「鉄拳無敵孫中山」という言葉が香港であらわれたころ、台湾では香港漫画がブームを迎え、盛んに読まれていた。1993年から書き継がれた黄玉郎と玉皇朝グループの『天子傳奇』シリーズもその一つである。『天子傳奇』は、中国歴代王朝の創立者たちが「天子」としてたぐいまれなる武術を身につけ天下を平定した、という世界観に基づく武侠ものの長編歴史ファンタジーで、第一部では周の武王を、第二部では秦の始皇帝を、第三部では前漢の高祖劉邦を描いている。
2000年、唐の太宗李世民を描く第四部「大唐威龍」に突入すると、さまざまな討論や考察が行われた。その中で人気のあった話題が、もしも熱血武侠漫画である『天子傳奇』の舞台が民国初年に至ったら、「近代」をどのように描くのだろうか、という点であった。学生たちは教科書の中から辛亥革命の関連人物を拾い上げて『天子傳奇』のパロディを創作するようになった。
かつての台湾の大学入試では「三民主義」が必修科目であったが、学生の中には教科書に載っている用語を巧妙に武術に置き換える者もあった。たとえば、「三民主義」(民権、民主、民生)をパロディとした「三明主義」(明拳=攻撃、明足=軽功、明身=内功)、「五権憲法」(行政権、立法権、司法権、考試権、監察権)をパロディにした「五拳憲法」(行正拳、靂法拳、絲髮拳、烤世拳、奸鍘拳)といったものである。
創作の発展の過程で、「鉄拳無敵孫中山」のほか「再世覇王袁世凱」「天魔共残毛沢東」「穿林北腿蔣中正」の「清末民初四大高手」をはじめ、近現代の歴史人物が織り成す武侠物語が生み出されていった。「鉄拳無敵孫中山」の形態は小説、漫画など多岐にわたり、掲示板で物語がつづられると共に、各地に転載されて広まっていった。