臨床検査
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医学的検査(medical test)は、傷病の診断・病態把握・治療方針の決定・経過の判定などのために行われる検査全般を指す。 日本においては、「臨床検査」は、文脈によっては医学的検査に近い意味で用いられる場合もあるが、通常は、医学的検査のうちの検体検査と生理検査を意味する。これは臨床検査医学の主な対象領域に対応する[注 1][4][1][2][3]。
検体検査とは人体から排出されたもの(尿・便など)または採取されたもの(血液など)の検査である[6]。 生理検査とは、人体について行う検査(生体検査)のうち、通常、呼吸機能検査、循環機能検査、神経生理検査、超音波検査などを指すが、その範囲は、施設・文脈により異なることがある[1][6][7][4][注 2]。
なお、日本語の「臨床検査」に概ね相当する英語の"clinical laboratory tests"(略してlaboratory tests、lab tests)は、通常、検体検査を意味する[8][9][10][11]。 また、欧米では、臨床検査医学(laboratory medicine, clinical pathology)は、主として検体検査領域を扱う[12]。 (日本と欧米の差の歴史的経緯については臨床検査医学を参照。)
位置づけ
医療面接(病歴聴取)と身体診察は現在でも診断プロセスの最も重要な基盤であり、 病歴と身体診察から作業仮説を立てて必要な検査を選択するのが基本的な診療プロセスとされている。 また、内科系の外来プライマリケアの場においては、医療面接と身体診察のみで疾患の多くが診断可能と報告されている[13][14]。
しかし、医療面接と身体診察は、個々の医師の技能や経験の影響を受けうる。 また、それだけでは適切な診断・評価が困難な病態も少なくない(例えば糖尿病や脂質異常症)。 一方で、臨床検査は、標準化や精度管理により客観性・再現性が確保されており、 医療面接と身体診察に、補助診断法として臨床検査などの医学的検査を追加することにより、 より正確な診断や病態の評価が可能になるとされている[13][5]。
近年は臨床検査の進歩が著しく、医療には欠かせないものとなっており、医療上の意思決定の60-70 %は臨床検査(検体検査)の結果によっている、との主張もある[15][16][5]。 その反面、医師により検査以外の診断プロセス要素が軽視されており、診察を軽視して検査を先行させる診療パターンが多くみられることが問題との指摘もある[17]。また、過剰な検査は、医療経済的に無駄であるのみならず、偽陽性や偽陰性で医師の判断を誤らせて患者の診療に悪影響を及ぼす可能性があることも指摘されている[18]。
臨床検査の分類
検査の対象による分類
- 検体検査
人体から排出または採取された物を対象とする。血液、尿、便、穿刺液、擦過物、細胞、組織などが含まれる[4]。
- 生理検査(生体機能検査)
人体自体を検査の対象とし、検査担当者が、直接、被検者に対して行う[4]。
検査の目的による分類
- 基本的検査:初期評価の一環として合併症や付加的異常を見逃さないために実施されるスクリーニング的な検査[20]。
- 疾患の診断または除外のための検査:代表的なものに感染症の検査(インフルエンザ、COVID19など)がある。
- 重症度・病態の把握のための検査:次項の緊急検査と共通するところが多い。
- 予後予測のための検査:疾患の進行度、再発リスク、予後の推定などに用いる。腫瘍マーカー、心不全マーカーなども含まれる。
- 治療法の選択のための検査:病原体の薬剤感受性検査、コンパニオン診断検査(例えば、悪性腫瘍の特定の遺伝子変異の有無に応じて分子標的薬の適応を判断)などがあげられる。
