PA連携
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PA 連携(ピーエーれんけい、消防ポンプ車と救急車の出動連携[1]、消防車の救急支援活動[2])とは、日本の消防機関において、ポンプ隊などの消防隊等を救急隊に先行または同時出動させ、救急現場において消防隊等に救急活動を支援させる活動である[3]。PAはポンプ車(Pumper)および救急車(Ambulance)それぞれの英単語の頭文字からなり、消防用語として一般的に使用される[4][5]。


傷病者に対する心肺蘇生法等の応急処置が開始されるまでの時間の短縮や、救急現場におけるマンパワーの充実等により、傷病者にとって最適な救急活動を行うための有効な取組みとされる[3]。多くの救急資器材を必要とする高度な救命処置を行う場合や、階段・通路などが狭いために傷病者の搬送が難しい場合[4]、直近の救急車が現場到着に時間を要すると判断され、近傍の消防署の救急車が到着までの間、消防隊等が応急処置を実施することが効果的と認められる場合[4][6]などにもPA連携として出動する。PA連携による出動をPA出動と呼ぶ消防官署もあるがほぼ同義である。愛称として「ファイア・クイック・エイド」と紹介される[4]が認知度が低い。
指令センターの指令員が受信時の覚知の判断ないし、現地の救急隊長の判断で要請されるが[7]、要請者の拒否がある場合は要請されない場合もある[8]。対応する消防車両はポンプ車だけでなく、水槽タンク車(タンク付きポンプ車)や救助工作車などの車両なども挙げられる。
出動状況
2011年(平成23年)9月に総務省消防庁が実施した調査では、2010年(平成22年)度中の救急出動件数 は約546万件であり、その内の6.7%にあたる約37万件の事案にPA連携として消防ポンプ車等が出動していた[3]。全国の消防本部のうち、82.2%でPA 連携出動が行われており、中には全救急出場件数に対するPA 連携出場の割合が22%を超えている地域もあった[4]。既存の消防力の有効活用を図るという観点から今後も各消防本部の取組みが広がることが予想されている[3]。
例として枚方寝屋川消防組合消防本部では、2019年(平成31年/令和元年)度に消防隊等が活動した事故件数2,812件中、火災件数167件を抜いた中で、PA連携による出動が1,799件と最も多い状況であった[9]。
背景
PA連携の黎明となるはっきりとした資料は定かでないが、一説によれば1995年(平成7年)の阪神淡路大震災後、神戸市消防局が試行したのが始まりとされる[10]。救急要請の増加で現場到着までの所要時間が長くなる中、救命率アップにつなげようと各地の自治体に広がったとされる[10]。2000年代に入り、救急出動件数の急増傾向が続く中、救急需要に応じた供給のバランスが崩れ、本来、緊急に対応するべき救急事案に対し、「緊急に対応できなくなるのではないか」といった懸念が指摘されていた[11]。
総務省消防庁では、2005年(平成17年)度に「救急需要対策に関する検討会」を開催し、更なる救命率の向上を目的とした様々な救急需要対策について、総合的な検討を行った[12]。報告書(2006年(平成18年)3月)によれば、各消防本部が、直ちにできる対策として、緊急に対応しなければならない救急事案(心肺停止、気道異物症例等)について、ポンプ隊、救急隊がともに連携をして、現有する消防力(人員、機械)の効果的・効率的な運用を図りながら、更なる救命率の向上に努める必要があるとされた[11]。
こうした背景を踏まえ、今後、各消防本部においては、救急隊員はもとより、救急蘇生の現場で活動する頻度が高い消防職員についても、その一次救命処置等に関する知識や技術の向上を図ることが重要であり、特に緊急の処置を必要とする傷病者に対しては、早い対応と適切な処置ができるよう、一層の体制の強化・整備を行うことが必要と位置付けた[11]。このほか、電話での口頭による、通報者への救命処置の指示も対策として組み入れられた[13]。そのため、普段は救急業務に当たらない消火・救助の消防隊員においても、応急処置能力を獲得・維持する訓練が行われている[14][15]。
PA連携に関するアンケート(2011年)によれば、現場装着時間に際して差はないものの、ポンプ車装着した事例に限れば、ポンプ車が救急隊より3分程が早着していることが分かった[16]。さらに、PA 連携については、迅速な応急処置の開始以外にマンパワー増強の効果に着目した実験を行い、PA 連携によるCPR(心肺蘇生)のクオリティの向上について大きな差は見られなかったものの、現場活動時間の大幅な短縮や救急隊員の疲労感の軽減などの効果が明らかになった[16]。
例として、大分市消防局では、2011年(平成23年)2月1日[17]、西条市消防本部では2015年(平成27年)1月1日[5]、岐阜県の不破消防組合消防本部では2024年(令和6年)4月[18]からPA連携を開始した。
消防車内の応急処置装備
消防車内に装備されている応急処置装備は消防本部により異なる。このうち、高知市消防局では装備品が訓令で定義されており、以下のものを装備し、運用する車両に積載する。
出動の基準
運用の例
以下は、PA連携の一例である。このほかにも状況に応じて臨機応変に対応する。
出動の流れ(訓練)
2025年(令和7年)6月26・27日、東京消防庁第8消防方面本部で行われた方面本部訓練において「方面救急訓練効果確認」が行われた[30]。消防方面管内に配置する15の各消防署から選抜された救急隊、消防隊のペアがPA連携として出場し、救急活動に当たるという想定で訓練が行われた[30]。本節では、この訓練を例に、PA連携による出動の流れを概説する。
