尿ナトリウム・カリウム比
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尿ナトリウム・カリウム比(にょうナトリウム・カリウムひ、尿ナトカリ比、尿Na/K比、英語: urinary sodium-to-potassium ratio)は尿中のナトリウム(Na)とカリウム(K)のモル濃度比である。 健常人では食事からのナトリウムとカリウムの相対的な摂取量の比を反映する。 主に、高血圧などの危険因子であるナトリウム摂取過剰とカリウム摂取不足の簡便な指標として、 高血圧などの疾患に対する食事指導の補助に用いられる[2][3]。


検査の意義
尿ナトカリ比(尿Na/K比)は尿中のナトリウム(Na)とカリウム(K)のモル濃度比である。 食事から摂取したナトリウムとカリウムの大部分(ナトリウムの80-95 %、カリウムの63-77 %)は尿に排泄されるため、 健康成人では、尿ナトカリ比は食事からのナトリウムとカリウムの相対的摂取量を反映する[2]。
ナトリウム過剰摂取とカリウム摂取不足はそれぞれ高血圧の危険因子である。また、尿へのナトリウム排泄量増加が心血管系のリスクの上昇に、カリウム排泄量増加がリスクの低下に関連するとされている[4]。 例えば、一日ナトリウム排泄量が1000 mg増加すると心血管疾患リスクが18 %上昇し、逆に、一日カリウム排泄量が1000 mg増加すると心血管疾患リスクが18 %低下するとの報告がある[4]。 その機序としては、ナトリウム過剰摂取が体液貯留(循環血液量増加)等を介して高血圧を悪化させるのに対して、 カリウム摂取は、ナトリウムの排泄を促進・ナトリウム吸収を抑制し、血管拡張を促進して血圧を降下させると考えられている[5]。
ナトリウム摂取量とカリウム摂取量の比は血圧と相関し、ナトリウム・カリウムそれぞれ単独よりも血圧との相関が高いことが報告されている[3]。 また、ナトカリ比高値は、心筋梗塞、脳卒中を含む心血管系イベントと相関することが報告されており、ナトカリ比が1単位増加するごとに心血管系疾患リスクが24%増加するとの報告もある[4][3]。 その他、慢性腎臓病(CKD)においては、尿ナトカリ比高値は腎機能の悪化や末期腎不全への進行と関連すると報告されている[6]。
検査の適応
尿ナトカリ比は、高血圧などの疾患に対する食事指導の補助的指標のひとつとして用いられるが、疾患の診断の指標としては、通常は用いられない。 尿を用いてナトリウムやカリウムの摂取量を個別に推定する場合は、水分摂取の影響などを除くためにクレアチニン補正[※ 1]、時間蓄尿などが必要であるが、 ナトリウムとカリウムの比率であれば、随時尿[※ 2]であってもクレアチニン補正などが不必要となり、 臨床や保健指導の場で食事指導に利用しやすいのが利点である[7]。 (なお、ナトリウムとカリウムの摂取量は食事内容の調査からも推定可能であるが、煩雑であり、かつ正確に評価することは難しいとされる[3]。)
尿ナトカリ比の測定とその低値に対する介入、すなわち、減塩とカリウム摂取(野菜・果物等)の増加の指導は、収縮期血圧・拡張期血圧の低下をもたらすと報告されている[5][2][3][8]。
検査の限界
健常人以外の疾患をもつ人や服薬中の人における臨床的意義は十分には解明されていない。 また、尿ナトカリ比測定の高血圧の予防に関する効果については、さらなる研究が必要である[8]。
検査法
検体
尿ナトカリ比の測定には、ナトリウム・カリウム摂取量推定のゴールドスタンダードである一日蓄尿(24時間尿)を用いるのが最も精度が高いが、煩雑で被検者への負担が大きいため、保健指導目的には随時尿[※ 2]が用いられる。 随時尿での尿ナトカリ比は食事内容や生活状況の影響による日間・日内の変動が大きく(たとえば、朝晩に高く日中に低い、夏に低く冬に高い、など)、単回の測定では24時間尿との相関はそれほど高くない。そのため、週に4回以上異なる時間帯に採取した随時尿ナトカリ比の平均を算出することが強く推奨されている。 やむを得ず単回の測定で評価する場合は朝9時頃の起床後第2尿が適している可能性[※ 3]が示唆されているが、標準的な方法としては確立していない[3][8][9]。
なお、随時尿のナトカリ比は、24時間尿のナトカリ比より低い傾向がある。INTERSALT研究では、随時尿のナトカリ比平均は2.85、24時間尿のナトカリ比平均は3.24であった[10]。
測定法
尿中ナトリウムおよびカリウムの測定には、通常、イオン選択電極が用いられる[11]。
ポイントオブケア検査・在宅検査
近年は、尿ナトカリ比専用の簡便な測定装置が市販されており、ポイントオブケア検査(POCT)に利用することによる尿ナトカリ比の低下と血圧低下への有用性が報告されている[8][12][3]。 なお、郵送検査用の尿ナトカリ比検査キットも販売されているが、その有用性は確立していない[※ 4][12]。
尿ナトカリ比の解釈
基準値
- 健常人の尿ナトカリ比
尿ナトカリ比は、地域差・民族差(食事習慣の差)が大きく、確立した基準範囲はない。健常人では尿ナトカリ比は1を大きく上回るのが通常である[9][2]。INTERSALT研究では各国からの参加者の平均は3.24で、ネイティブ・アメリカン[※ 5]では1.13と低く、東アジア(中国・韓国・日本)では5.26と高値であった[2]。
