子どもの自殺
From Wikipedia, the free encyclopedia
子どもの自殺(こどものじさつ)とは、未成年者である、主に小中高生が自らの生命を絶つこと、自殺を示す[1]。
WHOによると、自殺は15~29歳の若者の死亡原因の第3位である。なお、世界の自殺の73%は低所得国および中所得国で発生し、紛争、災害、暴力、虐待、喪失、孤立感などの経験は、自殺行動と強く関連している。WHOは、各国が自殺防止対策を講じることを提唱している[2]。ユニセフの2020年発表によると、日本は子どもの幸福度の総合順位で38カ国中20位であった[3]。ユニセフは2023年に子ども・若者向けメンタルヘルス支援をSDGsの柱として強化した[4]。
OECDは、研究者たちが若者の自殺には、精神疾患、突発的な危機や生活上のストレスとの関連性を明らかにしているため、精神病理学的変化の多くは幼少期および青年期に発症することからその介入に力を入れるプログラムである若者のメンタルヘルス意識向上プログラム(YAM)を実施した。16か国で85,000人以上のティーンエイジャーがYAMに参加し、YAMが若者の自殺予防に効果的であるとしている[5]。なお、アフリカ、アメリカ、アジアの低・中所得国を中心とした世界70か国の孤独調査では、いじめ対策は世界共通の孤独感の予防策となる可能性を示唆している[6]。
文科省資料によると日本における小中高生の自殺者数は、増加傾向にあり令和6年の暫定値では527人となり、統計のある1980(昭和55)年以降で最多を記録した[7]。翌2026年度も小中高校生の自殺者数は529人と、統計のある昭和55年以降で最多となった[8]。日本の自殺全体では減少傾向にあるが子どもの自殺者数は増加傾向にあるため、令和4年策定の第4次自殺総合対策大綱では子ども・若者の対策が重点項目に位置づけられた。しかし増加は止まらず、男女別統計では、男性は減少したが、女性は増加傾向にあり、特に女子高校生で顕著で男性を上回った。かつ、女子小学生や女子高校生では、自殺未遂後の1か月内での自殺既遂の割合が高い[9]。
2025年版自殺対策白書でも、子どもの自殺は529人と最多であり、15歳から29歳の若者も3000人以上となっている[10]。認定NPOキッズドアは2024年度統計では、日本の小中高生は1週間で約10人自殺していると呼びかけ、その理由の半数が不明である状況から、詳細調査が行われない現状の課題を指摘している[11]。
自殺未遂
自殺対策基本法が2006年に施行され、日本の自殺者の総数は減少傾向にあるが、子どもの自殺者数は増加傾向が続く。10代における死亡原因の第1位が「自殺」であるのは、G7で日本だけとなっている[9]。これにより、2025年自殺対策基本法の一部を改正され、子どもの自殺の防止等に係る国の責務の改正及び学校の責務の追加された[12]。統計では、男性は2019年、女性は2020年以降自殺者数が増加し特に高校生が増えている。毎年高校生は300人を超えている。ただし30歳以下の男性のピークは20代前半であり、女性は最新データの2023年は21歳が頂点となっている。県別では、福岡県、北海道、千葉県、埼玉県、東京都、愛知県が増加している[13]。
2022年運用開始の救命救急センターを対象とした自傷・自殺未遂者の登録システムである自傷・自殺未遂レジストリ(JAPAN Registry of Self-harm and Suicide Attempts)によると、18歳以下の症例グループのうち75.3%が女性であり、過量服薬が6割以上と最も多く次いで飛び降りが2割弱であった[13]。
日本財団によると、児童虐待相談件数や不登校件数の増加を背景に、SNSいじめも増加し子どもの貧困による格差の拡大も影響しているとしている。これらの解決のため、子ども家庭庁が2023年4月に発足したことを紹介している[14]。女子の自殺者の高まりは、SNSを介した性被害やグルーミング、ルッキズム、経済困窮による進路選択の狭まりの可能性を指摘する報道がある。また、自殺未遂者は元々男子の3倍近かったことから、既遂になることが増えた可能性も示唆している[15]。
