就業保証プログラム

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就業保証プログラム(しゅうぎょうほしょうプログラム)または雇用保障プログラム(こようほしょうプログラム、英:Job Guarantee Program,JGP)は、政府最後の雇用主となり、希望するすべての人に公共部門での最低限の雇用を提供する政策[1][2]完全雇用と物価の安定を目的とする。

JGP理論は、しばしば特定のポストケインズ系経済学者と関連付けられており、[3]特に、完全雇用と公平性センターニューカッスル大学、オーストラリア)、レヴィ経済研究所バード大学)、ミズーリ大学カンザスシティ校(傘下の完全雇用と物価安定センターを含む)でその理論が支持されている。[4]

JGP理論は1965年にハイマン・ミンスキーによって提唱された。[5]その後、JGP理論は、ビル・ミッチェル(1998年)、ウォーレン・モズラー(1997-98年)によって独立に考案されていった。[6]この研究はその後、 L・ランダル・レイ(1998年)によってさらに発展された。[7]これらの包括的な扱いは、 Mitchell and Muysken (2008)でまとめられている。[8]

JGPの概要

1960年末のNAIRU理論以降、現在世界中で支配的な経済政策スタンスは、インフレを抑制するための政策手段として失業を利用している。[9]インフレが上昇すると、政府は失業者のバッファーストック(緩衝在庫)を作り、賃金要求を減らし、最終的にインフレを抑えることを目的として、緊縮財政政策または利上げを実施する。[10] インフレ期待が低下すると、拡張政策はその逆の効果を生み出すことを目指す。対照的に、就業保証プログラムでは、雇用者(JGPで雇用されている人々)のバッファーストックは、通常、失業の社会的コストなしでインフレに対する同様の保護を提供することを目的としており、したがって、完全雇用と物価安定という二重の使命を達成する可能性がある。[1]

就業保証は、バッファーストックの原則に基づいており、公共部門は働く意思と能力のある人なら誰にでも固定賃金の仕事を提供することで、雇用労働者のバッファーストックを確立・維持する。[11][12]このバッファーストックは、今日の失業者バッファーストックと同様に、民間部門の活動が低下すると拡大し、民間部門の活動が拡大すると減少する。[12]

このように、就業保証は民間部門の流動化に伴う実質コストを最小限に抑える吸収機能を果たす。民間部門の雇用が減少すると、公共部門の雇用は自動的に反応し、雇用者数を増やす。そのため、不況時には、公共部門の雇用増加は政府純支出を増加させ、総需要と経済を刺激する。逆に好況時には、労働者が雇用保証の仕事から高賃金の民間部門の仕事に移ることで公共部門の雇用と支出が減少すると、景気刺激効果が弱まるため、就業保証はインフレを抑制する自動安定装置として機能する。 [13]国は常に完全雇用を維持し、民間部門と公共部門の雇用比率は変化する。[14]就業保証賃金はすべての人に開かれているため、どのような賃金に設定してもいずれその国の最低賃金となる。[15][16]

まとめると以下の通りである。

1、完全雇用の実現

政府が最終的な雇用主となることで、景気の変動や民間部門の雇用機会の不足に関わらず、失業を根源的に解消することが可能となる。また、失業を放置して労働者の労働習慣を奪うことを抑制し、[17]個人の雇用可能性を維持できる。

2、自動安定化装置として機能

不況時に雇用を吸収し、好況時には民間に移行することで、景気の自動的な調整弁として機能し、労働市場の需給バランスを容易に調整できる。[18]

3、労働者への搾取の防止

生活賃金を保障し、低賃金労働を是正する。[11]また、低賃金労働に頼る一部企業(いわゆるブラック企業)を淘汰し、健全な労働環境の担保を促進する。

4、賃金フロアの設定

JGP賃金が実質的に賃金の下限(民間雇用の最低賃金)として機能し、景気が加熱した際のインフレ抑制装置として機能し、同時に過度な賃金低下も抑制することで労働市場の安定化にも寄与する。

5、社会的価値の創出

環境保全や福祉など市場経済において軽視されがちな分野に人材を投入できる。同時にそうした業界で従事する労働者の報酬を担保することにも繋がる。

6、包摂的な社会の構築

失業による貧困や治安悪化、健康悪化などを防止し、安定的な雇用の提供を通じた包摂的な社会の構築を目指せる。

7、望まない失業の抑止

働きたい人が自由に働ける権利を保障し[19]、望まない失業を防ぐことで個人の経済的自立及び生活の安定を支えられる。

8、政府雇用による安定性

政府が最終的な雇用主となることで、民間部門による搾取や労働環境の悪化を抑止し、長期的な雇用の安定性を担保する。

9、労働者の能力養成(on-the-job training, OJT)

