艦隊防空
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艦隊防空(かんたいぼうくう、英語: fleet air defense)とは、艦隊、任務部隊、船団その他の海上部隊を航空機、対艦ミサイル、その他の空中からの脅威から防護するために行う防空である。艦艇自身による自衛防空だけでなく、他の艦艇や部隊を防護する広域防空を含む。
概要
洋上において艦隊が経空脅威から自らを防護する場合、その艦艇自身の装備(艦載機を含む)を組み合わせて構築された防空体制が主体となっており、これを艦隊防空(fleet air defense)と称する[1]。一方、艦載機の運用能力を持たない艦船に対して地上基地からの航空援護を提供することは早くから行われていたが、OTHレーダーや早期警戒管制機(AWACS)が登場すると、艦載機の運用能力を有する艦船に対しても、その行動圏外での防空を陸上機によって補完することが可能となっており、このような艦艇部隊の外部を含む大きな枠組みでの広域防空体制を洋上防空(maritime air defense)と称するようになった[1]。
艦隊防空においては、航空機によるアウター・ディフェンス・ゾーン(outer defense zone)、艦艇装備の対空兵器を組織化して運用するエリア・ディフェンス・ゾーン(area defense zone)、各艦ごとに自らの対空兵器によって防空を行うポイント・ディフェンス・ゾーン(point defense zone)の3つのゾーンにわけて縦深防御が行われる[1][2]。第二次世界大戦後期のアメリカ海軍では、戦闘指揮所(CIC)を中核として艦上戦闘機や艦艇装備の対空兵器を組織化しての艦隊防空システムを構築した[2]。これに対し、大日本帝国海軍では攻勢作戦を重視する一方で艦隊防空の観念が少なく、その戦法が確立していなかったため、珊瑚海海戦・ミッドウェー海戦での損失の原因となった[3]。
その後、長射程の艦対空ミサイル(SAM)が実用化されるとこちらがエリア・ディフェンスの主役となった一方[1]、対艦ミサイル防御(ASMD)の必要性がクローズアップされるとポイント・ディフェンス用兵器にCIWSが加わった[2]。また海軍戦術情報システム(NTDS)の導入など、システム化も進められた[2]。
機能
探知・監視
艦艇搭載レーダー、電子支援装置、航空機その他のセンサーを用いて、航空機やミサイルなどの航空脅威を早期に探知する。
海上自衛隊は平素から護衛艦や航空機を運用して周辺海域の警戒監視を行い、ミサイル発射に対する監視などを実施している。[4]
英国海軍のType 45駆逐艦では、SAMPSONレーダーによって航空脅威を探知・追尾し、Sea Viperシステムによる迎撃につなげる構成が採用されている。[5]
識別・追尾
探知した航空目標について、位置、針路、速度その他の情報を継続的に処理し、脅威となる目標を識別・追尾する。
指揮統制
センサーから得られた情報を戦闘指揮システムなどに集約し、迎撃兵器への目標情報の伝達、交戦順序の決定、艦艇間の防空協調などを行う。
アメリカ海軍のAEGIS Weapon Systemは、レーダー、コンピューター、指揮統制機能および兵器を統合した艦載戦闘システムであり、航空戦および弾道ミサイル防衛の双方に対応する能力を備えている。[6]
迎撃
艦対空ミサイル、艦砲、近接防御火器などを用いて航空機やミサイルを迎撃する。
アメリカ海軍のSM-2は艦隊地域防空および艦艇自身の防空を主要任務とし、AEGIS Weapon SystemとMk 41垂直発射システムを組み合わせて運用されている。[7]
英国海軍のType 45駆逐艦はSea Viperを主要な防空兵器とし、艦隊の防護および超音速対艦ミサイルへの対処を任務としている。[5]
電子戦・欺瞞・近接防御
艦隊防空では、ミサイルの迎撃だけでなく、電子妨害、デコイ、チャフ、フレアなどによって航空脅威の探知・追尾・誘導を妨害する。また、艦対空ミサイルによる迎撃を突破した脅威に対して、近接防御火器などによる防御を行う。
艦隊防空と個艦防空
艦隊防空は、単一の艦艇を防護する個艦防空とは異なり、複数の艦艇から構成される艦隊や任務部隊全体を防護することを目的とする。
