ピタゴラスの定理
平面幾何学の定理
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初等幾何学における
この定理によると、直角をはさむ2辺上の2つの正方形(右図の赤と青の正方形)の面積の和は、斜辺上の正方形(右図の紫の正方形)の面積に等しくなる。斜辺の長さを c, 他の2辺の長さを a, b とすると、
また定理の逆、すなわち「ならば三角形が直角三角形である」という主張も正しい。
これらを用いると、直角三角形の二辺から残りの一辺を求めることができる。また、三角形が直角三角形かどうかを辺の長さを見て判定できる。このほか、図形の面積を保ったまま変形したり、面積を何倍かにしたりする作図問題にも用いられた。
伝統的に、ピタゴラスの定理はピタゴラスやピタゴラス教団と結びつけられてきた。しかし、大多数の科学史家は、ピタゴラスの数学者としての活動に懐疑的で、この定理に何らかの関与があったとは考えていない。また、おそらくはギリシャ以外の地(メソポタミアやインド)で最初に発見されたと考えられている。この定理とその逆は中国をふくめ、世界各地で古くから知られており、建築や測量、天文学などの応用で盛んに使われた。
本定理には、古来、様々な証明が与えられてきた。現代では数百種類もの証明が知られているという。現存するもっとも古いものは、紀元前4世紀~3世紀のユークリッド『原論』のものである。
(a, b, c) で特に全てが自然数であるものは、ピタゴラス数と呼ばれている。ピタゴラス数は本質的に可算個あることが知られている。
定理の概要
直角三角形において、斜辺の長さを c、直角をはさむ 2辺の長さをそれぞれ a, b とすると、次の等式が成り立ち、「ピタゴラスの定理」と呼ばれる:
すなわち、斜辺上の正方形の面積は、残りの二つの辺の上の正方形の面積を足し合わせたものに等しい。
ピタゴラスの定理によって、直角三角形において2辺の長さが分かっていれば、残りの1辺の長さを計算することができる[注 1]。ここで a, b, c はいずれも正であるから、
となる。ここで √ は負でない平方根を表す。
余弦定理は、この定理を一般の三角形に適用できるよう、一般化したものである。これを使うと、任意の三角形において、1つの内角の大きさとそれをはさむ2辺の長さから残りの辺(対辺)の長さを計算できる。
ピタゴラスの定理の逆
この定理の逆、すなわちに「ならば三角形は直角三角形である」という主張も正しい。例えば、、、の三角形は、必ず直角三角形になる。これを用いると、辺の長さから三角形が直角三角形かどうかを判定できる。また、直角の作図にも利用できる。
座標幾何学での応用
ピタゴラスの定理を用いると、点の座標から(ユークリッド空間中の)2点間の距離(ユークリッド距離)を求めることができる。もしも、座標系が正規直交座標系であるなら、2点間の距離は、2点の各座標の差の 2乗の総和の平方根となる[注 2]。ここで、空間の次元は任意である。
ピタゴラスの基本三角関数公式
ピタゴラスの定理は、三角関数についての非常に重要な関係式ピタゴラスの基本三角関数公式 (Fundamental Pythagorean trigonometric identity) と同値である[4]。
ただし、長さがaの辺と斜辺(長さc)との間の角度をとした。また、、と定義した。
面積を変えない図形の変形
ピタゴラスの定理を用いると、与えられた図形を面積を変えずに変形する作図を実行できる(『シュルバ・スートラ』、ユークリッド『原論』第二巻、)。 まず、次の二つはわかりやすい。
- 与えられた正方形の面積の和と同じ面積の正方形の作図
- 与えられた二つの正方形の面積の差と同じ面積の正方形の作図
1を用いれば、与えられた正方形の面積の倍の面積の正方形を作図することができる(『シュルバ・スートラ』など)。 2を用いれば、与えられた長方形(辺の長さ)と同じ面積の正方形の作図(正方形化) ができる。なぜならば、この長方形の面積は
つまり一片の長さがの正方形との正方形の面積の差に等しいからである。
よって、多角形をを正方形化したいのならば、三角形に分割して各々を正方形化し、1を用いて合併すればよい。また、ヒポクラテスの定理は、円弧の間に挟まれた三日月型の図形(月形)を面積を変えずに多角形に変形できることを主張するけれども、その証明ではピタゴラスの定理が本質的である。
歴史

