ヘンデルのソロ・ソナタ

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ウォルシュのソロ集表紙(1732年)

ヘンデルのソロ・ソナタ HWV 357-379は、ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデルが作曲した独奏楽器通奏低音のためのソナタである。多くの曲は作品1の名前で出版された。

出版の経緯が複雑で、作曲者の意図と異なる楽器や調性で出版・演奏されることが多い。自筆原稿に楽器が指定されていないものについては主に音域と奏法から楽器を判定している[1]。全部で28曲あるが、うち真作は17曲で、出版者が楽器指定を編曲・移調したものが4曲、偽作が7曲である。

1723年にジョージ1世はヘンデルを王室礼拝堂作曲家に任命した。また皇太子の娘たちの音楽教師もつとめ、とくにアン王女とは親密だった。ヘンデルのソロ・ソナタやトリオ・ソナタの多くはこのころに作曲され、王族たちのための私的な演奏会で演奏されたと思われる[2]

構成は教会ソナタ形式(緩-急-緩-急の4楽章)の作品がもっとも多いが、3楽章の作品や舞曲を足した5楽章・7楽章の作品もある。

出版経緯

1730年ごろ、12曲のソロ集が出版された。出版社はアムステルダムジャンヌ・ロジェと記されていたが、実際にはロンドンジョン・ウォルシュ(父)がロジェの名を騙ってヘンデルに断りなく出版したものだった[1]。楽譜は誤りが多い杜撰なもので、本来他の楽器用であるものをウォルシュが勝手に楽器変更し、一部はそれに伴って移調したりしていた[1]。また、ヴァイオリン・ソナタのうち10番と12番の2曲(HWV 372, 373)は偽作だった[1]。なお作品番号は明示されていないが、次に出たトリオ・ソナタ集に「作品2」の番号が与えられているため、ソロ集は作品1とされる。

1732年、ウォルシュは今度は自分の名で改訂版のソロ集を出版した。偽作の2曲は別の曲(HWV 368, 370)にかえられていたが、この2曲も現在では偽作とされる[3]

1879年、フリードリヒ・クリュザンダーはヘンデル全集の第27巻においてヘンデルのソロ・ソナタ集作品1を出版したが、クリュザンダー版は1732年のウォルシュのソロ集に従い、それに4曲(第1番a、第13番、第14番、第15番)を追加して16曲とした。うち第1番a(HWV 379)と第13番(HWV 371)は自筆譜が存在するがウォルシュ版に含まれていなかった作品である。またウォルシュがロジェの名で出版した版に含まれていたが1732年の版から除かれた2曲を第14・15番とした[4]。1894年の全集第48巻で作品1の第16番から第18番として3曲のフルート・ソナタ(HWV 374,375,376)が追加された。これら3曲は新全集ではハレ・ソナタと呼ばれているが、偽作とされている[4]

フィッツウィリアム・ソナタ (Fitzwilliam Sonatas) と呼ばれる作品は音楽学者サーストン・ダートケンブリッジ大学フィッツウィリアム美術館から1948年に発見したヘンデルの自筆譜で、変ロ長調とニ短調の2曲からなる(HWV 377, 367a)[4]。後者は全7楽章で、作品1の第9番と対応するが、1950年にダートが出版したときにニ短調の第1-5楽章を第3番とし、第7楽章・第6楽章・アンダンテ(HWV 409)・メヌエット(HWV 462)をあわせたものを第2番とした[5]。しかし現在は第2番を欠番として除外し、第3番を7楽章形式としている[6]

真作

全17曲(うち異稿1曲)。楽器別にはヴァイオリン・ソナタ5曲(358,359a,361,364a,371)、ヴィオラ・ダ・ガンバ・ソナタ1曲(364b)、オーボエ・ソナタ3曲(357,363a,366)、リコーダー・ソナタ6曲(360,362,365,367a,369,377)、フルート・ソナタ2曲(378,379)。以下HWV番号順に挙げる。

オーボエ・ソナタ 変ロ長調 HWV 357

フィッツウィリアム美術館に自筆譜が残る。自筆譜でオーボエが指定されている[1]。初期の作品で、イタリア時代に書かれたものかという[7]