また、学校関係でも2023年度小中学校の不登校児は34万人余となり過去最多を更新し続け[16]、厚生労働省が公表した過去1年間の自殺者のうち児童・生徒は527人でこちらも過去最多となっている[17]。全国の小中学校や高校などの2023年度認知いじめ件数は、過去最多の73万余となり、うち「重大事態」も初の1千件を超えとなった[18]。
報道による著名人自殺による若者の後追い自殺という問題もある。小中高校生が統計上突出して401人も自殺した1986年(昭和61年)は、人気アイドル・岡田有希子(享年18)が投身自殺をしてその死から2週間ほどで40人を超える若者が命を絶ったと言われている[19][20]。なお同年には中野富士見中学いじめ自殺事件も起こっており、自殺した少年は担任を含めたクラスからの「葬式ごっこ」を行われており、遺書に「このままじゃ生きジゴクになっちゃうよ」と書き残し社会に大きな衝撃を与えた[21]。
自殺連鎖を示す「群発自殺」も確認されており、特に子どもは他者の自殺の影響を受けやすいことが指摘されている[22]。
また、自殺未遂により回復の見込みなく植物人間状態で入院状態が続く問題もある[23]。介護士によると、首つりに失敗して要介護になるケースは多く残りの生涯を介護士におむつ交換などされる生活となる。一命は取り留めたが身体リスクを負った方は自損行為者総数の約60%であり、3人に2人とされている[24]。自殺企図等による搬送事案数も、小学生(相当)を含めて著しく増加していると、令和6年度こども家庭庁補助事業「こどもの自殺の多角的な要因分析に関する調査研究」報告書で明らかになっている[25]。ある家庭では、高校入学後にいじめに耐えられないと自殺を図った女性が意識がない状況で11年が経過し、親はいじめを認めさせるために教育改善委員会に何度も調査を依頼した。いじめは認定されたものの、年数が経ったことで加害者の複数人と連絡がとれない状況となっていることが報道された。学校における働き方改革が進まず、教員多忙による見逃しが指摘されているが、いじめ通報アプリを導入する市や教員間の問題共有アプリを活用する自治体もある。またアメリカでは生徒にいじめをなくす活動してもらい効果を検証している[26]。
対策方針
2025年11月、政府は「子供の自殺が起きたときの背景調査指針の改定案」についてパブリックコメントを実施する[27]。
動機
判明した動機では家庭と学校の問題が多い。精神疾患を含めた健康問題、学業不振、入試に関する悩み、いじめなどがある。学校の休み明けである9月1日が最多であることが分かっている[13][13]。
精神疾患
精神疾患の初回発症は10代~20代前半に集中しているが、早期支援が最も必要な若者層が最も支援を求めたがらない傾向にあると共に、低年齢群ほど自らの精神障害を認識しにくいという課題がある[28]。専門医は早期治療の重要性を訴えている[29]。偏見により早期受診を妨げている問題が指摘されている[30]。市販薬によるオーバードーズ(過剰摂取、OD)が若者の間に広がり死亡例もあると報道されている[31]。
家庭
子ども時代の虐待経験者は「自殺未遂」を12.2倍起こしやすいとの研究もある。虐待の後遺症に苦しむ人々にトラウマケアを求める声もある[32]。支援団体の調査によると、虐待サバイバーの91.1%が自殺を考えたことがある[33]。
兄からの性的虐待を受けていたと書き残した10代の女性など、新宿歌舞伎町内の「シネシティ広場」周辺、通称「トー横」と呼ばれる一帯での投身自殺が相次いでいる[34]。また父親から性的虐待をされた小学校6年生が投身自殺した疑いなど児童虐待が要因の自殺が報道されている[35]。兄からの性被害を避けるため入浴をやめて学校でいじめにあい、PTSDを発症し複数回自殺を試みた女性の事例もある。当人は家庭への強制介入を望むと語っている[36]。
警察の2024年度摘発虐待件数での虐待事件被害は児童2700人に登り、「身体的虐待」が2千件を越え最多であるものの、431件であった「性的虐待」も10年間で3.7倍に増加した[37]。
学校
旭川女子中学生いじめ凍死事件では集団性的暴行やわいせつ画像の強要などによるいじめが原因で不登校になり、2021年に女子中学生が自殺をした[38]。1994年に、愛知県西尾市内の中学2年生がいじめによる自死をしたことを始め、いじめに起因した自殺について日本弁護士連合会は「子どもの人権110番」「こどもの悩みごと相談」を設置して尽力してきたことを述べ、政府にも対策を強化するよう声明を出している[39]。SNSに関する性被害は増加し、年齢に関わりなく児童ポルノ所持は犯罪であり処罰対象となっている[40][41]。
