生殖に関する権利
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生殖に関する権利(せいしょくにかんするけんり、英: Reproductive rights)とは、生殖およびリプロダクティブ・ヘルスに関わる法的権利と自由のことであり、国によってその内容は異なる[1][2][3][4]。世界保健機関(WHO)は生殖に関する権利を次のように定義している[5]。
生殖に関する権利は、すべてのカップルおよび個人が、子どもの数、間隔、時期を自由かつ責任をもって決定する基本的権利を有すること、およびそのための情報と手段を得る権利を有することの承認に基づいている。また、性と生殖に関する健康の最高水準を達成する権利も含まれる。さらに、差別、強制、暴力を受けることなく生殖に関する決定を行う、すべての人の権利も含まれる。
生殖に関する権利には、以下の一部またはすべてが含まれ得る。人工妊娠中絶を受ける権利、避妊、強制的な不妊手術および避妊からの自由、生殖し家族を持つ権利[6]、質の高いリプロダクティブヘルスケアを受ける権利、自ら選んだ場所と相手のもとで出産する権利、そして自由かつ十分な情報に基づいた生殖選択を行うための家族計画の権利である[7]。生殖に関する権利には、性感染症やその他の性に関する側面についての教育を受ける権利、月経に関する健康の権利[8][9]、女性器切除(FGM)からの保護も含まれ得る[1][7][10][11]。妊娠、陣痛、分娩、産後における虐待からの保護も生殖に関する権利の枠組みの一部であり、これは矯正施設における妊婦の身体拘束といった慣行に疑問を投げかけるものである[12]。生殖に関する権利はより広範な社会的条件や決定要因と結びついており、生殖の自由には法的権利だけでなく、手頃な価格の医療、安全な生活環境、そして経済的安定も必要とされる。
生殖に関する権利は、1968年の国連人権に関する国際会議において人権の一部として発展し始めた[10]。その結果生まれた拘束力を持たないテヘラン宣言は、「両親は、子どもの数と間隔を自由かつ責任をもって決定する基本的人権を有する」と述べ、こうした権利の一つを認めた最初の国際文書となった[10][13]。女性の性、婦人科、精神保健に関する問題は、国連の「女性の10年」(1975年〜1985年)がこれらを前面に押し出すまで、国連の優先事項ではなかった[14]。しかし各国は、これらの権利を国際的に法的拘束力のある文書に組み込むことに消極的であった。そのため、これらの権利の一部はハードロー、すなわち法的拘束力のある国際人権文書において承認されている一方、他の権利は拘束力のない勧告の中で言及されるのみで、国際法上せいぜいソフトローの地位しか持たず、さらに別の権利群は国際社会にまだ受け入れられておらず、アドボカシーの段階にとどまっている[15]。
生殖に関する権利に関する問題は、人口の社会経済的水準、宗教、文化を問わず、世界で最も激しく争われている権利問題の一つである[16]。
生殖に関する権利の問題は、人口問題団体(例えばPopulation Matters)による議論や記事の中で、しばしば極めて重要な問題として取り上げられる[17]。
生殖に関する権利は、セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス・アンド・ライツの一部である。
アメリカ合衆国における近年の動向
生殖に関する権利をめぐる新たな動向として、連邦法に定められた生殖に関する権利の保護を目的として、アメリカ合衆国司法省が設置した生殖の権利タスクフォースが挙げられる。同タスクフォースは、公民権指導者、司法省職員、その他の関係者から構成され、法執行と政策指針の調整を行う[18]。
なお、アメリカ合衆国では、「多様性、公平性、包摂性(DEI)」に分類されるプログラムが2025年に削減されたことに伴い、女性のリプロダクティブヘルスと安全に関する研究資金も削減されつつある点に留意が必要である[19]。
2025年1月15日、ドナルド・トランプ大統領は大統領令14182号に署名し、ハイド修正条項を強化して人工妊娠中絶への連邦資金提供を終了させ、連邦公報に記録される形でリプロダクティブヘルス治療を制限した[20]。
2025年6月、連邦議会はオンライン上のリプロダクティブヘルスデータを保護するための「My Body, My Data法」を制定し、企業が生理周期記録アプリなどの個人健康情報を用いてリプロダクティブケアを拒否することを防止した[21]。
歴史
テヘラン宣言
1945年、国際連合憲章には「人種、性別、言語、宗教による差別なく、すべての者のための人権及び基本的自由の普遍的な尊重及び遵守を促進すること」という義務が盛り込まれた。しかし憲章はこれらの権利を定義しなかった。3年後、国連は人権を明文化した最初の国際法文書である世界人権宣言(UDHR)を採択したが、UDHRは生殖に関する権利には言及していない。生殖に関する権利は、1968年のテヘラン宣言において人権の一部として現れ始めた。同宣言は「両親は、子どもの数と間隔を自由かつ責任をもって決定する基本的人権を有する」と述べている[13]。
この権利は、1969年に国連総会で採択された「社会的進歩と発展に関する宣言」[22]によって確認された。同宣言は「社会の基本単位であり、特に子どもと若者を含むすべての構成員の成長と福祉のための自然な環境である家族は、その責任をコミュニティ内で十分に果たせるよう、援助され保護されるべきである。両親は、子どもの数と間隔を自由かつ責任をもって決定する排他的権利を有する」と述べている[10][23]。1975年の国連国際女性年会議はテヘラン宣言を反映した[24]。
カイロ行動計画
20年にわたる「カイロ行動計画」は、1994年にカイロで開催された国際人口・開発会議(ICPD)で採択された。拘束力を持たない同行動計画は、各国政府には人口目標ではなく個人の生殖に関するニーズを満たす責任があると主張した。同計画は、安全で健康的な出産のためのサービス、性感染症のケア、人工妊娠中絶後のケアを含む他のリプロダクティブヘルスサービスの文脈の中で家族計画サービスを提供することを推奨した。ICPDはまた、女性に対する暴力、性的人身売買、青少年の健康といった問題にも取り組んだ[25]。カイロ行動計画は、リプロダクティブヘルスを定義した最初の国際政策文書であり[25]、以下のように述べている[1]。
リプロダクティブヘルスとは、生殖システムおよびその機能と過程に関するすべての事柄において、単に疾病や虚弱でないというだけでなく、身体的、精神的、社会的に完全に良好な状態にあることをいう。したがってリプロダクティブヘルスは、人々が満足のいく安全な性生活を送ることができ、生殖する能力を有し、いつ、どのくらいの頻度で生殖するかを決める自由を有することを意味する。この最後の条件には、安全で効果的、安価かつ受容可能な家族計画の方法について情報を得て利用する権利、ならびに法律に反しないその他の受胎調節の方法、そして女性が安全に妊娠・出産を経て、健康な子どもを持つ最善の機会をカップルに提供する適切な保健サービスを利用する権利が含まれる〔第72項〕。
これまでの人口会議とは異なり、カイロ会議には草の根から政府レベルまで幅広い関係者が参加した。ICPDには179か国が参加し、政府、NGO、国際機関、市民活動家から合計1万1000人の代表が参加した[25]。ICPDはHIV/AIDSの流行がもたらす広範な影響には取り組まなかった。1999年、ICPD+5における勧告は拡大され、エイズ教育・研究、母子感染予防への取り組み、ワクチンや殺微生物剤の開発への取り組みが含まれるようになった[26]。
カイロ行動計画は国連加盟184か国によって採択された。しかし、多くのラテンアメリカ諸国やイスラム諸国は、特に生殖に関する権利と性の自由という概念、人工妊娠中絶の扱い、そしてイスラム法との潜在的な不整合について、正式な留保を付した[27]。
