アンチセンスRNA

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アンチセンスRNA: antisense RNAasRNA)は、タンパク質をコードするmRNAに対して相補的な一本鎖RNAである。アンチセンス転写産物(antisense transcript)[1]、アンチセンスオリゴヌクレオチド(antisense oligonucleotide)[2]、また人工的なもの以外は天然アンチセンス転写産物(natural antisense transcript、NAT)[3][4][5]とも呼ばれる。asRNAは原核生物真核生物の双方で見つかっており、短鎖(<200ヌクレオチド)、長鎖(>200ヌクレオチド)ノンコーディングRNAへと分類される[5]。asRNAの主な機能は遺伝子発現の調節である。asRNAは化学合成によって作成される場合もあり、遺伝子ノックダウンのためのツールとして広く利用されているほか、治療への応用もなされている[1][5][6]

最初期のasRNAは、機能的なタンパク質の研究から発見された。その一例は、micF asRNA英語版である。大腸菌Escherichia coliの外膜のポリンであるOmpCの特性解析の際、ompCプロモーターのクローンの一部にOmpFなど他の外膜ポリンの発現を抑制する能力があることが観察された。この抑制機能を担う領域は、ompCプロモーターの上流の約300塩基対であることが判明した。この300塩基対の領域はompFmRNAの5'末端の配列と70%が相同であり、そのためこの300塩基対の遺伝子座からの転写産物はompFのmRNAに対して相補的となる。後に、この転写産物(micF)はompFのasRNAであり、ompF mRNAと二本鎖を形成することで、ストレス条件下におけるompFの発現をダウンレギュレーションすることが判明した。二本鎖形成の結果、ompF mRNAの分解が誘導される[3]

このように偶然に発見されたmicF RNAとは異なり、asRNAの大部分はゲノムワイドな低分子調節RNAの探索やトランスクリプトーム解析によって発見されたものである。一般的に、asRNAの探索の第一段階は既知のasRNAの特徴に基づいた計算機予測によって行われる。計算機による探索では、タンパク質をコードする領域は除外される。保存されたRNA構造を持っていたり、orphan promoterやRho非依存的ターミネーターとして作用すると予測される領域は優先的に解析される。計算機による探索は遺伝子間領域英語版に焦点を当てているため、タンパク質をコードする遺伝子の相補鎖から転写されるasRNAはこの手法では見逃される可能性が高い。タンパク質をコードする領域から転写されるasRNAを検出するためには、オリゴヌクレオチドマイクロアレイが利用される場合がある。この手法では、タンパク質をコードする遺伝子の一方の鎖または双方の鎖をプローブとして利用することができる。計算機による探索やマイクロアレイのほか、一部のasRNAはcDNAクローンのシーケンシングやプロモーターエレメントのマッピングから発見されている[7]。こうしたアプローチから得られる多くの知見からは多数のasRNAが推定されるが、さらなる機能的試験によって実際にasRNAであることが実証されたものはわずかである。偽陽性の最小化を目的として、鎖特異的な転写やクロマチン結合ノンコーディングRNAに焦点を当てた新たなアプローチや、一細胞での研究が近年行われている[1]

創薬標的としてのasRNAという概念は、1978年にZamecnik英語版とStephensonによって、ラウス肉腫ウイルスRNAに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドがウイルスの複製とタンパク質合成を阻害することが発見されたことによってもたらされた。それ以降、薬剤候補としてのasRNAの開発に多くの努力がなされてきた。1998年、ホミビルセン英語版がasRNA医薬品として初めてFDAによって承認された。ホミビルセンは21塩基対のオリゴヌクレオチドで、エイズ患者におけるサイトメガロウイルス網膜炎英語版の治療を目的として開発された。ホミビルセンはウイルスから転写されたmRNAを標的とすることで機能し、それによってサイトメガロウイルスの複製を阻害する。ホミビルセンは2004年に市場の喪失によって製造中止となったが、創薬標的あるいは薬剤候補としてのasRNAの成功例であり、刺激的な役割を果たした[2]

治療薬としてのasRNAの他の例としてはミポメルセン英語版が挙げられ、2013年にFDAの承認を受けた。ミポメルセンは、常染色体優性遺伝の希少疾患である家族性高コレステロール血症ホモ接合体)の患者における、低密度リポタンパク質英語版(LDL)値の管理を目的として開発された。この疾患の患者は総コレステロール値やLDLコレステロール値が高いため(それぞれ650–1000 mg/dL、600 mg/dL以上)、冠動脈疾患のリスクが高い。超低密度リポタンパク質(VLDL)とLDLの産生にはapoB-100英語版が必要であるため、ミポメルセンはapoB-100のmRNAと相補的に結合することでRNase H依存的分解の標的とすることで、最終的にはLDL値を低下させる[8]

さまざまな生物種での例

当初、asRNAはプラスミドバクテリオファージ細菌のものなど、原核生物で発現するものが発見された。例えばプラスミドColE1では、RNA Iと呼ばれるasRNAが複製を制御し、プラスミドのコピー数の決定に重要な役割を果たしている。ColE1の複製はRNA IIと呼ばれるプライマーRNAの転写に依存している。RNA IIは転写されるとそのDNA鋳型と対合し、その後RNase Hによって切断される。asRNAであるRNA Iが存在する場合、RNA IとRNA IIは二本鎖を形成し、RNA IIのコンフォメーションが変化する。そのため、RNA IIはDNA鋳型と対合することができず、ColE1のコピー数は低下する。バクテリオファージP22では、asRNAであるsarがAntの発現を制御することで、溶菌サイクルと溶原サイクルの間の調節を補助する[9]。asRNAは原核生物で発現するもの以外にも、植物で発見された。植物におけるasRNAによる調節で最もよく研究されている例は、Flowering Locus C英語版FLC)遺伝子に関するものである。シロイヌナズナArabidopsis thalianaFLC遺伝子は、花成(floral transition)を誘導するさまざまな遺伝子の発現を阻害する転写因子をコードしている。寒冷な環境では、FLC遺伝子のasRNAであるCOOLAIRが発現し、クロマチン修飾を介してFLCの発現を阻害することで開花が可能となる[10]。哺乳類細胞におけるasRNAによる調節の典型的な例は、X染色体の不活性化である。asRNAであるXistPRC2をリクルートし、X染色体のヘテロクロマチン化を引き起こす[4]

分類

出典

関連項目

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