絵師草紙
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『絵師草紙』は、三河権守(みかわごんのかみ)という下級の宮廷絵師が朝廷より賜った伊予国(現・愛媛県)の所領をめぐる事件を描いた絵巻である。なお、伊予に与えられた土地とは、桑村郡得能保(西条市丹原町徳能)と考えられている[2]。本作は、主人公である絵師が身の上に起きた事件を証言するために描いたという体裁をとる。当時の絵師が所領をめぐって争うことは珍しくなかったようである[3]。前代や同時代の絵巻の多くが物語や説話集を出典とするのに対して、本作は絵師の身の上話を描く点でユニークな作例といえる。
作者は、鎌倉時代前期から中期にかけての廷臣であり、歌人、絵の名手でもあった藤原信実と伝わるが、制作時期はそこまで遡れないと考えられている。複数の人物たちを室内空間に配して、伸びやかで抑揚のある筆線によって豊かな表情や動きを描く表現力から、実力のある絵師の作と推察される。高岸輝は、こうした表現は12世紀後半に宮廷絵師常盤光長の周辺で描かれた絵画様式を継ぐものであり、本作は14世紀前半に高階隆兼の周辺で光長様式が再生された時期に成立したとする[4]。
絵巻の伝来については、江戸時代後期の古筆鑑定家古筆了伴が所持していたことが記録に残っている。了伴が弘化年間頃に徳川家慶に献上して以降、明治維新の争乱で行方不明になっていた時期を経て、明治16年(1883年)に再発見されるまで徳川家が所有していた。明治20年(1887年)10月31日に明治天皇が徳川家へ行幸の折に皇室へ献上となり、現在は三の丸尚蔵館所蔵。明治天皇はとくにこの絵巻を好んで、手元に置いていたという[5]。