「ピタゴラスが直角二等辺三角形のタイルが敷き詰められた床を見ていて、この定理を思いついた」といった伝承が伝えられるなど、本定理はピタゴラスと結びつけられてきた。しかし、本定理と同じ内容の主張は、ピタゴラスが生まれる前から広く知られていた。
起源
例えば、南部メソポタミアにおいては、ピタゴラスが生まれる1000年以上前のバビロン第1王朝時代ごろ(紀元前20世紀から16世紀の間)には、すでに本定理は知られていたと思われる[5][6][7][8]。バビロニアの粘土板『プリンプトン322』には、ピタゴラスの定理に関わる要素が数多く含まれている。YBC 7289の裏面にはそれらしい記述がある。この他、この関係式を応用して問題を解いた過程が記された粘土板がいくつも発見されている[9]。いずれも具体例についての計算が書かれているだけであるが、様々な状況に適用されていることなどから、一般的な関係を把握していたという推測がなされている[10]。ただし、もっぱら問題解法の手段と認識されていたことから、定理とよばずにruleとよぶことがある。例えば、Hoyrup2000では the Pythagorean ruleとよび、Friberg 2000においては、the (old Babylonian) diagonal ruleという呼称をもちいている。後者の呼称は、本定理の主張が長方形の対角線と二辺の間の関係と認識されていたことよる。
古代エジプト数学にはピタゴラス数についての記述があり、ナイル川の氾濫のあとで土地を元どおり区割りする際に、直角を取るため 3:4:5の直角三角形が利用された可能性がある[11]。紀元前2000年から1786年ごろに書かれた古代エジプトエジプト中王国のパピルス "Berlin Papyrus 6619" では、この三角形を用いたらしき計算が記されているが、一部が破損している。また、一般的なケースについての記載はない。
ピタゴラスが無関係であること
ギリシャにこれらの先行の発見がどの程度影響したのかは、よくわからない。いずれにせよ、ギリシャにおける再発見(あるいは導入?)、および証明においても、ピタゴラスは関与していないと考える研究者が多数派である。そもそも、ピタゴラスが数学者として活動したと考える研究者が少数派で、また論証数学が誕生したのも、ピタゴラスの死後のことだと考えられている[12] 。プラトンやアリストテレスはピタゴラスやピタゴラス派の学説に言及しているし、数学にも関心をもっているが、同派とこの定理との関係については、何も述べていない。なお、当時はすでにピタゴラス教団は衰微していたと思われる。
紀元前3世紀に書かれたユーリッド『原論』の中でピタゴラスの定理に該当するものは、第1巻の47番目の命題である。(なお、ピタゴラスの定理の逆は、その次、すなわち48番目の命題。)ここでは、昔から経験則として知られていたこの法則に、幾何学的な証明を与えている。これは、現存する証明としては、最古のものである。ただし、『原論』中にこの定理とピタゴラスやピタゴラス派との関係を示唆するものは、何もない[注 3]。
さらに下って、紀元前1世紀以降、新ピタゴラス主義が各地で立ち上がり、またその後興隆した新プラトン主義に影響を与えることになる[13]。そして、「ピタゴラスが幾何学上の発見をムーサに感謝し、牛を捧げた」という伝説が記録にあらわれるようになる。このとき、しばしば時代も事跡も不明なアポロドロス(英語版)の詩文を引用する形をとる[14]。内容は、著者によって少しずつ違う。
紀元前1世紀のキケロは発見の内容をまったく特定せず、しかも逸話ついて懐疑的である[15]。プルタルコスは発見した定理の候補の一つとして本定理をあげる。ウィトルウィウス『建築について』では、辺の長さが3,4,5の場合について定理を述べる[16]。さらに下って、紀元200年あたりから後のディオゲネス・ラエルティオス、アテナイオスらはこの発見をピタゴラスの定理だとする[17]。ポルピュリオス、イアンブリコスらのピタゴラスの伝記、 紀元5世紀のプロクロスの『ユークリッド原論第一巻註解』も同様である。プロクロスは本定理に該当する「第47番の命題」に付した注釈において、当時の識者たちの見解として、本定理の発見者がピタゴラスであることを上記の逸話とともに述べる。ただし、この定理を強固な論証で基礎づけて一般化したユークリッドの功績のほうが偉大だとする[18]。後世においてこの定理をピタゴラスの業績とする根拠は、プロクロスの注解による[19]。
インド
インドの紀元前5-8世紀に書かれた『シュルバ・スートラ』と総称される一連の文書にも、定理に関わる文章が見られる[20]。しかし、これはバビロニア数学の影響を受けた結果ではないかという推測もされているが、結論には至っていない[21]。また、『シュルバ・スートラ』は祭壇のための作図が中心で、扱うテーマが限られており、後の時代の図形数学(クシャートラ·ガニタ)とはほとんど繋がっていない[22]。
中国

