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龍涎香

マッコウクジラの腸内に発生する結石。香料の1つ From Wikipedia, the free encyclopedia

龍涎香(りゅうぜんこう)あるいはアンバーグリス(英: Ambergris)は、ベゾアールの一種でマッコウクジラの腸内に発生する結石であり、香料の一種である[1]。

龍涎香

生成されたばかりの龍涎香は、海の匂いや糞便臭がする。熟成するにつれて、甘い、土の香りになり、一般的には、蒸気質の化学的渋みのない、消毒用アルコールの香りに例えられる[2]。

概要

灰色、琥珀色、黒色などの様々な色をした大理石状の模様を持つ蝋状の固体であり、芳香がある。

龍涎香には、マッコウクジラの主な食料である、タコやイカの硬い嘴(顎板、いわゆるカラストンビ)が含まれていることが多い。そのため、龍涎香は消化できなかったエサを消化分泌物により結石化させ、排泄したものとも考えられているが、その生理的機構や意義に関しては不明な点が多い。イカの嘴などの龍涎香の塊の表層にあるものは原形を保っているが、中心部の古いものは基質と溶け合ったようになっている。

マッコウクジラから排泄された龍涎香は、水より比重が軽いため海面に浮き上がり海岸まで流れ着く。商業捕鯨が行われる以前は、このような偶然によってしか入手ができなかったため、非常に貴重な天然香料であった。商業捕鯨が行われている間は鯨の解体時に入手することができ、高価ではあったが商業的な供給がなされていた。1986年以降、商業捕鯨が禁止されたため、現在は商業捕鯨開始以前と同様に偶然によってしか入手できなくなっている。海洋に投棄されたプラスチックやゴムが劣化したものと見間違えることもあり、鑑定の際は熱導線で一部を溶かしたうえでの香りで判別される。

現在ではその希少性から、大きさ・品質・取引相手の有無にもよるが、品質の高い場合には数千万円から数億円ほどの高額で取引される場合がある[3]。

近年日本では、2018年2月に沖縄県内で龍涎香が発見され(戦後初)、続いて2018年12月に沖縄県内、2022年9月に鹿児島県奄美大島の海岸、2022年10月に沖縄県で発見された。

歴史

英語の ambergris は「灰色の琥珀」を意味する古フランス語の ambre gris(アンブル・グリ)から。

龍涎香がはじめて香料として使用されたのは7世紀ごろのアラビアにおいてと考えられている。

また、龍涎香という呼び名は、良い香りと他の自然物には無い色と形から「龍のよだれが固まったもの」であると中国で考えられたためである。日本では、室町時代の文書にこの語の記述が残っているため、香料が伝来したのはこの頃ではないかと推測されている。

香料として使用する場合にはエタノールに溶解させたチンキとして使用され、香水などの香りを持続させる効果がある保留剤として広く使用されていた。また、神経や心臓に効果のある漢方薬としても使用されていた。

成分

龍涎香の構成成分の大部分はステロイドの一種であるコプロスタノールとトリテルペンの一種であるアンブレインである。このうちアンブレインの含量が高いものほど品質が高いとされる。このアンブレインが龍涎香が海上を浮遊する間に日光と酸素によって酸化分解をうけ、各種の香りを持つ化合物を生成すると考えられている。

これらの香りに重要な化合物としては [3aR-(3aα,5aβ,9aα,9bβ)]-(−)-dodecahydro-3a,6,6,9a-tetramethylnaphtho[2,1-b]furan(Ambrox、Ambroxanなどの商標で知られている)や (2S,4aS)-(−)-2,5,5-trimethyl-1,2,3,4,4a,5,6,7-octahydronaphthalen-2-ol(Ambrinolの商標で知られている)などが知られている。これらの化合物は合成香料として製造されており、龍涎香の代替品として使用されている。

また、龍涎香には含まれていないが、龍涎香と類似した香りを持つ化合物も多く知られており、それらも龍涎香の代替品として使用されている。

香料としてだけではなく、主成分アンブレインの持つ薬効も注目されている[4]。

製品への利用

香料

香料として用いる場合、龍涎香は砕いてエタノールに浸漬したチンクチャー(アンバーグリス・チンキ)や、それを濃縮したレジノイドに加工される[5]。駒木亮一によれば、香水原料とする際はエチルアルコールに溶解させて6か月以上熟成させ、このアルコールチンキにはテトラノルラブダンオキサイドなどの香気成分が生成する[6]。古典的な香水、とくにオリエンタル調やシプレ調では、少量で全体の香りを引き立て、香りを長く持続させる保留剤として用いられてきた[5][7]。20世紀半ばに合成の代替品が開発されて以降、調香の多くは実験室で製造された代替品に依存している[7][5]。

食品

龍涎香は歴史的に食品の風味づけにも用いられた。中東では早くから強壮薬・媚薬・飲料に用いられ、ヨーロッパでも嗜好飲料や菓子に使われた[5]。イングランドでは1660年ごろから龍涎香を用いた料理のレシピが出版されるようになり、ブレッドプディングなどの菓子のほか、18世紀にかけて薬用の飲料、ゼリー、ポセット(エールを加えた温かいカスタード飲料)にも用いられたが、やがてこうした風味はバニラなどの風味に取って代わられた[8]。

イギリスや欧州連合では海岸で拾得した龍涎香を売買できるのに対し、アメリカ合衆国ではアメリカ食品医薬品局が食品素材として安全と認めている一方、マッコウクジラが1972年の海洋哺乳類保護法(Marine Mammal Protection Act)で保護されているため、所持と取引は違法とされる[8]。

日本における製品化

日本では龍涎香の鑑定や研究開発を行う事業者があり、香水、オイル、キャンディなどが製品化されている[3]。ルームフレグランス、キャンディー、香りのサンプル、探索用のキットなどのほか[9]、香水の基材となる龍涎香のチンクチャーも販売されている[10]。

2026年6月28日には奄美市の奄美海洋展示館との共催で講演会・体験会が開かれ、龍涎香の樹脂・オイル・スプレーの試香が行われた[11]。

文化

ハーマン・メルヴィルの小説『白鯨』第92章[12]は、章題が "Ambergris" とあり、その内容もマッコウクジラの解体時に龍涎香を入手する様子を詳しく描写している。

須川邦彦の冒険実話『無人島に生きる十六人』(新潮文庫)内では、マッコウクジラ漁の描写に関連して龍涎香の獲得を期待する一連の描写がある。

中国、明代の趣味人向け道具解説には、スマトラ国にある竜涎嶼(小島)で龍が垂らしたよだれが採集された香であるとし、海面に浮かんでいたものを最上品、岸に漂着し埋まっていたものを次、魚が食べて糞となり腹から取り出したものをさらに次とする説明がある[13]。

脚注

参考文献

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