「太平記」巻第二十九「光明寺合戦の事付師直怪異の事」には下記の逸話が記載されている。
高師直の陣中に、無文の白旗が一流れ天より降って来た。よくよく見れば旗ではなく、反古(書き損じの紙)を2,30枚継ぎ集めたもので、裏に二首の和歌が書いてあった。
吉野山 峯の嵐の はげしさに 高き梢の 花ぞ散り行く
限りあれば 秋も暮れぬと 武蔵野の 草はみながら 霜枯れにけり
師直は近くの者に、「この歌の吉凶はどうであろう」と訊ねた。『高き梢の 花ぞ散り行く』とあるは、高家の人が亡ぶということであろう。しかも『吉野山 峯の嵐の はげしさに』とあるのも、先年蔵王堂を焼いた罪を一人で被るという意味だ。『武蔵野の 草はみながら 霜枯れにけり』とあるも、師直(武蔵守)の領地の国なれば、どれも不吉な歌だと恐ろしく思ったが、後難を恐れて皆「おめでたい歌でございます」と答えた。