ロッド・ギブレット

From Wikipedia, the free encyclopedia

生誕 (非公開)
職業 学者・作家・環境活動家
ロッド・ギブレット
生誕 (非公開)
国籍 オーストラリアの旗 オーストラリア
職業 学者・作家・環境活動家
テンプレートを表示

ロッド・ギブレット(Rod Giblett、本名:Rodney James Giblett)は、オーストラリアの学際的研究者・ネイチャーライティング作家・環境活動家である。

環境人文学の分野で30冊以上の著作を持ち、とくに「湿地文化研究(wetland cultural studies)」という新たな学問領域を創始したことで知られる。

現在はディーキン大学(ヴィクトリア州)コミュニケーション・クリエイティブアーツ学部ライティング&文学プログラムの名誉准教授(環境人文学)を務める。[1]

ギブレットはオーストラリア人キリスト教宣教師の子としてボルネオ島で生まれた。幼少期の多くを、父が総務長・教会史講師・在俗説教者として勤務していた聖書訓練学院(Bible training institute)内で過ごした。[2]高校を中退した後、三つの大学で学んだ。

学術キャリアの初期には、カーティン工科大学(Western Australia)文化学部にて文化研究の講師を務め、1996年に主著『Postmodern Wetlands: Culture, History, Ecology』をエディンバラ大学出版局より出版した。[3]その後、エディス・コーワン大学(Perth, Western Australia)コミュニケーション・芸術学部でメディア・文化研究のシニアレクチャラーを経て、准教授に昇任した。同大学では国際景観と言語センター(International Centre for Landscape and Language)の共同主宰者を務めた。[4]

その後メルボルンへ移り、現在はディーキン大学名誉准教授として研究・執筆活動を続けている。[5]また、西オーストラリア州パースの郊外に位置するフォレストデール湖(Forrestdale Lake)のほとりで28年間暮らし、25年以上にわたり地域の湿地保全活動家として積極的に活動した。[6]

学術的業績

ギブレットは以下の学問的分野の創始者とされる。

湿地文化研究
(Wetland Cultural Studies)
西洋文化における湿地の表象を文化史・文学・哲学・社会理論の観点から横断的に分析する研究領域。
精神分析エコロジー・サイコポリティカル・エコロジー
(Psychoanalytic and Psychopolitical Ecology)
フロイトの概念(アンハイムリヒ、昇華、喪、メランコリーなど)を環境問題の分析に応用する方法論。
保全反神学
(Conservation Counter-theology)
環境保全と宗教批判を接続する思想的枠組み。
ソロー&ベンヤミン研究
(Thoreau and Benjamin Studies)
ヘンリー・デイヴィッド・ソローとヴァルター・ベンヤミンの思想を環境人文学の文脈で再読する研究。[7]

主著『Postmodern Wetlands』(1996年)では、沼地や湿地が西洋文化において長らく疾病・恐怖・嫌悪の場として表象されてきたことを、文学・映画・大衆文化の資料を駆使して批判的に検討した。また、湿地を「排水する」という近代のプロジェクトが男性主義的・帝国主義的な衝動と結びついていることを論じた。[8]

Cities and Wetlands: The Return of the Repressed in Nature and Culture』(2016年、Bloomsbury)では、ニューオーリンズ・ニューヨーク・ロンドン・パリ・ヴェネツィアなど世界の主要都市の多くが湿地の上に建設された歴史を文化・文学の観点から論じ、「精神分析的生態学」という独自の方法論を展開した。[9]

Psychoanalytic Ecology: The Talking Cure for Environmental Illness and Health』(2019年、Routledge)では、フロイトの精神分析的諸概念を環境問題に適用し、湿地の喪失、採掘産業の貪欲、都市の「症状」としての湿地埋め立てを論じた。[10]

主な著作・論文

書籍

  1. Postmodern Wetlands: Culture, History, Ecology (Edinburgh University Press, 1996)
  2. Western Australian Wetlands: The Kimberley and South-West, co-edited with Hugh Webb (Perth: Black Swan Press and the Wetlands Conservation Society, 1996)
  3. Living with the Earth: Mastery to Mutuality (Cambridge: Salt Publishing, 2004)
  4. Forrestdale: People and Place (Bassendean: Access Press, 2006)
  5. Sublime Communication Technologies (Houndmills: Palgrave Macmillan, 2008)
  6. The Body of Nature and Culture (Houndmills: Palgrave Macmillan, 2008)
  7. Landscapes of Culture and Nature (Houndmills: Palgrave Macmillan, 2009)
  8. People and Places of Nature and Culture (Bristol: Intellect Books, 2011)
  9. Photography and Landscape, co-authored with Juha Tolonen (Bristol: Intellect Books, 2012)
  10. Black Swan Lake: Life of a Wetland (Bristol: Intellect Books, 2013)
  11. Canadian Wetlands: Places and People (Bristol: Intellect Books, 2014)
  12. Cities and Wetlands: The Return of the Repressed in Nature and Culture (London: Bloomsbury, 2016)
  13. Environmental Humanities and Theologies: Ecoculture, Literature and the Bible (London: Routledge, 2018)
  14. Environmental Humanities and the Uncanny: Ecoculture, Literature and Religion (London: Routledge, 2019)
  15. Psychoanalytic Ecology: The Talking Cure for Environmental Illness and Health (London: Routledge, 2019)
  16. Modern Melbourne: City and Site of Nature and Culture (Bristol: Intellect Books, 2020)
  17. New Lives of the Saints: Twelve Environmental Apostles (Lanham, Maryland: Hamilton Books, 2020)
  18. Wetlands and Western Cultures: Denigration to Conservation (Lanham, Maryland: Lexington Books, 2021)
  19. Black Swan Song: Life and Work of a Wetland Writer (Lanham, Maryland: Hamilton Books, 2021)
  20. Wetland Cultures: Ancient, Traditional, Contemporary (Palgrave Macmillan, 2024)
  21. Waking to Nature with Thoreau and Benjamin: Or, Psychopolitical Ecology (Bloomsbury, 2025)

