血管内皮
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起源
約5億4千万年前から約5億1千万年前に脊椎動物の祖先で発達したとされ、無脊椎動物には存在しない[3]。
形成
血管内皮細胞は、血管内皮前駆細胞から分化する[4]。この細胞は、人体では受精後3週が経った頃に発生する血島にある。血島は、おもに胚外中胚葉に由来するとされる卵黄嚢壁の間葉細胞が、形を変えて集積して生まれる。同じく体幹の中胚葉層でも生じる。生じた後の血島の細胞は、袋状に強固に結合する周縁部の細胞と、内部で孤立する個々の細胞とで別々に分化し、それぞれ内皮細胞と血球芽細胞となる。やがて内皮細胞に囲まれた血島が隣接するもの同士で融合し、それが繰り返されることで、管状の毛細血管が生まれる。生じた毛細血管が長く枝分かれした形となり、全身の毛細血管網へと発達する[5]。この血管発生は、かつては胎生期のみの現象と考えられてきたが、1997年に成人の血液内から血管内皮前駆細胞が発見され、その後のマウスモデル実験で、骨髄由来の細胞による血管形成が成体内で確認されたとの報告がある。一方、既成の血管から新たな血管が生まれることは血管新生と呼ばれ[4]、胎生期の内皮細胞が局所的に増殖し、新たな血管として突き出て分岐するほか[5]、組織の成長や修復、再生、病気などがトリガーとなって成人でも起こりうる[6]。内皮細胞の分化の過程を追跡するマーカーとして、血管内皮細胞増殖因子の受容体であるFlk1を始め、VE-カドヘリン、Tie-2、CD31、CD34等が確認されている[7]。なお、血管内皮細胞増殖因子ファミリーの1つであるVEGF-Aは、通常の血管発生や血管新生のほか、病的血管新生にも役割を果たす[8]。また、形成後の血管では、既存の内皮細胞が脱落して空隙が出来た際、周囲の内皮細胞の遊走や増殖によって補われる。脱落が繰り返されると、内皮細胞の分裂が重なり、該当部位のみでサイズの大きい内皮細胞が増える[9]。
組織別の構造
以下は、人体における組織ごとの構造である。
動脈
毛細血管
毛細血管では、単層の内皮細胞のみが基底膜に包まれて管を形成する[11]。
連続型毛細血管
有窓型毛細血管
有窓型毛細血管では、連続型毛細血管のように緊密に結合する一方で、直径80nm程度の多数の丸い孔を持ち、より大きな物質の輸送が可能である。物質交換が重要となる内分泌器官や腸壁、脈絡叢、腎臓などの器官で見られる[11]。
洞様毛細血管
洞様毛細血管では、内皮細胞は非常に薄く不連続で、血管壁に隔膜のない巨大な窓孔と不規則な隙間を形作っている。高分子物質や細胞が容易に行き来する骨髄や肝臓、脾臓で見られる[11]。
- 肝臓:表面にクッパー細胞が見られ、老化した赤血球の再利用や門脈血内での強力な免疫に関わる。隣接する類洞周囲腔を血漿で満たすための通り道となる[14]。
- 脾臓:脾洞内面を覆っており、脾洞の長軸に沿った長い形状を取る。この内皮細胞は、樽細胞と呼んで区別される。樽細胞は、周囲に充満する赤血球を選別する機能を持つ[15]。
連続型毛細血管および有窓型毛細血管の内皮細胞層は、周皮細胞の細胞突起によって部分的に取り囲まれており、それぞれの基底板は融合している[11]。
静脈
細静脈では、白血球の血管外への遊出機能を持つ内皮細胞がある。この機能を持つ内皮細胞は扁平ではなく、立方状を呈する。毛細血管後細静脈における内皮細胞の結合は、微小循環系の中で最も緩く結合している。また、大型静脈に存在する弁は、両面ともに内皮で覆われている[16]。
機能
内皮細胞は血管生物学の様々な側面と関係がある。
血管作動性物質の分泌
内皮細胞は、平滑筋を収縮させる因子となるエンドセリンやアンギオテンシン変換酵素を分泌し、これによって血管収縮を促す。一方で、一酸化窒素やプロスタグランジンなどにより、弛緩を促すこともある。これらによって、局所的な血管の緊張と血流をコントロールする[6]。ここで作用される血管の緊張を、血管トーヌスと言う[17]。
血液凝固と血栓の制御
血液中の血小板と内皮下の結合組織との接触を妨げることで、通常時の血栓形成を阻害する[18]。また、血管内皮により分泌される一酸化窒素は、血小板の凝集を抑制して血液凝固を防ぐ。同じく分泌されるプラスミノゲンアクチベーターは、プラスミンを活性化して血栓の溶解を促進する[19]。
血液と組織間の物質交換
栄養素や老廃物、酸素、二酸化炭素などの物質の、血流内外への透過を担う[19]。連続型毛細血管では、拡散またはトランスサイトーシスによって行われる[11]。また、有窓型毛細血管を持つ脈絡叢では、上皮細胞とともに水とイオンを通過させ、脳脊髄液として脳室に放出する[20]。洞様毛細血管では、高分子物質や細胞が行き来する[11]。組織ごとの詳細は「組織別の構造」節を参照。
成長因子の分泌
局所免疫
血管内皮は、血管外の組織で損傷や感染が生じた際、微小血管系から局所的に白血球を遊出させる機能を持つ。損傷・感染組織から放出されたサイトカインが内皮に届くと、内皮細胞は細胞間接着を緩ませると同時に、ワイベル・パラーデ小体と呼ばれる部位から、開口分泌によってP-セレクチンを内腔表面に現出させる。白血球表面にはP-セレクチンに対する糖化したリガンドがあるため、これによって白血球は内皮表面を転がりながら減速する。その際に別のサイトカインが白血球に届くと、それを受けた白血球からインテグリンなどの接着分子が発現され、内皮との結合を強固にする。これらのプロセスの結果として、白血球の血管外遊出が発生する[21]。この遊出を容易にしているのが、内皮細胞同士の結合が最も緩い毛細血管後細静脈である。ここでは炎症反応の際に、液体成分の漏出が起こるため、併せて周辺部の浮腫が生じる[22]。
内皮機能障害
血管内皮機能は糖尿病、高血圧症、脂質異常症、肥満、慢性腎臓病、動脈硬化性疾患、心不全などで低下する[1]。また、層流でない血流や乱流も、内皮機能障害の原因となる。これらの要因により血管内皮での一酸化窒素の産生が減少し、炎症性サイトカインなどの産生が増加すると、アテローム性動脈硬化症へと発展する場合がある[23]。この発症は、低比重リポタンパク質が血管壁の内膜に侵入し、内皮細胞によって酸化されることに始まる。これに誘導された単球は、変性した低比重リポタンパク質を除去しようとマクロファージとなって集まり、脂肪を溜め込んで次々に泡沫細胞となる。これによって、初期病変の動脈脂肪線条が形成される。それが進行すると、周囲の平滑筋細胞やコラーゲン繊維、リンパ球なども取り込まれ、粥状のアテロームを呈するようになる[24]。また、血管内皮が強い障害を受けた場合は、血管内膜が剥がれ落ちることで血栓形成の原因となることもある[19]。内皮機能障害の程度は、心血管病の独立した予測因子となる[1]。また、老化した血管内皮においては、血管新生の能力が低下し、一酸化窒素の産生能の低下や、活性酸素の産生による一酸化窒素の利用障害がみられる。これらの障害に伴い、血管弛緩反応の障害や、血栓形成の活発化に繋がっている可能性も指摘されている[25]。