ロザリンド・クラウス
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ワシントンD.C.出身。1969年ハーバード大学にて博士号を取得[1]。ハーバード時代の師クレメント・グリーンバーグ、学友のマイケル・フリードから影響を受け、はじめフォーマリズムの批評家として出発する。MIT、プリンストン大学、ニューヨーク市立大学ハンター校を経て、1992年よりコロンビア大学教授。
作品内の物語性よりも画面の「平面性 (flatness)」に重きを置く師・グリーンバーグのフォーマリズム批評に、1960年代以降の美術作品を分析するツールとしては限界を感じたクラウスは、次第にグリーンバーグ批評とは決別。独自の脱構築的な批評へと向かう。1976年には現在も刊行の続く美術批評理論誌『オクトーバー』をアネット・マイケルソンとともに創刊する。
October, Vol. 8に執筆したエッセイ「拡張された場における彫刻」(原題: Sculpture in the Expanded Field, 1979年)は、ハル・フォスター編『反美学』(1983)に再録された。そこでは、モダニズム彫刻における「建築でないもの」「風景でないもの」という否定的な二項対立の定義を打破するため、構造主義的手法を用いて「拡張された場」を提案。彫刻を以下の四つのカテゴリーに再配置した:[2]
- 彫刻(Sculpture):伝統的な彫刻(例:ブランクーシの作品)
- サイト構築(Site-Construction):特定の場所に構築される作品(例:ロバート・スミッソンの『スパイラル・ジェティ』のようなアースワーク)
- マークされたサイト(Marked Sites):風景に介入する作品(例:リチャード・セラの環境彫刻)
- 公理的構造(Axiomatic Structures):抽象的で規則的な構造(例:ミニマリズムの幾何学的作品)
『視覚的無意識』(The Optical Unconscious, MIT Press、1993年)では、モダニズムが掲げる「視覚の純粋性」(クレメント・グリーンバーグの形式主義)を批判し、視覚体験に潜む無意識的側面――欲望、身体性、断片性――を探求した。シュルレアリスムのサルバドール・ダリ(例:『記憶の固執』)、ジョルジュ・バタイユ(『眼球譚』)、アンドレ・ブルトン(自動記述)、ハンス・ベルメール(人形作品)、さらにはアルベルト・ジャコメッティ、ドナルド・ジャッド、ロバート・ラウシェンバーグらの作品を通じて、視覚の統一性を崩す実践を分析する。クラウは、ジャック・ラカンの「視線」やジークムント・フロイトの「無意識」の概念を援用し、視覚が単なる知覚ではなく、心理的・文化的緊張を含むと論じる。シュルレアリスムやポストモダニズムは、モダニズムが抑圧した「光学的無意識」(ヴァルター・ベンヤミンのOptical Unconscious)を解放し、現代美術の多様な表現を開拓したと結論づける。本書は、視覚の複雑さを理論化し、美術批評に精神分析的視点を導入した画期的な著作である。
2025年にバルザン賞受賞。