TEACCHプログラム

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TEACCHプログラム: Treatment and Education of Autistic and related Communication handicapped CHildren)は、自閉スペクトラム症の人々に対して教育と生活支援を提供する、アメリカ・ノースカロライナ州の包括的な支援プログラムである。1972年にノースカロライナ大学チャペルヒル校の心理学者エリック・ショプラーらによって研究・設立された。自閉スペクトラム症を「治癒すべき病気」としてではなく、「一つの文化」として捉え、個人に応じた自立支援を行うことを理念としている。

TEACCHの実践は、以下の理念に基づいている[1]

  • 自閉症の本質は、中枢神経系を含む器質的違いであり、それが自閉症の人が見る世界や状況の見通しに混乱や影響を及ぼしていること。
  • 療育は両親と専門家の親密な協力関係のもとで実施されること。
  • 療育にかかわる専門家は、スペシャリストをこえてジェネラリストであること。
  • 療育プログラムは包括的に調整されなければならないこと。
  • 人生全般にわたって支援されなければならないこと。
  • 療育は個別化の概念のもとに行われること。

歴史

TEACCHプログラムは、1966年から1972年にかけてノースカロライナ大学チャペルヒル校エリック・ショプラーとロバート・ライヒラーが行っていた児童研究プロジェクトを起源とする。当時のアメリカでは力動精神医学が主流であり、自閉症は母子関係の不適切さによって生じる情緒障害とされ、ブルーノ・ベッテルハイムが主張した冷蔵庫マザー説に代表されるように、親を治療の対象とし、子どもを親から隔離する治療法が推奨されていた[2]

ショプラーはシカゴ大学大学院に在学中、ベッテルハイムのもとで臨床心理学を学んだが、このような精神分析的アプローチに疑問を抱き、移籍先のノースカロライナ大学で、自閉症の脳機能障害説に基づく実証的な研究に取り組んだ。彼は認知心理学や感覚処理の研究に基づいて、精神分析的療法とは異なる発達支援の必要性を主張し、親を治療対象ではなく支援の協働者(co-therapist)として位置づけた[2]

1972年、これらの研究成果を受け、ノースカロライナ州議会の財政支援のもと、「Division TEACCH(TEACCH部門)」が正式に制度化・設立された。ショプラーはこの時期、構造化教育の有効性を示す研究を発表し、自閉症支援における教育的アプローチの基礎を築いた。診断・評価ツールの開発も進み、CARS(小児自閉症評価尺度)、PEP(教育診断検査)、AAPEP(思春期・青年期教育診断検査)などが作成された。ショプラーらのグループは、1972年には、アメリカ精神医学会からGold Achievement Awardを受賞している[2]

この時期には、初期の支援対象であった子どもたちが青年期成人期へと移行したことを受け、TEACCHプログラムは生涯にわたる支援を重視する方向へと発展した。1973年には、ショプラーがスタンフォード大学からゲーリー・B・メジボフを招聘し、TEACCHに社会的学習理論認知心理学の観点が導入された[3]

メジボフが学んだアルバート・バンデューラの理論は、認知的な情報処理や自己効力感(self-efficacy)といった要素を重視する立場に立っており、TEACCHに大きな影響を与えた[2]

メジボフは1979年頃からTEACCHに本格的に関与し、1993年から2009年までディレクターを務めた。彼の指導の下で、バンデューラの認知社会的学習理論とショプラーらがおこなっていた自閉症に関する研究が統合され、TEACCHの実践はさらに深化・発展した[2]

1980年代以降、TEACCHは早期療育や高機能自閉症アスペルガー症候群など、より広範な自閉スペクトラム症の支援に拡大した。

1982年には、日本の児童精神科医である佐々木正美がノースカロライナを訪問し、ショプラーとの交流を通じて日本にTEACCHを紹介した。2005年4月には佐々木を中心に「TEACCH部(現:川崎医療福祉大学社会連携センター TEACCH Autism Program)」が設立された[4]

2012年にはローラ・クリンガー(Laura Klinger)がディレクターに就任し、組織名称も大学の一部局としての「Division TEACCH」から、ノースカロライナ州全体の施策・支援制度を示す「TEACCH Autism Program」へと改称された[5]

現在、ノースカロライナ州内にはチャペルヒル、グリーンズボロ、ローリー、アッシュビル、シャーロット、グリーンビル、ウィルミントンの7つのTEACCHセンターがある[6]

ノースカロライナ州キャルボロにあるTEACCHチャペルヒルセンター

手法

TEACCHにおいては、自閉スペクトラム症の人々の自立を支援するために、構造化(Structured TEACCHing)と呼ばれる方法が用いられる。構造化とは、個々のアセスメントに基づいて学習環境や活動を整理し、視覚的にわかりやすい形にすることによって、本人が見て理解し、自発的に行動できるようにする手法である。柔軟性・自立性・自己効力感の向上を促進することを目的としている[7]