- 治療のモニタリング・フォローアップのための検査:薬物血中濃度による投与量の調整、治療効果の判定、合併症・副作用の監視、再発の有無の判定などが含まれる。
検査の役割・運用形態による分類
検査の役割や運用形態による分類の例をあげる[4]。
- 日常検査:通常の業務体制で病態把握を主な目的として行われる検査。
- 特殊検査(精密検査):日常検査との境界は必ずしも一定ではないが、一般的には、実施頻度が少なく特殊な方法・検査装置を用いる検査を指す。外部委託であることも多い[4]。
- 緊急検査:緊急に病態を把握して適切な治療を実施することを目的として行われる検査[注 3]。
- 診察前検査:外来診療を効率的に実施するため、診察前に検査を迅速に実施し、その結果を参照して診療を行うもの。
- 健康診断検査・検診検査:健康状態の評価(健康診断)や特定の疾患(たとえば大腸癌)のスクリーニング(検診)を目的とする。
検査の実施される場所による分類
検査は実施場所により分類されることがある[4]。
検査結果の解釈
疾患の診断に検査結果を利用する際には、偽陽性(病気でないのに病気と判定)や偽陰性(病気があるのにないと判定)が含まれることがあり、 検査の診断能の限界を踏まえて結果を解釈(判読)することが必要である[4][23]。
感度と特異度
| 疾患Dがある | 疾患Dがない | ||
|---|---|---|---|
| 検査Tが陽性 | 真陽性:TP人 | 偽陽性:FP人 | 感度 = 疾患Dあり検査T陽性/疾患Dあり = TP/TP + FN |
| 検査Tが陰性 | 偽陰性:FN人 | 真陰性:TN人 | 特異度 = 疾患Dなし検査T陰性/疾患Dなし = TN/FP + TN |
感度(sensitivity)は、ある疾患を有する患者群でその検査が陽性になる率(真陽性率)である。 感度が高ければ、検査で疾患を見逃す率(偽陰性率)が低くなる[23]。 特異度(specificity)は、ある疾患をもたない患者群でその検査が陰性になる率(真陰性率)である。 特異度が高ければ、誤って疾患がないのに陽性と判定する率(偽陽性率)が低くなる[23]。
検査前確率と検査後確率
診断的検査の目的は、ある疾患に罹患しているかどうか判定するのを補助することであり、 ベイズの定理に基づき、検査を実施することでどれだけその疾患に罹患している確率が更新されるかを推定する枠組みが用いられる[24]。 検査実施前に、ある患者がその疾患に罹患している確率を検査前確率(事前確率)と呼ぶ[注 5]。検査を実施したあとで推定できる、その疾患に罹患している確率が検査後確率(事後確率)である。検査前確率から検査後確率を導くのには検査の尤度比が用いられる。尤度比とは、ある検査結果が得られたときに疾患罹患の確からしさがどの程度変化するかを示す指標であり、感度と特異度から算出される[注 6][24]。
予測値(的中率)
診断的検査では、「検査結果が陽性/陰性」の場合に「目的疾患に罹患している/していない」が問題となる。 検査の陽性的中率(positive predictive value:PPV)とは真陽性数と総陽性数の比であり、検査結果が陽性であったときに実際に目的疾患に罹患している可能性はどれくらいかを示す指標である。また、陰性であったときに実際に目的疾患に罹患していない可能性の程度を示すのが陰性的中率(negative predictive value:NPV、真陰性数と総陰性数の比)である。 的中率は対象とする集団の有病率により大きく変動するのに留意する必要がある。 特に、まれな疾患(低有病率集団)のスクリーニングを行うときは陽性的中率が著しく低下する[注 7]。
定量的検査の感度と特異度の考え方

