V150プロジェクト

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試験走行に使用されたTGV POS第4402編成「V150」

V150プロジェクト[注釈 1]は、2007年1月15日から同年4月15日にかけて、当時開業前であったLGV東ヨーロッパ線フランスストラスブール - パリ間)で実施された高速走行試験である。特別仕様に改造されたTGV車両を使って行われ、2007年4月3日には時速574.8キロメートル(357.2 mph、159.7 m/s)を記録し、1990年に記録された以前の記録である時速515.3キロメートル(320.2 mph、143.1 m/s)を上回って鉄輪式における鉄道の世界最高速度を記録した[2]

LGV東ヨーロッパ線での試験走行は、2007年1月の電化完了から4月の乗務員訓練開始までの3ヶ月間に行われた。同路線の定期運行は同年6月10日に開始された[3]

このプロジェクトはフランス国鉄(SNCF)、製造会社であるアルストム、LGV東ヨーロッパ線の所有者であるフランス鉄道線路事業公社が合同で行ったもので、合計で約500人が関わり、そのうち約300人がエンジニアと技術者だった。記録更新の走行時には、そのうち約60人が乗車していた[3]

この走行試験の目的は、フランスの優れた技術力を実証し、フランス製鉄道車両の輸出促進を図るものであった[4]

プロジェクトの総費用は約3000万ユーロと推定されている[5]

試験車両

試験車両の運転台

試験車両は第4402編成で、「V150」と呼ばれる。全長106メートル、総重量268トン。先頭動力車2両と動力付き中間車3両で構成されていた[3]

2両の動力車(384 003と384 004)[5]TGV POSで使用されていたものだが、いくつかの改造が施された。4つのパンタグラフのうち3つが取り外され、屋根の空力特性が最適化された。連結器カバーは取り外され、頑丈なプレートに置き換えられた他、フロントガラスワイパーも省略された。車両間の連結部はゴム製ガスケットを用いて滑らかに仕上げられた。前部連結器、動力車間の高圧線、台車も空力的に最適化された。これらにより車両全体の空気抵抗が15パーセント軽減された[3][6]

3両の動力付き中間車はそれぞれTGV Duplexで使用されていた2階建てのものが使用された。そのうち1両は2階建ての食堂車で、その下層階には2基の動力付き台車にそれぞれ4,000キロワットの電力を供給する電気機器が設置されていた。これに使用された永久磁石同期モーターは、アルストムが次世代型高速鉄道で使用することを想定していた。

先頭動力車の4軸モーターの出力は1,160キロワットから1,950キロワットに増強された。動力付き中間車の4つのモーターはそれぞれ出力1,000キロワットで、動力車単体の出力と比較して40%増強されている。車両の出力は営業仕様のTGV POSの9,280キロワットを上回る19,600キロワットとなった[6]。また、すべての台車には追加のサスペンションが取り付けられた[3]

その他、動輪の直径が営業仕様の920mmから1092mmに大型化した上、ギア比を変更してエンジン回転数が毎分5000回転を大幅に超えるのを防いだ[6]

先頭車両には約60人の技術者が乗り込んでいた。技術者らは350カ所の測定ポイントに設置された600個のセンサーから、約800項目のデータを監視していた。測定項目には、電力消費量、静摩擦、動的安定性、振動などが含まれていた。これらのデータは、試験走行後にTGV車両の空力特性、音響特性、動的特性、振動特性に関する改良に向けた暫定モデルの妥当性を検証するためにも活用された。全体として、1990年の記録走行時の約3倍のデータが収集された[3][6]

3両目の車両には約60人のVIPが乗車していた[3][6]。フランスの試験走行で初めて、車両にゲストが乗車した。105人のメディア関係者と政治家が列車に同乗した[5]

試験走路

試験走行は、LGV東ヨーロッパ線のうち、パリ方面行きの北側線路を逆走して行われた。走行区間は、264キロメートル地点から114キロメートル地点の間で、最高速度は190キロメートル地点付近で達成することとなった。この区間が選ばれたのは、この区間の曲線半径が12,000メートルから17,000メートルへと緩やかになり、最終的に直線になるためであった[3]。その他、より急なカーブでは、カントが最大3センチメートル増加された[5]

線路の敷設状態や軌道構造も試験走行のための仕様に改修され、特にレールに関しては研磨が施された。架線の機械的張力は、パンタグラフが架線に発生する横波に追いつくのを防ぐために増加され、電圧は25キロボルトから31.5キロボルトに増加された。これにより架線の臨界速度を620 km/hまで上げることができたとされている。その他、架線に電気を供給する変電所には、専用の変圧器が設置された。高電圧を安定させ、制動エネルギーの一部を吸収するために、コンデンサが設置された[3][6][5]

