トレハロース
From Wikipedia, the free encyclopedia
トレハロース(trehalose)とはグルコースが1,1-グリコシド結合してできた二糖の一種である。1832年にウィガーズがライ麦の麦角から発見し[3]、1859年、マルセラン・ベルテロが象鼻虫(ゾウムシ)が作るトレハラマンナ(マナ)から分離して、トレハロースと名づけた[4]。
| 物質名 | |
|---|---|
α-D-glucopyranosyl-(1→1)-α-D-glucopyranoside | |
(2R,3S,4S,5R,6R)-2-(Hydroxymethyl)-6-[(2R,3R,4S,5S,6R)-3,4,
5-trihydroxy-6-(hydroxymethyl)oxan-2-yl]oxyoxane-3,4,5-triol | |
別名 α,α‐Trehalose, mycose, tremalose | |
| 識別情報 | |
3D model (JSmol) |
|
| ChEBI | |
| ChEMBL | |
| ChemSpider | |
| ECHA InfoCard | 100.002.490 |
PubChem CID |
|
日化辞番号 |
|
| UNII | |
CompTox Dashboard (EPA) |
|
| |
| |
| 性質 | |
| C12H22O11(無水物) | |
| モル質量 | 342.296g/mol(無水物) 378.33g/mol(二水和物) |
| 外観 | 白色斜方晶 |
| 密度 | 1.58g/cm3 at 24 ℃ |
| 融点 | 203℃(無水物) 97℃(二水和物) |
| 68.9g/100g H2O(20℃)[1] | |
| 溶解度 | エタノールに可溶、ジエチルエーテルおよびベンゼンに不溶[2] |
| 比旋光度 [α]D | +199(c = 5、水、20℃) |
ブドウ糖が二分子結合した糖であり、餅や団子などが時間とともに硬くなるのを抑制する効果(老化防止)が強く、多くのデンプン系食品に使われている。
また、熱や酸に対する高い安定性や保湿作用、タンパク質の変性抑制作用も有していることから、種々の加工食品に応用されている。
1995年以前は貴重な糖であり、キノコからの抽出が難しく、価格も1kgあたり3〜4万円と高価だったが、岡山県のバイオ企業株式会社・林原(現・ナガセヴィータ)が[5]、デンプンからトレハロースを生成する酵素を発見し、価格を1⁄100 に下げることに成功した。
食品以外に化粧品、飼料、工業用途に広がっている。また、耐糖能改善効果、神経変性疾患抑制効果など、多様な生理機能が報告されている。
構造
物理的性質
- 常温常圧で白色の粉末状の結晶。
- 20℃において、100 gの水に68.9 g溶解する。
化学的性質
甘味度
使い方
砂糖の置き換え
使用量の少ない料理であれば、砂糖を全量置き換えられる。[7]
ただし、パン・お菓子では全量を置き換えると極端に甘みが減る&量を増やすと結晶化、グルテンができにくくなりこねる時間が長くなるなどの問題がある。[8]そのため置き換え量は2〜3割程度がよい。[7][8]
控えめな甘さを逆手に取って、甘さはそのままに糖度を高めることも出来る。例えば生クリームを冷凍するには、高脂肪にするか、糖度13%以上にすることが必要だが、糖分のうち30%以上をトレハロースに置き換えることで甘さを抑えつつ冷凍できるようになった。これによって長期保存、宅配可能な冷凍ケーキが実現した。[9]
食品に混ぜる
ご飯などに混ぜる。米1合あたり小さじ一杯、3合で大さじ一杯いれる。[10]砂糖と比べ甘さが控えめなため普通甘味料を使わない食品にも少量用いることができる。
塩水に混ぜる
効果
トレハロースを使うことで次のような効果が得られる。
- デンプンの老化(β化)を抑制する:保水作用によってデンプンが固まってしまうのを防げる。[12]
- 食感の保持:保水作用による。[12]
- タンパク質の変性を抑制する
- 不飽和脂肪酸の変敗(自動酸化)を抑制する :時間が経過しても変色や臭いなどを防げる。[12]