また、教師による叱責や暴力などの指導を起因とした指導死が起こり裁判となっている事案もある[42]。
自殺の増加と同時に、「いじめ」がおよそ77万件で「重大事態」ともに過去最多を記録し、また学校での暴力行為の件数も12万8859件と過去最多となっている[43]。
令和6年度の小・中学校における長期欠席者数は506,970人、高等学校における長期欠席者数は103,608人で高等学校では減少したものの、小中では増加している[44]。
インターネット環境
ブログなどへのSNSへの誹謗中傷や出会い系サイトを通じての性搾取、自殺系サイトも子どもの心身に大きな影響を与えることが指摘されている[45]。
座間9人殺害事件においては、希死念慮を持った複数の女子高校生らが犯人とインターネットを通じて遭遇し、一緒に死のうと虚言で呼び出され、性的暴行の末殺害された[46]。
災害共済給付金
現在では独立行政法人日本スポーツ振興センター(JSC)が支給する「災害共済給付金」は子どもが学校内の問題を苦に自殺したケース及び自殺未遂のけが・後遺症も給付対象となるが、学校を通じての請求となることから学校の誤認や非協力による不受理がある。このため文科省は遺族等から請求を受け取った場合には学校には審査権はないため、速やかにJSCに送付するよう通知を発出した[47][48]。
対策
子どもの自殺に特化し、要因を分析して早期リスク要因発見、電話・SNS等を活用した相談体制の整備を政府では始めている[9]。 政府は、学生・生徒への支援充実、SOSの出し方に関する教育の推進、子ども・若者への支援や若者の特性に応じた支援の充実、知人等への支援、子ども・若者の自殺対策を推進するための体制整備を対策として掲げている[49]。
文部科学省ではスクールカウンセラー制度を設けている。また、一般社団法人日本いのちの電話連盟では「いのちの電話」を開設している。
2025年度「自殺対策白書」において、若年層対策として、ひきこもり、児童虐待、性犯罪・性暴力の被害者、生活困窮者、ひとり親家庭に対する支援を述べている[50]。
しかし、LINEなどのSNSによる防止対策は、相談開始から自殺者が増加傾向にあることから検証が必要と報道されている[51]。
10歳時のいじめを受けた経験や養育者の心理的負荷が高いことが、持続的に孤独感を感じさせ孤独感が増大する要因との研究があり、それらへの支援がその後も含めた自殺事象の軽減に繋がるとの提言がある[52]。
相談先
法務省は子どもの人権110番を設置している。法務省子どもの人権110番の電話番号は0120-007-110である。最寄りの法務局につながり、相談は法務局職員又は人権擁護委員が行う。一部のIP電話からは接続できず、その場合には法務局内に掲載されている電話番号を利用するようになっている[53]。
東京弁護士会なども、いじめ・不登校・体罰・虐待等に関する子どもの人権110番を設置している。東京弁護士会子どもの人権110番電話番号は03-3503-0110である。この電話は子どもシェルターの窓口にもつながっている[54]。
年表
2009年
- 文部科学省 「教師が知っておきたい子どもの自殺予防」のマニュアル及びリーフレットの作成[55]。
2013年
- いじめ防止対策推進法施行
2019年
- 国連子どもの権利委員会より、児童の自殺原因の調査研究のうえ防止措置を行うよう勧告が出た[56]。
2022年
- 第4次自殺総合対策大綱策定
2023年
- 子ども庁開設、その組織に子どもの自殺対策室が設置された。
- 議長をこども政策担当大臣とした「こどもの自殺対策に関する関係省庁連絡会議」開催、「こどもの自殺対策緊急強化プラン」とりまとめ。
- 令和5年度こども家庭庁委託事業「こどもの自殺の多角的な要因分析に関する調査研究報告書」取りまとめ[57]
2024年
- こどもの自殺の要因分析実施
- 令和6年度こども政策推進事業費補助金(こどもの自殺対策推進事業)「こどもの自殺の多角的な要因分析に関する調査研究報告書」取りまとめ[58]
2025年
- 自殺対策基本法の一部を改正
