BMP4
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BMP4(bone morphogenetic protein 4)は、ヒトではBMP4遺伝子によってコードされているタンパク質である[4][5]。BMP4遺伝子は、14番染色体の14q22-q23領域に位置している。
BMP4は、TGF-βスーパーファミリーの中のBMPファミリーの一員である。このスーパーファミリーには、成長や分化に関わる多数のファミリーが含まれている。BMP4は進化的に高度に保存されており、初期胚発生時の腹側帯域(ventral marginal zone、VMZ)や、その後の段階では眼、耳胞、心臓に発現している[6]。
構造
機能
BMP4はTGF-βスーパーファミリーに属するタンパク質であり、他のBMPと同様、歯や四肢の形成、骨折の修復など、骨や軟骨の発生に重要である。BMP4は、ヒトでは特に軟骨内骨化の開始に重要であり、また筋発生、骨石灰化、尿管芽の形成にも関与している[9]。BMP4は外胚葉組織の分化を刺激する[10]。
胚発生
軸形成と中胚葉のパターン形成
胚発生時には、BMP4は背腹軸の決定や中胚葉のパターン形成に必要不可欠である。ツメガエルでは、BMP4は腹側中胚葉を誘導し、また表皮分化を促進することで神経への運命決定を抑制する[11]。マウスでは、BMP4の喪失によって中胚葉形成が損なわれる[12]。
神経発生
BMP4は神経管のパターン形成において背側化の役割を果たし、蓋板由来のBMP7と共に作用して背側介在ニューロンを決定するとともに、底板からのShhシグナルに対抗する[13]。また、菱脳領域における神経堤細胞のアポトーシスにも寄与する[14]。
体節と軟骨
BMP4は体節パターン形成に関与しており、壁側中胚葉においてMSX1、MSX2遺伝子の発現を誘導することで軟骨発生を促進する[15][16]。
器官発生
BMP4は複数の器官の発生に重要な役割を果たしている。肢芽においては、BMP4はinterdigital mesenchymeと呼ばれる指間の水かき領域のアポトーシスを誘導し、指の分離に寄与する[17]。腎臓においては、BMP4は尿管芽の分岐と尿管分化を促進する[18]。
幹細胞の分化
BMP4はFGF2と相乗的に作用して多能性幹細胞の中胚葉系統への分化を促進し、骨形成や軟骨形成を高める[19]。また、BMP4とFGF2は甲状腺前駆細胞への分化も指揮する[20]。
成体
神経系
成体の脳では、BMP4は歯状回や脳室下帯において進行中の神経新生を調節している。歯状回においてBMP4は、BMPR-IAを介したシグナル伝達によって神経幹細胞を静止状態に維持している[21]。脳室下帯においては、BMP4はSMAD4シグナルを介してオリゴデンドログリア系統よりも神経系統への運命決定を促進し[22]、またTis21/BTG2と協働して神経への終末分化を促進する[23]。
代謝と脂肪組織
BMP4はアディポジェネシスを調節することで、代謝に関与している。BMP4は白色脂肪細胞の分化を促進する。また褐色脂肪組織においてはUCP1の発現を誘導し、非ふるえ熱産生を補助する[24]。
生殖器系
鳥類
ダーウィンフィンチにおいては、嘴の発生時のBMP4発現の多様性が嘴のサイズや形状の差異に寄与しており、形態学的多様性をもたらすことで進化と関係していることが示されている[26]。
シグナル伝達
BMP4はTGF-βファミリーのメンバーであり、BMPR1(BMPR1AまたはBMPR1B)とBMPR2の2種類の異なる受容体型セリン/スレオニンキナーゼに結合する[27]。これらの受容体を介したシグナルはさらにSmadやMAPK経路を介して伝達され、標的遺伝子の転写に影響を及ぼす。シグナル伝達が行われるためには、2種類の受容体の双方が機能的である必要がある。BMPはBMPR1が存在しない場合でもBMPR2に結合することができるが、その親和性は双方の受容体が存在する場合と比較して大きく低下する。BMPR1はBMPR2によってトランスリン酸化され、細胞内の下流のシグナル伝達を誘導して転写に影響を及ぼす[27]。
Smadシグナル伝達経路
TGF-βファミリーの受容体の大部分に共通することとして、Smad経路を介してシグナルが伝達される[27]。II型受容体はI型受容体の活性化を担い、I型受容体はR-SMAD(SMAD1、SMAD5、SMAD9)のリン酸化を行う。リン酸化に伴って、R-SMADはco-SMAD(SMAD4)とともに複合体を形成して核へ移行する。このシグナル伝達経路はドルソモルフィン(dorsomorphin)と呼ばれる低分子によって阻害され、R-SMADの下流の影響が阻害される[27]。
MAPKシグナル伝達経路