中国古代においては、『周髀算経』(紀元前2世紀前後)や『九章算術』の数学書でもこの定理が取り上げられている。中国ではこの定理を勾股定理、商高定理等と呼んで説明している。

日本での呼称
日本の和算でも、中国での呼称を用いて
日本の明治時代の中等学校の教科書では「ピュタゴラスの定理」と呼ばれていた。
現在、ピタゴラスの定理は「三平方の定理」とも呼ばれているが、「三平方の定理」と呼ばれるようになったのは1942年(昭和17年)の太平洋戦争開始後のことである[25]。
このときに「鉤股弦の定理」とする案などもあったが、末綱恕一(東大教授)の発案で「三平方の定理」に改められたとされる。
一般化
角の一般化
第二余弦定理
- c2 = a2 + b2 − 2ab cos C
はピタゴラスの定理を C = π/2 = 90° → cos C = 0 の場合として含む。 つまり、第二余弦定理はピタゴラスの定理を一般の三角形に対して拡張した定理になっている。
長さから面積への一般化
3次元空間内に平面があるとき、その閉領域 S の面積は、yz 平面、zx 平面、xy 平面への射影の面積 Sx, Sy, Sz を用いて
と表される。これは高次元へ一般化できる。
正方形以外の図形
ピタゴラスの定理では、各辺の上に作図された正方形の面積の関係を問題にしている。ユークリッド『原論』第6巻命題31では、これを一般化した。すなわち、各辺の上に作図される図形が何であっても、斜辺の上に作図される面積は、直角を挟む二辺の上に作図される図形の面積の和に等しい。ただし、三つの図形は互いに相似だとする。 キオスのヒポクラテスやイブン・ハイサムの月形(円弧の間に挟まれた図形)の求積においては、辺の上に半円を作図したものを用いる。
また、証明においても、正方形の代わりに別の図形を用いてもよい。すなわち、直角を挟む二辺の上に作図した図形の面積の和が、斜辺の上に作図した図形の面積に等しいことを証明するれば、ピタゴラスの定理の証明になる。(ただし、三つの図形は互いに相似。)後に述べるアインシュタインによるピタゴラスの定理の証明は、各辺の上に直角三角形を作図する。
ピタゴラス数の指数の一般化
指数の 2 の部分を一般化すると
- an + bn = cn
となる。n = 2 の場合、自明(つまり a, b, c の少なくとも1つが 0)や既知解(原始ピタゴラス数の定数倍)を除いても、整数解は実質無数に存在するが、n ≥ 3 の場合は非自明な整数解は存在しない。
計量ベクトル空間
△ABC において角Cが直角だとする。CからA、CからB,AからBにむかう幾何ベクトルを、, とする。すると、ピタゴラスの定理は次のように表現できる。
ただし、は幾何ベクトルの長さ(ノルム)である。
幾何ベクトルとは限らない、一般の実数上の計量ベクトル空間においても、上記と同様の関係がなりたつ。(次元は無限次元でもよい。)
すなわち、とし、ノルムをで定義すると、
である。
ここで、、が直交する、すなわちと仮定する。すると、直ちにが導かれる。
逆に、が成立することを仮定すると、が導かれる。これは、ピタゴラスの定理の逆に対応する。
また、、の間の角度を等式 で定義すると、
である。これは、第二余弦定理に対応する。
情報幾何学におけるピタゴラスの定理
情報幾何学、あるいは統計多様体の理論の基本的な定理の一つに「ピタゴラスの定理」がある。すなわち、双対平坦な空間において、カルバック・ライブラー情報量などの正準ダイバージェンスは、これを距離の2乗に見立てるとピタゴラスの定理と同様の関係式を満たす。なお、ユークリッド距離の2乗は、適切な接続のもと正準ダイバージェンスとみなすことができる。よって、ユークリッド幾何のピタゴラスの定理は情報幾何学のピタゴラスの定理の特殊な例と考えることができる。
ピタゴラスの定理の証明
この定理には数百通りもの異なる証明がある。
相似による証明