カイロ行動計画の実施状況は国によって大きく異なる。多くの国では、人権に基づくアプローチが導入されるにつれて、ICPD後の緊張が生じた。ICPD以降、多くの国がリプロダクティブヘルスプログラムを拡充し、母子保健サービスと家族計画の統合を図ってきた。青少年の健康や安全でない人工妊娠中絶の帰結にもより多くの注意が払われるようになった。ララ・クヌードセンは、ICPDは政府や人口関連機関の文書にフェミニズム的な言葉を取り入れさせることに成功したが、多くの国では根底にある概念が広く実践に移されているわけではないと指摘している[26]。アジアとラテンアメリカで開催されたICPD+10のための2回の準備会合において、ジョージ・W・ブッシュ政権下のアメリカ合衆国は、ICPD行動計画に反対する唯一の国であった[28]。
北京行動綱領
1995年の第4回世界女性会議は、拘束力を持たない北京宣言および行動綱領において、カイロ行動計画によるリプロダクティブヘルスの定義を支持しつつ、生殖に関する権利のより広い文脈を確立した[1]。
女性の人権には、強制、差別、暴力を受けることなく、性と生殖に関する健康を含む性に関わる事柄について、自らコントロールし自由かつ責任をもって決定する権利が含まれる。性関係と生殖における女性と男性の平等な関係には、個人の尊厳の完全な尊重を含め、性行動とその結果に対する相互尊重、同意、責任の共有が求められる〔第96項〕。
北京行動綱領は、擁護活動を必要とする女性の人権に関する12の相互に関連した重要分野を画定した。同綱領は女性の生殖に関する権利を「不可分・普遍的かつ譲渡不能な人権」と位置づけた[29]。1995年の第4回世界女性会議の綱領には、ジェンダーに基づく暴力を非難し、強制不妊手術を人権侵害として含める節も設けられた[30]。しかし国際社会全体としては、女性がリプロダクティブヘルスケアを受ける権利を有するとは確認しておらず、1995年の会議以降、各国は生殖と性に関する権利を弱める文言を提案してきた[31]。この会議はまた、先住民の権利と女性の権利を初めて同時に取り上げ、両者を特別な代表を必要とする一つの分野として統合した[32]。生殖に関する権利は高度に政治化されており、そのため立法化は困難である[33]。
ジョグジャカルタ原則
性的指向及び性自認に関する国際人権法の適用に関するジョグジャカルタ原則は、2006年11月に専門家グループによって提案されたが[34]、各国によって国際法に取り入れられるには至っていない[35]。その前文では「国際社会は、強制、差別、暴力を受けることなく、性と生殖に関する健康を含む性に関わる事柄について自由かつ責任をもって決定する人々の権利を認めてきた」と宣言されている。生殖に関する健康について、「拘禁下における人道的処遇の権利」に関する原則9は、「国家は……拘禁されている者のニーズに応じた適切な医療及びカウンセリングへのアクセスを提供しなければならず、その際、性的指向及び性自認に基づく特別なニーズ(生殖に関する健康、HIV/AIDSに関する情報や治療へのアクセス、望まれる場合のホルモン療法その他の療法や性別再割当治療へのアクセスを含む)を認識しなければならない」と定めている[36]。それでもなお、アフリカ、カリブ海、イスラム諸国、およびロシア連邦は、これらの原則を人権基準として用いることに異議を唱えている[37]。
国家による介入
少なくとも一部の生殖に関する権利に反する国家介入は、右派政権と左派政権の双方の下で起きている。例として、出生率を強制的に引き上げようとする試みが挙げられる。20世紀で最も悪名高い出生促進主義政策の一つは、1967年から1990年にかけての共産主義下のルーマニアで、共産党指導者ニコラエ・チャウシェスクの下で実施されたものであり、人工妊娠中絶と避妊の禁止、女性への定期的な妊娠検査、子なし税、子どものいない人々に対する法的差別を含む非常に攻撃的な出生促進政策が採られた。出生率を下げようとする試みとしては、中国の一人っ子政策(1978年〜2015年)がある。国家主導の強制結婚は、人口目標を達成する手段として権威主義政権によっても実践された。カンボジアのクメール・ルージュ政権は、人口を増やして革命を継続するため、組織的に人々を結婚させた[38]。一部の政府は、「望ましくない」民族に対する強制不妊手術という人種差別的な政策を実施した。こうした政策は20世紀にヨーロッパと北米の少数民族に対して行われ、より最近では1990年代のラテンアメリカで先住民族に対して行われた。ペルーでは、アルベルト・フジモリ大統領(在任1990年〜2000年)が、主にケチュアとアイマラの先住民を対象とした政権下の不妊手術計画により、ジェノサイドおよび人道に対する罪で告発されている[39]。
強制不妊手術及び強制人工妊娠中絶の禁止
人権
人権は、特に強制的・抑圧的な政府の政策を分析し、その乱用の度合いを測るための枠組みとして用いられてきた。生殖(人権)の枠組みと人口抑制計画は人種と階級の線に沿って分断されており、白人で西洋の女性は主に(1970年代から1980年代の第二波フェミニズムの間に特に顕著な)人工妊娠中絶へのアクセスに焦点を当てる一方、グローバル・サウスの有色女性やグローバル・ノースの周縁化された女性(黒人・先住民の女性、受刑者、生活保護受給者)は強制不妊手術や避妊使用キャンペーンの対象とされ、その声はかき消されてきた[42]。こうした半球間の分断はまた、グローバル・ノースのフェミニストは女性の身体的自律性と政治的権利を擁護する一方、グローバル・サウスの女性は貧困削減と経済的平等を通じた基本的ニーズの充足を訴える、という構図として捉えられてきた[43]。
第一世界と第三世界の女性のこうした分断は、(主に性的解放を推進する)第一世界のフェミニストの女性の問題への焦点と、(多くの場合独裁政権や政策に反対する)第三世界の女性の政治的問題への焦点という形で定着した[44]。ラテンアメリカでは、フェミニストが第一世界的な理念(性と生殖の権利、女性に対する暴力、ドメスティックバイオレンス)に傾倒し、女性の生殖をコントロールしようとするカトリック教会や福音派といった宗教機関を拒絶する一方、人権擁護者は個人の身体的自律性の問題よりも政治的暴力との闘いに特化した宗教機関と連携することが多く、事態は複雑化している[45]。
女性が自らの身体を完全に自律的にコントロールすべきかという議論は、国連および各国によって唱えられてきたが、それら多くの国は、自国の女性市民に対してこれらの人権を実際には実現できていない。この不足は、女性に特有の問題が人権の枠組みに組み込まれるのが遅れたことに一部起因する可能性がある[46]。しかし、家族計画に関する自らの生殖医療上の決定を行う能力を含め、女性の生殖に関する権利を明確に宣言する複数の人権文書及び宣言が存在する。国連人権宣言(1948年)[47]、女性に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約(1979年)[48]、国連ミレニアム開発目標[49]、そして新しい持続可能な開発目標[50]などがそれにあたり、これらは各国の家族計画プログラムに普遍的なリプロダクティブヘルスケアへのアクセスを統合することに焦点を当てている[51]。残念ながら、2007年の先住民族の権利に関する宣言は、先住民女性の生殖及び母子保健の権利やアクセスについては取り上げなかった[52]。
現行の法的拘束力を持つ国際人権文書の多くは性と生殖に関する権利について明示的に言及していないため、NGO、公務員、国際機関で働く専門家からなる幅広い連合体が、これらの文書を再解釈し、既に国際的に認められている人権の実現と生殖に関する権利の実現を結びつけようとする動きを進めている[53]。この点について、リプロダクティブライツセンターは次のように述べている。
