アドヘシン
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細菌は通常、何らかの物体表面に付着し、その表面と関連しあいながら生息する。その物体表面が細菌にとって都合の良いニッチ環境であるならば、その場所に留まり続けることがその細菌の生存にとって重要である。しかし、物体表面から細菌を剥離させようとする力として、細菌は頻繁に外部からの剪断応力を受ける。アドヘシンはこの剪断応力により細菌が物体表面から離脱することを防ぐ。ただし、アドヘシン自体は粘着物質として機能しない。植物の根組織や哺乳動物の涙管、歯のエナメル質といった特定の物体を標的とし、特異的な表面認識分子として働く[3]。

腸内細菌科(Escherichia coliなど)やその他特定の細菌は線毛という付着のための小器官を持ち、線毛の先端にアドヘシンタンパク質を持つ[5]。グラム陽性細菌では、細胞表層のタンパク質または多糖が標的特異的なアドヘシンである。多くの細菌は複数の接着因子を産生し、アドヘシンはそれらの接着因子の総称を指す。
構造
進化の過程で細菌ごとに標的に接着する手段が異なり、アドヘシンには多種多様なタイプや分類が存在する。
典型的なアドヘシンは線毛や性繊毛に付属している[3]。細菌アドヘシンは主に膜内構造タンパク質で構成されており、このタンパク質はいくつかの膜外アドヘシンが結合するための足場となる[3]。しかし、CFA1線毛の場合は異なり、構造タンパク質が細胞外マトリックスに伸長しているとき、構造タンパク質自身が接着の役割を持つ。
FimHアドヘシン
最も解析が進んでいるアドヘシンは1型線毛FimHアドヘシンである。このアドヘシンはD型マンノース感受性接着を担う。細菌はFimHアドヘシンを合成する際、300個ものアミノ酸から成る前駆タンパク質を合成する。そして、いくつかのシグナルペプチドを除去してこのタンパク質を最終的に279アミノ酸残基に加工する。FimHの成熟過程はFimHを1型線毛の構成要素とするために行われ、細菌細胞表面で見られる。
1999年、FimHの構造はX線結晶構造解析によって決定された。FimHには2つのドメインがある。接触している物体表面の認識をN末端の接着ドメインが主に役割とし、C末端ドメインはアドヘシン自身を線毛等器官に組み込ませる[6]。2つのドメインは4個のペプチドによるループ構造によってつながっている。また、炭水化物と結合するためのポケットがN末端接着ドメインの先端に確認されている。この基本的な構造は1型線毛アドヘシンで保存されている。in vitroでの変異導入はC末端ドメインの特異性を付与し、二重曲げ部位とそれに関連した接着表現型を伴う細菌接着をもたらす[7]。
病原性因子として
アドヘシンを標的としたワクチン
ワクチン開発のためのアドヘシンの研究は、アドヘシンの結合を防ぐ成分が免疫機構の重要な位置にあることが明らかとなって始まった[8]。アドヘシンはしばしば感染に不可欠な要素であり、細菌細胞の表面に存在し、抗体が容易に接近することができるためワクチンの候補として魅力的である。
抗アドヘシン抗体研究の有効性は、尿路疾患性Escherichia coli (UPEC)のアドヘシンであるFimHの研究で示されている。第三世界の児童は生後3年以内に、下痢症に関わるE. coliの感染に苦しめられており、この3年間を生き残れば感染率は大きく減る。この後天的な免疫は主に細菌アドヘシンに直接対するものであることが分かっている。
クランベリージュースカクテルの摂取はUPECアドヘシンの活性を阻害する可能性がある[9]。
アドヘシンを標的とした感染症対策においてはいまだ課題が多い。第一に、同じヒト組織でも、その感染症に関わるアドヘシンは膨大に存在することである。次に、個々の細菌においても異なる時期、異なる場所で、異なる環境因子をトリガーとして異なるタイプの複数のアドヘシンを産生する。最後に多くのアドヘシン(例えばNeisseria gonorrhoeaeのアドヘシン)は、同じクローン細胞でさえ免疫学的に異なる抗原性を示す[10]。
動物モデルにおいては、FimH抗体による受動免疫とワクチン接種はUPECのコロニー形成を有意に減少させた[11]。現在米国で使用が認可されている無細胞百日咳ワクチン4種のうちの3つは、Bordetella pertussisアドヘシンFHAおよびパータクチンである。また、抗アドヘシン抗体は尿路感染症に対して利用されている。さらに、マウスにおいて、合成FimHアドヘシンペプチドの使用はE. coli による泌尿器粘膜への感染を妨げる[12]。