YM2413
1986年発売の日本楽器製造のFM音源LSI
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概要
YM2413は、日本仕様の文字多重放送の受信機および、ビデオテックスシステム「キャプテン」用の端末における使用を目的として開発されたFM音源LSIである[1][2]。
日本の文字多重放送および、キャプテンの規格には符号化された楽譜データを再生する機能が盛り込まれており、日本テレビ放送網・京王技研工業・沖電気工業の開発による共通[注 1]の音符符号化方式を採用していた[8][注 2]。同方式では楽譜情報を構成する符号体系に加えて、発音の仕様についても定められていた[12]。文字放送とキャプテンで採用される同方式の基本機能においては、メロディ楽器6音・リズム楽器5音の同時発音数、メロディ楽器9種類・リズム楽器5種類で構成される楽器名による音色の指定、8段階(3dBステップ、0dBから-21dBの範囲)で調整する音の強弱の指定が発音仕様として規定されていた[12][20][注 3]。
YM2413では、文字放送とキャプテンで使われる音色を全て含有する、15種類のメロディ楽器と5種類のリズム楽器の音色が、LSI内の音色ROMと音色回路に搭載されている[5]。なお、日本楽器製造はYM2413の発表と同時期に、キャプテン用途を目的としたモデム信号処理用LSI「YM3405」、画面表示処理用LSI「YM3918」を発表しており、音源用LSIであるYM2413を含めてこれらのLSIをキャプテン用の主要製品として位置付けていた[3]。
また、YM2413はビブラート発振器と振幅変調発振器、9ビットD/Aコンバーター、水晶発振回路をLSI内に内蔵している[5]。加えて、1音色分の音色レジスタを搭載しており、内蔵音色のほかに自作音色を作成することができる[5][注 4]。LSI内への内蔵音色やD/Aコンバータの搭載は、低コストの音楽システムの実現を目的としていた[1][注 5]。
日本楽器製造は主にキャプテン・文字放送用途、およびパソコン用途を目的とし、キャプテン・文字放送の同時発音数の仕様を満たすFM音源LSI「YM3526(OPL)」を1984年10月に発表し[24][25]、1985年3月から量産を開始していた[26]。YM2413はそのコスト削減版にあたるものである[27]。
YM2413は本来の目的であるキャプテン端末・文字放送受信機以外にも、その低コストかつ組み込みが容易な性質から様々な目的において使用された[27]。その採用例としては、セガ・エンタープライゼスの家庭用ビデオゲーム機「セガ・マークIII」用周辺機器「FMサウンドユニット」や、その一体型機種である日本版「セガ・マスターシステム」[28]、松下電器産業が発売したMSXコンピュータ用周辺機器「FMパナアミューズメントカートリッジ(FM-PAC)」[29]、「FM-PAC」の仕様を音楽機能として採用した「MSX2+」規格の「MSX-MUSIC」[29]、山佐のパチスロ機『ニューパルサー』[30]などが存在する。
機能
発音モード
YM2413は2種類の発音モードを搭載している[4]。モードの切り替えによって、同時発音数をメロディ楽器同時9音、あるいはメロディ楽器同時6音・リズム楽器同時5音(バスドラム・スネアドラム・タムタム・トップシンバル・ハイハットシンバル)のいずれかに設定できる[4]。発音モードは、リズム音専用のレジスタを操作して切り替える[4]。
これらの発音モードはYM3526にも実装されており、メロディ6音・リズム5音モードはキャプテンと文字放送に対応した発音モードとなっている[31]。
音色の指定
YM2413は、メロディ楽器15音色とリズム楽器5音色の音色をLSIに内蔵している[5]。メロディ楽器はそれぞれの楽器に対応する音色番号を指定する方式をとっており、リズム楽器は固定配置となっている[4]。
メロディ楽器は音色データがROMに搭載され、FM音源方式を用いて音色が合成される[5]。また、音色定義用のレジスタを1音色分搭載しており、FM音源方式による自作のメロディ楽器の設定が可能である[5]。内蔵音色と自作音色を合わせた16種類の音色から、それぞれの音に対して異なる音色を個別に指定可能である[4]。
リズム楽器は専用の音色回路と[5]、音色ROMに書き込まれたエンベロープデータを組み合わせて音色が合成される[4]。バスドラムのみがFM音源方式で合成され、それ以外の楽器はホワイトノイズ発生器と、8音目と9音目の周波数情報を利用するノイズ発振器の組み合わせで合成される[4]。タムはサイン波、スネアドラムは矩形波とホワイトノイズの合成、ハイハットはホワイトノイズとノイズ発振器、トップシンバルはノイズ発振器を用いて音色が合成される[27]。