我々の目標は、世界各国の政府が生殖に関する権利を保障することが自らの義務であるとの理解のもとに、それを確実に実現させることである。……
1994年のカイロ行動計画は、このような結びつきの一例である[54]。
生殖に関する権利は、各国の法律、国際人権文書、その他関連する国連の合意文書において既に承認されている一定の人権を包含する。……
同様に、アムネスティ・インターナショナルは、生殖に関する権利の実現は、健康権、差別からの自由の権利、プライバシー権、拷問または非人道的な取り扱いを受けない権利といった、一連の承認された人権の実現と結びついていると主張している[7]。
性と生殖に関する健康と権利には、予防可能な妊産婦及び新生児の死亡率と罹患率の撲滅、避妊サービスを含む質の高い性と生殖に関する保健サービスの確保、性感染症(STI)と子宮頸がん、女性及び少女に対する暴力、青少年の性と生殖に関する保健ニーズへの対処が含まれる。……
しかし、すべての国家が生殖に関する権利を国際的に認められた人権に含めることを受け入れているわけではない。カイロ会議では、複数の国が生殖に関する権利という概念、あるいはその具体的内容に対して正式な留保を付した。例えばエクアドルは次のように述べた[27]。
カイロ国際人口・開発会議の行動計画に関して……エクアドル代表団は、生命の不可侵性、受胎の瞬間からの子どもの保護、良心及び宗教の自由、社会の基本単位としての家族の保護、責任ある父性、子どもを育てる両親の権利……などの原則を再確認する。……
同様の留保は、アルゼンチン、ドミニカ共和国、エルサルバドル、ホンジュラス、マルタ、ニカラグア、パラグアイ、ペルー、聖座によっても付された。ブルネイ、ジブチ、イラン、ヨルダン、クウェート、リビア、シリア、アラブ首長国連邦、イエメンなどのイスラム諸国は、シャリーアに反すると解釈され得る計画のあらゆる要素に対して広範な留保を付した。グアテマラに至っては、会議に新たな人権を宣言する法的権限があるのかどうかについても疑問を呈した[56]。
出産の権利と出産における自律性
一部の研究者や擁護団体は、生殖に関する権利には、インフォームド・コンセント、強制からの自由、出産医療現場における意思決定権を含め、妊娠及び出産時の自律性が包含されると解釈している[57][58]。この枠組みの中で、出産は避妊や人工妊娠中絶に関する決定にとどまらない、生殖における自己決定の一部として説明される。
1990年代に有色人種の女性活動家によって発展したリプロダクティブ・ジャスティス運動は、生殖の自由には子どもを持つ権利、持たない権利、安全で持続可能なコミュニティの中で子どもを育てる権利が含まれると定義している[59]。擁護者たちはこの枠組みを出産の現場にも適用し、出産の正義、母子保健ケアにおける尊厳、安全な出産の選択肢への公平なアクセスを強調している。
国際的な人権機関は、敬意ある母子保健ケアを人権問題として認識してきた。世界保健機関は、施設内出産における虐待、無礼な扱い、不当な取り扱いの予防と撤廃を求める声明を発表している[60]。同様に、女性に対する暴力に関する国連特別報告者は、出産時の不当な取り扱いと強制を人権上の懸念事項として取り上げている[61]。
アメリカ自由人権協会などの市民自由団体は、生殖の自由には過度な政府の干渉を受けずに妊娠及び出産について決定を下す権利が含まれると主張している[62]。
家族の権利
家族の権利、すなわち家族生活を営む権利とは、すべての個人が確立された家族生活を尊重され、家族を形成し、持ち、維持する権利のことである。これには避妊具、人工妊娠中絶、不妊治療、家族計画へのアクセスの権利が含まれる。この権利は、世界人権宣言第16条[63]、市民的及び政治的権利に関する国際規約第23条[64]、欧州人権条約第8条[65]、および女性に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約第12条を含む[66]、様々な国際人権文書において認められている。
1970年、アメリカ合衆国は家族計画に特化した唯一の連邦補助金制度としてタイトルXを設立し、多くの個人に避妊具、産前ケア、その他のリプロダクティブヘルス資源を提供してきた[67]。しかしトランプ政権下では、規制違反の疑いに関する審査を理由に、タイトルXの数百万ドルの資金が凍結された[68]。これは、家族計画に不可欠なリプロダクティブヘルスサービスへのアクセスを制限するものであり、CEDAW第12条の観点から懸念が生じている[66]。さらにトランプ政権は、人工妊娠中絶に関するカウンセリングや紹介を行うNGOへのアメリカ連邦資金提供を阻止する「メキシコシティ・ポリシー」(グローバル・ギャグ・ルール)を復活させた[69]。これにより、アメリカの資金に依存する低・中所得国の診療所や家族計画プログラムを通じた、人工妊娠中絶、避妊、リプロダクティブヘルス教育へのアクセスが制限されている。
2022年に「ロー対ウェイド事件」判決が「ドブス対ジャクソン女性保健機構事件」判決により覆されて以降、人工妊娠中絶の権利は州議会が決定するようになった。人工妊娠中絶及びその他の家族計画サービスへのアクセスは州によって大きく異なり、カリフォルニア州、オレゴン州、ニューヨーク州、イリノイ州は個人の生殖に関する決定の保護と人工妊娠中絶ケアの拡充を制定している一方、テキサス州、アーカンソー州、テネシー州、アイダホ州は人工妊娠中絶を禁止し犯罪化する「トリガー禁止法」を有している[70]。
女性の権利
国連人口基金(UNFPA)と世界保健機関(WHO)は、主に女性の権利に重点を置いて生殖に関する権利を擁護している。この点で国連及びWHOは、家族計画サービス、性教育、閉経、産科瘻孔の削減へのアクセスから、リプロダクティブヘルスと経済状況との関係に至るまで、幅広い問題に焦点を当てている。
女性の生殖に関する権利は、差別からの自由の権利、および女性の社会的・経済的地位という文脈の中で推進されている。新時代のための女性のオルタナティブ開発(DAWN)というグループは、この関連性を次のように説明している[10]。
生殖に対するコントロールは、すべての女性にとって基本的なニーズであり基本的権利である。……
女性の生殖に関する権利は、長らく人口過剰をめぐる議論において重要な論点であり続けている[17]。
OHCHRによれば、「女性の性と生殖に関する健康は、生命への権利、拷問を受けない権利、健康への権利、プライバシーへの権利、教育への権利、差別の禁止など、複数の人権に関わっている」という[71]。
女性の生殖に関する権利の実現に影響を与える社会経済的条件を分析する試みも行われてきた。こうしたより広範な社会的・経済的問題を説明するために、リプロダクティブ・ジャスティスという用語が用いられている。リプロダクティブ・ジャスティスの提唱者は、合法的な人工妊娠中絶[72]や避妊への権利はすべての人に適用されるとしても、こうした選択が意味を持つのは資源を有する人々に限られ、アクセスと支払い能力の格差が拡大していると主張する[73]。
スザンヌ・スタッゲンボルグとマリー・B・スコチラスによる『人工妊娠中絶と生殖の権利をめぐる闘い』(2017年)では、リプロダクティブヘルスへの必要なアクセスがあってもなお、女性の身体的自律性をコントロールする能力を決定する選択以外の影響が存在することを認識する、リプロダクティブ・ジャスティスのより繊細な枠組みが論じられている。両著者はこの概念を以下のように定義している。
- リプロダクティブ・ジャスティス: 生殖に関する健康と権利をより広範な人権の枠組みの中で他の社会問題と結びつける、諸問題間の相互関係
- プロチョイス運動の白人主導部門は人工妊娠中絶にのみ焦点を当て、一部の女性には出産が奨励され、他の女性には抑制されるという現実を軽視してきた[要出典]
男性の権利
男性の生殖に関する権利は、リプロダクティブヘルスの問題や、性的生殖に関するその他の権利について、様々な団体によって擁護されてきた。男性のリプロダクティブヘルスにおける問題には、性感染症、男性不妊、がん、毒素への曝露が含まれる[74]。