失業者をJGPで雇用することで、失業者に社会訓練を行い、個人の能力を養成・向上できる。それにより、 JGPが将来的な民間部門や他の公共部門への社会復帰の準備段階としても機能する。

具体的な業務内容

JGPの業務内容を営利分野ではなく社会的に意義のある公共性の高い非営利分野に設定する。概ね次のようなものが考えられるが、秘密事項に抵触せず危険作業も少ない非専門的部分に限定した中で、具体的な業務内容はその地域のニーズに即した分野を地域住民たちで決めることになる。よって、包括的・一般的であるよりは、それぞれの地域に根差した必要性・創意工夫から提案され、地域ごとに多種多様な業務が生まれることをJGP推進派は想定する。業務内容は地域で決めるが、JGP雇用の賃金は政府支出で行う。[20]

  • 介護、医療関連の業務補助
  • ごみ拾いなどの美化/清掃活動
  • 大学等の研究機関や図書館等のアーカイブ整理
  • 地域の情報発信や広報活動補助
  • 森林保全事業
  • 地域イベントや観光案内の補助
  • 屋根の雪下ろし作業支援
  • 海難防止活動支援
  • 地域の文化・史跡等の保全活動
  • 簡易な公共工事

JGP批判派の主張

前段のようなJGP賛同派の主張がある一方、公共事業や政府の裁量的な財政政策に否定的な経済学者からは次のような批判がなされている。

1、生産性の低下・実質的雇用にならない懸念

一部の批判派は、JGPで提供される仕事が必ずしも高い付加価値を伴わず、「見せかけの雇用」や隠れ失業のような状態になる可能性を指摘する。[21] また、JGPの待遇が民間部門の低賃金雇用と競合してしまうと、民間の生産性の高い仕事が減少するというリスクを指摘する論者もいる。[22]

2、中小企業への影響・民間部門との競合

JGPが賃金フロアとなることで中小零細企業や労働集約産業にとっては人件費負担の増加が致命的になる可能性がある、という懸念がある。 さらに、JGP労働内容が民間分野と競合する業務であれば、民間部門から人手を吸引し、業界全体を弱らせる可能性を指摘する声もある。[23]

3、財政負担の転嫁・コスト抑制の限界

JGP導入には巨額の財政支出を伴う可能性があり[24]、その負担を軽視してはならないとの批判がある。さらに、このコストは税や物価を通じて国民に転嫁されてしまうとの意見もある。

4、労働と報酬の価値関係の歪み

民間部門では、労働者が企業にもたらす価値・生産性に応じて賃金が設定されるという考えが一般的であるが、批判派はJGPが軽微な労働に対しても高めの報酬を与える設計を取れば、報酬と仕事内容の乖離が広がり、制度依存を強めてしまう恐れを指摘する。[25]

5、労働力移転の不確実性

JGPにおいては、好況期民間企業がJGP労働者に対してJGP賃金より高い報酬を提示することで労働者が民間部門に移り、物価や景気が安定するとされている。

しかし、一部の経済学者は次のような理由で、JGP労働者の移動に対して懐疑的である。[26]

  • 企業にとっては最低でもJGP賃金より高い報酬を提示する必要がある点。
  • 労働者にとっては半永久的な雇用が保証されているJGPから、倒産や解雇が有り得る民間企業へ転職することへの心理的障壁がある点。[27]
  • JGPで雇用されるすべての労働者が民間企業においても労働できる者とは限らず、好況期においても一定数のJGP労働者が引き続きJGPで雇用される可能性がある点。(それによりJGPが持続的なインフレリスクとなる恐れがあるとも指摘される。)
6、政治的懸念

JGP労働者の突き上げにより政府がJGP報酬を引き上げ、結果的に賃金フロアとして上手く機能しない恐れがある。報酬引き上げによりJGPへの参加を希望する労働者が増加し、JGP労働者全体の発言力が増せば前記のような状況が連鎖的に起こる可能性もある。このような傾向は年金や生活保護などの福祉制度にも見られる。[28] これらの理由以外にも、軽微な労働であれば現金給付(ベーシックインカムなど)と変わらないのではという批判や、社会的意義が大きい業務なら公務員として雇って恒常的に行うべきではないかとの指摘も存在する。

導入に向かう動き

JGPを提唱する経済学者

脚注

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