また、YM2413はキャプテンと文字放送の規格で定義された、全ての音色を搭載している[5]。なお、文字放送・キャプテンで採用された音符符号化方式における音色指定については、当初シンセサイザーの音色パラメータを直接指定する仕組みも検討されたが、音色作成の難度やハードウェアごとの互換性および拡張性の観点から、楽器名による音色指定が採用された[32][注 6]。楽器の選定については汎用性が考慮され、メロディ楽器は弦楽器・管楽器・リード楽器・打弦楽器から9種類、リズム楽器は5種類が代表的な音色として選ばれた[32][注 7]。
以下に内蔵音色の一覧を示す。音色名は『YM2413 FM OPERATOR TYPE-LL(OPLL) アプリケーションマニュアル』の日本語版[4]と英語版[34]に従っている。
メロディ楽器
| 番号[4] | 音色名(日)[4] | 音色名(英)[34] | キャプテン/文字放送対応[5] |
|---|---|---|---|
| 0 | オリジナル | Original | × |
| 1 | バイオリン | Violin | ○ |
| 2 | ギター | Guitar | ○ |
| 3 | ピアノ | Piano | ○ |
| 4 | フルート | Flute | ○ |
| 5 | クラリネット | Clarinet | ○ |
| 6 | オーボエ | Oboe | ○ |
| 7 | トランペット | Trumpet | ○ |
| 8 | オルガン | Organ | ○ |
| 9 | ホルン | Horn | × |
| 10 | シンセサイザー | Synthesizer | × |
| 11 | ハープシコード | Harpsichord | × |
| 12 | ビブラフォン | Vibraphone | ○ |
| 13 | シンセベース | Synthesizer Bass | × |
| 14 | ウッドベース | Acoustic Bass | × |
| 15 | エレキベース | Electric Guitar | × |
リズム楽器
発音の制御
メロディ楽器の音程は、それぞれの音に対して個別に設定する[4]。YM2413では、9ビット(512段階)の解像度を持つ周波数情報(F-Number)と8段階のオクターブ情報(Block)と組み合わせて音程を指定する方式となっている[4]。メロディ楽器の発音状態の制御は、それぞれの音ごとに割り当てられたビットを切り替えることによって行う[4]。
リズム楽器の音程は、7音目から9音目の周波数情報を利用して決定される[4]。バスドラムについてはFM音源方式のためメロディ楽器と制御方法は同じだが、一部のリズム楽器で使われるノイズ発振器は8音目と9音目の2つの周波数情報を利用する[4]。リズム楽器の発音状態の制御は、リズム楽器専用のレジスタを介して、5種類のリズム楽器に対応するビットを切り替えることによって行う[4]。
メロディ楽器とリズム楽器の音量は、3dBステップ・16段階(0dBから-45dBの範囲)で設定できる[4]。メロディ楽器はそれぞれの音に対して音色と同時に指定し、リズム楽器は7音目から9音目までの音色・音量用のレジスタを利用して、5種類のリズム楽器の音量を指定する[4]。
FM音源とオペレータ
YM2413に搭載されたFM音源は、1音に対して2つのオペレータが割り当てられた、2オペレータFM方式となっている[4]。なお、オペレータはLSI内に1つしか搭載していないため、それぞれのオペレータの演算は時分割によって行われる[4]。
オペレータの接続アルゴリズムは、2つのオペレータをそれぞれ搬送波・変調波として用いる、直列接続のFM変調モードのみが含まれている[35]。なお、変調波に限りフィードバックFMを利用でき[4]、オペレータ自身の出力を用いてFM変調を掛けることができる[27]。また、YM2413では、オペレータが出力する波形をサイン波・半波整流の2種類から選択できる[27]。