MAPKを介したシグナル伝達カスケードは、MAPKKKがMAPKKをリン酸化して活性化し、MAPKKがMAPKをリン酸化して活性化し、MAPKが細胞内応答を誘導する、という形で行われる[28]。MAPKKKの活性化は、主にGTPアーゼや他のグループのプロテインキナーゼとの相互作用を介して行われる。TGF-βは、ERK、JNK、p38の各MAPKシグナル伝達経路を誘導する[28]。BMP4もERK、JNK、p38を活性化することが知られており、この作用はSmadシグナル伝達経路とは独立したものであるが、大部分のケースではBMP4によって両者は共に活性化される[29]。ERK経路やJNK経路の活性化はSmadのリン酸化をもたらし、Smadの活性化を調節している。さらに、Smadと相互作用する転写因子はJNKやp38の基質を介して直接的影響を受けており、この2つのシグナル伝達経路が同じ標的に対して収束している可能性がある。この収束は主に両経路の協働的挙動によるものであるが、両者が互いに拮抗する作用を示す可能性を示唆する証拠も得られている。両シグナル伝達経路の直接的な活性化のバランスは、TGF-βの場合には誘導される細胞応答に大きな影響を及ぼすことが知られている[29]。
阻害
BMP4シグナルの阻害(コーディン、ノギン、フォリスタチンによる)は、外胚葉の神経板への分化を引き起こす。これらの細胞がFGFからのシグナルも共に受けた場合には脊髄へ分化し、受けなかった場合には脳組織となる。
BMP4の過剰発現は腹側化をもたらすのに対し、ドミナントネガティブ変異体による阻害は胚の完全な背側化をもたらすか、もしくは2つの背腹軸が形成される可能性がある[31]。
マウスでBMP4が完全に不活化された場合には、通常は原腸形成時に致死となる。ヒトのBMP4の不活化の場合にも、同様の影響が生じると考えられている。完全な不活化をもたらすわけではないBMP4変異でも表現的影響が生じる場合があり、無歯症や骨粗鬆症への関与が示唆されている[32]。
臨床的意義
BMP4の発現上昇は、進行性骨化性線維異形成症など、さまざまな骨疾患と関連している[33]。
口唇口蓋裂に関連する候補遺伝子の研究では、BMP4遺伝子の変異と発症との関連の可能性を示唆する証拠が得られている[34]。
眼の発生
眼は特に陸上脊椎動物にとって、餌や障害物の観察など、生存のために重要な器官である。眼の形成は、神経外胚葉由来の眼胞と表皮外胚葉由来の水晶体の形成から開始される。BMPは水晶体形成を刺激することが知られている。眼の発生の初期段階では眼胞形成が必要不可欠であり、BMP4は眼胞内で強力に、そして周囲の間葉や表皮外胚葉では弱く発現している。このBMP4の濃度勾配が水晶体の誘導に重要であり、Bmp4のホモ接合型ヌル変異マウスでは水晶体の発生は起こらない。眼胞と接触している水晶体予定部位の外胚葉ではSox2がアップレギュレーションされ、水晶体の誘導に必要不可欠な役割を果たしている。Bmp4変異マウスの水晶体誘導の欠陥は眼胞内へBMP4を注入することでレスキューされるのに対し、BMP4を付着したビーズで眼胞自体を置き換えた場合には水晶体誘導は起こらない。水晶体誘導が起こるためにはBMP4によってさらに眼胞でMsx2が活性化されることが必要であり、BMP4とMsx2の濃度勾配の組み合わせによって外胚葉でSox2が活性化される[35]。
マウスでは、水晶体線維細胞へのノギンの注入によって細胞内のBMP4タンパク質は大きく減少する。このことは、ノギンがBMP4の産生の阻害に十分であることを示している。また、他のタンパク質Alk6のドミナントネガティブ変異でもBMP4によるMsx2の活性化は遮断され、水晶体への分化が停止する[36]。
脱毛症
脱毛症は、毛包の形態や周期が異常な形へ変化することが原因となっている[37]。毛周期は、成長期(anagen)、退行期(catagen)、休止期(telogen)から構成される[38]。 哺乳類では、上皮と間葉の相互作用によって毛の発生は制御されている。毛幹の前駆細胞では、BMP4やBMP2といった遺伝子が活性化されている。具体的には、BMP4は毛乳頭内に存在し、毛の発生を制御するシグナル伝達ネットワークの一部となっている。BMP4は成長期における毛幹の分化を調節する生化学経路やシグナル伝達の誘導に必要であり、毛の分化を調節する転写因子の発現制御を行っているが、遺伝的ネットワーク内のどこでBMPが機能しているかに関しては未解明の部分も多い。BMP4シグナルは、ケラチンなど終末分化分子の発現を制御している可能性がある[39]。
発生中の毛包では、ノギン、フォリスタチン、グレムリンといったBMP4と相互作用して阻害する因子が発現している[40]。BMP4を毛包の外毛根鞘に異所性発現するトランスジェニックマウスでは、毛球の毛母細胞の増殖が阻害される[41]。またノギンを欠失したマウスでは、正常なマウスと比較して毛包の数が減少し、毛包の発生が阻害される。ニワトリ胚では、ノギンの異所性発現によって毛包が拡大し、BMP4シグナルが近傍の細胞の毛盤(hair placode)への運命決定を抑制していることが示されている[8]。ノギンは出生後の皮膚において毛の成長を誘導していることがin vivoでの実験で示されている[42]。
毛包形成や毛の成長を調節する経路は脱毛症の治療法の開発において重要であり、BMP4やそれが機能する経路は脱毛を防ぐための治療標的となる可能性がある[38]。