尿アニオンギャップ
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尿アニオンギャップとは、尿中のナトリウムイオン(Na+)濃度とカリウムイオン( K+)濃度の和からクロール(塩素イオン[※ 1])濃度を引いたものである[1][※ 2]。
尿アニオンギャップ = [Na+] + [K+] ー [Cl-]
= [その他の陰イオン] − [その他の陽イオン] [2][※ 3]
健常人では、尿中の陽イオンはナトリウム(Na+)、カリウム(K+)、アンモニウム(NH4+)がほとんどである。 尿中の陰イオンはクロール(Cl-)が主であり、その他の陰イオンは少ない(アルカリ性の尿では重炭酸イオン(HCO3-)も考慮する必要があるが、酸性、すなわち、pH<6.5の尿では重炭酸イオン量は無視しうる)。 通常の状態では、尿アニオンギャップは、主に尿中のアンモニウムイオン(および、その他の測定できない陽イオン)を反映するとみなすことができる[1][3]。

- 酸塩基平衡
生体の細胞外液pHは7.40前後の弱アルカリ性に維持されている。 一方、生体内では大量の酸が産生されている。揮発性酸、すなわち炭酸(H2CO3)は肺から二酸化炭素として排泄される。 不揮発性酸としては、硫酸、リン酸などが産生され、食品(主に野菜など)から摂取される塩基を差し引くと、約50〜70 mEq/日の不揮発性酸の負荷が生じる。これは主にアンモニウム(NH4+)として腎臓から排泄されて、生体内の酸塩基の恒常性を維持している[4][5]。
- 代謝性アシドーシス
アシドーシスは生体のpHを下げる方向に作用する病的なプロセスであり、二酸化炭素の蓄積により体内の重炭酸が増える呼吸性アシドーシスと、体内の重炭酸が下がる代謝性アシドーシスがある。 代謝性アシドーシスは血液のアニオンギャップが増加するものと血液アニオンギャップが正常のものの2つに大別される[6]。
血液アニオンギャップ = [Na+] ー [Cl-] ー [HCO3-] [※ 4][6][5]
- ①高アニオンギャップ代謝性アシドーシス
- 酸の過剰産生により血液アニオンギャップが上昇する。クロールは大きくは増加しないのが通常である。例としては、乳酸アシドーシス、ケトアシドーシス(ケト酸)、メタノール中毒(ギ酸)などがある。(なお、慢性腎不全では、硫酸やリン酸など無機酸の蓄積により高アニオンギャップ代謝性アシドーシスがみられる。)[4]
- ②正常アニオンギャップ代謝性アシドーシス(高Cl性アシドーシス)
- 腎臓からの酸の排泄障害(尿細管性アシドーシス)、または、重炭酸の体外への喪失(下痢など)により起こる。血液アニオンギャップは正常でクロールが増加する[4]。
- アシドーシスに対する腎臓の代償
アシドーシス、すなわち、細胞外液を酸性に傾けようとするプロセスが発生すると、腎臓はそれを代償するため、アンモニウムという形での酸の排泄増加とそれに伴うクロールの排泄増加を起こす(尿中に陽イオンのアンモニウムが増加すると電気的平衡を保つために陰イオンのクロールも増加する)。 アンモニウムの主要な供給源は尿中のグルタミンであり、主に近位尿細管でのグルタミン代謝によりアンモニウムが産生される。 (生体のpH(7.4前後)では、アンモニア(NH3)のほとんどはアンモニウムイオン(NH4+)の形で存在する。) 健常人では、一日、20〜30 mEqのアンモニウムイオンが産生・分泌されている[5]。 アシドーシスにおいてはアンモニウム産生と管腔への分泌が亢進し、一日300 mEq以上にまで増加しうる[5][7]。
- 正常アニオンギャップ(高Cl性)代謝性アシドーシスの尿アニオンギャップ
代謝性アシドーシスに対する正常な腎臓の反応は、腎臓からのアンモニウムとそれに伴うクロールの排泄増加である。したがって、尿アニオンギャップはクロールの増加を反映して負の値となる[1](-20 mEq/Lから-50 mEq/L以下になることがある[2] )。 一方、遠位尿細管性アシドーシスなど尿中アンモニウム排泄が障害されている病態では、代謝性アシドーシスにおいても適切にアンモニウム排泄を増加させることができないため、尿アニオンギャップは正のままである[1]。

- 高アニオンギャップ代謝性アシドーシスの尿アニオンギャップ
高アニオンギャップ代謝性アシドーシスにおいても腎臓からのアンモニウム排泄は増加するが、たとえばケトアシドーシスの場合のケト酸のような測定できない陰イオンの排泄も増加してアンモニウムの増加を打ち消すため、 尿アニオンギャップはマイナスになるとは限らず、アンモニウム排泄の指標としては有用ではない[2]。
