公共貨幣
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歴史上、近代の銀行制度が普及する以前までに流通した貨幣は、その多くが公共貨幣であった。たとえば、古代ギリシャのエレクトロン貨、日本の和同開珎、藩札、太政官札などは、公共貨幣である。
銀行制度が普及し、銀行券、要求払預金などの債務貨幣の流通量が増大するのにともなって、公共貨幣の流通量が縮小されたが、今日でも政府発行貨幣として公共貨幣は存続している。
日本政府が現在発行している硬貨(1円、5円、10円、50円、100円、500円の硬貨および10000円以下の記念硬貨)は、公共機関である政府が発行する政府貨幣であり、これらも公共貨幣に含まれる[5]。
公共貨幣と債務貨幣の具体例とその理由
硬貨(1円、5円、10円、50円、100円、500円の硬貨および10000円以下の記念硬貨): 公共貨幣である。(この通貨の発行には債務の発生は伴わない)
日銀当座預金(日本銀行券の還流・未発行分): 債務貨幣である。(国債などの債務証書の購入によって生じる)
日本銀行券(1000円、5000円、10000円): 債務貨幣である。(国債などの債務証書の発行によって生じる日銀当座預金によって生じる)
民間銀行の要求払預金: 債務貨幣である。(債務証書の引き受けまたは債務貨幣の預金によって生じる)
- 要求払預金は、そのままの姿で支払い手段として流通する。
公共貨幣の基本思想
貨幣とは、お金またはマネー(money)と同義であり、それは「財・サービスの価値情報、及びそのメディア(媒体)の総体で、財・サービスとの交換や保蔵ができるもの」と一般的に定義される。それは、社会的分業を前提とする人類社会において、普遍的であり、最も重要なインフラの一つである。
貨幣は、公共貨幣(public money)と債務貨幣(debt money)に大別される。公共貨幣は、公共機関の貨幣発行権に基づいて発行される。他方、債務貨幣は、だれかの債務と引き換えに発行される。人類の歴史における主な貨幣は長らく公共貨幣であったが、銀行制度が発達する近代から現代にかけて債務貨幣が主流となった。
公共のインフラとしての貨幣は、その種類(公共貨幣または債務貨幣)によって、それぞれ特有の発行・流通・消滅のプロセスを持っている。その一連のプロセスを総体的なシステムとしてとらえ、マクロ経済学、会計システムダイナミクス[6] などの手法によって分析する。
債務貨幣と公共貨幣の比較
今日の各国の貨幣システムは、債務貨幣システムである。債務貨幣システムにおいては、貨幣量は基本的に、信用創造(市中銀行の貸付)によって増加し、信用収縮(貸付の返却)によって減少する。好況時には信用創造が景気を更に過熱させ、いったん不況に転ずると信用収縮が景気を更に悪化させる。
不況時には民間の消費需要が落ち込むので、政府が民間に代わって消費需要を作り出す必要にせまられる。このとき政府が債務を負って(国債を発行して)、その引き換えに貨幣(財源)を作り出し、財政出動(政府による消費需要の創造)を行う。しかし、財政出動により流通貨幣量(マネーストック)が増えて、一時的に消費需要が増えても、民間の新たな資金需要がなければ、増加した貨幣は投資へと循環せずに蓄蔵され(貨幣流通速度の低下)、持続的な景気回復には結び付かない。
債務貨幣システムにおける貨幣創造は、信用創造(市中銀行の貸付)によって行われるために、そこに利子がともなう。利子は資金需要者から広く集められ、市中銀行の配当として銀行株主へと流れ、経済格差を拡大させる。不況時の国債発行にともなう利払費もまた、主な国債購入者である市中銀行へと流れ、これもまた経済格差を拡大させる。こうした格差拡大の結果、増大した貨幣の多くが低所得層には行きわたらずに、不況時には貨幣が蓄蔵される傾向を強める。
公共貨幣システムにおいては、貨幣は公共機関(国家)が計画的に発行するため、景気変動を助長することがない。また、それは債務とは無関係に発行されるため、経済格差を生み出さない。したがって、公共貨幣システムは、持続的で安定的な経済発展に寄与するものである。