頂点 C から斜辺 AB に下ろした垂線の足を H とする。△ABC と △ACH は相似である。ゆえに
である。よって
であり、同様に
である。一方、
であるから、
を得る。
歴史的な背景
本証明と同等の議論は、バースカラ2世の代数学書『ビージャガニタ』第8巻に見られる[26]。また、16世紀後半のイグナス・ガストン・パルディによる幾何学の解説書にもみられる[27]。また、△ABC 、△ACH、△CBH が相似であることは、ユークリッド『原論』第VI巻·命題8で述べられている。
アインシュタインの証明
この証明のように、△ABC 、△ACH、△CBH が相似であることに着目した証明の別種に、アインシュタインが思いついた証明がある[28]。これは、
- △ABC の面積が△ACHと△CBHの面積の和であること
- △ABC、△ACH、△CBHの面積の比率がであること
を用いる。
合同による証明

と が合同になるように,図のように , を取る。また、とする。
わかりやすいように整理すると、 が隣辺、 が対辺、 が斜辺の長さを示す。
四角形 の面積 を二通りの方法で表す。
- と は直交するので,
- の面積は , の面積は より
よって、
両辺にをかけて
以上2つの式より三平方の定理を得る[29]。
外接円を用いた証明

∠C = 90° のとき、斜辺AB を直径とする円O を描くことができる。
このとき点C から直径AB に下ろした垂線の足を H とし、△CHO に対して三平方の定理を証明する。OA = OB = OC = c, CH = a, OH = b とする。
△AHC ∽ △BHC なので、
- HA : HC = HC : HB
- (OA − OH) : HC = HC : (OB + OH)
- (c − b) : a = a : (c + b)
- c2 − b2 = a2
- ∴ a2 + b2 = c2 ◾️
正方形を用いた証明 1

△ABC と合同な4個の三角形を右図のように並べると、外側に一辺が a + b の正方形(以下「大正方形」)が、内側に一辺が c の正方形(以下「小正方形」)ができる。
- (大正方形の面積)=(小正方形の面積)+(直角三角形の面積)× 4
である。大正方形の面積は (a + b)2, 小正方形の面積は c2, 直角三角形1個の面積は である。これらを代入すると、
整理して
を得る。
- 正方形を用いた証明1の視覚化⓵
- 正方形を用いた証明1の視覚化②
正方形を用いた証明 2
本証明は、バースカラ2世の『ビージャガニタ』にある証明である[30]。まず、一辺がcの正方形の面積を求める。そのために、下の「『ビージャガニタ』の二番目の証明」の左図ようにこの正方形を、一辺がの正方形と4つの直角三角形に分割する。すると、
であることがわかる。そして
であることからピタゴラスの定理を得る。この最後の等号関係を得るにあたって、『ビージャガニタ』では図形の断片を「『ビージャガニタ』の二番目の証明」の右図のように並べ替えて示している[31]。(下のアニメーションも参照のこと。)