近年、父性に関する男性の生殖に関する権利がアメリカ合衆国で議論の対象となっている。「男性の中絶」という用語は、サウスカロライナ州の弁護士メラニー・マカリーが1998年の論文で提唱したものである。この理論は、女性が妊娠した場合、人工妊娠中絶、養子縁組、育児という選択肢を持つのに対し、男性にはこれらの選択肢が一切なく、それでも女性の決定の影響を受けるという前提から出発する。この理論は、法的に認められた男女平等の文脈において、妊娠の最も初期の段階で、推定される父親が将来の親権及び経済的責任のすべてを放棄する権利を持ち、十分な情報を得た母親に同じ3つの選択肢を残すべきだと主張する[75]。この考え方は、フェミニスト団体である全米女性機構の元会長で弁護士のカレン・デクロウによっても支持されている[76]。男性の生殖に関する選択を求めるフェミニストの主張は、親であることに関して男女が経験する選択能力の不均衡が、伝統的な性役割を優遇する国家による強制の証拠であると論じる[77]。
2006年、全米男性センターはアメリカ合衆国で「デュベイ対ウェルズ事件」(一部で「男性版ロー対ウェイド事件」と呼ばれる)を提訴し、未婚の女性が予期しない妊娠について男性に告げた場合、男性はすべての父権と責任を放棄する機会を持つべきだと主張した。支持者は、これにより女性が十分な情報に基づいた決定を下す時間を確保でき、男性にも女性と同様の生殖に関する権利が与えられると主張する[78][79]。アメリカ合衆国第6巡回区控訴裁判所はこの訴えを棄却し、「合衆国憲法修正第14条は、州が異なる階層の人々を異なる方法で扱う権限を否定するものではない」と述べた[80]。
男性に「紙の上の中絶」の権利を与える機会については活発な議論がある。精子の窃取も関連する問題の一つである。
インターセックスと生殖に関する権利
人間及び他の動物におけるインターセックスとは、個人を明確に男性または女性と識別できないような、染色体、性腺、性器を含む生物学的性の特徴における変異のことである。こうした変異には性器の曖昧さや、XY男性・XX女性以外の染色体上の遺伝子型と性的表現型の組み合わせが含まれ得る[81][82]。インターセックスの人々は、乳幼児期・小児期に不妊手術を含む、非自発的な「性別正常化」の外科的・ホルモン的治療を受けさせられることが多い[83][84]。
国連機関もこの問題に注目し始めている。2013年2月1日、拷問及び他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取扱い又は刑罰に関する国連特別報告者フアン・E・メンデスは、インターセックスの人々に対する非同意の外科的介入を非難する声明を発表した[85]。2014年5月、世界保健機関はOHCHR、UN Women、UNAIDS、UNDP、UNFPA、UNICEFと共同で「強制的、威圧的、その他の非自発的な不妊手術の撤廃」に関する機関間共同声明を発表した[86]。同報告書は、患者の意思決定における自律性の確保、差別の撤廃、説明責任、救済へのアクセスなど、医療における強制不妊手術を防止するための一連の指導原則を勧告している[87]。
若者の権利とアクセス
未成年者
多くの法域において、未成年者は避妊、人工妊娠中絶、婦人科診察、性感染症検査などのリプロダクティブヘルスサービスを利用するために、親の同意または通知を必要とする。HIV/AIDS検査における未成年者の親の同意・通知要件は、診断と治療の遅れを引き起こしうるため特に議論を呼んでいる[88]。未成年者の権利と親の権利のバランスは医療及び法律上の倫理的問題とされており、アメリカ合衆国ではこの問題に関する多くの裁判例がある[89]。1989年以降児童の権利に関する条約によって認められている重要な概念の一つに未成年者の発達しつつある能力があり、未成年者はその成熟度と理解度に応じて、自らに影響する決定に関与すべきであるとされる[90]。
若者は、医療従事者が青少年の性的活動を容認できないものと見なしたり[91]、性教育を親の責任と見なしたりするため、リプロダクティブヘルスサービスへの平等なアクセスを拒否されることが多い。リプロダクティブヘルスの提供者は若年層の利用者に対する説明責任をほとんど負っておらず、これは若年層がリプロダクティブヘルスケアへのアクセスを拒否される主要な要因となっている[91]。多くの国では、法律にかかわらず、未成年者は親の同伴がなければ最も基本的な生殖医療ケアさえ拒否される。例えばインドでは2017年、妊娠を理由に家族から拒絶された17歳の少女が、病院からも拒絶され、路上で出産した[92]。近年、青少年に生殖に関する権利がないことは、UNFPAなど国際機関の懸念事項となっている[93]。
未成年者が自らの状況を理解するのに十分な成熟度を有する場合においても親の関与を義務付けることは、保健機関によって未成年者の権利の侵害であり、その健康を害するものと見なされている。世界保健機関は親の同意・通知法を批判している[94]。
医療現場における差別は様々な形をとり、個人または集団が他の人々には利用可能な保健サービスへのアクセスを拒否される場合にしばしば現れる。……
ユニセフによれば、「性と生殖に関する健康を扱う際、親に知らせ同意を得る義務は、青少年の生活及び公衆衛生全般に影響を及ぼす重大な障壁となる」という[95]。立法者の偽善の一形態と見なされている特有の問題の一つは、生殖及び性に関する健康のための医療同意年齢が性交同意年齢よりも高く設定されている場合があることである。このような場合、法律は若者が性的行為を行うことを認めながら、そこから生じ得る医療処置への同意は認めていない。ユニセフは「性と生殖に関する健康の事柄について、医療同意の最低年齢が性交同意年齢を上回ることは決してあってはならない」と述べている[95]。
アフリカ
多くの意図しない妊娠は伝統的な避妊法または避妊策の不在に起因する[96]。
ウガンダにおける若者の性教育の水準は比較的低い。包括的性教育は一般に学校で教えられておらず、たとえ教えられていたとしても、大多数の若者は15歳以降は学校に通わなくなるため、いずれにせよ得られる情報は限られている[97]。
アフリカは、HIV/AIDSの高い罹患率とともに、意図しない妊娠の割合が高い。15歳から24歳の若い女性は、同年代の男性に比べてHIV/AIDSに感染する可能性が8倍高い。サブサハラアフリカはHIV/AIDSの影響を最も受けている世界地域であり、2015年時点で約2500万人がHIVとともに生きていた。サブサハラアフリカは世界の新規HIV感染の3分の2を占める[98]。
人工妊娠中絶の試みと安全でない人工妊娠中絶は、アフリカの若者にとってリスクとなっている。平均して、東アフリカでは年間240万件、西アフリカでは180万件、中部アフリカでは90万件以上、南部アフリカでは10万件以上の安全でない人工妊娠中絶が行われている[96]。グットマッハー研究所の推計によれば、2015年から2019年にかけて、サブサハラアフリカにおける人工妊娠中絶の77%が安全でないものであり、10万件あたり185人という死亡率を記録し、人工妊娠中絶を受けるうえで世界で最も危険な地域となっている[99]。
ウガンダでは、母体の生命を救う場合を除き人工妊娠中絶は違法である。しかし、10代の78%が人工妊娠中絶をした経験のある知人がいると回答しており、警察は人工妊娠中絶を行った者を必ずしも起訴していない。同地域における妊産婦死亡の約22%は違法かつ安全でない人工妊娠中絶に起因すると推定されている[97]。
2022年時点で、アフリカで人工妊娠中絶が広く合法とされている国は、ベナン、カーボベルデ、モザンビーク、南アフリカ、チュニジアのみである[100]。ザンビアは健康上または社会経済上の理由による人工妊娠中絶を認めているが、アクセスには制限がある[99]。リベリア及びシエラレオネでは人工妊娠中絶の合法化に関する議論が続いている[101]。
