シリコンフォトニクス

From Wikipedia, the free encyclopedia

シリコンフォトニクス(Silicon Photonics)とは、半導体産業で利用される微細加工技術を用いてシリコン基板上に発光素子や受光器、光変調器といった素子を集積する技術の研究と応用を追究する分野である[1][2][3][4][5][6]。シリコンフォトニクスデバイスは赤外線波長領域で動作するが、従来から光通信システムで使われることの多い波長1.55マイクロメートルので動作するものがほとんどである[7]マイクロエレクトロニクスにおいて用いられるSOI技術を転用し、酸化シリコン層の上に成層したシリコンが使われることが多い[4][5]

シリコンフォトニクス300 mmウエハ

シリコンはほとんどの集積回路の基材として既に使われており、かつシリコンフォトニックデバイスは既存の半導体製造技術を用いて製造可能であるため、単一のマイクロチップ上に光学的および電子工学的構成要素が集積されたハイブリッドデバイスを作製することができる[7]。そのため、従来の微細化技術のみによる性能の向上(ムーアの法則)が限界を迎えるなか、シリコンフォトニクスはIBMインテルなどの多くの電子装置製造会社や学術研究グループにより、光インターコネクトを利用してマイクロチップ間およびマイクロチップ内での高速データ転送を提供するために積極的に研究されている[8][9][10]

シリコンデバイス内を伝播するは、カー効果ラマン効果二光子吸収光子自由電荷キャリア間相互作用など様々な非線形光学現象の影響を受ける[11]。これにより光と光を相互作用させることができ、[12]、光の受動伝送だけでなく波長変換や全光信号ルーティングなどへ応用が可能になるため、非線形光学現象の制御技術は非常に重要である。

また、シリコン導波路は特異な導波特性を持つため学術的関心をひいている。この導波特性は通信、相互接続、バイオセンサに応用可能であるほか[13][14]ソリトン伝播などの新奇な非線形光学現象を起こす可能性もある[15][16][17]

光通信

典型的な光リンクでは、データを電気信号からまず光信号へと変換する際、電気光学変調器もしくは直接変調レーザを用いる。電気光学変調器は光キャリアの強度や位相を変化させるための機器であるが、シリコンフォトニクスにおいては、自由電荷キャリアの密度を変化させることにより光を変調する形式のものが一般的である。Sorefと Bennettの経験則にあるように[18]、電子密度およびホール密度を変化させることでシリコンの複素屈折率を制御することができ、ここに光を通すことにより光変調が可能である。具体的には順バイアスPINダイオード[19][注釈 1]および逆バイアスPN接合ダイオード[20]を用いて光変調器を構成することができる。また、ゲルマニウム検出器と一体化されたマイクロリング変調器を備えたプロトタイプの光学的相互接続が実証されている[21][22]。 通信・データ通信分野で通常用いられるマッハ・ツェンダー干渉計などの非共振変調器は典型的にミリメートル程度の寸法で製造されるが、リング共振器のような共振デバイスは数十マイクロメートル程度の小ささで製造することができ、占有面積を節約できる。2013年、標準的なSOI CMOS製造プロセスを用いて製造可能な共振欠乏変調器が実証されている[23]。SOIではなく、バルクCMOSでも同様のデバイスが実証されている[24][25]

受信機側では、光信号は典型的には半導体光検出器を用いて電気領域に戻される。キャリア生成に使用される半導体は、通常、光子エネルギーよりも小さいバンドギャップを有し、最も一般的には純ゲルマニウムが選ばれる[26][27]。ほとんどの検出器はキャリア抽出にPN接合を使用するが、金属半導体接合(半導体としてゲルマニウムを使用)に基づく検出器もシリコン導波路に組み込まれている[28]。より最近では、40 Gbit/sで動作可能なシリコン・ゲルマニウムアバランシェフォトダイオードが製造されている[29][30]。完全なトランシーバは、アクティブな光ケーブルの形で商業化されている[31]

光通信はリンク長によって便宜的に分類される。シリコンフォトニック通信の大部分はいままでのところ、通信距離が数キロメートルの通信用途[32]、もしくは数メートルの通信データ通信用途に限られていた[33][34]

しかし、シリコンフォトニクスは光リンクがセンチメートルからメートルの範囲で到達するコンピュータ内通信[訳語疑問点]においても重要な役割を果たすことが期待されている。実際、コンピュータ技術の進歩(およびムーアの法則の維持)はマイクロチップ間および内のより高速なデータ転送にますます依存してきている[35]光インターコネクト英語版は、技術進歩の方向性の1候補であり、シリコンフォトニクスは標準的なシリコンチップ上に集積することができれば、非常に有用となりうる[7][36][37]。2006年、インテルの前上席副社長のPat Gelsingerは「今日、オプティクスはニッチ技術にすぎない。将来、オプティクスは我々が製造するすべてのチップの主流となる」と述べている[9]