前項までは、結果が陰性か陽性かで論じたが、 結果が連続量で与えられる定量的検査の場合は、どの数値以上を陽性とするか判断するカットオフ値(閾値)の設定により、 感度・特異度は変化する。感度と特異度はトレードオフの関係にあり、感度を高くすると特異度が低下し(偽陽性が増え)、特異度を高くすると感度が低下する(偽陰性が増える)[23]。一般に、スクリーニング検査では感度を重視し、確定診断のための検査では特異度を重視する傾向がある[注 8][23][24]。 なお、カットオフ値を変化させた際の感度と偽陽性率の関係を示したものがROC曲線(Receiver Operating Characteristic curve)であり、検査の性能評価[注 9]やカットオフ値の設定の検討に用いる。
基準値・基準範囲・臨床判断値
定量的検査(結果が連続的な数値)では、結果判断の基準となる数値が必要である。 この判断基準として基準範囲や臨床判断値が用いられる。 これらを総称して「基準値」と呼ぶことがある。また、判断にあたっては、しばしば、生理的変動を考慮する必要がある [注 10] [4]。
- 基準範囲
基準範囲とは、通常、健康人集団での測定値の分布の中央の95 %を含む範囲である。 検査結果を判読する際の目安になる。 かつては「正常値」と呼ばれていたが、「正常」と「異常」を区別する値ではない。 定義からして、健康人の5 %は基準範囲外に分布しており、基準範囲外が直ちに異常とはいえない[4][25]。
なお、検査結果報告書の「基準範囲」欄には、しばしば次項の臨床判断値が明確に区別されずに表示されていることがあり、解釈する場合は注意を要する[4][24]。
- 臨床判断値
検査項目によっては、基準範囲とは別に、特定の病態の判別や治療の意思決定のための値(臨床判断値)が設定されることがある[25]。
ある疾患・病態の有無を判別するのに用いるカットオフ値が診断閾値(病態識別値とも)であり、目的に対し最適な感度・特異度が選択される。前述のように、スクリーニング検査と確定診断のための検査では設定が異なってくる[4][24][25]。
治療の開始の意思決定に用いるのが、治療閾値(介入基準、判定基準値とも)である。 血清脂質などの項目には、たとえ基準範囲内であっても予防医学的な見地から治療開始を推奨する介入基準である、予防医学閾値(健診基準値とも)が設定されている[4][24][25]。
- 生理的変動
検査値は、項目により程度は異なるが、生理的に疾患以外の要因で変動しうる。個体間では、年齢、性別、生活環境、遺伝など様々な原因で個体差が生じる。同一個体でも、検査項目によっては、日内周期、食事、運動、月経周期、妊娠などの影響を強く受けるため、測定条件や経時的変化も考慮して解釈する必要がある[4]。
臨床検査の質と精度管理
臨床検査に求められるのは正しい検査結果が迅速に提供されて医師による診断と治療に役立ち患者の健康の回復や増進に寄与することである。 ここで「正しい」とは、検査結果の再現性(何回も測定しても値のばらつきが十分小さい範囲にとどまっていることを意味し、精度ともいう)と、正確度(誤差が少ない、すなわち「真値」に十分近い)が、適切な範囲内に維持されていることを意味する。 臨床検査の精度管理とは、検査結果のばらつきや誤差を正しい診療を行うのに必要な範囲内>に維持するように処置することである[26]。
精度管理は臨床検査の質の保証の要であり、検査室内を対象とする内部精度管理と、複数の施設(施設間の差)を対象とする外部精度管理がある。 なお、精度管理は、検体検査に限定されるものではなく、また、数値で報告される検査に限定されるものでもない。 形態検査(血液細胞像など)、微生物検査、病理検査、生理検査(波形、画像)などにおいても、画像や波形の記録など様々な手段を用いた精度管理が行われている[26][27][28][29]。
臨床検査の質は検査前(検査の依頼、検体採取・輸送・保存、など)、検査、検査後(検査結果の報告・解釈・利用、など)の全体で決まると考えられる[30]。