アフリカにおける女性の権利に関するアフリカ人権憲章議定書、通称マプト議定書は、第14条2項cで、各国政府に「性的暴行、強姦、近親姦の場合、及び妊娠の継続が母体の精神的・身体的健康または母体もしくは胎児の生命を脅かす場合に医療的人工妊娠中絶を認めることにより、女性の生殖に関する権利を保護する」ことを義務付けている[99]。これは人工妊娠中絶の条件を詳細に定めた唯一の人権憲章である。同議定書は2003年に起草されて以来、39か国が批准している。同議定書はいくつかのアフリカ諸国における人工妊娠中絶法の緩和に重要な役割を果たしてきた。
欧州連合
ヨーロッパの女性(全年齢)の85%以上が生涯に何らかの形の避妊を利用したことがある[102]。ヨーロッパ人全体としては、ピルとコンドームが最も一般的に使用されている避妊法として報告されている[102]。
スウェーデンは生涯避妊利用率が最も高く、国民の96%が人生のいずれかの時点で避妊を利用したと回答している[102]。スウェーデンはまた、事後避妊薬の自己申告利用率も高い[102]。2007年に行われたスウェーデンの18歳を対象とした匿名調査では、4人に3人が性的に活発であり、5%が人工妊娠中絶の経験、4%がSTIの罹患を報告した[103]。
欧州連合では、生殖に関する権利は欧州人権条約及びその判例、並びに女性に対する暴力及びドメスティック・バイオレンスの防止及び撲滅に関する条約(イスタンブール条約)によって保護されている[104]。 しかし、これらの権利は加盟国の法律、政策、慣行によって否定または制限されている[105]。 実際、一部の国は医療従事者を犯罪化し、国際基準よりも厳しい規制を設け、あるいは合法的な人工妊娠中絶及び避妊を公的医療保険の対象から除外している[104]。 欧州議会女性の権利・男女平等委員会の要請により政策局が実施した調査は、性と生殖に関する健康の物品及びサービスへの平等なアクセスに関する法的枠組みを強化するようEUに勧告している[104]。
イギリスでは、犯罪・治安法案への修正案により、妊娠24週以降の人工妊娠中絶、または2名の医師の承認を得ない人工妊娠中絶を行った女性が刑事罰の対象とならないようにすることが提案されている[106]。この提案は議会での審議が進むにつれて幅広い支持を集めている。
ラテンアメリカ
ラテンアメリカは、その厳しい人工妊娠中絶禁止法により国際的な注目を集めてきた。ラテンアメリカは、母体の生命を救う場合の例外すら設けない完全な人工妊娠中絶禁止を持つ、世界でも数少ない国々の本拠地である[107]。こうした国の一部、特に中央アメリカでは、法律の執行が非常に厳格であり、エルサルバドルとニカラグアは人工妊娠中絶の完全禁止を強力に執行していることで国際的な注目を集めている。2017年、チリは完全禁止を緩和し、母体の生命が危険にさらされている場合、胎児が生存不可能な場合、または強姦の場合に人工妊娠中絶を認めるようになった[108]。
エクアドルでは、教育と階層が、若い女性のうちどの層が妊娠するかを大きく左右している。識字能力のない若い女性の50%が妊娠するのに対し、中等教育を受けた少女ではその割合は11%である。貧しい人々についても同様であり、28%が妊娠するのに対し、裕福な世帯の若い女性ではわずか11%である。さらに、避妊具を含む生殖に関する権利へのアクセスは、年齢や女性の道徳性に対する認識のために制限されている。医療提供者はしばしば避妊について理論的に議論するにとどまり、日常的に使用する手段としては扱わない。性的活動に関する決定はしばしば秘密とタブーを伴い、正確な情報へのアクセスも欠如している。さらに顕著なのは、若い女性は避妊支援よりも母子保健ケアの方がはるかに容易にアクセスできるという点であり、これは同地域における高い妊娠率を説明する一因となっている[109]。
ラテンアメリカにおける思春期妊娠の件数は、毎年100万件を超える[109]。
アメリカ合衆国
性経験のある10代のうち、女性の78%と男性の85%が初めての性交時に避妊を用いており、それぞれ86%と93%が最後の性交時にも避妊を用いたと回答している[110]。初めての性交時に最も一般的に使用される方法は男性用コンドームであるが、アメリカの若い女性の54%はピルに頼っている[110]。
アメリカの若者は他の先進国の人々と比べて性的に活発というわけではないが、避妊や安全な性行為についての知識は著しく乏しい[97]。2006年時点で、学校での性教育を義務付けていたのはわずか20州であり、そのうち避妊に関する情報を義務付けていたのはわずか10州であった[97]。全体として、人工妊娠中絶、同性愛、人間関係、妊娠、STI予防を扱う性教育を受けているアメリカの生徒は10%未満である[97]。1990年代から2000年代初頭にかけて、禁欲のみの性教育がアメリカ合衆国の広範囲で用いられた[97]。婚姻外の性行為は容認できないという道徳原則に基づき、こうしたプログラムはしばしば生徒に対し、性行為をする権利、その結果、妊娠及びSTIの予防について誤った情報を伝えた[97]。
アメリカ合衆国における人工妊娠中絶は、アメリカ合衆国最高裁判所の判決「ロー対ウェイド事件」により1973年に全米で非犯罪化されて以来、憲法上の権利として認められ、妊娠期間を通じて(より多い、あるいはより少ない制限のもとで)人工妊娠中絶が合法とされる最低限の期間が定められていたが、2022年6月に「ドブス対ジャクソン女性保健機構事件」判決によりこの判決は覆された。人工妊娠中絶の権利は現在では州レベルで決定されており、明示的に人工妊娠中絶の権利を付与しているのはカリフォルニア州、ミシガン州、オハイオ州、バーモント州のみである。アラバマ州、ルイジアナ州、テネシー州、ウェストバージニア州の州憲法は、人工妊娠中絶の権利を明示的に含んでいない。
権利についての知識の欠如
多くの地域で生殖に関する権利が乏しい理由の一つは、それが制限されているだけでなく、人口の大多数がその法律の内容を知らないという点にある。一般の人々だけでなく、医師も情報不足の状態にある。ブラジルの医師を対象とした調査では、(厳しく制限されているが完全には違法ではない)人工妊娠中絶に関する法律についての著しい無知と誤解が見られた[111]。ガーナでは、人工妊娠中絶は制限されているものの複数の条件のもとで認められているが、その合法性を認識していたのは妊婦のわずか3%、人工妊娠中絶を希望する人のわずか6%であった[112]。ネパールでは2002年に人工妊娠中絶が合法化されたが、2009年の調査では、合法化されたことを知っていた女性は半数に過ぎなかった[113]。多くの人々は性暴力に関する法律も理解していない。1997年に婚姻内強姦が違法化されたハンガリーでは、2006年の調査で62%の人々が婚姻内強姦が犯罪であることを知らなかった[114]。国連開発計画は、ジェンダー正義を推進するためには「女性が自らの権利を知り、法制度にアクセスできる必要がある」と述べており[115]、1993年の女性に対する暴力の撤廃に関する国連宣言第4条(d)は「国は、女性がこうした仕組みを通じて救済を求める権利についても女性に情報提供すべきである」と定めている[116]。
ジェンダー平等と女性に対する暴力
ジェンダーに基づく暴力の問題に取り組むことは、生殖に関する権利を達成する上で極めて重要である。国連人口基金は、生殖に関する権利を達成することの一部として「ジェンダーに基づく差別を受けることなく、人生のあらゆる領域において自由かつ十分な情報に基づく選択を行うための男女の平等と公平」、及び「性暴力と強制からの自由、プライバシーへの権利を含む性と生殖に関する安全」に言及しており[117]、生殖に関する権利の根幹をなす個人の自由と安全への権利は、各国に以下を義務付けるとしている[118]。
- ジェンダーに基づくあらゆる形態の暴力を防止、処罰、根絶するための措置を講じること
