この男にしてモンスター…
From Wikipedia, the free encyclopedia
| "この男にしてモンスター…" | |
|---|---|
| 出版社 | マーベル・コミックス |
| 出版日 | 6 1966年 |
| ジャンル | スーパーヒーロー |
| タイトル | 『ファンタスティック・フォー』第51号 |
| 主要キャラ | ファンタスティック・フォー |
| 製作者 | |
| ライター | スタン・リー |
| アーティスト | ジャック・カービー |
| インカー | ジョー・シノット |
| レタラー | アーティー・シメック |
| 編集者 | スタン・リー |
| 画像外部リンク | |
|---|---|
|
ジャック・カービーによる『ファンタスティック・フォー』第51号の表紙画。 |
「この男にしてモンスター…」[1](このおとこにしてモンスター、英: "This Man... This Monster!")は、マーベル・コミックス社の『ファンタスティック・フォー』第51号 (1966) に掲載されたエピソード。原作はスタン・リー、作画はジャック・カービーによる。ヒーローチーム、ファンタスティック・フォー (FF) の一員で岩のような姿をしたザ・シングことベン・グリムがストーリーの中心で、「怪物」のテーマが扱われている。人間の姿に戻りたいというベンの願いや、自らを犠牲にして罪を償うヴィラン、外的探究と内的省察といった本作のテーマは、『ファンタスティック・フォー』誌で以前から扱われているものである。
「この男にしてモンスター…」の冒頭では、FFの一員リード・リチャーズに恨みを持つ科学者がベンからパワーと外見を奪い、ザ・シングに成り代わってチームに潜入する。折しもリードは未知の異次元空間への探索行に乗り出すところだった。栄誉や自己利益を顧みず危険な探究に身を捧げるリードに衝撃を受けた科学者は、リードに危機が迫ると異次元空間に飛び込み、自らの命と引き換えに救い出す。
リー/カービー期『ファンタスティック・フォー』の中でも1965年から1967年にかけて描かれた作品は後世の評価が高く、「この男にしてモンスター…」もその一つである。リードが異空間を探索するシーンのサイケデリックなコラージュ画など、カービーの作画は特に称賛を集めている。科学者のキャラクターは名前がなかったが、後の作品で回想される際にリカード・ジョーンズと名付けられた。本作ではまた、シリーズの準レギュラーとなるワイアット・ウィングフットや、後にネガティブ・ゾーンと呼ばれることになる異空間が初登場した。
町で雨宿りしていたベン・グリム(ザ・シング)は、ある科学者の自宅に招き入れられるが、睡眠薬入りのコーヒーによって眠らされてしまう。科学者の男はリード・リチャーズに妬みを抱き、ファンタスティック・フォーを倒して自身の優越を証明しようと考えていた。男は自作の装置を使ってザ・シングの能力と外見を奪い取り、チームの本拠地であるバクスター・ビルディングに侵入する。普通の人間の姿に戻ったベンも科学者を追ってきたが、リード・リチャーズは偽シングの方を本物だとみなす。ベンは怒気を発して立ち去る。
一方、メトロ大学に在学中のFFメンバー、ジョニー・ストームは、友人ワイアット・ウィングフットとともにフットボールのスター選手と諍いを起こす。
折しもリードは、ギャラクタスのような外宇宙からの侵略者に対抗する力を求めて、異次元空間への探索行を計画していた。リードは緊急時に命綱を引くよう偽シングに頼み、ポータルの中に消える。偽シングはリードが誰にも知られることなく科学の発展のために危険を冒していることに心を打たれる。異次元空間のリードに危険が迫り、偽シングは見殺しにするか迷った末にリードを救おうとするが、命綱が切れてしまう。偽シングは異次元空間に飛び込み、自身の命を犠牲にしてリードをポータルの外に投げ戻す。
ベンは盲目の恋人アリシアなら見た目に惑わされず自分を認識してくれるだろうと考える。しかし戸口まで赴いたとき、偽シングが死んだため岩石の体が復活する。バクスター・ビルディングに戻ったベンを見て一部始終を察したリードは偽シングの自己犠牲に感謝する。
