時局図
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時局図(じきょくず、中国語: 時局圖、別名は『時局全図』あるいは『東亜時局形勢図』)は、中国近代史における時事風刺漫画の一つである。当時の中国は列強による分割寸前の状況にあり、作者は国民への警鐘を鳴らすためにこの図を作成した。一般的には、『時局図』の作者は興中会メンバーの謝纘泰(1872年-1939年)とされている。添えられた題詞の作者については諸説あり、第一に姓名不詳の広東人[1]、第二に作者の謝纘泰自身[2]、第三に清末の政治家である黄遵憲(1848年-1905年)という説がある[3][4]。
『時局図』は、最初は1898年7月に英領香港の新聞『輔仁文社社刊』に掲載された[5]。その後、1903年に蔡元培が主編を務める上海の新聞『俄事警聞』にも転載されたが、その際には漫画の題名は『瓜分中国図』に改められた[6]。

当時の大清は日清戦争での敗北を経験し、さらにロシア帝国が東三省を侵食するなどしており、清末中国では「列強による中国の瓜分論」が盛んであった。西洋列強による領土割譲や賠償の動きが強まる中、上海の『知新報』は日本の『時事新報』を翻訳し、フランスが日本に送った外交照会「法國照會瓜分中國事」を掲載し、あわせて「中国分割図」[7]、ドイツの風刺画『眠れる中国』、イギリスの風刺画『列強による中国分割』などを掲載した[8]。このように、「列強による中国分割論」は外国新聞の社説や風刺画にも頻繁に見られた。
『時局図』の作者とされる謝纘泰は数学と手工技術に長けており、かつて飛行船の開発に心血を注ぎ、「中国号」飛行船の設計に成功した人物である。彼は中国の航空産業の発展を推進しようとしたが、清朝政府には受け入れられなかった。しかしその設計はイギリスに渡り、広く称賛と敬意を受けたという[9]。このことから、謝は漫画の専門家ではなく、彼の作品は外国新聞の風刺画を翻訳・参考にしたものである可能性がある。
馮自由(1882年-1958年)は、1939年から1948年にかけての著作『革命逸史』の中で、謝が自ら『時局図』を描いていたことを回想している:
しかし、蔡元培が1903年に『時局図』を『俄事警聞』に転載した際には、次のように述べている:
内容

原版本
原版本の『時局図』は、おおよそ1890年から1898年の間に制作されたと推測されている。この漫画には5人の中国人の姿は描かれておらず、各国はすべて動物で表現され、注釈による解説が添えられていた。北方に位置する熊は東三省と蒙古を占拠しており、ロシア帝国を意味する。イギリス帝国は犬として描かれ、長江流域を占有している。インドシナ半島を押さえ[注 1]、広東・広西・雲南に手を伸ばす蛙は、フランス第三共和政を象徴している。ソーセージはドイツ帝国を表し、山東を占めている。太陽は日本の比喩であり、その光線は台湾にまで伸びている。鷹はフィリピンを押さえながら中国領土に虎視眈々と狙いを定めており、列強と利益を分け合おうとするアメリカを示している[6]。
新版本
新版『時局図』は彩色で描かれ、後の人々によって加工され改変されたものである。そこには発行日時が記載されておらず、誰が改変したのかについての文献も存在しない。ただし、これは1900年以降かつ、1904年2月の日露戦争勃発以前に作られた作品であり、現在広く流通している版本である。朱士嘉が1940年にアメリカ国立公文書記録管理局でこの版本を発見し、複製を作成し帰国して以来、すぐに多数の教材や著作で使用されるようになった。しかし、この版本の『時局図』は出所不明であり、注釈も不確かであるため、いくつかの意見の議論が存在する[10]。
この版本では、5人の中国人の図像が登場する。1人は銅銭を手に掲げており、民衆の財産を掠め取る貪官を象徴している。もう1人は右手に酒杯を高く掲げ、左手で女性を抱きしめており、これは酒色に溺れ、民族の安危を顧みない土豪劣紳を表している。さらに1人は地面に横たわり、精力を失っている様子で、これはアヘンを吸う朝廷の官僚を象徴している。1人は馬のそばで重りを持ち武道を練習しており、もう1人は本を読んでいて、その本には「之乎者也(なり・けり・べけんや。難解な文語調の象徴)」と書かれている。二人は文状元と武状元を象徴しており、どちらもアヘンに溺れる官僚の罠に嵌っている。これは科挙試験など昇官の方途を通じて清朝に欺かれ愚弄される民衆を象徴している[1]。
また、各国を象徴する動物にも若干の変更が見られる。元々イギリスを代表していた犬は、座っている姿から、猛虎が山を下りるような勢いで長江流域に伏している姿に変更された。日本を代表する太陽の光線は、もはや台湾島だけでなく、遼東半島や福建、中国内陸にも伸びている[1]。さらに、珠江河口近くのマカオの位置には、新たにポルトガル王国を象徴するエビが加わり、ポルトガル領マカオを表している。
『時局図』の下方では、左から右にかけて、海を隔てて中国大陸を望む動物たちが順番に描かれており、それぞれの動物が以下の国々を象徴している:蛙(フランス)、駱駝(スイス)、牛(イタリア王国)、鼬鼠(オランダ王国、国旗を東インド植民地に掲げている)、皇冠を被る鷲(オーストリア=ハンガリー帝国)。これらの欧州の国々は、いずれも中国に対する野心を持ち、時には直接的に中国への侵略に関与した。また、スイス国旗の右側にはギリシャ王国の、左側にはペルーの国旗が描かれているが、これらの国々には対応する動物は描かれていない。
「ドイツ問題」
前述の通り、新版本では動物が変更されているが、ドイツを象徴するものは曖昧に表現されており、いくつかの説が存在する。それぞれ、ソーセージ、蛇、虎の尾、およびドイツ国旗が挙げられている[5]。
馮自由の『革命逸史』では、「ソーセージはドイツを表す」と記載されている。ドイツは多くのソーセージを生産しているが、ある人々はこれが広東語の「長蟲」(蛇を意味する俗語)の聞き間違えだと考えており、したがってドイツを表すものはヘビであると主張している。別の見解としては、新版本でのドイツの国旗が正しい代表物だとされており、これはドイツが膠州湾を強制租借したことを象徴している。また、虎の大きな尾が山東を取り囲んでいることは、イギリスが威海衛を強制租借したことを示しているとされる[5]。しかし、諸説紛紛としており今なお結論は出ていない[11]。