  1. Allegro
  2. Grave
  3. Allegro

ヴァイオリン・ソナタ ト長調 HWV 358

これも初期の作品で、フィッツウィリアム美術館に自筆譜が残る。楽器は指定されておらず、1974年にクラウス・ホフマン (Klaus Hofmann) によって最初に出版された時にはリコーダー・ソナタとされていた[8]。現在はヴァイオリン・ソナタと考えられている[9]。速度も書かれていないが、HWV 357と同様に3楽章で急緩急形式と考えられる。

  1. [Allegro]
  2. [Adagio]
  3. [Allegro]

ヴァイオリン・ソナタ ニ短調 HWV 359a

作品1の第1番ホ短調(HWV 359b)はこの曲をフルート用に移調・編曲したもの。 最初と最後の楽章はフルート・ソナタ ホ短調 HWV 379の第1・第4楽章と共通する。

  1. Grave
  2. Allegro
  3. Adagio
  4. Allegro

リコーダー・ソナタ ト短調 HWV 360

作品1の第2番。自筆譜でリコーダーが指定されている[1]。 第2楽章の旋律はフルート・ソナタ ホ短調 HWV 379の第2楽章と共通する[10]。 終楽章の旋律は第2楽章と関連し、本作以外にフルート・ソナタ ホ短調 HWV 379の終楽章、オルガン協奏曲集作品4の第3番ト短調 HWV 291の終楽章、オルガン協奏曲集作品7の第5番ト短調 HWV 310の終楽章、『アグリッピナ』第1幕のアリア「Non ho cor che per amarti」とも共通する[11]

  1. Larghetto
  2. Andante
  3. Adagio
  4. Presto

ヴァイオリン・ソナタ イ長調 HWV 361

作品1の第3番。自筆譜でヴァイオリンが指定されている[1]。 終楽章はリコーダー・ソナタ 変ロ長調 HWV 377の終楽章と共通[12]

  1. Andante
  2. Allegro
  3. Adagio
  4. Allegro

リコーダー・ソナタ イ短調 HWV 362

作品1の第4番。自筆譜でリコーダーが指定されている[1]

  1. Larghetto
  2. Allegro
  3. Adagio
  4. Allegro

オーボエ・ソナタ ヘ長調 HWV 363a

作品1の第5番ト長調(HWV 363b)はこの曲をフルート用に編曲したもの。 第1楽章はオペラ『リナルド』第1幕「Augelletti, che cantate」と共通。第3楽章はリコーダー・ソナタ ハ長調 HWV 365の第3楽章と共通。終楽章は合奏協奏曲作品3の第4番ヘ長調 HWV 315の終楽章と共通。

  1. Adagio
  2. Allegro
  3. Adagio
  4. Bourée angloise
  5. Menuet

ヴァイオリン・ソナタ ト短調 HWV 364a

作品1の第6番にあたるが、自筆譜でヴァイオリンが指定されているのに対し[1]、作品1の第6番ではオーボエが指定されている。ヴィオラ・ダ・ガンバ・ソナタHWV 364bは作曲者自身による異稿である。なお終楽章はオペラ『シロエ』の序曲で再利用されており、そのためか自筆譜では一部の低い音がオーボエでも演奏できるように修正されている[13]

  1. Larghetto
  2. Allegro
  3. Adagio
  4. Allegro

ヴィオラ・ダ・ガンバ・ソナタ ト短調 HWV 364b

ヴァイオリン・ソナタ HWV 364aの異稿。自筆譜でヴィオラ・ダ・ガンバが指定されている[1]

リコーダー・ソナタ ハ長調 HWV 365

作品1の第7番。第2楽章はオペラ『シピオーネ』序曲の第2部分に再利用されている。第3楽章はオーボエ・ソナタ ヘ長調 HWV 363aの第3楽章と共通[14]

  1. Larghetto
  2. Allegro
  3. Larghetto
  4. A tempo di gavotta
  5. Allegro

オーボエ・ソナタ ハ短調 HWV 366

作品1の第8番。自筆譜でオーボエが指定されている。作品1の他の作品より古く、1712年ごろの作品とされる[8]

