沈雨香

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沈 雨香(シン ウヒャン、英語Woohyang Sim朝鮮語심 우향1983年昭和58年〉[1] - )は、日本の研究者早稲田大学国際教養学部に所属しカタールチェア[2][3][4][5][6]の主要研究者を務める助教[7][8][9]教育社会学高等教育中東湾岸諸国(GCC)を専門とする[8][10]

2021年から早稲田大学およびカタール大学による共同事業であるカタールチェアの早稲田大学側の主要研究者を務めている[7][8][9]。カタールチェアは、タミーム・ビン・ハマド・アール=サーニーカタール首長が主導する[5][11]イスラム地域の理解を深める共同事業であり、早稲田大学カタール大学の両大学から10年間で1300万ドル相当の出資のもとで進められている[7][2][3][4][6]

沈雨香はカタールチェアでは中東湾岸諸国(GCC)における高等教育の現状とその社会的役割を中心に、教育を取り巻く人々の意識と行動、進路選択とジェンダーなどのトピックに取り組み[7]、「中東における学位に関する意識と行動の比較研究」[12]に従事している。

早稲田大学教育学部に在学中は教育社会学のゼミに所属し女性教育、多文化教育、社会教育、高等教育など教育を中心とする多様な学問に触れた[13]早稲田大学大学院教育学研究科の修士課程2年生に在籍していた2013年には、サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路800Kmを踏破した[14]。「この800㎞があったからこそ、私は博士課程に進学し、博士論文が書けていると言っても過言ではない。」と述べている[14]2020年大学院教育学研究科から博士学位授与[15][16]2021年には、ユネスコの高等教育におけるジェンダー不平等を訴えるイベントに招聘され女性の大学進学について発言した[17][18][19][20]2024年に、複数の研究に研究不正が認定されたことが公表された[21][22][23][24][25]

主張

研究内容

2020年4月、大学院教育学研究科において、中東湾岸諸国(特に湾岸協力会議:GCCに加盟するサウジアラビアカタールUAEバーレーンクウェートオマーンの6か国)における女性の高い教育目標の追求(教育アスピレーション)と卒業後の進路に対する意識(労働参加意識)をテーマとした研究により博士学位を取得した[15][16]中東湾岸諸国(GCC)の女性は、必ずしも労働市場への参加を目的とするのではなく、むしろ「個人的な充足感」といった教育そのものを目的として大学進学すると主張している[26]。これは、教育を労働と直結して捉えがちな従来の見方とは異なる視点である。

さらに沈は、「イスラム社会の法的・文化的な制限が女性の社会進出を阻害している」という通説を否定している。沈によれば、中東湾岸諸国(GCC)の女性の低い労働参加率は、実際にはそうした外的制限に起因するものではないとする。むしろ、女性たち自身が「働かない」という選択を、合理的な理由に基づき行っている結果であることが明らかになったと主張する[15][16]。その具体的な理由として、大学での専攻と実際に希望する職種との間にミスマッチが存在することや、労働環境を吟味した上で、あえて働かないという合理的な選択肢を取っていることなどが発見されたとする[15][16]

高い教育を受けながらも労働市場に参加しないという、一見矛盾する現象を、個々の女性の主体的な合理的な選択として捉え直したこの研究の知見は、博士論文の審査において「高い教育アスピレーションにもかかわらず労働しない選択という、これまでの研究とは矛盾する現象を、GCC 諸国の女性の生活世界を介在させることで合理的な選択という結論を導いたことは大変興味深く、新たな理論枠組みの構築が期待される。」と評価された[16]

加えて、調査の困難さも評価の対象となった。「GCC地域に入って調査研究を行うことは容易ではない。2,500票を越えるアンケート調査の回答を集めたこと、24名に対するインタビュー調査を行ったことは、専門の研究者でも多くの困難を伴うものであり、この点でも評価することができる。」とされた[16]

社会的発言

ユネスコのイベントにおいて、中東湾岸諸国(GCC)では、博士学位を持った女性が仕事でも日常でも尊敬されるといった学位が高く評価される文化があるため、女性の大学進学率が非常に高くなったと主張した[18]。そして、世界の大学をめぐる女性のジェンダー不平等について、「不平等を克服したいのであれば、女性がアジェンダに影響を与える必要がある」と発言している[19]