検査前:患者の問診や診察を通して医師が目的に応じた検査を選択する。医学的な必要性はもちろん、保険診療との整合性[31]、検査の経済性[注 11][2]、侵襲性(患者への身体的負担)、利便性(すぐに結果が出るか、外部委託で何日もかかるか)、などを考慮することになる。また、検体の採取が適切に行われたか[注 12]、輸送・保存が適切に行われたか[32][注 13]、なども重要である[33]。
検査:前述のように、検査結果がばらつきなく(再現性)、正確(誤差が少ない、所見を正しく反映している)であるように精度管理される必要がある。検査機器・検査試薬・測定手順・情報システムのみならず、形態検査(顕微鏡での検査や超音波画像など)の検査技能・手技も重要である[27]。
検査後:検査結果は適切に報告される必要がある。たとえば、緊急に対処を検討する必要がある重大な結果値(パニック値) は迅速確実に医師に報告される必要がある[33]。検査結果を解釈して患者の診療に反映するのは医師の業務であるが、適切に判断するための基準値や解釈の支援も重要である[23]。(検査結果、特に外来の迅速検体検査結果を患者に検査報告書などの文書で交付することも広く行われており、患者への配慮も必要である[2]。) さらに、他の医療施設に紹介、または連携する際は、施設間の検査値の互換性も重要となる[26]。
検査工程のうち、測定そのものは臨床検査技師等が行うことが多いのであるが、測定前と測定後は医師・看護師等の他の職種が重要な役割を担っている。
内部精度管理
内部精度管理とは、施設内での検査結果の再現性・正確性を維持する管理である。 検査結果はその時点で正確(ばらつきがない)であるのみならず、同一患者の過去の検査結果と比較可能でないと、正しいとはいえない。 リアルタイムの精度管理としては、基準値を一定以上はずれるか当該患者の過去の結果と大きくかけ離れた結果が得られたときに再測定(再検)、必要に応じ、管理試料の測定をするなどの個別データの管理がある。 しかし、それだけでは、経時的に少しずつ測定値がシフトしたりばらつきが増加するのを検出できないので、管理試料を定期的に測定して平均値やばらつきが許容範囲内におさまるように管理するXbar-R管理図[注 14]などの手法が用いられる[26][27][13]。
外部精度管理
外部精度管理とは施設間での検査結果の正しさ(互換性)を維持する管理である。 臨床検査の黎明期に初めて複数施設の結果の比較調査が行われたときには著しい施設間差が判明し問題となったが、 その後の産業界の管理手法の導入や外部精度管理の積み重ねにより、近年は施設間の差は収束してきている[13]。 日本では、調査用の試料(ないし画像や波形)を参加施設に配布する外部精度管理調査が、医師会・日本臨床衛生検査技師会などにより実施されている[26]。 また、国際的には、米国病理学会(College of American Pathologists、CAP)の主催する外部精度管理調査であるCAPサーベイがよく知られている[26]。
精度保証
近年は、測定とその前後にとどまらず、検査室への検査の導入(検査法・機器・試薬の性能などが自施設の需要に適合しているか)、医師による適切な検査の選択、医師による結果解釈・利用の支援、施設間での検査の標準化や基準値の共有[注 15]、なども含めた総合的な検査の質の管理として「精度保証」の概念が発展してきている[26][34][33][30]。
また、臨床検査室の精度保証の第三者認定も普及してきており、厚生労働省も第三者認定の取得に必要な体制整備に努めることが望ましいとしている[35]。例としては、日本適合性認定協会(JAB)によるISO 15189[注 16]に基づくものなどがあげられる[36][26][13][30]。
なお、臨床検査科は標榜診療科となっており、日本専門医機構の認定する臨床検査専門医がある。 臨床検査医の業務の一つに臨床検査の精度保証のマネージメントがある[37]。
検体検査精度管理