光入出力(I/O)を備えた最初のマイクロプロセッサは、「ゼロ変化」CMOSフォトニクスと呼ばれる手法を用いて2015年12月に実証された[38]。この最初の実証は45 nm SOIノードに基づいており、2×2.5 Gbit/sの速度で双方向チップ間リンクを動作させた。リンクの総エネルギー消費量は16 pJ/bと計算され、このほとんどがオフチップレーザの寄与であった。

オンチップレーザ光源が必要と考えている研究者もいれば[39]、熱の問題(量子効率は温度が上がるにつれて下がるが、コンピュータチップは通常熱い)およびCMOS互換性の問題のために、オフチップにとどまるだろうと考えている研究者もいる。このようなデバイスの1つは、リン化インジウムなどのシリコンとは別の半導体をレーザ媒質として用い、これをシリコンとつなぐハイブリッドシリコンレーザである[40]。他にも、シリコンをレーザ媒質として用いるオールシリコンラマンレーザー英語版にも可能性がある[41]

2012年、IBMは標準技術を用いて製造でき、従来のチップに組み込むことのできる90ナノメートル大の光学部品を達成したと発表した[8][42]。2013年9月、インテルはデータセンター内のサーバ間接続向けに、直径約5mmのケーブルを用いて毎秒100ギガビットの速度でデータを送信する技術を発表した。これに対して、従来のPCI-Eデータケーブルのデータを伝送速度は最大8ギガビット、ネットワーキングケーブルでは40 Gbit/sである。また、USB3.1規格の最大転送速度は10Gbit/s以上である。ただし、この技術は電気信号および光信号を相互変換するために別の回路基板を必要とするという点で、既存のケーブルを直接置き換えるというものではない。この速度向上により、ラック上のブレードを接続するケーブルの数を減らしたり、プロセッサ、ストレージ、メモリを別々のブレードに分離することも可能となり、より効率的な冷却と動的構成を実現できる[43]

グラフェン光検出器は、現在はまだ電流発生容量においてオーダー1つ程度劣るものの、いくつかの重要な側面においてゲルマニウムのデバイスを上回る可能性を持っている。グラフェンのデバイスは非常に高い周波数で動作することができ、原理的にはより高い帯域幅に達する可能性がある。グラフェンはゲルマニウムより広い波長範囲を吸収することができる。この特性は、同じ光ビーム内でより多くのデータ流を同時に送信するために利用することができる。ゲルマニウム検出器とは異なり、グラフェン光検出器は印加電圧を必要とせず、これによりエネルギー需要を低減することができる。最終的に、グラフェン検出器は原則、より単純で安価なオンチップ集積化を可能にする。しかし、グラフェンは光を強く吸収しない。グラフェンシートとシリコン導波路を組み合わせると、光の経路が良くなり、相互作用を最大化する。そのようなデバイスは最初2011年に実証された。従来の製造技術を使用したデバイスの製造は実証されていない[44]

光ルータおよび信号処理器

シリコンフォトニクスの別の用途は、光通信のための信号ルータにある。光学・電子部品を複数部分に分散させるのではなく、同じチップに組み立てることで構造を大幅に簡素化することができる[45]。より広い目的は全光信号処理であり、これにより電子的方式で信号を操作することにより従来行われていた作業が、直接光学的方式で行われる[3][46]。重要な例は、光信号のルーティングが他の光信号により直接制御される全光スイッチングである[47]。別の例は全光波長変換である[48]

2013年、カリフォルニアイスラエルに拠点を置くCompass-EOSというスタートアップ企業は、商用のシリコンフォトニクスルータを初めて発表した[49]

シリコンフォトニクスを用いた長距離通信

シリコンマイクロフォトニクスは、マイクロスケールの超低消費電力デバイスを提供するため、潜在的にインターネットの帯域幅容量を増加させる可能性がある。さらに、これが成功すると、データセンターの消費電力を大幅に削減することができる。サンディア国立研究所[50]、Kotura、NTT富士通や学術機関の研究者は、この機能の証明を試みている。2010年の論文では、マイクロリングシリコンデバイスを使用した80 km、12.5 Gbit/s伝送のプロトタイプが報告されている[51]

ライトフィールドディスプレイ

2015年現在、アメリカのスタートアップ企業Magic Leapが、拡張現実ディスプレイの目的で、シリコンフォトニクスを使用したライトフィールドチップに取り組んでいる[52]

物理的特性

ソリトン

脚注

Related Articles

Wikiwand AI