- 冷凍時に組織を保護する
- 味と香りを良くする(矯味矯臭効果):脂質の酸化防止の他マスキング効果によって得られる。
結果魚料理に使うと生臭さの抑制、クッキーに使うと湿気にくくサクサクの食感[13]、ご飯に混ぜるとよりふっくら炊きあがるなどの効果があり、総じて日持ちがよくなる効果がある。[12]
ほか健康上以下の利点もある。
血糖値の増加防止
トレハロースのGI値は37.7であり、砂糖は勿論白米よりも低い低GI食品である。このため血糖値の増加を抑えることができる。[14]
ただし個人差があり、人によってはグルコース同様血糖値の増加が見られる場合もある。[15][16]トレハロース分解酵素の活性差などによると考えられる。
生体内糖化反応の防止
砂糖(スクロース)やパラチノースなどはブドウ糖のほかスクロースで出来ているが、スクロースやガラクトースはブドウ糖の10倍糖化反応が起きやすく、害が大きい。一方トレハロースはデンプン同様ブドウ糖だけで出来ておりスクロースの摂取を防げる。
生物学的性質
所在
動物ではエビや昆虫類に含まれている。バッタ、イナゴ、蝶、ハチなど多くの昆虫の血糖はトレハロースであり分解酵素・トレハラーゼによってブドウ糖(グルコース)に変えて利用している。また、スズメバチとその幼虫の栄養交換液の中にもある。
昆虫の血糖としてのトレハロース濃度は、400-3,000 mg/dL(10-80 mM)の範囲にある[17]。この値はヒトのグルコースとしての通常の血糖値100-200mg/dLに比べてはるかに高い。この理由の一つとして、トレハロースがタンパク質に対して糖化反応を起こさずグルコースに比べて生体に有害性をもたらさないためである[18][19]。
植物ではひまわりの種子、イワヒバ、海藻類などに含まれている。また菌類では椎茸、シメジ、マイタケ、ナメコ、キクラゲなどキノコ中に乾燥重量当たり1-17%もあって別名マッシュルーム糖ともいわれる。その他に、パン酵母や酒酵母などの微生物にも含まれている。
ヒトはトレハロースを生合成しないが、小腸と腎臓はトレハロース分解活性を有し、トレハロースをグルコースに分解し消化吸収することができる[20]。
クリプトビオシス
緩歩動物「クマムシ」は乾燥状態になると、体内のグルコースをトレハロースに変えて乾眠(かんみん)する。この一見死んだように見える状態をクリプトビオシス(cryptobiosis)と呼ぶ。そして水分を得ると復活して活動を開始する。このほかにもネムリユスリカの幼虫・アルテミア(シーモンキー)の卵などが、乾燥状態に耐えられるのも細胞内にトレハロースを蓄えるからと考えられている。
植物においても砂漠や山岳地帯に生えているイワヒバはトレハロースを有することで乾燥してカラカラになっていても雨が降ると青々と復活するため、「復活草」とも呼ばれている。また、干椎茸がよく水で戻るのもトレハロースを含有するためと言われている。
こうしたクリプトビオシスの時の生体内でのトレハロースの作用機序は、分子の運動を制限する状態を維持するガラス転移説と水の代わりに入り込む水置換説やそれらの作用が複合的に関与しているとも考えられている。だが、クリプトビオシスを行う生物すべてがトレハロースを蓄積するわけではないため、トレハロース以外にもクリプトビオシスの成立にとって重要な物質が存在することを示している。
生産・製法
酵母を培養し抽出する製法が行なわれていたが、1kgあたり5万円と高価であるため、一部の化粧品・試薬にしか使用されていなかった。
そのため、各種の製造法の開発競争が行なわれていたが、1994年に林原の丸田和彦らが、従来不可能といわれていたでん粉からの安価な大量生産法を確立し、その翌年より、従来の約100分の1の価格である1kg数百円で発売を開始した[21]。
これはデンプンの還元末端をトレハロース構造に変えるグリコシルトレハロース生成酵素(マルトオリゴシルトレハロースシンターゼ)とそのトレハロース構造部分を切り離していくトレハロース遊離酵素(マルトオリゴシルトレハローストレハロヒドラーゼ)の2つの酵素を作用させることで、でん粉から非常に高い収率で高純度のトレハロースを安価に大量生産することを可能にしている[22]。


