スラップ奏法

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スラップ奏法(スラップそうほう、: slapping)は、ベース演奏方法のひとつ。日本においてはチョッパーとも呼ばれる。

奏法

スラップ奏法をするときの手の位置

エレクトリックベースにおいては、親指で弦を叩くようにはじく動作(サムピング、: thumping)と、人差し指や中指で弦を引っ張って指板に打ちつける動作(プリング、: popping)がある。この2つの動作を組み合わせる事でパーカッシブな(打楽器のような)音が出せる。基本的にはサムピングで低音弦、プリングで高音弦を弾く。

パーカッシブなスラップ奏法は強い出力を発することからスピーカーアンプの音割れ、故障に注意が必要であり、基本的には出力を抑えるリミッターコンプレッサーを使用して演奏される。

起源

アメリカのベーシストであるスリック・ジョー・フィックによれば、 「スラップベース奏法の正確な起源を知る人は誰もいません」とした上で「アンサンブルの中で自分の音を響かせるために、ベーシストたちはこうしたテクニックを使用し始めた」と話している[1]。1920年代初頭のニューオーリンズ・ジャズソウルミュージックを経てアップライトベースでの演奏スタイルへと徐々に進化していき、ファンクディスコラテンポップスといったジャンルでも用いられるようになった[1]

エレクトリック・ベースにおけるスラップ奏法の創始者であるラリー・グラハム(2013年)

エレクトリック・ベースにおけるスラップ奏法はラリー・グラハムが1969年にスライ&ザ・ファミリー・ストーンの楽曲「Thank You」で披露したものが最初のものと位置づけられており、グラハムは自身のスラップ奏法を「サンピン&プラッキンthumpin’ and pluckin’)」と呼称している[2]。グラハムは10代の頃にベースを弾き始めたときからピックを使用せずに指でベースを演奏し、当初から親指で弦を叩いてバスドラムの代わりにする「サムピング(親指で叩く)」や、指で弦を弾いてバックビートスネアドラムの代わりにする「プラッキング(指で弾く)」の奏法を取り入れていた[2][3][4]

グラハムのスラップ奏法はベースという楽器の歴史において最も革新的かつ影響力のあるテクニックとして時代を超えて後生に受け継がれており、自身のスラップ奏法が模倣されてきたことについてグラハムは2007年に以下のように話している[2]

自分のプレイスタイルを真似されることは、常に賛辞として受け止めてきました。多くのベーシストが近づいてきて、褒めてくれたり感謝してくれたりします。今でも本当に嬉しいですよ。だって、それが今やベース演奏の一部になっているわけですから。 私のサンピングとプラッキングのスタイルを愛している人の多くは、それがどこから来たのかを知りません。彼らのお気に入りのベーシストは私のプレイを聴いていましたが、ファンは「そのバンドのそのベーシスト」のことしか知らないんです。私は手柄を求めているわけではありませんが、ヴァーダイン・ホワイトスタンリー・クラークフリーブーツィー・コリンズヴィクター・ウッテンといったベーシストたちが、自分のプレイに私が影響を与えたと語ってくれると、いい気分になりますね。音楽の世界に対して、現在も続き、おそらく永遠に残るような何かを貢献できたと知ることが、何よりも嬉しいことなんです。ラリー・グラハム、"Larry Graham: Trunk of the Funk Tree"(ベース・プレイヤー[2]

日本

日本において初めてスラップ奏法を使用したベーシストは田中章弘とされており、田中自身もそれを自認している[5][6][7]。田中はスライ&ザ・ファミリー・ストーンの『暴動』におけるラリー・グラハムのスラップ奏法に魅了され、音声のみを頼りにグラハムのスラップ奏法を研究し、試行錯誤を重ねた[8]。田中のスラップ奏法が最初に録音物として発表されたものはティン・パン・アレーが1975年に発売した『キャラメル・ママ』収録曲「はあどぼいるど町」である[7]。日本では「スラップ奏法」を「チョッパー」と呼称する傾向があった[9][10]。これは後藤次利がベーシストとして参加した『キャラメル・ママ』収録曲「チョッパーズ・ブギ」に由来する[7][11]

