偽典
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偽典(ぎてん、英: pseudepigrapha 古希: ψευδεπιγραφία(偽りの著書名))とは元来のギリシャ語の意味および広義には、偽りの著作者名に帰せられた作品。つまり主張されている作者が真の作者ではない文書。作者名を偽った動機として、著作者が自身の主張を過去の著名な人物の主張であったと騙るケースや、後代の人物が既存の文書に対して勝手に偽の作者名を付した可能性が考えられる。
作品が偽って帰属された作者の名前に「偽-」という接頭辞を付ける用法があり、例えば「偽アリストテレス」や「偽ディオニュシオス・ホ・アレオパギテース」の場合、それぞれアリストテレスとディオニュシオス・ホ・アレオパギテースに偽って帰属された作品を書いた、匿名の実際の著作者を指す。
転じて宗教用語としてあるいは学問としての聖書学の分野でも使用されるが、ユダヤ教・キリスト教・イスラム教などアブラハムの宗教の各宗派内での偽典の定義およびそれが指し示す対象はそれぞれ異なる。偽典という用語を使用しない宗派もある。
概説
前述の通り偽典に分類される文書は宗派ごとにその対象が異なるが、ユダヤ教・キリスト教文書群の中で正典・外典に含まれない書物の総称という便宜的な意味合いが一般的である。そうした用法において、紀元前3世紀から紀元後1世紀頃にかけて成立したとみられるヘブライ語、アラム語、ギリシア語などで書かれた文書を指すことが多い。それらはユダヤ教のタナハあるいはキリスト教における旧約聖書の正典にも第二正典や外典としても採用されなかった書物という文脈で捉えられている。
とはいえ新約聖書が書かれた時代やそれ以降に成立したキリスト教的な内容の文書群の中にも「使徒パウロの祈り」「ラオデキア人への手紙」「ペテロの黙示録」や「偽メトディウスの黙示録」など、当時の評価でも宗派や正典リストの策定者ごとに意見が割れ、正典とも偽典とも見做されたものが多数存在する。そのため偽典と称すべき対象は旧約聖書の範疇に限定されない。また歴史的事実として「ヨハネの黙示録」は正典に含めるか否かに長く議論があった文書で、著者名を偽った書物という意味では古くからその指摘があり、宗派により時期によっては「ヨハネの黙示録」も偽典と公的に位置づけられていた。21世紀の現代においても東方教会系の一部においては「ヨハネの黙示録」が正典に含まれていない。
他方で、正典に含まれない書物は一律に外典としてみなす考え方もある。その上で、外典の中に含まれる偽典とそうでない物を原義の通り著書名の真偽に従って分けて論じる立場や、偽典という呼称をあえて全く用いない立場もある。
なお高等批評の見地からは、正典に含まれている文書もその多くが後代に著述された広義(原義)の偽典と判断されているのが実情である。しかし伝統的なキリスト教の観点では、表向きは聖書に原義の偽典は含まれない。特に新約聖書の正典を定める過程においては、その書物が使徒に真正に由来し使徒が書いたり口述筆記させたであろうことが重要視されていたためである。
繰り返しになるが、偽典をさす古希: ψευδεπιγραφίαは、「偽りの著書名」という意味である。しかし古代教会においては「本来の著者名を偽った書物」という意味から「内容も不確かな書物」へと語義の解釈を拡大していったため、偽典には異端という否定的な意味合いが強く含まれていた。
偽典の例
偽典の定義や分類は非常に流動的であり、下記の物が偽典であると正確に定義されているわけではない。
また宗教は人類の歴史上、政治と切り離せないものであり「今日の偽典が明日の正典」となる可能性に注意されたい。
- 偽クレメンス文書
- ディダスカリア
- Apostolic constitution
- アダムとイヴの生涯[1]
- アリステアスの手紙
- 第三マカベア書
- 第四マカベア書
- シビュラの託宣
- スラヴ語エノク書
- ピルケ・アボス
- ヨベル書
- エチオピア語エノク書
- ソロモンの詩篇
- シリア語バルク黙示録
- ギリシア語バルク黙示録[2]
- 第四エズラ書(第二エスドラス書)
- 十二族長の遺訓
- イザヤの殉教
- モーセの遺訓[3]
- アブラハムの遺訓
- ヨブの遺訓
- 預言者の生涯
- ヨセフとアセナテ
- 共同体の規則
- ダマスコ文書
- 戦いの巻物
- ハバクク書注解
- 外典創世記
- 感謝の詩篇(ホダーヨート)
- 神殿の巻物
- 賢者アヒカルの物語
- フィロンの聖書古代誌