生態系と生物多様性の経済学
From Wikipedia, the free encyclopedia
構成
経緯
「生態系と生物多様性の経済学(以降 TEEB)」は、「気候変動の経済学に関するスターン・レビュー(スターン報告書)」に触発され、生物多様性のグローバルな経済的利益と、生物多様性の損失および生態系の破壊にかかる巨大なコストに警鐘を鳴らすべく、2007年5月にポツダムで開催されたG8+5カ国の環境大臣会議におけるポツダムイニシアティブ(ドイツ政府の発案による共同イニシアティブ)に従い、2007年6月のハイリゲンダムサミットで承認され、研究が始まった。研究リーダーとして、インドの環境会計プロジェクトで実績のあるドイツ銀行のPavan Sukhdevが率い、国連環境計画の主導で、EU(欧州委員会)・ドイツ連邦環境省、英国 環境・食料・農村地域省がスポンサーとなった。TEEBの中間報告書(第一段階の予備調査結果)は、2008年5月にドイツのボンで開催されたCOP9(第9回生物多様性条約締約国会議)のハイレベル会合で発表された。研究の第2フェーズは、世界中から事例を集め編纂するオープンな開発手法がとられ、2009年秋からドラフトのレビューとリリースが繰り返された(日本政府は2010年度に10万ドルを拠出)。最終的に成果として、2010年10月に日本の愛知・名古屋で開催されたCOP10(第10回生物多様性条約締約国会議)のサイドイベントにて、10月20日から26日までかけて発表され、ハイレベル会合で報告された。2010年10月20日、D0からD3までの膨大な報告書を統合した概要版であるTEEB最終報告書(Mainstreaming the Economics of Nature, A synthesis of the Approach, Conclusions and Recommendations of TEEB)を公表。2010年10月、普及啓発向けのサイト 「Bank of Natural Capital」 を立ち上げた。
特徴
自然資本の価値の定量評価の必要性
生態系サービス(自然の恵み)の経済計測と政策立案を提案する。
生態系、種や遺伝子の多様性といった生物多様性のすべての次元で質・量・倫理的・社会的または宗教的な理由だけでなく、保全される必要があるが、さらに、未来の世代の経済的な利点があることを科学的な論拠、事例と共に示している。
TEEBでは、生態系サービスを調べることで、自然環境に私たちがどのように関わっているかがわかり、自然環境や生態系の管理が地域の政策や公共管理にどのような効果があるかが具体的に得られることを示した。そして、生態系サービスを考慮した政策立案を行うことで、将来の市町村の費用を節約でき、地域経済を高め、生活と安全な生活の質を高めることができると提案し、具体的に世界各地の120の事例報告を行っている。そして、国や地方自治体や企業や市民に、自然に対して、経済的合理性の見地から経済的な視点や方法論で意思決定を行いマネジメントを推奨する。
経済価値評価方法
生物多様性の経済価値の考え方の基本は、以下のとおりである。
あるひとまとまりの生物多様性を資産(ストック)と考え、その生物多様性から生み出される人にとって有意義であるサービス(フロー)の棚卸を行う。
このサービスを「生態系サービス」と呼び、それらすべての生態系サービスの将来にわたる経済的な価値を個々に試算する。生態系サービスとは、私たちの経済的・身体的・こころの・文化的な健康のための「自然の恵み」のことである。
生物多様性の価値を、文化的な「見えない価値」と、「金銭的に価値評価可能な価値」をもたらす生態系サービスに仕分けを行い、それぞれからもたらされる価値を、利用価値(直接利用価値、間接利用価値など)と、非利用価値に分けた上で、「金銭的に価値評価可能な価値」についてを、キャッシュフローの推算を行い、適切な利子率を設定した上で、現在価値へ割り戻して評価を行う。なお、作物や家畜、魚や水など、直接人々によって消費される財を提供する「供給サービス」に属する生態系サービスは、一部は明示的な価格がついており公開市場で取引されているが、非消費財である価値(レクリエーションや精神的な癒し、風景や種の文化的重要性など)は、政策的意思決定に影響されるものの、ほとんど金銭面で価値が評価されることが難しい。価値の見える化のために、出来る限り、金銭評価可能な部分の特定と費用便益分析の計算を行い、また、シミュレーションなど、将来について変化の予測を組み入れ、よりよい選択と、効果的な持続可能な利用を促す。自然のもつ自己修復能力などの自然本来の能力についての価値評価をも合わせて算入する。
アドバイザリーボードメンバー
TEEB研究は、ドイツ銀行の幹部 Pavan Sukhdevによって率いられ、また、TEEBのアドバイザリーボードメンバーは、生態学と経済学の専門家が含まれている。
- Achim Steiner, Executive Director, 国連環境計画(United Nations Environment Programme)
- Ahmed Djoghlaf, 生物多様性条約 事務局長
- Nicholas Stern, Baron Stern of Brentford|Nicholas Stern, IG Patel Professor of Economics and Government and Chairman of the London School of Economic’s Grantham Research Institute on Climate Change and the Environment
- Julia Marton-Lefèvre, Director General, 国際自然保護連合 (International Union for Conservation of Nature)
- Herman Mulder, was Director-General and Head of Group Risk Management of ABN AMRO Bank, Amsterdam, Netherlands
- Peter May, President, International Society for Ecological Economics
- Ladislav Miko, Minister of Environment, Czech Republic
- Walter Reid, Director Conservation and Science Program, David and Lucile Packard Foundation
- Giles Atkinson, Reader in Environmental Policy, Department of Geography and Environment and Associate, Grantham Research Institute of Climate Change and Environment, London School of Economics
- Edward Barbier, Professor of Economics, Department of Economics and Finance, University of Wyoming
- Jacqueline McGlade, Executive Director, European Environment Agency
- Yolanda Kakabadse, President, World Wide Fund for Nature from January 2010
- Jochen Flasbarth, President, Federal Environment Agency, Germany
- Karl Göran-Mäler, Professor in Economics, Stockholm School of Economics and Director, Beijer International Institute of Ecological Economics
- Joan Martínez-Alier, Professor, Department of Economics and Economic History, Universitat Autonoma de Barcelona