- 正方形を用いた証明2の視覚化

内接円を用いた証明
△ABC において、内接円の半径 r を用いて面積 S を表すと
- (1)
となるが、∠C = 90°より、
- (2)
- (3)
整理すると
が得られる。
三角関数の加法定理を用いた証明
三角関数の加法定理は、本定理を使わないで、初等幾何的に証明できる(三角関数#性質)[32]。三角関数の加法定理を使うと、
または
が得られる[33]。
ピタゴラスの定理の逆の証明
ピタゴラスの定理は、逆も真となる。すなわち、△ABC に対して
が成立すれば、△ABC は ∠C = π/2 の直角三角形となるが成立する。以下にその証明を述べる。
ピタゴラスの定理に依存しない証明

△ABC が a2 + b2 = c2 を満たすとする。線分 AB を b2 : a2 に内分する点を D とすると
である。これより
であるから2辺比夾角相等より 。
同様に
となるから
となる。
(1) より
一方
ゆえに △ABC は ∠C = π/2 の直角三角形である[35]。
同一法を用いた証明

B'C' = a, A'C' = b,∠C' = π/2 である直角三角形 A'B'C' において、A'B' = c' とすれば、ピタゴラスの定理より
が成り立つ。 一方、仮定から △ABC において
c > 0, c' > 0 より
したがって、3辺相等から
∴ ∠C = ∠C' = π/2。ゆえに △ABC は ∠C = π/2 の直角三角形である[35]。
対偶を用いた証明
△ABC において ∠C ≠ π/2 であると仮定する。頂点 A から直線 BC に下ろした垂線の足を D とし、AD = h, CD = d とする。
∠C < π/2 の場合、直角三角形 ABD においてピタゴラスの定理より
であり、同様に直角三角形 ACD では
である。よって
となる。
∠C > π/2 の場合も同様に考えて
ゆえに
となる。
よっていずれの場合も
である。対偶を取って、a2 + b2 = c2 ならば ∠C = π/2 である。
なお、この証明から分かるように、
- ∠C < π/2 ⇔ a2 + b2 > c2
- ∠C = π/2 ⇔ a2 + b2 = c2
- ∠C > π/2 ⇔ a2 + b2 < c2
という対応がある。
余弦定理を用いた証明