制作と刊行
| 画像外部リンク | |
|---|---|
|
ジャック・カービーは異次元「ネガティブ・ゾーン」の描写にサイケデリック・アートを用いた。 |
「この男にしてモンスター…」は『ファンタスティック・フォー』第51号に掲載された。原作はスタン・リー、作画はジャック・カービーによる[2]。インク(ペン入れ)はジョー・シノット、レタリングはアーティー・シメックである[3]。カバーデート[注 1]は1966年6月である[4]。本作ではFFの一員で岩のような体を持つザ・シングことベン・グリムが中心的な役割を担う[5]。
リー/カービーのチームは『ファンタスティック・フォー』誌を1961年の創刊から1970年まで手掛けた[6]。第51号はリー/カービー期のおよそ半ばにあたり、最盛期とされる1965年から1967年にかけての3年間で描かれた作品の一つである[7]。本作の直前の第48-50号では「ギャラクタス三部作」が展開されており、直後の第52号はブラックパンサーの初登場号である。本作のストーリーは「ギャラクタス三部作」から続いており、思いを寄せる女性アリシア・マスターズがシルバーサーファーと恋に落ちたと思い込んで一人歩み去ったベンから物語が始まる。本作のヴィランである科学者も第50号で既に登場してFFへの悪意を露わにしている[8]。また本作で初登場したワイアット・ウィングフットはその後ファンタスティック・フォーのサポートキャラクターとなった[5]。
本作の作画には、複雑な幾何学形状からなる巨大な装置や、カービー・クラックルとして知られるようになった弾けるエネルギーの表現など、カービーが多用する技法が見られる[9]。リードが異次元空間を探索するシーンは、画面上の描写と、空間の無限性を説明するセリフ[注 2]によって崇高の概念を想起させる[11]。カービーはそのような壮大さや宇宙的なスケール感を表現することが多く、ほかの例にはアスガルドやギャラクタス、エゴ・ザ・リビング・プラネットなどが挙げられる[9]。リードが異次元に踏み込んだ図像はコミックブックのアートの中でも広く知られているもので、サイケデリック・アートのコラージュ画を背景としてリードの姿と吹き出しが前面に描かれている[3]。その原稿には原作者への説明として[注 3]リードは異次元空間を漂っている。不気味で美しい空間だ
という注意書きが残っている[12]。カービーはまたこの号で、リードが作製した異次元へのポータル装置にも1ページ大の大ゴマを当てている[13]。
テーマと分析
本作はアクションよりも人物描写に重点が置かれており、登場人物がスーパーパワーを使うシーンも少ない[4]。直前と直後の号でマーベル・ユニバース全体にかかわる新事実やスペクタクルが扱われていたのとは対照的である[8]。人間の姿を取り戻したいというベンの望みが物語の中心で[5]、ベンが雨に打たれながら自身の怪物のような見た目を嘆いているシーンが発端となる[14]。その後の物語は名前が明かされていないヴィランの回心と贖罪が展開の軸となる[8]。「誰かの分身」や「影の存在」といったテーマはマーベル作品でよく登場するが[15]、特にリー/カービーは自己犠牲によって贖罪を果たすヴィランを何度も描いている[16]。本作のヴィランについてはリードへの敵意を除けばほとんど人間性が語られず、そのため善悪の葛藤を象徴的に表現するキャラクターとなりえている[8]。
「この男にしてモンスター…」には『ファンタスティック・フォー』シリーズでよく見られる複数のテーマが含まれており、外的世界の探究と内的省察のバランスはその一つである[3]。またダグラス・ウォークによれば、「日常を超えた未知の世界は存在するが、勇気がなければ見つけられない」「人が行動する動機となるのは、家族や友人との絆や、自らの視点で自分や世界を理解することだ」というリー/カービーのメッセージを読み取ることができる[17]。本作はまた「怪物としての存在」を描いており、ザ・シングは自己憐憫に浸って岩石の体を嘆く[12]。ザ・シングが人間の姿に戻れるかどうかは長期にわたって『ファンタスティック・フォー』の物語の主題となった[14]。