日本の法令では、衛生検査所や医療機関の検体検査の精度管理についての規定があり、検体検査の精度の確保に関わる責任者の配置、および、精度の確保に関わる各種の標準作業書や日誌の作成が義務づけられている[35][38]。また、内部精度管理の実施、外部精度管理調査の受検、および、適切な研修の実施が、衛生検査所では義務、医療機関では努力義務となっている[35][38]。
検体検査の分類
様々な分類があるが、ここでは、関連法令[39]・省令[35]の分類に準じて記載する。
| 一次分類 | 二次分類 |
|---|---|
| 微生物学的検査 | 細菌培養同定検査、薬剤感受性検査 |
| 免疫学的検査 | 免疫血液学検査、免疫血清学検査 |
| 血液学的検査 | 血球算定・血液細胞形態検査、血栓・止血関連検査、細胞性免疫検査 |
| 病理学的検査 | 病理組織検査、免疫組織化学検査、細胞検査、分子病理学的検査 |
| 生化学的検査 | 生化学検査、免疫化学検査、血中薬物濃度検査 |
| 尿・糞便等一般検査 | 尿・糞便等検査、寄生虫検査 |
| 遺伝子関連・染色体検査 | 病原体核酸検査、体細胞遺伝子検査、生殖細胞系列遺伝子検査、染色体検査 |
微生物学的検査

微生物学的検査(微生物検査)とは、検体中の病原微生物(細菌、真菌、ウイルス、原虫、など)に関する検査である。
細菌培養同定検査
細菌を含む微生物を同定する検査であり、 顕微鏡検査(塗抹検査)、培養検査、同定検査、微生物や微生物が産生する毒素の抗原検査、などが含まれる。なお、病原体(微生物)核酸検査は遺伝子検査に分類されているが、実態はここに含まれる。また、関連するものとして、寄生虫検査がある。
薬剤感受性検査
微生物に対する抗微生物薬(抗菌薬、抗真菌薬)の有効性を調べる検査である。通常は細菌、真菌などの微生物を培養して検査するが、近年は病原体(微生物)核酸検査に薬剤耐性遺伝子の検査が含まれることがある。
免疫学的検査
免疫血液学検査
主に輸血に関連する検査であり、ABO血液型検査、RhD血液型検査、直接・間接クームス試験、不規則抗体検査、交差適合試験、などを含む。
免疫血清学検査
炎症や免疫に関連する蛋白の検査(免疫グロブリン、補体、サイトカインなど)、細胞性免疫関連検査、アレルギー関連検査( アレルゲン特異IgEなど)、自己抗体検査(抗核抗体など)、感染症免疫学的検査、などが含まれる。感染症免疫学的検査には、病原体の現在または過去の感染の有無を人体の病原体に対する免疫反応により推定する検査(HCV抗体、HIV抗体、など)、および、病原体を免疫学的な手法で検出する検査(HBs抗原など)が含まれる。
血液学的検査

血球算定・血液細胞形態検査
自動血球計数器を用いる全血球計算(血算、CBC(Complete blood count))、白血球分画などの検査、および、顕微鏡を用いる形態学的検査(末梢血塗抹検査、骨髄像など)がある。その他、赤血球沈降速度(ESR)も含まれる。
血栓・止血関連検査
代表的なものとしては、PT、APTT、フィブリノーゲン、FDP、D-ダイマーなどの凝固機能検査がある。 なお、出血時間と毛細血管抵抗検査は検体検査ではないが止血関連検査とみなされることが多い。
細胞性免疫検査
細胞性免疫にかかわるリンパ球などの血液細胞の検査であり、 フローサイトメーターによる細胞表面マーカーなどの検索、リンパ球刺激試験(リンパ球幼若化試験)、などがある。
病理学的検査
病理標本作成に関連するものと細胞に関わる検査(細胞診)が含まれる。(なお、病理診断・細胞診断は医師が行う。)
病理組織検査
組織をパラフィンに包埋しミクロトームで薄切して染色する形態学的検査が主である。
免疫組織化学検査
病理組織検査に、さらに免疫学的な抗原抗体反応を応用して、酵素や蛍光物質で標識した抗体を使用して高分子物質の分布を可視化するものである。
細胞検査
喀痰、子宮頚部などから得た細胞診検体の標本を作成し、顕微鏡で観察する検査である。