日本のグローバル人材育成に関しても、沈はいくつかの問題提起を行っている[27]。現在、グローバル人材育成のために留学が積極的に推進されているが、留学という経験だけでは、グローバル人材に求められる要素のごく一部しか伸ばすことができないと指摘する。特に、短期留学に関しては、グローバル人材育成への貢献度が低い可能性を示唆している。その一方で、日本国内で増加している外国人留学生と日常的に接する経験が、グローバル人材に求められる多様な要素を涵養する上で有効な手段となり得る可能性も指摘する。

研究不正

文部科学省日本学術振興会早稲田大学は、2024年に、博士論文を含む大学院在学時に行われた研究に基づく複数の研究成果に研究不正があったと認定したことを公表した[21][22][23][28][25]。博士論文、修士論文を含む5つの論文および3つの学会発表の計8つの研究成果が調査対象となり[29]、その全てについて、改ざん自己盗用、不適切な研究行為(QRP:Questionable Research Practice)のいずれかまたは全てが認定された[30][31]。アンケートデータやインタビューデータの改ざんに加えて改ざんしたデータを出典を記載せずに複数の研究成果で使い回したことが自己盗用とされた[25]

米国のCenter for Scientific Integrityが運営する研究公正ニュースサイトであるリトラクションウォッチ2023年5月18日の報道[32]によると、沈雨香は研究不正を否定し、英語が母国語でないことによる正確な翻訳作業の苦労や不注意が重なった結果であると弁明[注 1]した。読売新聞早稲田大学の内部資料を入手し研究不正の責任について指導教員により重い責任を判断したことについて報じた[9]MyNewsJapanは、文部科学省に対して情報公開法に基づく開示請求を行い、早稲田大学から盛山正仁文部科学大臣宛に提出された約40頁の調査報告書を入手して公開し、指導教員の責任について判断がなされていたことを報じた[31][33]

博士論文に研究不正が認定されたことを受けて、指導教員が博士論文の訂正の対応を担当し、2025年1月29日に訂正申請、2月25日に訂正承認が行われた[34]。この結果、沈雨香の博士論文は60項目の訂正[34]を経て学位が維持されることとなった(大量訂正)。博士論文以外のその他の調査対象となった研究成果は訂正、撤回または論文出版元大学からの提供停止等の扱いがなされている[35][36][37][38]

経歴

1983年生まれ、韓国出身[1]

2008年来日[14]早稲田大学教育学部教育学科生涯教育学専修入学[13]

2012年3月 早稲田大学教育学部生涯教育学専修卒業[13]

2014年3月 早稲田大学大学院教育学研究科修士課程修了[8][13]。指導教員は吉田文

2014年4月 早稲田大学大学院教育学研究科博士課程入学[8]

2015年4月 - 2017年03月 早稲田大学 教育・総合科学学術院 教育総合研究所 研究協力員[8]

2015年 Sheikh Saud bin Saqr Al Qasimi Foundation for Policy and Research   Research Intern[8][39][40]

2016年 Sheikh Saud bin Saqr Al Qasimi Foundation for Policy and Research   Visiting Doctoral Scholar[8]

2018年4月-2020年3月 早稲田大学教育学部 助手[8]

2019年 King Faisal Center for Research and Islamic Studies Visiting Fellow[41][8][42]

2020年4月 博士学位授与[15][13]。指導教員、主査は吉田文[16]

2021年4月 早稲田大学国際教養学部 助教(カタールチェア担当)[7][2][13]

2024年3月 早稲田大学からの研究不正の公表[23][24][21][22][25]

2025年2月 博士論文の訂正の承認[34]

研究業績

学位論文

博士論文

  • 沈雨香(Sim, Woohyang ) (28 April 2020). What is higher education for? Educational aspirations and career prospects of women in the Arab Gulf [中東湾岸諸国の女性はなぜ高等教育へ進むのか] (博士(教育学) thesis) (英語). 早稲田大学. pp. 1–235. hdl:2065/00074141. NAID 500001893124. 学位授与番号: 甲第6108号、NDLJP:11816100. 2025年3月6日閲覧.[15]

論文

学会発表・講演

(学会発表)

(招待講演)

分担執筆

競争的資金(公的資金)

(代表)

(分担)

研究内容に関する報道

脚注

関連項目

外部リンク

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