また、すべての分岐器が固定され、個々の線路区間を水平にしたり盛り上げたりした。加えて、列車との通信を途切れさせないよう、アナログ式列車無線システムが設置された。(当時、新しいGSM-Rシステムは時速350kmまでの試験しか行われていなかった)[3][6]

試験走行

この試験走行プログラムは 2007年1月15日に開始された。列車の速度は、この路線における営業最高速度である320km/hから徐々に引き上げられた.[7][6]

記録前

展示されている第4402編成「V150」の動力車と中央車両。2007年5月撮影。
フランクフルト中央駅に停車するTGV POS第4404編成、2009年5月撮影

2007年2月9日、試験走行で初めて時速500kmを超えた[7]。この記録は合計12回にも渡った。2月13日、パサヴァン・アン・アルゴンヌ近くの194km地点と191km地点の間で、時速554.3kmを記録した。その後、時速559km、そして最終的には時速568kmに達した。

車両は2月23日にウルクにある車両基地に移送され、そこで特別な黒と青の塗装が施された。さらに、先頭動力車2両にフランス国旗の色でストライプが施され、隣接する中間車にも伸びるデザインとなった。3月15日にジャック・シラク大統領による路線の公式開通式が行われた後、走行試験が再開された[3][7]

3月14日までに、450km/hを超える速度で40回の試験走行が行われ、その後速度が徐々に引き上げられた。測定結果の評価に加えて、各試験走行後には、軌道状態を確認するために別の試験車両(TGV POS)による試験走行も行われた[6]。試験走行中、走行距離のうち約2200kmにおいて400 km/hを超える速度で、700km以上で500 km/hを超える速度で走行した[8]

高速試験走行を行う前には必ず、TGV POS第4404編成が時速380kmで走路を逆走し、線路の上部構造、形状、架線の状態を検査した。試験走行にあたっては、視界、気温、天候、風速に関する最低要件が設定されていた。霧のため中止になったのは1回だけだった[3]

3月28日に時速506.8kmの状態から非常ブレーキをかけた際、ブレーキディスクの最高温度は摂氏650度を記録した[5]

574.8km/hでの走行試験

TGV POS第4402編成「V150」は192キロメートル地点で574.8km/hを記録した。

2007年4月3日、TGV POSの4402編成(V150)と4404編成が連結した状態で264キロ地点に移動した[3]

午前11時15分、ジャーナリストとVIPを乗せたTGV Réseau533編成が264キロ地点に到達した。

午前11時35分、4404編成が試験前の点検のために走行を始め、その間、記録用車両である4402編成(V150)はゲストによる撮影が行われた[3]

4402編成(V150)は264キロ地点を午後1時1分に出発し[3]、西に向かって走行し始めた。258キロ地点で時速200キロ 、248キロ地点で時速300キロ、 242キロ地点で時速400キロ、221キロ地点で時速500キロに達した。

午後1時13分、191.92キロ地点(マルヌ県のル・シュマン付近)で時速574.79キロに達し、鉄輪式における鉄道の世界最高速度を記録した。車両は191キロ地点まで時速約570キロの速度を維持し、170キロ地点までに時速350キロに減速した[2][9]。そして、走行開始から29分後の午後1時30分、シャンパーニュ=アルデンヌTGV駅に停車した[3]

車両は221キロ地点から184キロ地点までの37キロメートル以上において、時速500キロメートルを超える速度で走行した[2][9]。 乗車していたジャーナリストによると、時速約400キロメートルでパンタグラフから火花が飛び散るのが見られ、時速500キロメートルで強い振動が感じられたという[1][10][11]

この試験走行当日の天気は、日差しと微風で理想的と考えられていた[3]。SNCFの交通警察と約100人の憲兵により、列車が通過すると予想される時間帯には、走路を横断する橋の交通が停止された。記録の2時間半前には、計測用車両が走路を走行した[6][3]

記録達成後

記録達成後、4月15日までほぼ毎日、時速520km以上の速度で走行した。最終的に、時速450km以上で走行した距離は合計約3200kmにわたり[5]、そのうち時速500km以上で走行した距離は累計で700キロメートル以上となった[6]

記録について

この試験で574.8km/hを記録し鉄輪式における鉄道の世界最高速度を記録した。しかしながら、鉄道としては既に日本超電導リニア「MLX01」が2003年12月2日に581km/hを記録しており、その記録を上回ることはなかった。記録達成の直後に開かれた記者会見においてアルストムの首脳が、「この試験の目的の一つはTGVが磁気浮上式鉄道と同じ速さで走り得ることを示すことにある」と明言していたものの、記者から「なぜ、日本のリニアの最高速度(581km/h)を超えなかったのか?」と質問された際、「目標は当初から575km/h以下にあった」と答えるに留まった。一方で、技術者チームが「目標は日本の記録を破ることだ」という内部情報が漏れ出していたとされる[12]

試験終了後

脚注

外部リンク

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