検査の目的
尿アニオンギャップは、尿中アンモニウムの代替マーカーとして、正常アニオンギャップ代謝性アシドーシス(高Cl性アシドーシス)の原因が腎性か否かの鑑別の参考に用いられる(尿中のアンモニウムは一般的な医療施設では測定できない)[8]。
基準値
結果の解釈
- 正常アニオンギャップ(高Cl性)代謝性アシドーシス
正常アニオンギャップ(高Cl性)代謝性アシドーシスで尿アニオンギャップがマイナスであれば、尿のアンモニウムイオン(NH4+)の増加が示唆される。これはアシドーシスに対する腎の代償作用である。すなわち、重炭酸の喪失(下痢など)[※ 5]で代謝性アシドーシスを起こしており、腎臓がそれを代償すべく酸を塩化アンモニウムとして尿に排泄していると推定できる[8]。
逆に尿アニオンギャップがプラスであれば、アンモニウムの排泄が障害されていると考えられ、1型尿細管性アシドーシス(遠位型)、4型尿細管性アシドーシス(アルドステロン作用低下型)、または、重篤な腎障害による酸排泄障害があると推定できる[8]。
なお、全ての尿細管性アシドーシスで尿アニオンギャップが正になるわけではない。2型尿細管性アシドーシス(近位型)においては、遠位尿細管の酸分泌能は保たれているため、尿アニオンギャップは負になることが多く(障害の機序にもよる)、解釈にあたっては注意を要する[8][4]。
なお、クロール以外の陰イオンが排泄されている場合(例えば、ケトアシドーシスではアセト酢酸やβ-ヒドロキシ酪酸などのケトン体、トルエン中毒で馬尿酸)は、見かけ上、プラスになることがある。 その場合は、後述の尿浸透圧ギャップが参考になる[8]。
- 慢性呼吸性アルカローシス
慢性の呼吸性アルカローシスでは肺からの二酸化炭素としての炭酸喪失を代償するため、腎尿細管からの酸分泌が抑制されており、 尿アニオンギャップはプラスになるので、動脈血液ガスが測定しにくい環境では診断の一助になるとの報告がある[3]。
検査の方法
限界
- 正常アニオンギャップ(高Cl性)代謝性アシドーシス
- 通常は尿アニオンギャップはマイナスになるが、多尿がある場合、尿pH高値(>6.5で重炭酸イオンが無視できなくなる)、クロール以外の陰イオンが尿中に増加している場合(ケト酸、馬尿酸、ヨウ化物イオン、臭化物イオンなど)、尿中ナトリウムが低濃度の場合(<20 mEq/L)[※ 6]、尿中にリチウムなどのナトリウム・カリウム以外の陽イオンが増加している場合、などにおいては、尿アニオンギャップの信頼性が低いとされている[8][1]。また、末期腎不全の場合、そもそも腎からの酸排泄機能が低下しており、血中にクロール以外の陰イオン(リン酸、硫酸、その他)も増加してきているため、尿アニオンギャップの意義は乏しい[3]。
- アシドーシスのない患者
- アシドーシスのない患者では、アンモニウム産生の亢進が起きないため、通常、尿アニオンギャップはプラスであり、尿アニオンギャップと尿アンモニウムの相関は低いため、
尿アニオンギャップを測定する意義は乏しい[3]。 また、尿アニオンギャップは、平衡状態においては摂取したナトリウム・カリウム・クロールの量に依存し、アンモニウムの排泄量には相関しないため、急性の代謝性アシドーシス以外での尿アニオンギャップの使用には注意を要するとの意見もある[9]。
関連する検査
尿浸透圧ギャップ
浸透圧ギャップ(osmolal gap:OG)とは、浸透圧の実測値と、測定した溶質から計算される浸透圧の差である。 浸透圧の計算はさまざまな式が提唱されているが、代表的なものを以下にあげる[8]。
尿浸透圧推定値mOsm/kg = 2 × ( NamEq/L + KmEq/L ) + ( グルコースmg/dL / 18 ) + ( 尿素窒素mg/dL / 2.8 ) 尿浸透圧ギャップmOsm/kg = 尿浸透圧実測値mOsm/kgー 尿浸透圧推定値mOsm/kg
健常人の尿浸透圧ギャップは、10から100 mOsm/kg程度であり、尿アンモニウム濃度のほぼ2倍となる[1]:218。 尿浸透圧ギャップは、通常、アンモニウム(病態によってはケト酸など)などの測定できない溶質の存在を検知するためにもちいられる。
一般に尿浸透圧ギャップの方が尿アニオンギャップよりも尿中アンモニウムとの相関は優れているとされる。 正常アニオンギャップ(高Cl性)代謝性アシドーシスで尿浸透圧ギャップが40未満であればアンモニウム排泄の障害が示唆される。 ただし、アンモニウム以外の溶質(アルコール類、ケト酸など)が増加している場合は適用が難しい[8]。