個別スケジュール

個別スケジュールは、本人が「いつ」「どこで」「何をするのか」を視覚的に把握できるようにするために用いられる。口頭による一方的な指示に依存せず、本人が自ら判断して行動できることを目的としており、日課やルーティンを明確にするとともに、予定変更を視覚的に伝える役割も果たす。

導入に際しては、本人の好む活動から開始することが推奨される。これは、支援者の都合によって負担の大きい活動や望まない活動を先に提示すると、スケジュール自体が「嫌なことを強いられるもの」として認識され、活用を拒否するようになる可能性があるためである。スケジュールは支援者が管理するものではなく、本人が活動を自ら選び、変更でき、自分で立てることを前提としたものである。

使用される媒体は、具体物、半具体物、写真、絵カード、文字、文章などであり、本人の認知特性に応じて選択される。また、一度に提示する活動の数や並び順(左から右、上から下など)は個々の特性に合わせて設定され、提示範囲も1つ先、2〜3個先、半日、1日、1週間など柔軟に調整される。

スケジュールの形式は、据え置き型(机上やトランジションエリアに掲示)と、持ち運び可能な携帯型に大別される。活動の進行に伴い、活動を示すカードを活動場所に持って行き一致させる方法や、活動終了後にフィニッシュボックスへ入れる方法、チェックを記入する方法などが活用される。

絵から文字へといった形式の変更や、スケジュールの長さの調整も認知発達に応じて行われる。ただし、抽象度の高い形式が必ずしも優れているわけではなく、最も重視されるのは「本人が自立して活用できること」である[8]

ワークシステム

ワークシステムとは、自立して活動を遂行できるように、「どこで」「いつ」「何を」「どのようなやり方で」「いつ終わるのか」「終わったら次に何をするのか」といった情報を視覚的に明示する手法である。

左から右に作業する具体的ワークシステム

  • 対象:具体物を好む学習者
  • 構成:作業内容を左側に配置し、完了した作業は右側のフィニッシュボックスに移す。最後には「次の活動」(例:CDを聴く)を示すシンボルが提示される。
  • 例:バスケット3つを順番に処理し、完了後にCDのマークを持って移動する。

マッチング型ワークシステム

  • 対象:より抽象的な理解が可能な学習者
  • 構成:視覚的なリスト(記号、写真、単語など)と、対応する課題をマッチングさせながら実施する。
  • 例:四角形のシール → 四角のラベルが貼られた課題 → 完了後は「次の活動」(例:スナックタイム)へ移行[9]

視覚的構造化

視覚的構造化とは、課題に視覚的または物理的な手がかりを加えることで、「どのように作業を進めるか」を理解しやすくする手法である。視覚的構造化には、作業の開始点や手順を示す「視覚的指示」、教材や空間を明確に構成する「視覚的整理」、重要な情報を強調する「視覚的明瞭化」の3つの要素が含まれる[10]

例:

  • 材料の配置順を示す「ジグ」や、完成見本、写真付き手順書の活用
  • トレーや箱による教材の整理
  • 作業スペースの明確化
  • 数量や情報量の調整
  • 重要な部分の強調(ハイライト、色分け、矢印など)
  • 興味関心を課題に取り入れる

物理的構造化

物理的構造化は、カーペットや家具の配置などを工夫して活動と場所の対応関係を明示し、「どこで何をすべきか」を理解しやすくする方法である[11]

例:

  • ワークエリア(作業・勉強の場所)
  • プレイエリア(遊ぶ・落ち着くための場所)
  • トランジションエリア(個別スケジュールを確認する場所)
  • カームダウンエリア(クールダウンのための場所)

構造化はしばしば「支援者が指示を与えて行動を管理する仕組み」と誤解されることがあるが、本来の目的は、本人が視覚的な手がかりをもとに、自ら選択し主体的に行動できるようにすることであり、特定の支援者への依存を減らし自立性を高めることにある[12]

診断・アセスメント

  • CARS2(小児自閉症評定尺度第2版):臨床面接や観察に基づく診断ツール。
  • PEP-3:2歳から12歳程度を対象とし、子どもの強みと弱みを把握するために実施される。得られた情報は、個別教育計画の作成などに用いられる[13]
  • TTAP:青年期から成人期にかけての移行を支援するためのアセスメント。就労や自立生活に必要なスキル、個々の興味や強みを評価する。評価領域は「職業スキル」「職業行動」「自立機能」「余暇スキル」「機能的コミュニケーション」「対人行動」の6領域で構成され、直接観察尺度・家庭尺度・学校/職場尺度の3つの環境で実施される。課題の達成度は「合格」「芽生え反応」「不合格」の3段階で判定される[14]
  • BWAP-2:T-STEPと呼ばれる就労移行プログラムで使われ、高機能ASDの職場適応スキルを把握するために用いられる[15]

関連項目

脚注

外部リンク

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