- 女性器切除を撤廃すること
生殖に関する権利を達成するための重要な課題の一つは、性暴力の犯罪化である。女性が強制的な性交から保護されていなければ、強制妊娠、すなわち強姦による妊娠からも保護されていないことになる。女性が生殖に関する権利を持つためには、誰と、いつ生殖するかを選ぶ権利、そしてまず第一に、性的に活発になるかどうか、いつ、どのような状況で活発になるかを決める権利を持たなければならない[119]。多くの国では、パートナーの選択権がなく、強制結婚や児童婚が一般的であるため、女性のこうした権利は尊重されていない。また、多くの国では女性が望まない性交を拒否する権利(婚姻内強姦がそれらの国で犯罪化されていないため)も、望む場合に合意の性交を行う権利(婚姻外の性行為がそれらの国で違法であるため)も認められていない。法的な障壁に加えて、社会的な障壁もあり、多くの国では女性が夫に完全に性的に服従することが期待されている。
HIV/AIDS
CDCによれば、「HIVとはヒト免疫不全ウイルスの略称である。HIVは病気や感染と闘う重要な細胞を破壊することで、人の免疫系を弱める。HIVに対する有効な治療法は存在しない。しかし適切な医療により、HIVはコントロール可能である」という[120]。HIV対策の改善は生殖に関する権利の重要な側面である。なぜなら、このウイルスは妊娠中や出産時、あるいは母乳を通じて母から子へ感染し得るからである。
WHOは「HIVに感染している女性を含むすべての女性は、『子どもの数と間隔を自由かつ責任をもって決定し、これらの権利を行使するための情報、教育及び手段を得る』権利を有する」と述べている[121]。HIVとともに生きる人々の生殖に関する権利及び健康は非常に重要である。HIVと生殖に関する権利との関連は、主に以下の4つの問題に及ぶ[121]。
- 望まない妊娠の予防
- 望む妊娠の計画支援
- 妊娠中及び妊娠後の保健ケア
- 人工妊娠中絶サービスへのアクセス
児童婚と強制結婚
WHOは、児童婚における少女の生殖に関する権利と健康は悪影響を受けると述べている[122]。 UNFPAは児童婚を「人権侵害」と呼び、発展途上国では3人に1人の少女が18歳になる前に、9人に1人が15歳未満で結婚していると述べている[123]。強制結婚とは、一方または双方の当事者が同意なく、あるいは意思に反して結婚させられる結婚のことである。ヨーロッパにおいて女性に対する暴力及びドメスティック・バイオレンスの分野で初めて法的拘束力を持つ文書であるイスタンブール条約は[124]、批准国に対し、強制結婚を禁止すること(第37条)、及び強制結婚がさらなる被害を伴うことなく容易に無効化できるようにすること(第32条)を求めている[125]。
武力紛争における性暴力
妊産婦死亡

妊産婦死亡は、世界保健機関(WHO)により「妊娠期間及び妊娠部位を問わず、妊娠中またはその終了後42日以内に、妊娠またはその管理に関連もしくは悪化した何らかの原因により(偶発的または付随的な原因を除く)女性が死亡すること」と定義されている[131]。2015年には、妊娠及び出産の期間中またはその後に約30万3000人の女性が死亡したと推定されており、その99%は発展途上国で発生している[132]。
問題
避妊
避妊は、受胎調節や不妊化とも呼ばれ、妊娠を防ぐための方法または器具である[133]。避妊は古代から用いられてきたが、効果的で安全な避妊法が利用可能になったのは20世紀になってからである[134]。避妊を計画し、利用可能にし、実践することは家族計画と呼ばれる[135][136]。一部の文化は、避妊を道徳的・宗教的・政治的に望ましくないものと見なし、そのアクセスを制限または抑制している[134]。
あらゆる避妊法は、世界の一部地域で、特に宗教的な反対に直面している。反対は現代的な方法だけでなく「伝統的」な方法にも向けられる。例えば、保守的なキリスト教のイデオロギーであるクイバーフル運動は出産の最大化を奨励し、自然な家族計画を含むあらゆる形態の避妊に反対している[137]。
人工妊娠中絶
WHOとグットマッハー研究所による世界規模の調査によれば、2010年から2014年にかけて毎年2500万件(全人工妊娠中絶の45%)の安全でない人工妊娠中絶が発生していた。安全でない人工妊娠中絶の97%はアフリカ、アジア、ラテンアメリカの発展途上国で発生している。対照的に、西欧・北欧及び北米で行われる人工妊娠中絶のほとんどは安全である[138]。
女性差別撤廃委員会は、人工妊娠中絶の犯罪化を「女性の性と生殖に関する健康及び権利の侵害」であり、「ジェンダーに基づく暴力」の一形態と見なしている。同委員会の「一般勧告第19号を更新するジェンダーに基づく女性に対する暴力に関する一般勧告第35号」の第18項は、「強制不妊手術、強制人工妊娠中絶、強制妊娠、人工妊娠中絶の犯罪化、安全な人工妊娠中絶及び中絶後ケアの拒否または遅延、妊娠継続の強制、性と生殖に関する健康の情報・物品・サービスを求める女性及び少女への虐待や不当な取り扱いといった、女性の性と生殖に関する健康及び権利の侵害は、状況によっては拷問または残虐で非人道的、品位を傷つける取り扱いに相当し得るジェンダーに基づく暴力の一形態である」と述べている[139]。同じ一般勧告は第31項において、各国に対し「人工妊娠中絶を犯罪化する法律を含む、女性に対するジェンダーに基づく暴力を許容、黙認、正当化する規定」の廃止を求めている[139]。
世界保健機関の記事は、安全で合法な人工妊娠中絶を「居住地を問わない女性の基本的権利」と呼び、安全でない人工妊娠中絶を「静かなパンデミック」と呼んでいる[140]。同記事は「安全でない人工妊娠中絶という静かなパンデミックを終わらせることは、緊急の公衆衛生上及び人権上の課題である」と述べている。さらに「安全な人工妊娠中絶へのアクセスは女性の健康を向上させ、その逆もまた然りであり、これはニコラエ・チャウシェスク政権下のルーマニアで実証された」とし、「請求に基づく人工妊娠中絶の合法化は女性の健康を向上させるために必要ではあるが十分ではない一歩である」と述べ、人工妊娠中絶が数十年にわたって合法であるインドのような国でも、他の障壁のために適切なケアへのアクセスが制限されたままである例を挙げている。2004年5月の世界保健総会で採択されたWHOのリプロダクティブヘルスに関する世界戦略は、「予防可能な妊産婦死亡・罹患の原因として、安全でない人工妊娠中絶は、妊産婦の健康改善に関するMDG及びその他の国際開発目標・ターゲットの一部として対処されなければならない」と指摘している[141]。
国連は2017年、人工妊娠中絶禁止法を撤廃すれば年間およそ5万人の女性の命が救われると推計した[142]。イングランド及びウェールズだけでも20万9519件の人工妊娠中絶が行われている[143]。安全でない人工妊娠中絶は主に人工妊娠中絶が違法な国で行われるが、合法な国でも発生する。合法であるにもかかわらず、多くの医師が良心的拒否者であるため、人工妊娠中絶は事実上女性にとってほとんど選択肢とならない場合がある[144]。
アフリカ連合によりアフリカ人権憲章の議定書として採択されたマプト議定書は、第14条(健康及び生殖に関する権利)において、「(2)締約国は……c)性的暴行、強姦、近親姦の場合、及び妊娠の継続が母体の精神的・身体的健康または母体もしくは胎児の生命を脅かす場合に医療的人工妊娠中絶を認めることにより、女性の生殖に関する権利を保護するため、あらゆる適切な措置をとる」と定めている[145]。マプト議定書は、一定の条件下での人工妊娠中絶を女性の人権として認めた最初の国際条約である[146]。
2018年に人権委員会が採択した「市民的及び政治的権利に関する国際規約第6条(生命権)に関する一般的意見第36号(2018年)」は、一定の状況における人工妊娠中絶への人権を初めて定義した(ただし、こうした国連の一般的意見はソフトローと見なされ、法的拘束力を持たない)。
