MAP4K4
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MAP4K4(mitogen-activated protein kinase kinase kinase kinase 4)は、ヒトではMAP4K4遺伝子によってコードされている酵素(セリン/スレオニンキナーゼ)である[5][6]。HGK(hepatocyte progenitor kinase-like/germinal center kinase-like kinase)、NIK(Nck-interacting kinase)といった名称でも知られる。
MAP4K4は、細胞遊走、増殖、接着など広範囲の生理過程に関与しており、その活性は全身性炎症[7]、代謝疾患[8]、心血管疾患[8]やがん[6]への関与が示唆されている。
MAP4K4は幅広い種類のがんでアップレギュレーションされていることが知られているが、がんにどのような形で関与しているのか、具体的な役割に関する情報は現時点では限定的である。しかしながら、がんの発生や進行におけるMAP4K4の重要な役割を示唆するエビデンスが蓄積しつつあり、がん治療における新たな標的となる可能性がある[6]。
構造と発現
ヒトでは、MAP4K4は2番染色体に位置するMAP4K4遺伝子にコードされている。MAP4K4遺伝子は2q11.2領域に位置し、33個のエクソンから構成される[5]。MAP4K4は約1200アミノ酸から構成され、分子量はおよそ140kである[9][10]。さまざまな生物種に存在するMAP4K4のオルソログは、分子的・構造的に類似した特徴を有している。

MAP4K4は、N末端にキナーゼドメイン、C末端にCitron相同(CNH)ドメインが存在する[5]。哺乳類のSte20pファミリーのキナーゼが十分な活性を発揮するためには、特定の部位のリン酸化が必要である。キナーゼドメインの活性化セグメントに施される一次リン酸化はタンパク質のコンフォメーション変化を引き起こし、活性化セグメントの構造を基質の結合に適した形に安定化すると考えられている。そして二次リン酸化部位は酵素の十分な活性化に必要である[5]。
MAP4K4は全ての組織種で発現していることが知られているが[10]、脳や精巣において発現はより顕著である[12]。あらゆる時点で同一細胞内に複数のアイソフォームが存在しているが、各アイソフォームの存在量は細胞種や組織種によって異なっている[12]。一例として、ヒトでは肝臓、胎盤、骨格筋では短いアイソフォームが、一方で脳では長いアイソフォームが優勢である。
相互作用とシグナル伝達
TNF-α
哺乳類やハエを用いた研究では、MAP4K4がTNF-αシグナル、特にその下流のJNKシグナル伝達経路を活性化することが示唆されている[10][13]。また、TNF-αはMAP4K4の発現の増大ももたらす[14]。JNK経路は多くの生理過程と関与していることが示唆されており、JNKはc-Junと呼ばれる下流のタンパク質のリン酸化を担う。c-Junはさまざまなストレス因子、成長因子やサイトカインに応答する特異的転写因子の発現や活性を高める。MAPK4K4によるJNKシグナル伝達経路の活性化は、さまざまな細胞種におけるアポトーシスの調節[15]、腫瘍形成や炎症に関与していることが示唆されている[16]。
p53
p53はがん抑制因子の1つであり、ストレスに対する細胞応答に関与している。p53の発現時には細胞周期はG1期で停止し、細胞老化もしくはアポトーシスが誘導される場合がある。p53遺伝子の変異は多くの種類のがんで高頻度でみられる。MAP4K4遺伝子にはp53の推定結合部位が6か所存在する。p53が結合することでMAP4K4の発現はアップレギュレーションされ、JNKシグナル伝達経路の活性化が引き起こされる。siRNAを用いたMAP4K4遺伝子のノックダウン実験ではp53によって誘導されるアポトーシスの減少が示されており、MAP4K4はJNKシグナル伝達経路において、p53によるアポトーシス誘導を調節する作用を有していることが示唆されている[15]。
臨床的意義
グルコースの取り込みとインスリンの機能
MAPK4Kは、インスリン依存性グルコース輸送の負の調節に関与していることが特定されている。肥満で観察されるインスリンに拮抗する生物学的作用はTNF-αなどのサイトカインによって媒介されており、炎症が誘導されていることを示唆するエビデンスが蓄積しつつある[17][18]。具体的には、TNF-αはインスリン受容体によって開始されたシグナル伝達を減弱し、グルコースの輸送と取り込み量を減少させる[19]。MAP4K4はTNF-αシグナル伝達カスケードの上流の構成要素として機能していると考えられている[10]。
また、siRNAを用いたスクリーニングにより、MAP4K4がグルコーストランスポーターGLUT4の調節に関与していることが明らかにされている[20]。脂肪細胞でのMAP4K4のサイレンシングは、GLUT4など脂肪細胞の分化と関連した遺伝子の調節を担う核内ホルモン受容体であるPPARγの発現の上昇をもたらす[21]。ヒトの骨格筋におけるsiRNAによるMAP4K4のサイレンシングは、TNF-αシグナル伝達カスケードをダウンレギュレーションすることでインスリン抵抗性の予防とインスリン感受性の回復をもたらし[22]、TNF-αによるPPARγやGLUT4の枯渇を阻害するようである[20]。さらに、膵臓β細胞におけるmiRNAによるMAP4K4のサイレンシングはTNF-αによるインスリンの遺伝子転写や分泌の抑制に対する保護効果をもたらすことも示されており[23]、MAP4K4の標的化は糖尿病の予防や治療の戦略となる可能性がある[23]。
アテローム性動脈硬化
アテローム性動脈硬化は、脂質による血管損傷に対する炎症応答の結果として引き起こされる。TNF-αなどのサイトカインは炎症性遺伝子の発現を誘導し、白血球に対する接着分子やケモカインの合成をもたらす[24]。血管内皮細胞はMAP4K4を高度に発現しており[8]、MAP4K4は内皮の透過性を高めることが報告されている[25]。その結果、白血球の血管外遊出の促進、酸化脂質の輸送、プラークの形成によってアテローム性動脈硬化に寄与する[8]。
内皮でのMAP4K4のサイレンシングによって、アテローム性動脈硬化の発症が改善されることがマウスで示されている[26]。さらに、MAP4K4のキナーゼ活性の阻害剤による治療によって、プラーク形成の進行が弱まり、退縮が促進されることもマウスでは示されており[26]、MAP4K4を標的とした治療が心血管疾患に対して有望であることが示唆されている。
がん
がん患者の死亡の最大の原因は腫瘍の浸潤と転移であり、これらの過程は細胞の遊走や運動性と高度な相関がみられる[27]。がんに対してMAP4K4がどのように関与しているのかに関しては限定的な情報しか得られていないが、肺がん、前立腺がん、膵がん、卵巣がんなど多くの種類のがんでMAP4K4が過剰発現しており、こうしたアップレギュレーションは細胞の遊走、接着、浸潤性の増大と関連していることが示されている[16]。
いくつかの研究では、細胞骨格のダイナミクスや接着と関連したタンパク質の上流の調節因子としてMAP4K4が同定されている。内皮細胞におけるMAP4K4遺伝子の欠失は膜のダイナミクスに影響を及ぼすようであり、細胞遊走の低下と血管新生の欠陥が引き起こされる[28]。一方、過剰発現は細胞の浸潤や形態形成の速度を大きく高める[12]。
腫瘍細胞の成長や遊走能の増大にMAP4K4が大きく寄与していることを示す証拠も得られている[27][29]。肝細胞がん[29]、膵腺がん[30]、大腸がん[31]の臨床的進行や予後不良はMAP4K4の発現レベルと密接に関連している。