分子病理学的検査
通常の病理検査と分子生物学的手法を統合した検査であり、遺伝子の異常(変異、増幅、再構成)や蛋白の過剰発現などの検索が含まれる。診断のみならず、治療法の選択にも有用である[40]。
生化学的検査
生化学検査・免疫化学検査
生化学的検査とは血液などの化学的成分の検査であるが、そのうち、測定に抗原抗体反応を使うものを免疫化学検査とよぶのが通常である。 酵素活性の測定や比較的低分子量の物質(電解質、尿素窒素など)以外は免疫学的な測定法を用いる場合が多くなってきている。 極めて多数の検査項目があるが、下表に代表的なもののみ示す[41]。
血中薬物濃度検査
治療薬物モニタリング(TDM)のための、血中の薬物やその代謝産物の検査である。 抗てんかん薬(フェニトイン、バルプロ酸ナトリウム、カルバマゼピンなど)、抗菌剤(バンコマイシンなど)、免疫抑制剤(シクロスポリン、タクロリムス、など)、など、治療域と中毒域が近い薬剤を使用するときに用いられる。
尿・糞便等一般検査
一般検査とは、血液以外の排泄物、体液、分泌液などを検体とする検査を意味する(特殊検査に対する一般的な検査という意味ではない)。
尿・糞便等検査
尿検査(尿中一般物質定性半定量検査、尿沈渣など)、便検査(便潜血など)、穿刺液検査(脳脊髄液、胸水、腹水、など)、気管支肺胞洗浄液検査、精液検査、結石検査、などが含まれる。 なお、尿化学検査(尿蛋白定量、尿中電解質濃度など)、穿刺液化学検査など、化学成分の定量検査は、実態としては、生化学検査である。
寄生虫検査
寄生虫検査は、検査材料が血液以外の検体であることも多いのでここに分類されているが、病原体の同定検査である。
遺伝子関連・染色体検査
病原体核酸検査
病原体の遺伝子を検出して同定や定量をする検査である。実態としては微生物学的検査に属する。
体細胞遺伝子検査
主に悪性腫瘍(特に白血病・悪性リンパ腫など血液がん)の遺伝子異常を検出する検査である。
生殖細胞系列遺伝子検査
主に、遺伝疾患の診断に用いられるほか、薬物関連遺伝子検査は、薬物代謝に関わる遺伝子多型を調べて薬剤の投与量を調節するのに用いられる。
染色体検査
細胞を培養して染色体の形態的解析をする検査である。 遺伝子検査と同様に、体細胞系(悪性腫瘍、特に白血病・悪性リンパ腫など血液がん)の検査と生殖細胞系(染色体異常関連)の検査に大別される。
生理検査の分類

生理検査(生理学的検査、生理機能検査)に含まれる検査は広い診療領域にまたがるが[7]、複数の診療科から利用され、病院の臨床検査部門 でよく実施しているものとして、呼吸機能検査、循環機能検査、超音波検査、神経生理検査があげられる[注 2]。
呼吸機能検査
換気機能検査(スパイロメトリーなど)、肺胞機能検査、呼気ガス分析、呼吸系運動負荷検査、睡眠呼吸検査、などがある。
循環機能検査
心機能検査(心電図、運動負荷心電図、ホルター心電図など)、血管検査(脈波伝播速度(PWV)/足関節上腕血圧比(ABI))などがある。
神経生理検査
脳波系(脳波、 聴覚脳幹誘発電位(BAEP)/聴性脳幹反応(ABR)、視覚誘発電位(VEP))と筋電図系(筋電図、神経伝導速度検査、など)がある。
超音波検査
超音波検査には、心臓超音波検査、腹部超音波検査、血管超音波検査(頸動脈、腹部や四肢の動脈・静脈、など)、体表超音波検査(頚部、乳腺、運動器、その他)、などが含まれる。
その他の生理検査
施設によっては、上記以外の生理機能検査も生理検査室で実施していることがある(たとえば、聴覚や平衡機能の検査[42])、
臨床検査とその他の医学的検査