ピタゴラスの定理は既知とすると、それより導かれる余弦定理を用いることができる。△ABC において、a = BC, b = CA, c = AB, C = ∠ACB とおくと、余弦定理より
一方、仮定より
であるから
となる。三角形の内角の和は π であるから 0 < C < π より、
ゆえに △ABC は ∠C = π/2 の直角三角形である。
ピタゴラスの基本三角関数公式の証明
以下では、ピタゴラスの基本三角関数公式 (Fundamental Pythagorean trigonometric identity)[4]、すなわち
の証明を述べる。
もしも、三角関数、を、と初等幾何学的に定義すると、この等式はピタゴラスの定理と同値である。証明は、ピタゴラスの定理を表す等式の両辺をで割り、、の定義を代入すればよい。
一方、三角関数は上記のような幾何的な定義以外の定義もある(三角関数#定義)。幾何的な描像を用いずに、三角関数を冪級数や逆三角関数の積分表示などを用いて定義できる。このような定義を用いると、三角関数の微分や積分、あるいは冪級数展開などをスムーズに行うことができる。そして、以下に述べるように、ピタゴラスの基本三角関数公式をピタゴラスの定理を経由せずに証明できる。
ただし、そのような三角関数の定義をした場合には、例えばの定義はもはやではないので、これらを単に(1)式に代入するだけでピタゴラスの定理が導かれるわけではない。
三角関数の微分を用いた証明
正弦および余弦関数を微分すれば
したがって
ここで C は定数である。θ = 0 を代入すると sin 0 = 0, cos 0 = 1 であるので、C = 1 が得られる。よって
が得られる[36]。
冪級数展開を用いた証明
三角関数の冪級数展開を用いて、cos θ と sin θ の自乗をそれぞれ計算すると
である。したがって
が得られる[37]。
ピタゴラス数
3辺の長さが何れも整数である直角三角形は、ピタゴラスの定理の項目の中で古くから知られた[25]。例えば、紀元前1800年ごろのバビロニアの粘土板には、3辺の長さの表(例えば 49612 + 64802 = 81612 のようなもの)が出ている。
a2 + b2 = c2 を満たす自然数の組 (a, b, c) をピタゴラス数 (Pythagorean triple) という。特に、a, b, c が互いに素であるピタゴラス数 (a, b, c) は原始ピタゴラス数 (primitive Pythagorean triple) と呼ばれる。全てのピタゴラス数は原始ピタゴラス数で (a, b, c) の正の整数倍 (ka, kb, kc) で表されるから、ピタゴラス数のリストを知るには、原始ピタゴラス数が本質的である。
ピタゴラス数 (a, b, c) が原始的であるためには、3つのうちある2つが互いに素であれば十分である。原始ピタゴラス数の小さい方のリストは、c < 100 で、a < b とすると次の通りである[38]:
- (a, b, c) = (3, 4, 5), (5, 12, 13), (7, 24, 25), (8, 15, 17), (9, 40, 41), (11, 60, 61), (12, 35, 37), (13, 84, 85), (16, 63, 65), (20, 21, 29), (28, 45, 53), (33, 56, 65), (36, 77, 85), (39, 80, 89), (48, 55, 73), (65, 72, 97)
ピタゴラス数の性質
ピタゴラス数 (a, b, c) には、次の性質がある。
- a または b は 4 の倍数
- a または b は 3 の倍数
- a または b または c は 5 の倍数
- したがって、積 abc は 60 の倍数である。
自然数の組 (a, b, c) が原始ピタゴラス数であるためには、ある自然数 m, n が
を満たすとして、
- (a, b, c) = (m2 − n2, 2mn, m2 + n2) または (2mn, m2 − n2, m2 + n2)
であることが必要十分である[39][40]。上記の (m, n) は無数に存在し重複がないので、原始ピタゴラス数は無数に存在し、すべての原始ピタゴラス数を重複なく列挙できる。
例えば
- (m, n) = (2, 1) のとき (a, b, c) = (3, 4, 5)
- (m, n) = (3, 2) のとき (a, b, c) = (5, 12, 13)
- (m, n) = (4, 1) のとき (a, b, c) = (8, 15, 17)
である。a < b を満たす原始ピタゴラス数を a の昇順に並べた一覧表は以下のようになる[41]。
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|
|
また、フランスの数学者ピエール・ド・フェルマーは一般のピタゴラス数 (a, b, c) に対して、S = 1/2ab(直角三角形の面積)は平方数でないことを無限降下法により証明した[42]。
Jesmanowicz 予想
1956年に Jesmanowicz が次の予想を提出した:
- (a, b, c) を原始ピタゴラス数、n を自然数とする。方程式:
- の自然数解 (x, y, z) は
- のみである。
特別なピタゴラス数
- 直角をはさむ2辺 a, b が連続する原始ピタゴラス数は
- (3, 4, 5), (20, 21, 29), (119, 120, 169), …(オンライン整数列大辞典の数列 A114336)
- である。この問題はフランスの数学者ピエール・ド・フェルマーが出題し、解も発見した[43]。
- 斜辺 c と他の2辺の和 a + b が両方とも平方数になる最小のピタゴラス数は
- a = 4565486027761, b = 1061652293520, c = 4687298610289
- である。この問題はピエール・ド・フェルマーが出題し、解も発見した[44]。
- 1192 + 1202 = (132)2.
- 3辺の長さが a, b, c の直角三角形と、周の長さと面積の両方が同じ値となる、すべての辺の長さが整数である二等辺三角形が存在するならば、そのような直角三角形は全て相似であり、最小の (a, b, c) の値は、(135, 352, 377) である[46]。