  1. Largo
  2. Allegro
  3. Adagio
  4. Bourée angloise

リコーダー・ソナタ ニ短調 HWV 367a

フィッツウィリアム・ソナタ第3番。作品1の第9番(HWV 367b)はこの曲をフルート用に移調・変更したもの。

  1. Largo
  2. Vivace
  3. Furioso
  4. Adagio
  5. Alla breve
  6. Andante
  7. A tempo di menuet

リコーダー・ソナタ ヘ長調 HWV 369

作品1の第11番。自筆譜でリコーダーが指定されている[1]オルガン協奏曲集作品4の第5番ヘ長調 HWV 293はこの曲の編曲である[15]

  1. Larghetto
  2. Allegro
  3. Siciliana
  4. Allegro

ヴァイオリン・ソナタ ニ長調 HWV 371

クリュザンダー版作品1の第13番。自筆譜でヴァイオリンが指定されている[1]。 1750年ごろに書かれたヘンデル最後の室内楽である[8]。 第1楽章の旋律はフルート・ソナタ ニ長調 HWV 378の第1楽章、フルート・ソナタ ホ短調 HWV 379の第3楽章と共通[16]。第2楽章はオラトリオ『ソロモン』の合唱曲「From the censer curling rise」中間部(Live, live fore ever)に同じ旋律が使われている。

  1. Afetuoso
  2. Allegro
  3. Larghetto
  4. Allegro

リコーダー・ソナタ 変ロ長調 HWV 377

フィッツウィリアム・ソナタ第1番。楽器指定はないが、おそらくリコーダーとされている。 第1楽章はオペラ『シピオーネ』序曲の第3部分、第2楽章はオルガン協奏曲集作品4の第4番ヘ長調 HWV 292の第3楽章、第3楽章はヴァイオリン・ソナタ イ長調 HWV 361の終楽章と共通[12]

  1. Allegro
  2. Adagio
  3. Allegro

フルート・ソナタ ニ長調 HWV 378

ブリュッセル王立音楽院から18世紀の筆写譜が発見され、1979年に影印出版された[16]。ヘンデルのイタリア時代(1707年前後)の作品とされる[8]。第1楽章はヴァイオリン・ソナタ ニ長調 HWV 371の第1楽章、フルート・ソナタ ホ短調 HWV 379の第3楽章でも使用されている[16]

  1. Adagio
  2. Allegro
  3. Adagio
  4. Allegro

フルート・ソナタ ホ短調 HWV 379

クリュザンダー版作品1の第1番a。自筆譜でフルートが指定されている[1]。 ヴァイオリン・ソナタ ト長調 HWV 359aとは第1楽章と第4楽章が共通する。 第2楽章と第5楽章の旋律についてはリコーダー・ソナタ ト短調 HWV 360の項目を参照。 第3楽章はヴァイオリン・ソナタ ニ長調 HWV 371の第1楽章、フルート・ソナタ ニ長調 HWV 378と共通する[16]

  1. Larghetto
  2. Andante
  3. Largo
  4. Allegro
  5. Presto

出版者による楽器指定変更・編曲

ウォルシュによるソロ集12曲のうちフルート・ソナタは3曲あるが、いずれも別の楽器用の曲を編曲したものである。

フルート・ソナタ ホ短調 HWV 359b

作品1の第1番。ヴァイオリン・ソナタ ニ短調 HWV 359aをフルート用に移調・編曲したもの。

フルート・ソナタ ト長調 HWV 363b

作品1の第5番。オーボエ・ソナタ ヘ長調 HWV 363aをフルート用に編曲したもの。

オーボエ・ソナタ ト短調 HWV 364a

作品1の第6番。本来の楽器はヴァイオリンで、楽器指定のみの違いである(HWV番号同じ)。ただしオーボエの最低音より低い音が含まれている。

フルート・ソナタ ロ短調 HWV 367b

作品1の第9番。リコーダー・ソナタ ニ短調 HWV 367aをフルート用に移調・編曲したもの。

偽作・疑作

脚注

参考文献

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