その他、日本にスラップ奏法が伝わるようになった1970年代には美乃家セントラル・ステイションに在籍した六川正彦、福田郁次郎、鳴瀬喜博藤井裕がスラップ奏法を取り入れている[7]青木智仁角松敏生が1987年に発表したアルバム『SEA IS A LADY』でコーラスの効いたサウンドでのスラップを披露した[12]

アップライトベース

電気を通していないベースは、アップライト・ベース、ダブル・ベース、ウッド・ベースなどと呼ばれる。これらはコントラバスと同じであるが、コントラバスはクラシック音楽において、弓を使用して演奏される。奏法としては以下のような奏法が存在する。

  • 指で弦を引っ張り垂直に離す事で指板に当て、実音(音程)と同時にスラップ音を発生させる奏法[注 1]
  • 指で弦を叩き指板に打ち付け、その直後に弦を弾く事で、スラップ音と実音(音程)を鳴らす奏法。
  • 手首近くの部分で素早く低音側の弦を指板に打ち付け、スラップ音のみを発生させる奏法。
  • ウッドベースの弦を指で引っ張りつつ滑離し、低音とネックに当たる「カチッ」という中高音をミックスさせた音を出し、更に手の平で弦をネックに叩きつけてパーカッション効果を出す奏法[注 2]

いずれの奏法もを指板上に叩き付ける事でスネアドラムリムショットのような音が鳴り、通常の音色(実音)に打楽器的な表現を加える事が出来る。古くは拡声器の無い頃、スウィング・ジャズのビッグバンドでベース奏者が大きな音を出すために用いたが、後にロカビリー、ネオ・ロカビリー、サイコビリー、ジャズ、カントリーその他で使用されるようになる。初期は1920年代から30年代のスウィング・バンド、スウィング・オーケストラで使われた。

主な使用例

アメリカの音楽雑誌「Guitar World」は、以下の20曲を史上最高のスラップ奏法を用いた楽曲として2024年に紹介している[4]

さらに見る 楽曲名, アーティスト名 ...
楽曲名アーティスト名奏者発表年
1 U Can't Hold No Groove (If You Ain't Got No Pocket)ヴィクター・ウッテンヴィクター・ウッテン1996年
2 Thank You (Falettinme Be Mice Elf Agin)スライ&ザ・ファミリー・ストーンラリー・グラハム1969年
3 Forget Me Notsパトリース・ラッシェンフレディ・ワシントン英語版1982年
4 Hairグラハム・セントラル・ステーションラリー・グラハム1974年
5 SlapocalypseCharles Berthoud X Giacomo TurraCharles Berthoud2024年
6 Glideプレジャー英語版ナサニエル・フィリップス1979年
7 Higher Groundレッド・ホット・チリ・ペッパーズフリー1989年
8 Tommy the Catプライマスレス・クレイプール英語版1991年
9 Run for Coverデイヴィッド・サンボーンマーカス・ミラー1981年
10 EndlessToby Peterson-StewartToby Peterson-Stewart2023年
ジェイコブ・ユマンスキー
11 Stomp!ブラザーズ・ジョンソン英語版ルイス・ジョンソン1980年
12 Love Gamesレベル42マーク・キング1981年
13 Take the Power Backレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンティム・コマーフォード1991年
14 Stone Jamスレイブマーク・アダムズ1980年
15 Thrillerダーティ・ループス & コリー・ウォン英語版ヘンリック・リンダー英語版2021年
16 D-Codeアラン・カロン英語版アラン・カロン1997年
17 Lopsy Luスタンリー・クラークスタンリー・クラーク1974年
18 If That’s Your Boyfriend (He Wasn't Last Night)ミシェル・ンデゲオチェロミシェル・ンデゲオチェロ1993年
19 Emergency on Planet Earthジャミロクワイスチュアート・ゼンダー1993年
20 Throwbackイダ・ニールセン英語版イダ・ニールセン2016年
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主な奏者

スラップ奏法を行うフリー(2012年)

※主な使用例で紹介されているアーティストは割愛。

脚注

関連項目

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