神々の黄昏 オリンポス・ウォーズ
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佐田 康彦(さた やすひこ)
航空自衛隊第3航空団所属のパイロット。父は朝鮮戦争で戦死したギリシャ系アメリカ人コンスタンチン・ザクロス。「佐田」は母方の姓で、出雲神話の佐田大神につながるものだが、戸籍法の関係で父の死までアメリカ国籍しか持てず、ユージン・ザクロス(ギリシャ語読み:エフゲニー・サクロス)と名乗っていた。
数日前に北朝鮮と韓国の間で始まった戦闘に、ソ連軍とアメリカ軍も介入し、ついに日本にソ連の攻撃が及んできた。佐田は三沢基地よりF-1戦闘機で飛び立ち、ソ連軍のヤーク36戦闘機の編隊と交戦するが、戦術核兵器の爆発に巻き込まれる。
気がつくと佐田はススキ野原にいた。彼は足名椎(アシナヅチ)・手名椎(テナヅチ)夫妻と娘の櫛名田姫と出会い、八岐の大蛇から守ってほしいと懇願される。自然と自身を須佐之男命と名乗り、思い出す神話の物語通りに大蛇との戦いに挑むが、激しい頭痛と眩暈に意識をなくす。次に気がつくと、彼は、エチオピア王女アンドロメダに襲いかかる海魔との戦いの場におり、自然とペルセウスだと名乗っていた。海魔を斃したところで再び眩暈とともに櫛名田姫のいる世界へ戻される。疲れとともに眠り、目覚めると目の前にはアンドロメダがいる。佐田は、彼女との婚礼の席に乱入してきた者をメデューサの首で石化させた。
こうして日本神話とギリシャ神話の間を行き来するうちに会った女神ヘーラから、蛮国の神にたぶらかされずオリンポスの神々に従えと諭される。訳もわからぬうちに佐田はオルフェウスとなり、恋人エウリディケの死を予感するが、再び頭痛とともに伊邪那岐命となり、妻伊邪那美命の死に立ち会う。だがヘーラによってエウリディケの死の場面へ連れ戻される。機会あるごとに頭の中に神話の情報が入り込み、それらの知識を頼りに台詞を言い行動しつつ、頭痛のたびに両神話の世界を行き来しながら、佐田は愛する女性を冥府に訪ねたが連れ戻しに失敗する。
失意のうちに出会った吉備武彦により、佐田は自分が倭建命になったのを知り、見えないこのシナリオを破壊すべく遠方へ駆け出すと、ズームアップに耐えられず風景が裂け、そこから白い霧の世界に入り込む。そこで出会ったのが、櫛名田姫を「演じ」ていた稲田玲であった。
稲田 玲(いなだ れい)
神道系のいわばミッション・スクールの女子大の学生。祖先の姓「蜂須賀」の「須賀」は須佐之男命を奉る須賀神社につながり、「稲田」姓は櫛名田=霊稲田(くしいなだ)につながると語る。日本の神々に詳しい彼女の説明により佐田は(読者も)知識を与えられる。
彼女は亀ヶ岡の縄文遺跡の見学中に核爆発に巻き込まれ、その後は天御中主神によって櫛名田姫を演じ、そしてこれから倭建命の妻を演じることになっていた。佐田と玲が白い霧の外へ出ると、そこは核攻撃で壊滅した木造町(当時の名称)であり、町民の死体を見た佐田は、半ば腐敗した伊邪那美命と八色の雷として登場したのが彼らだったと知る。2人は五所川原市に向かうが、その方向に原子雲が立ち上り、神話通りに「八雲たつ場所」となった。現れた天御中主神は、佐田も玲も神々の血を色濃く引いていると告げ、佐田の半身に異国の禍神の血が流れているのを責めるも、神々に従うよう諭す。玲は櫛稲田姫の子孫であった。
