超感覚的知覚
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超感覚的知覚(ちょうかんかくてきちかく、英: Extrasensory perception、略称: ESP)は、通常の物理的な感覚器官を介さずに外界の情報を知覚する能力を指すとされる概念であり[1][2]、英語圏では「第六感」(英: sixth sense)として説明されることもある[2]。この語は、米デューク大学の植物学者ジョゼフ・バンクス・ラインが1930年代に導入したもので、超心理学(英: parapsychology)において透視、テレパシー、予知などの現象を指す用語として用いられてきた[1][3][4]。
第二視(セカンドサイト、英: second sight)は、通常の感覚を超えて未来の出来事や遠隔地の事物・出来事を見通す能力を指すとされる概念である[5][6]。これらの現象の存在を支持する説得力のある科学的証拠は示されておらず、報告の多くは逸話的な証言に限られている[6]。第二視および超感覚的知覚は、疑似科学に分類される[6]。
歴史


20世紀前半になると、超感覚的知覚は実験心理学および超心理学の文脈で組織的に研究されるようになった[3]。アメリカ合衆国ノースカロライナ州のデューク大学では、植物学者のジョゼフ・バンクス・ラインとその妻ルイザ・E・ラインが、超感覚的知覚の体系的な実験研究を行い、「ESP」や「psi(サイ)」といった用語を定義し、それらを検証するための実験手続きを設計したとされる[3]。1930年代には、円・四角・波線・十字・星の5種類の図形を印刷した25枚一組のカードが開発され、当初はゼナー・カードと呼ばれていた[9]。テレパシー実験では、「送信者」が一連のカードを見つめ、その図柄を「受信者」に当てさせる手続きが用いられた。透視を観察しようとする実験では、カード一式を実験参加者から見えないように隠し、受信者が図柄を推測した。予知能力の検証では、受信者の応答の後にカードの順番を決定した。またラインは、サイコキネシス(念力)を検証するため、サイコロを用いた実験も行っている[10][11]。
こうしたデューク大学での実験は、同時に学界からの強い批判も招いた。プリンストン大学の心理学者W・S・コックスは、132人の被験者を対象としてカード当てによる25,064回の試行を行い、「平均的な人間にも、調査対象となったどの個人にも、超感覚的知覚の証拠は見いだされなかった」と結論づけている[12]。そのほか複数の心理学研究室がラインの手続を追試したが、いずれも有意な効果を再現することはできなかったと報告されている[13]。
1930年代には、心理学者ジョセフ・ジャストロウが、ラインらが収集した多くの証拠は逸話的で、観察者の偏りや「おなじみの人間的弱点」によって説明できると批判した[14]。またハロルド・グリクセンらの検証では、カードの図柄が裏面から透けて見える、実験者の表情や声の調子から被験者が手がかりを得られるといった「感覚漏洩」(sensory leakage)、事務処理上の系統誤差や不適切な統計処理など、ラインの実験デザインには重大な欠陥があり、それらを考慮すると結果は通常の知覚や手がかり、誤差で説明できると指摘されている[15][16][17][18]。
1960年代以降、超心理学者たちは、カード当てに限定されない手続を用いて、ESPとされる主観的体験や認知的要因の研究を試みるようになった。こうした試みには、睡眠中の夢の内容を用いる「夢テレパシー」実験や、被験者の視覚・聴覚刺激を単調化することで内部イメージへの感受性を高めようとするガンツフェルト実験などが含まれる[19][20][21]。
学界での評価と批判
超感覚的知覚を含む超常的な心霊現象の研究を扱う学問分野としては超心理学があるが、心理学および自然科学の主流派からは一貫して懐疑的な評価を受けてきた。心理学や大衆心理学を扱う概説書、懐疑論的な百科事典などでは、超心理学は長年にわたる研究にもかかわらず再現性のある実験結果を提出できていないとされ、この点から超感覚的知覚を含む心霊現象全般を疑似科学とみなす立場が示されている[22][23][24]。
統計学者や科学哲学者らは、ESPには確立された理論的枠組みが欠如していること、また100年以上にわたる研究にもかかわらず説得力のある陽性結果が再現されていないことを指摘し、この点からもESPを科学的現象とは認め難いとしている[25][26][27][28]。批判的思考を扱う教科書でも、ESPについて「再現性のあるデータが得られておらず、科学的現象として受け入れることはできない」とする記述が多い[29][30][31]。
ESP実験に対する批判の多くは、方法論上の欠陥に向けられている。カード当て実験やガンツフェルト実験では、実験者から被験者への視覚的・聴覚的な手がかりによる「感覚漏洩」、不完全なカードのシャッフルやカード裏面の傷などによるターゲット系列の予測可能性、試行ごとに正誤フィードバックを与えることによって独立試行の前提を破ってしまう「スタッキング効果」などがしばしば指摘されている[32][33][34]。こうしたバイアス源を統計的に補正したメタ分析でも、ESPの存在を示す有意な効果は確認されていないと報告されている[34]。
科学的懐疑主義の立場からは、マイケル・シャーマーやジョナサン・C・スミスらが、何千もの実験にもかかわらず説得力のある再現性の高いESP現象は一例も示されていないとし、超感覚的知覚を疑似科学に分類している[35][36][37]。シャーマーはまた、現代の懐疑主義はデータ収集による検証を通じて実践されており、超感覚的知覚は実験的検証のたびに否定されてきたことから誤りとみなしてよいと述べている[38]。
化学者のアーヴィング・ラングミュア(1881年 - 1957年)は、ESPの研究を病的科学(pathological science)の一例として挙げている[39]。日本の科学コミュニケーション研究者らによる懐疑論的ウェブサイト「疑似科学を科学的に考える」は、再現性のあるデータや理論構築が十分でないことや超心理的実験者効果といったアドホックな仮定に依存していることなどを指摘し、ESPを「将来的に科学となる可能性はあるが、現時点では科学として成立していない段階」として「未科学」に分類するとともに、現時点では一般社会に応用できる知見はほとんどなく、むやみにESPを論じたりESP現象を信じるのは危険であると述べている[1]。