ふしぎの国のバード
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19世紀から20世紀初めにかけて世界各地を訪れた実在のイギリス人女性冒険家イザベラ・バードの著書『日本奥地紀行』を下敷きに、主人公のイザベラ・バードが通訳ガイドの日本人男性・伊藤鶴吉と共に、横浜から蝦夷地へと旅する姿と、旅先で出会った明治初期の日本の文化や人々をフィクションを交えて描く[注 1]。英語での題名は『Isabella Bird in Wonderland』、副題は『UNBEATEN TRACKS in JAPAN: An Account of Travels in The Interior Including Visits to The Aborigines of YEZO and The Shrines of NIKKO and ISE』。
本作は原典と同様に英国本国にいる妹・ヘンリエッタへ宛てた手紙という形で物語が進行している。また、日本語を理解できないバードの視点に立って描かれており、日本語による会話は吹き出し内にくずし字様のぼかされた文様で表現されている[1][2]。
2018年1月には、バードと伊藤の会話を英語に翻訳した「バイリンガル版」が刊行された[1]。バードが目にした日本の風俗を質問し、伊藤がそれに答える様子を、2020年東京オリンピックに向けて訪日外国人が増えることに重ねて、日本のことを英語でどう紹介するか学ぶこともできる[1]。佐々は、このバイリンガル版に対し、本来の自分の意図に合致するものであり、本作とは相性が良いとインタビューで答えている[3]。
連載に先立って、2013年に読み切り版が掲載されており、この読み切り版が佐々の漫画家デビュー作となる[4]。その後もバードを主人公にした読み切り作品を何作か掲載し、これらが雑誌読者からも好評だったため、編集部からシリーズ連載にする打診があった[5]。
佐々は本作の題材について、現代日本人から見た明治11年当時の前近代的文化の日本が、客観的にどう見えるかを描きたかった、掘り下げて言うなら、文明が滅びることがどういうものかを描きたかったと語っている[4]。佐々自身は東京出身の東京育ちだが、祖父母の出身地は全国津々浦々だがそれぞれの地元や実家とは縁が切れていた[6]。また東京での地域との関りも希薄だったため、自分が根無し草だという自覚を抱いていた[6]。そのため、日本の過去の歴史は、異世界ファンタジーも同様であり、前時代から現在まで歴史が繋がってる実感を持てずにいた[6]。しかしながら、西洋人が記した前近代の日本の旅行記や滞在記を読むと、そこには近現代の価値観に基づいて記されていることから、内容に説得力があるように感じられた。現代日本人でもある佐々にとっては文明開化以前の日本人の感覚よりも、当時の西洋人の感覚に共感できたのである[6]。そういった感覚から文明開化以前の日本人の実在性を感じるといった内容を漫画にすることはまだ誰もやっておらず、また面白くなると思い至って、本作の骨格となっていった[6]。
『ジャパン・パンチ』を創刊したチャールズ・ワーグマンの話を描き、『ハルタ』前身の漫画誌『Fellows!』編集部に持ち込んだが、担当編集との打ち合わせでは、実在した人物視点で描くスタイルには決まったものの、ワーグマンでは描くのが難しいということになり、勝小吉(勝海舟の父親)、快楽亭ブラックなど5人が候補として挙げられたが、その中にいたイザベラ・バードを担当編集も知っていたことから、主人公とすることに決定となった[7]。
西洋人が書いた当時の旅行記はバード以外にも執筆されているが、当時の日本人を差別的に見ているようなことが多かった。バードの旅行記にはそういった偏見や差別的な視点は比較的少なく、日本人贔屓や寄り添い過ぎでもなく、中立的であり、観察者として信用できると佐々が感じたのも、大きな理由に挙げられる[7]。
『日本奥地紀行』のままを描くのではなく、主人公であるバードや伊藤の特徴は強調し、ストーリーも娯楽作品としてアレンジしている[5]。面白くするために『日本奥地紀行』に書かれていない別の要素を盛り込むこともあるが、当時の風習や生活に纏わる嘘は描かないようにしている[5]。一例としてバードらが伝統行事の虫送りを目撃するシーンが漫画では描かれているが、虫送りについては『日本奥地紀行』での記述が無い。ただ、バードが訪れていた地域と時期には実際に虫送りが行われていたことから、テーマとして取り込んである[2]。また、『日本奥地紀行』の後半でバードが経験していることを、漫画では序盤のエピソードとして挿入するような組み換えも行っている[2]。
あらすじ
1878年5月20日、著名な英国人冒険家イザベラ・バードは、女性の単独行による日本北部縦断を成すべく、明治維新後間もない日本の開港地・横浜に上陸した。
彼女が目指したのは最北の地・蝦夷ヶ島。それも数々の西洋人が既に踏破した奥州街道ではなく、当時未踏であった日本海方面の小さな街道沿いに日光、新潟、久保田(秋田)、青森を経由し、蝦夷地へ到達するという前代未聞の旅であった。それは、外国人の無許可での立入りが許されていない当時としては、あまりに無謀かつ危険な旅程であり、協力者であるジェームス・ヘボン宣教師やハリー・パークス公使らを閉口させる。
さらに、旅を共にする通訳ガイド探しさえも難航するが、紆余曲折の果てに流暢なイギリス英語を話すことができる素性不明の青年・伊藤鶴吉と出会う。飄々とした態度ながらも、確かな英語力とガイドとしての能力を伊藤に見出したバードは、彼と共に日本奥地を旅をすることを決める。
6月10日。日本政府から国内の無制限移動を許可した旅行免状を取り付けることに成功したバードは、ついに旅の第一歩を踏み出す。蝦夷ヶ島への道中、現地人や日本独特の奇妙な風俗に困惑しつつも魅了される彼女は、近代化によって消えゆく古き日本の姿を記録すべく、伊藤と共に北へ歩を進めていく。