やむを得ず2人は、倭建命と妻の美夜受姫を演じる場に戻ることとする。神話の再現が始まると、佐田はおそらく混血のために自分の意識を持っていられたが、玲は、櫛稲田姫の時と同様に登場人物になりきり、衣裳には経血さえ着いていた。
コンスタンチン・サクロス
佐田の父。佐田が頭痛とともに倭建命からオイディプスの役に変わったときに、テーバイのライオス王として登場し、佐田の手にかかる。佐田は杖でライオスの頭を叩き割ったはずだが、コンスタンチンの体には1952年の仁川においてF-8パンサー艦上機で戦闘中に撃墜された時に受けたミグ15の機関砲弾による銃創があった。佐田と父の周囲の光景が、ギリシャから朝鮮戦争の戦場へ変化し、馬車はソ連軍のT34戦車に、斃した馭者はソ連兵に変わる。殺さなかった馭者が戦車からはい出してきてミハイル・金(キム)と名乗ったが、彼はコンスタンチンとかつて戦場で出会っていた。
コンスタンチンは、後に倭建命として佐田が山つ神の化身の老人を斃す場面で、佐田の手にかかるという役割で再び登場する。神話の山つ神退治とは実は倭建命の父王殺しの物語であり、おばの倭姫は本来は母親ではなかったか……。
ドミトリー・キム
ソ連邦極東空軍中尉。最初はミハイル・金として登場したが、実はミハイルは彼の父で、彼は朝鮮戦争当時の父親の死の場面を演じていた。父はロシア系朝鮮人で、北朝鮮に帰郷後に朝鮮戦争に参加。母はウクライナのギリシャ正教の司教の子孫であるギリシャ人。
ドミトリーは空母ミンスクからヤーク(ヤコブレフ)36で日本上空に進入し、おそらくは佐田のF-1と交戦する最中に核攻撃を受けた。そして天御中主神によって日本神話の世界に引き込まれ、ヘーラからはギリシャ神話の世界に引き込まれていた。両神話の世界から逃れたが、朝鮮戦争の場面を演じる羽目となっていた。しかし佐田は眩暈に襲われ、ドミトリーは消えて、元のライオス王を殺した坂道の光景に戻ってしまう。
ヤミナ・アハーディ
エジプト人。おそらくはエチオピア人の血も引いている。父は第二次世界大戦中にドイツ軍司令部にいたが、戦後は対独協力者として追放されることなくエジプトに留まり、官職を得た。ヤミナは外国人労働者として西ベルリンに渡り、看護婦として働いていたが、ワルシャワ条約機構の支援を受けた東ドイツ軍の侵攻によって西ドイツ軍は壊滅、ヤミナも核攻撃に巻き込まれてギリシャ神話の世界に引きずり込まれた。
佐田がたどり着いたテーバイの町の路上で鍛冶仕事をしていた老人が、城門に現れた怪物スフィンクスの危険を告げ、自分が鍛えたという剣をくれた。ふと佐田が気付くと老人と鍛冶道具は消えていた。実は老人はヘパイストスであった。オイディプス役の佐田が出会ったスフィンクスの、巨大なライオンの体につながる巨大な顔として登場するが、それは以前見たアンドロメダ姫の顔であった。神話通りに謎をかけてくるスフィンクスに自殺させないため、佐田は彼女を説き伏せ、再び想定外の方向へ走ることで景色を引き裂き、白い霧の中に飛び込む。そこでヤミナはライオンから分離し、通常の大きさに戻った。
ヤミナは最初はミノス王の娘アリアドネを演じていたが、テセウスを演じていたのがドミトリーであったと話す。佐田は自分の知らないシナリオと自分と出会っていない同様の境遇の人々の存在を知った。霧から出るとそこは戦術核兵器により被爆した西ベルリンであり、再会したライオンは市内の動物園から不意に消えていたのだが、ヤミナらの心が通じたように動物園に戻っていった。