想定
活動例
出動 - 救急車到着前
- 救急隊(3名)は直ちに現場に向かって緊急走行を開始。隊員がその後の情報から得た通報者の電話番号に電話し、傷病者の直近にいる(バイスタンダー)、通報者の息子に発症状況の把握を行った。傷病者はJCS III-300(意識なし)、CPA(心肺停止)状態にあること、傷病者には高血圧の既往症があることが判明し、直ちにその電話で胸骨圧迫の指導を開始した[30]。
- 消防隊(4名)は出動指令を受けてポンプ車に乗車して消防署から出動し、先に現場に到着し活動を開始した。ポンプ車から小隊長以下3名が救急資器材を持って団地の屋外階段を昇り、201号室で傷病者(を模試たダミー人形)に接触した。直ちに傷病者の容態観察を開始し、傷病者の息子から胸骨圧迫によるCPR(心肺蘇生)を交代した。傷病者にAEDのパッドを装着すると、心電図解析の結果、心室細動による通電のメッセージがあり、除細動を実施するも傷病者は依然として心肺停止状態のままであった。残りの救急資器材を持ってきた1名が201号室に到着した。この際に、CPRを交代していた隊もあった[30]。
救急車到着後
- 救急隊が現着し、救急隊長と隊員1名が救急資器材を持って201号室へ急いだ。消防隊員の1名は補助のストレッチャーまたは布担架を持ちつつメインのストレッチャーを階段下まで運んだ。その後は補助のストレッチャーだけを持って屋外階段を201号室へと昇った。救急隊長は消防隊の小隊長から経過報告を受けつつ、心電図の波形も含めて傷病者を容態観察した。直ちに計2回目の除細動を実施した[30]。
- 心電図の波形は心室細動から無脈性電気活動に変化するも、脈拍は触知できないままであった。そこで、電話による指令室の指導医の指示により、救急救命士による特定行為である気道確保、静脈路確保、薬剤投与などが資格に合わせて実施され、状況に応じて2度目の薬剤投与も行われた[30]。
搬送
- その後、指令室から搬送先の医療機関が通知される頃、傷病者を補助のストレッチャーまたは布担架に収容し搬送開始した。心電図を繋ぎ、薬剤投与を続行しつつ、計7名の隊員によって担架に乗った傷病者は屋外階段を1階へ。ここで傷病者はメインのストレッチャーへと移された。
- 胸骨圧迫は依然として続行されているが、この段階で多くの隊でCCF(CPR全体時間のうちの胸骨圧迫時間の割合)が60%を超えていて、心電図はAF(心房細動)に変化。傷病者は回復の徴候を見せた。傷病者は救急車内収容。そして、救命士報告(回復に至らなかった場合は現場報告)、現発の両方が完了した時点で想定終了となった[30]。
訓練評価など
この訓練では、審査重点項目として、「質の高い心肺蘇生」、「現場滞在時間の短縮を意識した行動」、「適切な継続観察要領」、「消防隊から救急隊への引き継ぎ」、「救命効果を向上させる効果的なPA連携」を挙げて、PA連携を主体とした評価が実施された[30]。
第八消防方面本部本部長である小野寺道範消防正監は「訓練想定としてはシンプルかつ基本的な内容ではあるが、状況に応じた判断、手技が必要となり、継続観察のもと基本に忠実な活動を確実に実施することが傷病者にとってプラスとなる。本日訓練を実施した各隊はいずれもしっかりと活動できていた。日頃の訓練成果が十分に現れたことを確認できたと感じる」と評していた[30]。
メディカルコントロール
展望
法令等
問題点
認知度の低さによる誤解(「救急車を呼んだのに消防車もきた」)
「火事でもないのに消防車と救急車が一緒に走っている」、「救急車を呼んだのに、先に消防車が来た!」というような、一般市民への認知の低さがあり、各消防本部ではホームページなどで広報・周知を行っている[4][17][22][37]。なお、地域によっては、出動の際に、火災出動のサイレン音と[注釈 2]、PA連携含む非火災出動のサイレン音[注釈 3]を変えている消防本部がある(例:東京消防庁、宇都宮市消防局[37])。また、岐阜市消防本部では、出動する消防車に「救急支援」のステッカーを貼付して出動する[38]。
道路交通法第39条の解釈相違(消防車の緊急走行はできるか?)
PA連携が本格的に検討されていた時期、松山市消防局や高知市消防局において、道路交通法第39条に規定する「緊急車両」[35]に該当しないという理由で、PA出動での消防車の緊急走行ができないために導入を見送る事例があった[39][40]。松山市消防局の場合は試験施行前に愛媛県公安委員会からの指摘で中止、高知市消防局においては「実施に向けて念のため高知県公安委員会に照会したところ問題があるといわれた。」との理由で導入が見送られた[39]。
緊急車両として走らせるには、都道府県公安委員会から緊急車両の指定を受ける必要があるが[39]、消防車は消防車として、救急車は救急車として指定されており、道路交通法施行令13条でも消防車・救急車が同一項目に並ぶことはなく[注釈 4]分けて規定されている[36]。公安委員会から「消防車の指定は消防活動のためで、目的外使用の恐れがある」との指摘をしていた[39]。一方で警察庁の担当者は「本来予定している走行ではないが、許されると解している。各都道府県警の運用は承知していないが、消防機関との間で調整を図ることが重要だ」と説明した[39]。総務省消防庁は「状況を詳しく調べたうえで、実施に向けた対応を警察庁と協議していきたい」とした[39]。