主な論文

  1. Giblett, Rod. "Theology of wetlands: Tolkien and Beowulf on marshes and their monsters." Green Letters: Studies in Ecocriticism, vol. 19, no. 2, 2015, pp. 132–143. doi:10.1080/14688417.2015.1019910
  2. Giblett, Rod. "Wetland Plants and Aboriginal Paludiculture in North- and South-Eastern Australia." Plant Perspectives, 2024.

思想・考え方

ギブレットは、西洋近代が湿地湿原マングローブなど)を「排除すべき他者」として位置づけてきたことを批判する。彼は文学批評・哲学・精神分析・文化研究を横断しながら、湿地が単なる自然空間ではなく、文化的・心理的な意味の場であることを論じてきた。

精神分析的生態学の観点から、ギブレットは「都市とは湿地を埋め立てる意志の症状である」と主張する。フロイトの「抑圧されたものの回帰(return of the repressed)」の概念を応用し、近代都市の水辺文化や下水・氾濫の歴史が、かつての湿地の記憶を文学・芸術・都市神話のなかに繰り返し呼び起こしていると論じた。[11]

また、湿地を「大地の怪物的な下層(grotesque lower earthly stratum)」と呼び、ミハイル・バフチンのカーニバル的身体論と接続させた。湿地は社会の秩序を転倒させる生命の胎盤であり、男性的・帝国主義的な「開発」の論理に対抗する場として捉え直している。[12]

ギブレットの思想的英雄はヘンリー・デイヴィッド・ソローヴァルター・ベンヤミンであり、両者を環境人文学の文脈で再読することで、自然と文化、記憶と場所の関係を探求し続けている。[13]

さらに、「保全反神学(conservation counter-theology)」という枠組みを通じて、聖書的・キリスト教的な自然観が環境破壊の文化的根拠となってきたことを批判する一方、環境保全の観点から聖典を再読する可能性も探っている。自身が宣教師の子として生まれ、後に脱キリスト教的立場をとるようになった経歴は、この思想形成と深く結びついている。[14]

発言

ギブレットの思想の理解を助けるため、キーワードごとに分類した彼自身の説明等の発言を以下に引用する。

湿地と西洋文化
「沼地や湿地は、西洋文化においてずっと恐怖と病の場として描かれ、排水され、埋め立てられるべきものとして扱われてきました。この研究は、そのような表象を批判的に問い直すものです。」
(原文:"Swamps and marshes have traditionally been regarded as places of horror and ill health in western culture — places to be feared, drained and filled.")[15]
都市と湿地の抑圧
「ニューオーリンズからニューヨーク、ロンドンからパリ、ヴェネツィアまで、世界の偉大な都市の多くは湿地や沼の上に築かれています。にもかかわらず、その事実はほとんど語られることがありません。」
(原文:"From New Orleans to New York, from London to Paris to Venice, many of the world's great cities were built on wetlands and swamps.")[16]
精神分析的生態学
「都市とは、湿地を埋め立てようとする意志の症状なのです。採掘業や牧畜業が示す貪欲と暴食もまた、精神地病理(psychogeopathology)として読み解くことができます。」
(原文:"The city is a symptom of the will to fill or drain wetlands. This book engages in a talking cure of psychogeopathology manifested also in industries, such as mining and pastoralism, that practice greed and gluttony.")[17]
湿地と身体・生命
「湿地は大地の『下なる層』であり、同時に新たな命の胎盤でもあります。沼は死の場ではなく、誕生と豊饒の場として読み直されるべきなのです。」
(原文:"Wetlands are wombs of new life. Wombs are also watery spaces of new life.")[18]
思想的英雄について
「私の英雄はヴァルター・ベンヤミンとヘンリー・デイヴィッド・ソローです。私の著作の多くは、その一方または両方と向き合っています。」
(原文:"His heroes are Walter Benjamin and Henry David Thoreau. Many of his books engage with either or both of these thinkers and writers.")[19]

関連項目

脚注

外部リンク

Related Articles

Wikiwand AI