電鐘式

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電鐘式(でんしょうしき、電鐘式踏切警報機(でんしょうしきふみきりけいほうき))とは、踏切において列車の接近を知らせる踏切警報機のうち、物理的な鐘(ゴング)を打撃することによって警報音を発生させる方式である。

単に電鐘式の他、電鐘式踏切などとも呼ばれる。現在主流となっている、スピーカーから電子音を発する「電子音式(でんしおんしき)」の普及以前に広く用いられていたが、近年は老朽化やメンテナンスの問題から急速に姿を消しつつある。

日本の踏切警報機における音響装置(警報音発生器)は、発音の仕組みから主に「電子音式」「電鐘式」「電鈴式(でんれいしき)」の3種類に大分類される[1]

このうち、電鈴式と電鐘式は「打鐘式(だしょうしき)」とも総称され、物理的な打撃によって音を鳴らすという点では共通の機構を持っている[2]。しかし、電鐘式が西洋鐘(洋鐘)を用いて「カン、カン、カン…」という比較的低く余韻のある音を響かせるのに対し、電鈴式はお椀型のゴングベルを採用している点が異なる。ゴングベルは洋鐘に比べてサイズが小さく形状も異なるため、より高い周波数の硬質な金属音を発生させる[3]

これらはかつて、日本全国の国鉄(現・JR)から地方の中小私鉄専用線に至るまで標準的な踏切保安設備として広く普及していた[4]。しかし、物理的な可動部を持つため定期的な注油や部品交換などのメンテナンスが不可欠であることや、音量の調整が難しく沿線の宅地化に伴う騒音苦情に対応しきれないことなどから、1970年代以降は急速に電子音式への置き換えが進んだ[5]。現在では全国的に見ても極めて希少な存在となっており、鉄道ファンや音響を愛好する層の間では記録の対象となっている。

制御方式および構造

電鐘式警報機の発音機構は、主に電動機(モーター)、カム機構(またはクランク機構)、打鐘ハンマー、およびゴング(鐘)本体から構成されている[6]。通常、これらは警報機柱の上部、警報灯付近にカサのような防雨用カバーに覆われて設置されている[7]。 電鐘式踏切警報機の内部構造および制御方式は、物理的な打撃をいかにして連続的かつ一定の周期で発生させるかという点に主眼が置かれている。主な制御方式としては以下のような機構が採用されてきた[7]

モーター駆動カム方式の図
モーター駆動カム方式
安定した打鐘周期を得るために採用される方式である。小型の直流または交流モーターを回転させ、その回転軸にカム(歯車状の非円形部品)を取り付ける。モーターが一定の速度で回転すると、カムの突起部が定期的にハンマーの柄(アーム)を押し上げ、バネの反発力などを利用してベルを叩く。モーターの回転数を調整することで打鐘のテンポを設定することが可能であり、電鈴式で採用されている電磁石式に比べて接点の摩耗という弱点を克服している[8]
さらに、これらの警報音発生器は、視覚的に列車の接近を知らせる「踏切警報灯(赤色の交互点滅灯)」の電気回路とは独立して設計されていることが多い。これは、万が一警報音発生器が故障して音が鳴らなくなった場合でも、警報灯の点滅機能だけは維持して最低限の安全を確保するためのフェイルセーフ設計に基づくものである[9]。この独立した回路構造により、光の点滅周期と音の打鐘周期が完全に同調せず、徐々にズレていくのが電鈴式の大きな特徴であり、これが独特のリズム感を生み出している[10]


しかし、モーターの劣化や電源電圧の変動、あるいは気温の変化による潤滑油の粘度変化などの影響を受けやすく、個体によって鳴動のテンポが微妙に異なったり、同じ踏切でも経年によってテンポが変化したりすることがある[11]。また、電子音式のように音量をダイヤル等で容易に調節することは構造上不可能であり、周辺環境への配慮として音量を下げるためには、ゴングの一部にテープを貼って響きを抑えたり、防音カバーを取り付けたりといった物理的な対策を講じる必要があった[12]

歴史

日本の鉄道黎明期における踏切は、踏切警手と呼ばれる職員が手動で遮断機を操作し、旗やカンテラで列車の接近を知らせる「第1種踏切(有人)」が主流であった[3]。しかし、交通量の増加と人件費の高騰、さらには安全性の向上を目的として、大正時代から昭和初期にかけて踏切の自動化が推進されることとなった[13]

  • 導入期から最盛期(昭和初期〜中期)

自動踏切警報機の導入にあたり、欧米の鉄道技術を手本として機械式・打鐘式の警報機が国産化された[1]。当時の技術では、現在のようなトランジスタを用いた電子回路や大音量の耐候性スピーカーは存在しなかったため、電磁石やモーターの力で直接金属ベルを叩く電鈴式・電鐘式が最も確実で安価な警報手段であった[6]。昭和30年代から40年代にかけての高度経済成長期には、日本全国のあらゆる鉄軌道にこの電鈴式・電鐘式が設置され、「踏切の音=カンカン・チンチンと鐘が鳴る音」という認識が定着した[14]

  • 電子化の波と衰退(昭和後期〜平成)

1970年代以降、半導体技術の飛躍的な進歩により、無接点で可動部品を持たない「電子音式警報機」が開発された。電子音式は、機械的な摩耗がないためメンテナンスフリーに近く、故障リスクが大幅に低減された。 また、この時期から急速に進行した沿線の宅地化に伴い、踏切の騒音に対する苦情が増加した[15]。電子音式であれば「夜間だけ音量を下げる」「指向性スピーカーを用いて特定の方向だけに音を飛ばす」といったきめ細かな対応が可能であったが、物理的に鐘を叩く電鈴式では音量調節が構造上不可能であった[12]。これらの理由から、主要な鉄道事業者は保安設備の更新時期に合わせて一斉に電子音式への置き換えを推進した[16]。さらに、警報機メーカー自体が打鐘式発生器の製造を終了したことで部品の調達が困難になり、急速に姿を消していくこととなった[17]

  • 現在(平成〜)

現在では、古い設備をそのまま使用している地方の一部の中小私鉄や、工場内の専用線などにわずかな数が残存しているのみである。そのレトロな外観と音色は、昭和の鉄道風景を今に伝える貴重な産業遺産としての側面も持ち合わせている[18]

設置場所

かつては日本全国のあらゆる路線で見られたが、現在では極めて稀少な存在となっている。維持管理の手間や部品調達の観点から、残存している箇所についても踏切設備の更新工事や道路拡張等のタイミングで電子音式へ取り替えられるケースが多く、その数は年々減少の一途をたどっている。 現在でも稼働している電鐘式踏切が確認されている(あるいは近年まで確認されていた)主な路線・事業者としては、以下のような例が挙げられる。

  • 江ノ電(神奈川県)
  • 三岐鉄道(岐阜県)
  • 各地の臨海鉄道や工場への引き込み線、専用線など。

※ なお、踏切設備の状況は日々変化しており、上記の路線においても既に撤去・更新され、現存していない可能性があることに留意が必要である。

脚注

参考文献

関連項目

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