公共貨幣システム
公共貨幣は、公共機関(国家)の資産として生み出され、公共機関(国家)の消費行動(財政投入)を通して社会に流通し、租税として流通過程から回収される。貨幣の総流通量は、総貨幣投入量から総課税量を差し引くことによって決定される。
市中銀行による信用創造は停止する。それは、市中銀行の要求払預金に対して預金準備率100%を義務付けることを意味する(定期性預金については部分準備が許される)。これによって、信用創造が総流通貨幣量に影響を及ぼすことを防止する。
中央銀行は、株式上場または民間からの出資を廃止して、国家機関に組み入れられ、国家(政府)の貨幣政策に基いて貨幣実務および国庫事務を執り行う。
日本国の場合について、『公共貨幣』(山口)では、以下の提案がなされている。「日本銀行」を「公共貨幣庫」に名称変更をしたうえで、「公共貨幣委員会」の管轄下に置く。公共貨幣委員は国会により任命され、公共貨幣の発行量を決定する。その決定は、マクロ貨幣モデルを構築して行い、決定プロセスは広く国民がシミュレーション検証できるように全面的に公開される。
公共貨幣システムへの移行の手順
債務貨幣システムから公共貨幣システムへの移行のプロセスは、各国の経済状態によって異なるが、『公共貨幣』(山口)に準じて、日本の場合のプロセスを想定する。
(1)政府は、日銀のジャスダック上場を廃止し、国家機関に組み入れ、公共貨幣庫と名称変更をする。
(2)政府は、国債発行残高に相当する公共貨幣(約1,000兆円)を発行し、それを公共貨幣庫に預け入れ、その見返りとして政府預金(約1,000兆円)を用意する。
(3)政府は、公共貨幣を使って、公共貨幣庫(旧日銀)が保有する国債(約500兆円)を前倒しで償還する。
(4)政府は、公共貨幣を使って、市中が保有する国債(約500兆円)を償還期日に順次償還する(保有者の希望があれば前倒し償還も可)。この結果、市中銀行が公共貨幣庫に保有する準備預金が要求払預金(市中銀行の負債)を上回り、預金準備率100%が実現する。
(5)市中に流通している日銀券(発行銀行券)は、順次、公共貨幣(紙幣)に置き換える。①市中から還流した日銀券は、再度流通に回されることなく、すべて廃棄する。②民間が市中銀行に対して預金の現金化要求をし、銀行が準備預金から現金を引き出すときには、公共貨幣(紙幣・硬貨)を流通させる。
以上で、債務貨幣システムから公共貨幣システムへの移行が完了する。このプロセスをとおして、流通貨幣量(マネーストック)は変動しない。ただし、政府は、この期間においても必要に応じて追加の公共貨幣発行により政府預金を用意して、流通貨幣量(マネーストック)に影響を与えることができる。
公共貨幣システムにおける金利
公共貨幣システムと銀行
市中銀行は、一般に「金融仲介」「信用創造」「決済」の三つの機能を持つと言われている。公共貨幣システムのもとでは、このうち「信用創造」機能がなくなり、「金融仲介」と「決済」の二つの機能が残される。したがって、公共貨幣システムへの移行は、市中銀行にとって不利益であるという見方もある。ただし、不況下ではすでに「信用創造」が低調になっており、それが銀行危機の一因ともなっている。したがって、「信用創造」にたよった銀行のビジネスモデル自体を見直す必要に迫られていることもまた確かである。
また、債務貨幣システムのもとでは、景気の悪化にともなって政府が利付国債を銀行に販売し、それを財源として予算を執行することによって、結果的に貨幣(要求払預金)が創造される。そのプロセスをとおして、国費の少なくない部分が利払費として銀行に支払われ、それが銀行危機を緩和している側面もある。しかし同時に、国費が自動的に銀行に移転する貨幣システムは、景気の回復を遅らせる要因となっており、銀行の「金融仲介」「決済」の二つの機能にも悪影響を及ぼす。したがって、公共貨幣システムへの移行にともなう経済の活性化は、むしろ銀行の再生の手助けともなりうる。