あり、また宇吉歌の片降は曲節を欠いており、大直備歌は片降と同じ歌であるということによって歌詞を載せないことによる[1]。
- 茲都歌 (しつうた/しずうた)
- 歌返(うたいかえし/うたのかえし)
- 高橋扶理(たかはしぶり)
- 伊勢神唄(いせのかみうた)
- 天人扶理(あめひとぶり)
- 継根扶理(つぎねぶり)
- 庭立振(にはにたつぶり)
- 阿夫斯弖振(あふしてぶり)
- 山口扶理(やまぐちぶり)
- 大直備歌(おおなおびのうた)
- 正月元日余美歌(よみうた)
- 宇吉歌(うきうた)
- 片降(かたおろし)
- 長埴安扶理(ながはにやすぶり)
- 七日阿遊陀扶理(あゆだぶり)
- 十六日節酒坐歌(さかくらうた)
- 茲良宜歌(しらげうた)
茲都歌・宇吉歌・十六日節酒坐歌・茲良宜歌は記紀歌謡、片降の一首は神楽歌と古今和歌集に同じものが見える。長埴安扶理は本朝月令に同じものが見える。
記譜法
本文は、万葉仮名で記された歌詞の間に、歌唱法や和琴の奏法を示す注記・符号が記されている。
歌唱法には、実際に歌われる長短緩急の声調や生態が併記されている。歌曲名の下に、歌詞が万葉仮名を用いて小字の二行書きで記されている[2]。
奏法には、和琴の奏法が朱書されている。拍子を意味すると思われる「手」の字が仮名字の右に朱書されている。冒頭の「茲都歌(しつうた)」と「歌返(うたいかえし)」の2曲に限り、和琴の弦名を表す「一」から「六」までの数字が朱色で記されており、運指をあらわすと考えられる[3]。
漢文の序文で説明されている歌唱法・奏法と、本文の実践的な記譜法とは必ずしも一致していないことが指摘されている。調弦法なども含め未解明の部分が多い[4]。