素励起
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分散関係
素励起の例
集団励起型
素励起の簡単な例として、まず調和振動子系の運動を考える。多数の質点が調和ポテンシャルによる力によって相互作用しているとき、個々の質点の運動は一般に非常に複雑であるが、基準座標を使うと、基準振動子と呼ばれる互いに独立な調和振動子の集合として書かれる。この基準振動を量子化したものがフォノンという準粒子であり、1個のフォノンに相当する基準振動の励起が素励起である[1]。この種の素励起は、調和振動子の各質点の個別的自由度の運動とは対応せず、一般にフォノンの総数は、フォノンを励起する物質の構成粒子の数とは無関係である。また素励起の運動量は、各質点のもつ力学的運動量とは無関係に、基準振動の波動ベクトルをとするとき、で与えられ、そのエネルギーは基準振動の角振動数を使ってで定義される。フォノンと同様に物質を構成する原子、分子、イオンや電子の集団的な運動に対応する素励起には、スピン波とそれを量子化したマグノン、プラズマ振動とそれを量子化したプラズモン、超流動ヘリウム中のロトンなどがある。これらは全てボース統計に従う。
個別励起型
励起状態には、フォノンなどのような粒子系全体の運動とは異なり、個々の粒子の運動を励起してできる個別励起型のものもある。完全フェルミ気体において、フェルミ球の内部の運動量の粒子をフェルミ球外部の運動量の状態に励起したとする。このとき、この励起状態は、運動量の「粒子」と運動量の「孔」を持つと言う。この場合は、粒子、孔のそれぞれを素励起と言う。[1]
フェルミエネルギーを、運動量のフェルミ粒子のエネルギーをと書く時、このような素励起のエネルギーは、粒子に対してはであり、孔に対してはで、どちらも正の値を取り、全系の励起エネルギーは、2つの素励起のエネルギーの和になる[1]。この場合の素励起は、粒子型の素励起と孔型の素励起が必ず対になって存在し、素励起の総数はフェルミ粒子の総数とは一致しない。フェルミ粒子間に相互作用があると、個々の粒子の運動量とエネルギーは一般には変動し、基底状態でも励起状態でも極めて複雑なものとなる。その場合でも超流動状態でない限りフェルミ面が定義でき、励起エネルギーが大きくない限りそれぞれの励起状態は粒子型の素励起と孔型の素励起の集団として理解できる。このような素励起としては、フェルミ面に無限に近い運動量を持つものが考えられるから、エネルギーも無限に小さいものが存在する。粒子間に相互作用があると、1個の粒子の運動のみを励起しようとしても、その影響は必ず周囲の粒子の運動も励起し、場合によっては粒子系全体の集団運動のモードを励起することがある。そうでなくても、最初に励起された粒子は周囲の粒子の乱れを伴って運動しており、この場合の素励起とは、核になる粒子の運動とその周囲の乱れの双方を同時に励起したものに対応している。したがって素励起のエネルギーは、核になる粒子の運動エネルギーとは等しくなく、分散関係も自由粒子中のものとは違ってくる。
金属の伝導電子を自由粒子ということがあるが、実際に観測しているのはこのような相互作用のある電子系での素励起であり、それがフェルミ面を持つなど自由電子と定性的には異ならないふるまいをしているのである。半導体中の伝導電子と正孔も同様に相互作用している電子系での素励起であるが、伝導帯と価電子帯の間にギャップがあるため、素励起のエネルギーはこのギャップに相当する有限の最小値をもつ。なお半導体の場合には、独立の電子と正孔を励起する代わりに電子と正孔をクーロンの引力によって束縛させてできる励起子という素励起をつくることもできる。
超流動状態
超流動状態にあるフェルミ粒子系の基底状態では、フェルミ面付近の粒子と孔が対になって束縛状態を作っており、この系を励起するには少なくとも一対の束縛された粒子または孔をバラバラにするだけのエネルギーが必要である。そのため超流動状態のフェルミ粒子系の素励起のエネルギーも一般には有限の大きさの最小値を持つ。