臨床検査は医学的検査の中心的位置を占めてはいるが、医学的検査の全てを網羅するものではない。 臨床検査の意味するものは、文脈で多少揺れるが、 放射線を用い放射線科で実施する画像検査、内視鏡検査、などは臨床検査には含めないのが通常である[3][1][2]。 また、特定の診療科に特化した生体検査(眼科・耳鼻科・泌尿器科・産科・皮膚科等)、心臓カテーテル検査などの侵襲性の高い生体機能検査、心理検査、などは 施設により運用は異なるが、通常、臨床検査部門ではなく各診療科で施行し、各診療科の検査とみなされることが多い[3][4]。次項以下で医療制度上の検査の分類と臨床検査の関係を述べる[注 18]。
診療報酬上の検査の分類
医療保険の診療報酬には「検査」、「画像診断」、「病理診断」の区分がある。「画像診断」には、X線検査、CT、MRIなどが含まれる。「検査」の部には画像診断と病理診断を除く各種の医学的検査が収載されており、「検体検査」、「生体検査」、「診断穿刺・検体採取」などに区分されている。この「検査」は「臨床検査」を規定するものではなく、一般的な臨床検査の範囲とは一致しない。
検体検査は尿・糞便等検査、血液学的検査、生化学検査、免疫学的検査、微生物学的検査に分類されている。 独立した遺伝子関連検査の区分はない(尿・糞便等検査、血液学的検査、微生物学的検査の中に分散して収載)[43]。 これらはいずれも臨床検査に含まれる。
なお病理学的検査は、かつては検体検査に含まれていたが、2008年4月の改定で、検査の項から病理診断の項に移っている[43]。
生体検査には、呼吸循環機能検査、超音波検査、監視装置による諸検査、脳波検査、神経・筋検査、耳鼻咽喉科学的検査、眼科学的検査、皮膚科学的検査、臨床心理・神経心理検査、負荷試験等、ラジオアイソトープを用いた諸検査、内視鏡検査が含まれている[43]。しかし、核医学検査(ラジオアイソトープ)、内視鏡検査、各診療科(耳鼻科、眼科、皮膚科、精神科など)の専門的な検査などは、通常は臨床検査とはされない。
臨床検査と臨床検査技師等に関する法律に記された検査
臨床検査技師は臨床検査技師等に関する法律で規定されている国家資格であり、医師又は歯科医師の指示の下に以下の検査や検体採取などを業として行うことができる[6][7]。
検体検査(微生物学的検査、免疫学的検査、血液学的検査、病理学的検査、生化学的検査、尿・糞便等一般検査、遺伝子関連・染色体検査)、および、厚生労働省令で定める生理学的検査
臨床検査技師等に関する法律第2条の厚生労働省令で定める生理学的検査には現在次のものが記載されている(2018年改正)[7]。
心電図検査、心音図検査、脳波検査、筋電図検査、運動誘発電位検査、体性感覚誘発電位検査、基礎代謝検査、呼吸機能検査、脈波検査、熱画像検査、眼振電図検査、重心動揺計検査、持続皮下グルコース検査、超音波検査、磁気共鳴画像検査(MRI)、眼底写真検査、毛細血管抵抗検査、経皮的血液ガス分圧検査、聴力検査、基準嗅覚検査及び静脈性嗅覚検査、電気味覚検査及びろ紙ディスク法による味覚定量検査、直腸肛門機能検査 (一部除外あり)
ただし、これらは、あくまで臨床検査技師が業として行うことができる検査(業務範囲、職域)であり、これらの検査が臨床検査であると定義しているわけではない。たとえば、「生理学的検査」の中に記載されている磁気共鳴画像検査(MRI)は実務上は、通常、放射線科で実施され、診療報酬では画像診断の項に分類されている。
衛生検査所
衛生検査所は臨床検査技師等に関する法律など[38]によって規定された施設であり、臨床検査のうち、検体検査を業務とする[44][45]。登録衛生検査所、検査センターとも呼ばれている。 日本には、2022年5月現在、924施設の衛生検査所が存在する[45]。大手としては、エスアールエル(H.U.グループホールディングス傘下)、ビー・エム・エル、LSIメディエンス(PHCホールディングス傘下)などがあげられる[46]。
医療機関の検体検査の外部委託先は、通常、衛生検査所である。 診療所では検体検査項目の大部分を外部委託することが多い[47]。ただし、検体の採取から検査実施までの時間が長くなるため、安定性や迅速性の要件から外注が難しい項目も存在する[注 19]。