艦隊防空能力を有する艦艇は、長距離レーダーと中・長距離艦対空ミサイルを用いて、自艦から離れた位置に存在する航空脅威にも対処する。このため、艦隊防空艦は艦隊の防空網において中心的な役割を担う。
オーストラリア海軍のホバート級駆逐艦は、随伴艦、沿岸地域の陸上部隊・施設および自艦を航空機・ミサイルから防護する能力を備え、イージス戦闘システム、AN/SPY-1D(V)フェーズドアレイレーダーおよびSM-2を組み合わせている。[8]
防空網
艦隊防空航空戦力
艦隊防空は艦艇だけで完結するものではなく、艦載機、陸上航空基地から発進する航空機、早期警戒管制機などの航空戦力と連携して実施される場合がある。
フランス海軍は、海軍航空隊を水上艦艇および潜水艦と一体的に運用し、航空機によって海上空域の掌握や監視を行っている。[11]
航空機による早期警戒は、艦艇搭載レーダーでは探知しにくい低空目標について、より遠距離から情報を取得する手段となる。
弾道ミサイル防衛との関係
沿革
第二次世界大戦以前
航空機が艦艇に対する攻撃手段として発達すると、艦艇は機関銃、対空砲、戦闘機などによる対空防御を必要とするようになった。
第二次世界大戦
第二次世界大戦では、空母航空隊による攻撃や陸上航空基地からの航空攻撃に対処するため、艦艇の対空火力、レーダー、射撃指揮装置および戦闘機を組み合わせた防空体系が発達した。
艦対空ミサイルの導入
戦後、ジェット機の高速化・高高度化に対応するため艦対空ミサイルが導入された。艦艇の防空能力は対空砲を中心とするものから、レーダー、戦闘指揮システムおよび艦対空ミサイルを組み合わせたものへと発展した。
オーストラリア海軍では、1960年代に導入されたパース級駆逐艦がTartar艦対空ミサイルを装備し、新たな防空および指揮統制能力をもたらした。[14]
イージス・システムの登場
1970年代以降、複数の航空目標を同時に探知・追尾・交戦する能力を持つ統合戦闘システムが発達した。アメリカ海軍のAEGISは、レーダー、コンピューター、指揮統制機能および兵器を統合する艦載戦闘システムとして発展した。[6]
ネットワーク化
データリンクや通信技術の発達により、艦艇単独で得た情報だけでなく、他艦艇、航空機、陸上施設などから得られた情報を共有して防空を行うネットワーク化が進展した。
各国の運用
日本
海上自衛隊では、対空戦を船団や水上艦艇の防護を目的とする作戦として位置付けている。イージス護衛艦は艦隊防空の中核として運用され、航空脅威への対処に加えて弾道ミサイル防衛にも用いられている。[9][12]
アメリカ合衆国
アメリカ海軍では、AEGISを搭載する巡洋艦・駆逐艦などが艦隊防空および統合防空・ミサイル防衛を担っている。SM-2は艦隊地域防空および個艦防空を主要任務とし、AEGIS Weapon Systemと組み合わせて運用されている。[7][6]
イギリス
イギリス海軍では、Type 45駆逐艦が防空を主要任務としている。Sea Viperシステムは長距離レーダー、戦闘指揮システムおよび垂直発射装置から構成され、艦隊を航空攻撃および対艦ミサイルから防護する能力を持つ。[5]
オーストラリア
オーストラリア海軍では、ホバート級駆逐艦が航空防御艦として運用されている。同級は随伴艦、沿岸地域の陸上部隊・施設および自艦を航空機・ミサイルから防護する任務を有し、AEGIS戦闘システム、フェーズドアレイレーダーおよびSM-2を組み合わせている。[8]
フランス
フランス海軍では、海軍航空隊を水上艦艇および潜水艦と組み合わせて運用し、航空機による監視・警戒や海上空域の掌握を行っている。[11]
多国間運用
現代の艦隊防空では、複数国の艦艇・航空機・指揮統制システムを連接した共同防空も行われている。
現代の艦隊防空
現代の艦隊防空では、航空機、対艦巡航ミサイル、弾道ミサイルなど複数の脅威を想定し、探知・識別・追尾・指揮統制・迎撃を一体化した防空体系が構築されている。
また、航空脅威の低空化、高速化、多様化に対応するため、長距離艦対空ミサイルだけでなく、中・短距離ミサイル、近接防御システム、電子戦装置、デコイなどを組み合わせた多層防御が用いられている。
このため、艦隊防空は単一艦艇の能力ではなく、複数艦艇、航空機、センサー、通信・データリンクおよび指揮統制システムからなるネットワークとして運用される傾向にある。