締約国は妊娠の任意の終了を規制する措置を採用することができるが、こうした措置は、妊娠している女性または少女の生命権、または規約に基づく他の権利の侵害をもたらしてはならない。……締約国は、妊娠している女性または少女の生命及び健康が危険にさらされている場合、及び妊娠の継続が妊娠している女性または少女に重大な苦痛をもたらす場合(特に妊娠が強姦もしくは近親姦の結果である場合、または妊娠が生存不可能な場合)には、安全、合法かつ効果的な人工妊娠中絶へのアクセスを提供しなければならない。……
1994年の国際人口・開発会議(ICPD)でカイロ行動計画が交渉された際、この問題は非常に議論を呼んだため、代表団は最終的に人工妊娠中絶の合法化に関するいかなる勧告も見送り、代わりに各国政府に対し、適切な中絶後ケアの提供と、望まない妊娠の件数を減らすためのプログラムへの投資を助言することを決定した[147]。
2008年4月18日、47の欧州諸国の代表からなる欧州評議会議員会議は、妥当な妊娠週数制限内での人工妊娠中絶の非犯罪化と、安全な人工妊娠中絶手続きへのアクセス保障を求める決議を採択した。この拘束力を持たない決議は、4月16日に賛成102、反対69の投票で可決された[148]。
ICPDの前後において、一部の関係者は「リプロダクティブヘルス」という用語を、家族計画の手段としての人工妊娠中絶、あるいは人工妊娠中絶への権利を含意するものとして解釈しようとした。しかし、こうした解釈は会議で得られたコンセンサスを反映していない。 欧州連合においては、人工妊娠中絶に関する法制がどこよりも制限的でないにもかかわらず、理事会議長国は、「リプロダクティブヘルス」を推進するという理事会の関与には人工妊娠中絶の推進は含まれないと明確に述べている[149]。同様に、欧州委員会も欧州議会議員からの質問への回答の中で次のように明確化している[150]。
リプロダクティブヘルスという用語は、1994年のカイロ国際人口・開発会議において国連(UN)により定義された。……行動計画は人工妊娠中絶に言及していない。
アメリカ合衆国に関しては、カイロ会議のわずか数日前、アメリカ代表団長であったアル・ゴア副大統領が次のように記録に残している[151]。
誤った論点をここで排除しよう。アメリカ合衆国は人工妊娠中絶への新たな国際的権利を確立しようとしているのではなく、また家族計画の手段として人工妊娠中絶が奨励されるべきだとも考えていない。
数年後、この議論におけるアメリカ政府の立場は、駐国連アメリカ大使であったエレン・サワーブレイによって、国連女性の地位委員会の会合の場で再確認された。彼女は「非政府組織は、北京会議が何らかの形で人工妊娠中絶への国際的に認められた基本的権利を創出する、あるいはその創出に寄与すると主張しようとしている」と述べた[152]。さらに彼女は「人工妊娠中絶への基本的権利は存在しない。それにもかかわらず、この用語を乗っ取り、それを定義に組み込もうとするNGOによって、この議論は繰り返し持ち上がっている」と付け加えた[153]。
開発学研究所(IDS)による共同研究は、「安全な人工妊娠中絶へのアクセスは人権、民主主義、公衆衛生の問題であり、そうしたアクセスの拒否は死亡及び機能障害の主要な原因であり、〔国際的な〕開発に多大な費用をもたらす」と述べている[154]。この研究は、世界的及び国内的な安全な人工妊娠中絶へのアクセスの不平等を強調し、これに対処するための世界的及び国内的な改革運動の重要性を強調している。
一方、欧州人権裁判所は画期的な判決(A・B・C対アイルランド事件)により、この問題をさらに複雑にした。同判決は、健康及び/または福祉上の理由による人工妊娠中絶の拒否は、欧州人権条約第8条に基づく私生活及び家族生活の尊重を受ける権利への干渉であり、この干渉は場合によっては正当化され得るとした。
人口抑制
一定の人口目標を達成しようとする願望は、歴史を通じて、政府が人権を無視して積極的な人口政策を実施した場合に、深刻な虐待的慣行をもたらしてきた。20世紀には、複数の権威主義政権が出生率を強制的な介入を通じて引き上げ、あるいは引き下げようとした。20世紀で最も悪名高い出生促進政策の一つは、1967年から1990年にかけての共産主義下のルーマニアで、共産党指導者ニコラエ・チャウシェスクの下で実施されたものであり、人工妊娠中絶と避妊の禁止、女性への定期的な妊娠検査、子なし税、子どものいない人々に対する法的差別を含む非常に攻撃的な出生促進政策が採られた。チャウシェスクの政策により、9000人を超える女性が違法な人工妊娠中絶で死亡し[155]、養育できない親によって多くの子どもがルーマニアの孤児院に預けられ、1990年代には(多くの孤児院が閉鎖され子どもたちが路上に取り残されたことで)ストリートチルドレンが生まれ、施設や学校の過密化が生じた。皮肉なことに、チャウシェスクの攻撃的な出生促進政策がなければ生まれなかったかもしれない世代が、最終的に彼を打倒し処刑に至らしめるルーマニア革命を主導することになった[156]。
チャウシェスクの出生促進政策とは対照的だったのが、1978年から2015年まで実施された中国の一人っ子政策であり、これには強制的な人工妊娠中絶などの虐待が含まれていた[157]。この政策はまた、同国の性比の不均衡につながった性選択的人工妊娠中絶の慣行が一般化した原因ともされている[158]。
1970年代から1980年代にかけて、人権に基づくアプローチの一環として女性の生殖に関する権利を推進する女性保健活動家と、人口抑制の提唱者との間で緊張が高まった[159]。1984年にメキシコシティで開催された国連世界人口会議では、人口抑制政策がその狭い焦点によって強制と質の低下をもたらし、発展途上国において家族計画が提供される多様な社会的・文化的文脈を無視しているとして、女性保健の擁護者から攻撃を受けた。1980年代には、HIV/AIDSの流行が多くの国で性についてのより広範な議論を公共の場に持ち込み、出生率の低下を超えたリプロダクティブヘルスの問題により重点が置かれるようになった。狭い人口抑制への焦点に対する反対の高まりは、1990年代初頭に過去の人口抑制政策からの大きな転換をもたらした[160]。アメリカ合衆国では、人工妊娠中絶反対派が生殖に関する権利の擁護者に対する陰謀論を広め始め、彼らが優生学の人種差別的な計画を推進し、アメリカにおけるアフリカ系アメリカ人の出生率を減らそうとしていると非難している[161]。
女性器切除
女性器切除(FGM)は、「非医療的理由による女性外性器の一部または全部の除去、あるいは女性性器へのその他の傷害を伴うあらゆる処置」と定義される[162]。この処置には健康上の利益は全くなく、重度の出血や排尿障害、嚢胞、感染症、出産時の合併症、新生児死亡リスクの増加を引き起こし得る[162]。主にアフリカ、及びインドネシア、マレーシア、イラク領クルディスタン、イエメンなどアジアの一部の地域で、伝統的・文化的・宗教的理由により行われている[163]。イスタンブール条約はFGMを禁止している(第38条)[164]。世界で2億人の女性がFGMを受けたと推定されており、そのうちヨーロッパの移民女性は少なくとも50万人にのぼる[165]。タイプ3のFGMとも呼ばれる陰部封鎖術はFGMの中で最も過酷な形態であり[166]、主に北東アフリカ、特にジブチ、エリトリア、エチオピア、ソマリア、スーダンで行われている[167]。
花嫁誘拐・花嫁売買及び生殖のための奴隷制