また、オペレータにはエンベロープ生成器が含まれており、時間の経過に応じて音色や音量に対して変化を与える[4]。エンベロープ生成器は、音が立ち上がる速度を示すアタックレート、アタック後に音が減衰する速度を示すディケイレート、ディケイから次の処理に変化する地点を示すサスティンレベル、発音の入力が離された後の音が減衰する速度を示すリリースレート、出力を示すトータルレベルなどの要素を用いて制御する[4]。また、YM2413のエンベロープ生成器には加えてDP機能が存在し、入力の直後に作動してアタックへと移行する[4]。また、YM2413には、入力が離された後の音が減衰する速度を一定値に変更するサスティン機能が搭載されており、それぞれの音に対して、音色に関わらず効果を掛けることができる[4]。
オペレータが発振する周波数は、設定した音程と音色データに含まれるマルチプルを組み合わせて決定される[4]。マルチプルは、設定した音程を基準に何倍の周波数で発振するかを設定するもので、YM2413では基準の0.5倍、1倍から10倍、12倍、15倍の周波数に設定できる[4]。
音色の定義
YM2413における自作音色の定義は、搬送波・変調波それぞれに対して、出力する波形の選択、マルチプルの設定、エンベロープの設定、持続音モード・減衰音モードの切り替え、音高に応じてエンベロープの速度を変化させるキースケールレートの設定、音高に応じて出力を変化させるキースケールレベルの設定、周波数に影響を与えるビブラート効果および、エンベロープに影響を与える振幅変調効果の設定ができる[4]。また、変調波についてはトータルレベルおよび、フィードバックFMによる変調度を設定できる[4]。
また、エンベロープは、アタックレート、ディケイレート、サスティンレベル、リリースレートの4つの値を設定できる[4]。なお、リリースレートは持続音モードと減衰音モードの選択によって、その役割が変化する[4]。持続音モードの場合はディケイによる音の減衰の後にサスティンレベルに達すると、その後、入力が続く間は音が減衰しない[4]。この場合、リリースレートは入力が離された後の音が減衰する速度を示す[4]。減衰音モードの場合はディケイによる音の減衰の後にサスティンレベルに達すると、入力が続く間はリリースレートで設定した速度に応じて音が減衰する[4]。この場合、入力が離された後の音が減衰する速度は一定値となる[4]。
動作仕様
YM2413は、クロック周波数が2MHzから4MHzの範囲で動作するが、エンベロープ生成器と振幅変調発振器・ビブラート発振器は3.6MHz(3.579545MHz)を基準に設計されている[4]。駆動電圧は、+5Vとなっている[4]。
主な採用例
型番
派生品
- YM2420(OPLL2)
- 1987年[59]に発売されたヤマハ製ショルダーキーボード「SHS-10」[60]、1988年[61]に発売されたヤマハ製キーボード「PortaSound PSS-140」[62]などに採用されたLSI[27]。機能面はYM2413と基本的に同一だが、レジスタ配置には互換性がない[27]。
- YVM156B(ADT)
- 信号抽出処理とCPUと連動した表示制御を行う文字放送用のデコードLSIで、付加音処理用としてYM2413相当のFM音源を内蔵している[63][64]。
- MS1823(2423B-X)
- YM2413から内蔵音色データを差し替えたLSI[27]。Atari ST用FM音源カートリッジ「FM Melody Maker」[27]や、フィリップス製ポータブルシーケンサー「PMC100」[65]に採用された。
- YMF281(OPLLP)
- YM2413から内蔵音色データを差し替えたLSI[27]。パチンコ機・パチスロ機用に作成された内蔵音色がLSIに搭載されている[66]。
- VRC7(VRC VII)
- 1991年4月発売のファミリーコンピュータ用ゲームソフト『ラグランジュポイント』のカセットに搭載されたコナミの拡張LSI[67]。VRC7には、拡張音源としてFM音源が含まれている[67]。搭載されたFM音源はYM2413の機能を削減したもので、内蔵音色データも異なっている[27]。また、メロディ楽器は6音のみに制限されており、リズム楽器も削除されている[68]。
- UM3567
- 台湾のUMC(United Microelectronics Corporation)が製造・販売し、1990年ごろに流通していたFM音源LSI[69]。このLSIはヤマハの無許諾で製造・販売されたものであり、ヤマハは製造元のUMCに対して警告文を送付している[69]。また、このLSIを搭載したFM音源ボードが、台湾・韓国・米国地域で流通していた[69]。このLSIはYM2413の互換LSIであるが、電気特性、信号タイミング、内蔵音色が異なっており、単純に置き換えることはできない。[要出典]。