日本人は、一般にナトリウム摂取過剰かつカリウム摂取不足の傾向が指摘されており、食塩摂取量は一日10g前後[13]ないし12 g前後[14]、カリウム摂取量は一日70 mmol(2815 mg)前後、平均尿ナトカリ比は4.3と報告されている[14]。また、日本国内でも若干の地域差が存在し、東北地方で高い傾向が指摘されている[15][16]。
- 高血圧予防等のための健常人の目標値
WHOの推奨するナトリウム摂取量は1日2 g(85 mmol)以下(食塩に換算して1日5 g以下)、カリウム摂取量は1日90 mmol(3510 mg)以上である[17][18]。これに対応する尿ナトカリ比は1.0程度とされる[9]。尿ナトカリ比を実際に保健指導に利用するためには、 ナトリウム摂取量について行われているのと同様に、各地域・民族の食習慣に合わせて調整を要する[9][14]。 日本高血圧学会は、健常人の平均尿ナトカリ比の目標値として、 至適目標(理想とする目標):2未満、実現可能目標:4未満、を提唱している[8]。 至適目標の2は厚生労働省の「日本人の食事摂取基準2020年版」のナトリウム・カリウムの目標量を満たした状態に対応する随時尿ナトカリ比がおおよそ2になることから採用されている[8][※ 6]。実現可能目標の4は日本の一般住民集団の平均値を下回るという趣旨である[8][3]。 なお、日本以外の国の主要なガイドラインでは、2025年時点で尿中ナトリウム・カリウム比は採用されていない。 また、高血圧等の疾患をもつ患者の尿ナトカリ比目標値は、現在のところ確立しておらず、上記の目標値は適用外である[8]。
- アルドステロン症を疑うためのカットオフ値
高血圧症の大部分は本態性高血圧であるが、原発性アルドステロン症による二次性高血圧が3〜12 %程度含まれているとされる[19]。原発性アルドステロン症による高血圧は心血管疾患リスクが高いとされ、また、有効な根治治療が存在するため、本態性高血圧との鑑別診断が必要である。 尿ナトカリ比低値(<1.0)は血漿アルドステロン高値を示唆するが、原発性アルドステロン症に対する感度・特異性は血漿アルドステロン・レニン比に劣り、スクリーニング目的には推奨されない[20]。
尿ナトカリ比に関連する因子
- 生活習慣
野菜・果物・乳製品の摂取が多い人、減塩食を実行している人では尿ナトカリ比が低い[9]。
- 年齢
年齢が高くなるにつれて、腎機能とは独立に随時尿の尿ナトカリ比が低下する傾向があるが、夜間の排尿回数の増加(高齢者では夜間のナトリウム排泄が増加する)が一因と考えられている[9][21]。
- 性別
日本人では、男性のほうが尿ナトカリ比が高い傾向がある[9][14]。
- 肥満・社会経済的状況
機序は不明であるが、ボディマス指数(BMI)は尿ナトカリ比と正の相関があると報告されている[9]。 社会経済的には、日本においては、低学歴、低い等価世帯支出[※ 7]、独居男性、などと尿ナトカリ比高値とが関連するとの報告がある[9][22]。
尿ナトカリ比に関連する病態
健常人の定常状態では、尿ナトカリ比は主にナトリウムとカリウムの摂取を反映するが、 疾患や投薬によっては、尿ナトカリ比にさまざまな影響を及ぼしうる。
- 慢性腎臓病
慢性腎臓病(CKD)ではその進行、すなわち推算糸球体濾過量(eGFR)低下に伴い、尿ナトカリ比は低下する。これはカリウム排泄障害のためとされる(ナトリウムの排泄の方がカリウムの排泄よりも先に低下するため)。しかし、CKDの進行とともに尿ナトカリ比が低下するという病態生理学的変化とは一見矛盾するようであるが、リスク因子としてはCKD患者の中では24時間尿ナトカリ比が高いほうが進行が速いことが指摘されている。また、CKDが進行すると随時尿ナトカリ比と24時間尿の相関が不良となるとの報告(原因の一つとして利尿剤、カリウム吸着剤、などの薬剤の使用が考えられている)もあり[23]、現時点ではCKD患者の目標とすべき尿ナトカリ比は定まっていない[9][6]。
- 降圧剤
現時点では降圧剤と尿ナトカリ比の関係については、降圧剤で上昇するという報告と低下するという報告があり、評価は一定していない。 影響は降圧剤の作用機序にもよると考えられ、アンジオテンシンII受容体拮抗薬、カルシウム拮抗剤、サイアザイドは、随時尿ナトカリ比には大きな影響を与えないとの報告もある。その一方で、スピロノラクトン、トリアムテレン、アミロライドなどのカリウム保持性利尿剤はナトリウムの再吸収を阻害しカリウム分泌を抑制するので、その結果、ナトリウム排泄は増加しカリウム排泄は減少して尿ナトカリ比は上昇すると考えられるため、留意を要する[9]。
- 腎臓からのカリウム分泌が亢進する病態
原発性アルドステロン症など、アルドステロン(鉱質コルチコイド)作用[※ 8]が亢進した状態では、尿細管のナトリウム再吸収とカリウムの分泌が亢進するので、ナトリウム排泄は減少しカリウム排泄は増加して尿ナトカリ比は低下する。 尿細管性アシドーシス、ギテルマン症候群、バーター症候群などにおいては、尿細管機能異常によりカリウムが尿中に失われる[24][25]。
- 腎臓からのカリウム分泌が低下する病態
消化管からのカリウム喪失が亢進した状態(嘔吐、下痢、下剤の乱用など)では、尿細管でのカリウム分泌が減少することが多い(合併する病態にもよる)[26]。 アジソン病、低レニン性低アルドステロン症、などアルドステロンの作用の低下した状態(低アルドステロン症)では、尿細管でのナトリウム再吸収が障害される一方、カリウム分泌が減少する[25]。