花嫁誘拐、すなわち誘拐による結婚とは、女性または少女が強制結婚の目的で誘拐される慣行である。花嫁誘拐は歴史的に世界の多くの地域で行われており、今日でも特に中央アジア及びコーカサス地方(キルギス、タジキスタン、カザフスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタン、アルメニアなどの国々)やエチオピアで行われ続けている[168]。花嫁誘拐は、結婚を強要するために強姦(妊娠につながることもある)を伴うことが多く、これは「強姦犯婚姻免責法」(性暴力、誘拐、あるいは類似の行為に関して、加害者が被害者と結婚することで訴追や処罰を免れる法律)によっても助長されている[169]。女性の誘拐は個人単位でも大規模でも起こり得る。ラプティオは、主に結婚または性奴隷を目的とした、特に戦時中の女性の大規模な誘拐を指すラテン語である。
花嫁代償(ブライドウェルスとも呼ばれる)とは、花婿またはその家族が、結婚する女性の両親に支払う金銭、財産その他の富のことである。花嫁代償の慣行は、両親が幼い娘を結婚に売り渡すことや人身売買につながることがある[170]。花嫁代償はアフリカ全域で一般的である[171]。こうした強制結婚はしばしば性暴力や強制妊娠につながる。例えば北部ガーナでは、花嫁代償の支払いは女性が子どもを産むべき義務を負うことを意味し、避妊を用いる女性は脅迫や強制のリスクにさらされている[172]。
1956年の奴隷制、奴隷取引並びに奴隷制類似の制度及び慣行の廃止に関する補足条約は、「奴隷制に類似する制度及び慣行」に以下を含めている[173]。
c) 以下のいずれかの制度または慣行
- (i) 女性が拒否する権利を持たないまま、金銭または現物による対価の支払いと引き換えに、両親、後見人、家族その他の人物または集団によって結婚を約束され、あるいは引き渡される制度
- (ii) 女性の夫、その家族、または一族が、対価を得て、あるいはその他の方法で、当該女性を他の者に譲渡する権利を有する制度
- (iii) 夫の死後、女性が他の者に相続される対象となる制度
精子提供
多くの国や州の法律は、精子提供者が匿名であることまたは受給者に知られていることを義務付けるか、あるいは各提供者が父親となり得る子どもの数を制限している。多くの提供者は匿名を選択するが、インターネットやDNA技術といった新しい技術は、生物学的父親やきょうだい・異母(父)きょうだいについてより多くを知りたいと望む人々に新たな道を開いている。
強制不妊手術
少数民族女性
少数民族の女性は、ラテンアメリカの一部における先住民(アメリカ大陸の先住民)の女性やロマの女性など、強制不妊手術計画の犠牲者となることが多かった。
ペルーでは、アルベルト・フジモリ大統領(在任1990年〜2000年)が、1995年7月28日に発表された「公衆衛生計画」の名の下、主にケチュアとアイマラの先住民を対象とした強制不妊手術計画である「国家人口計画」(プログラマ・ナシオナル・デ・ポブラシオン)を実施したとして、ジェノサイド及び人道に対する罪で告発されている[174]。
20世紀を通じて、東側諸国を中心とするヨーロッパ諸国では、共産主義政権時代及びその後の双方で、ロマの女性に対する強制不妊手術が行われてきた[175]。強制不妊手術は特にチェコスロバキアで行われ、その後継国であるチェコ共和国及びスロバキアでも継続された[176]。「V.C.対スロバキア事件」において、欧州人権裁判所は、2000年にスロバキアの国立病院で強制不妊手術の被害を受けたロマの女性に有利な判決を下した[177]。2004年、欧州ロマ権利センターは、東欧諸国全域でロマの女性が引き続き強制不妊手術の対象となっている疑いを公表した[178]。チェコスロバキア、及びその後のチェコ共和国では、当局が1966年から2012年まで強制不妊手術を続けた[176]。20世紀のロマ女性への強制不妊手術は、ノルウェー、スウェーデン、デンマーク、フィンランドといった北欧諸国、及びオーストリア、フランス、ドイツ、スイスといった西欧諸国でも行われた[179]。
アメリカ合衆国
アメリカ合衆国における強制不妊手術は19世紀から行われていた。1890年頃から1920年頃にかけての革新主義時代のアメリカ合衆国は、優生学を目的とした強制不妊手術計画を組織的に実施した最初の国であった[180]。プリンストン大学教授のトーマス・C・レナードは、アメリカの優生学と不妊手術は最終的に経済的議論に根ざしており、賃金統制、移民制限、年金制度の導入と並ぶ革新主義の中心的要素であったと説明している[181]。こうした計画の責任者たちは優生学の熱心な支持者であり、主に20世紀前半に全国的にある程度の成功を収めた計画を頻繁に主張した。
カナダ
強制不妊手術は歴史的にカナダの一部地域でも行われてきた。カナダの2つの州(アルバータ州及びブリティッシュコロンビア州)は、20世紀に優生学的目的の強制不妊手術計画を実施した。カナダの強制不妊手術は、施設収容、判定、手術というアメリカと同様の全体的な仕組みで運用された。しかし顕著な違いの一つは、精神障害のない受刑者に対する扱いである。カナダの法律は受刑者への懲罰的不妊手術を一切認めていなかった。
アルバータ州の「性的不妊化法」は1928年に制定され、1972年に廃止された。1995年、レイラニ・ミュアーは、1959年に自らの意思に反して同意なく不妊手術を強制されたとしてアルバータ州を提訴した。ミュアーの訴訟以降、アルバータ州政府は2800人を超える人々への強制不妊手術について謝罪した。「性的不妊化法」の下で不妊手術を受けたアルバータ州民約850人に対し、総額1億4200万カナダドルの損害賠償が認められた[182]。
カトリック教会
カトリック教会は人工的な避妊、人工妊娠中絶、婚姻外の性交渉に反対している[183]。この信念はキリスト教初期の数世紀にまで遡る[184]。カトリックはこうした見解を持つ唯一の宗教ではないが、その宗教的教義は人口の大半がカトリック教徒である国々に非常に強い影響力を持っており、人工妊娠中絶を完全に禁止している世界でも数少ない国々の多くはカトリックが多数を占める国である[107]。ヨーロッパでも、マルタ(完全禁止)、アンドラ、サンマリノ、リヒテンシュタイン、及びより緩やかながらポーランドやモナコといったカトリックが多数を占める国々では、人工妊娠中絶に厳しい制限が存在する。
カトリックの伝統を持つフランスでは、中絶を行った女性であるマリー=ルイーズ・ジローが、権威主義的なヴィシー政権下の1943年7月30日にギロチンにより処刑された[185]。
中央アメリカの一部の国、特にエルサルバドルは、人工妊娠中絶禁止法の非常に厳格な執行により国際的な注目を集めている[186]。エルサルバドルは国連から繰り返し批判を受けている。国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は同国の法律を「世界で最も過酷な人工妊娠中絶法の一つ」と呼び、その自由化を求めており[187]、国連人権高等弁務官のゼイド・ラアド・フセインは「エルサルバドルの人工妊娠中絶に対する絶対的禁止の結果、女性が明らかな流産やその他の産科上の緊急事態に対して処罰され、妊娠の意図的な終了を行った、あるいはそれを企てたとして告発・有罪判決を受けていることに愕然としている」と述べた[188]。
反人工妊娠中絶暴力
一部の反人工妊娠中絶活動をめぐっては批判が寄せられている。反人工妊娠中絶暴力は、特に北米において世界の一部地域で深刻な問題となっている[189]。これは単一争点テロリズムとして認識されている[190]。多くの団体も、反人工妊娠中絶過激主義をキリスト教テロリズムの一形態として認識している[191]。
事件例としては、エリック・ルドルフ(1996年〜1998年)によるものなど中絶クリニックへの破壊行為・放火・爆破や、ジェームズ・コップ(1998年)、ポール・ジェニングス・ヒル(1994年)、スコット・ローダー(2009年)、マイケル・F・グリフィン(1993年)、ピーター・ジェームズ・ナイト(2001年)による医師やクリニック職員への殺人・殺人未遂事件がある。 1978年以降、アメリカ合衆国では反人工妊娠中絶暴力により、少なくとも医療スタッフ11人の殺害、26件の殺人未遂、42件の爆破、187件の放火が発生している[192]。