火星転移
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| 火星転移 Moving Mars | ||
|---|---|---|
| 著者 | グレッグ・ベア | |
| 訳者 | 小野田和子 | |
| 発行日 |
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| 発行元 | ハヤカワ文庫 | |
| ジャンル | SF ハードSF | |
| 国 |
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| 言語 | 英語 | |
| ページ数 |
427(上巻) 423(下巻) | |
| コード |
OCLC 28422079 ISBN 978-4150111878(上巻) ISBN 978-4150111885(下巻) | |
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『火星転移』(かせいてんい、原題:Moving Mars)はグレッグ・ベアによるポリティカルSF小説である。1993年に出版され、1994年のネビュラ賞 長編小説部門を受賞した。また、同年のヒューゴー賞、ローカス賞、ジョン・W・キャンベル記念賞にもノミネートされた[1]。
革命的な科学技術の発見を発端に、地球と火星移住者の間で政治的緊張が高まる中、若き指導者の奮闘を描く。
上巻
22世紀後半。開拓惑星としての火星では、人々が地下都市で社会を形成していたが、地球からの支配を常に意識せざるを得なかった。
強力な火星中央政府の確立を目指す 国家主権主義者が校長を務める火星大学シナイ校で、一方的な退学処分に憤慨した学生が、大学襲撃を計画する。主人公キャシーア・マジュムダーは所属するBM(結束集団)の政治的立場との間で葛藤するが、学友と共に抵抗運動に加わる。武装警備隊の攻撃に遭い、グループは逮捕される。
大学が再開されるとキャシーアは新たに高等人文科学を学び始める。若い火星人たちの逃避先であるシンクタウンでの休暇中に、抵抗運動で知り合ったチャールズと再会し恋仲となる。通常は出ることの無い火星表面にある廃墟となったワイナリーと化石発掘地を二人で探検する。チャールズへの愛情と自立願望の間で葛藤し、キャシーアは別れを選ぶ。
キャシーアは思考体アリスとの面接を経て、叔父で経験豊富な政治家であるビトラス・マジュムダーの見習い生として地球への外交ミッションに同行する。船中で出会ったオリアナは、エンハンスメントやシムに耽溺する地球人を象徴していた。地球に到着した代表団は火星の自立と公平な経済関係を求めるが、地球側は支配を弱める気はなく、交渉は不調に終わる。
一方 チャールズは、オリンピアンと呼ばれる天才集団と共に、革新的な技術を開発する。地球はこの技術の核心にたどり着いていないものの、その兆候を察知し、対抗手段として 火星の思考体に進化子(ウィルス)を仕込む。
下巻
スキャンダルによってマジュムダーBMの評判が地に落ち、母親の死も重なって悲しみに暮れていたキャシーアは、イリヤ・ラビノヴィッチと出会い結婚する。彼は安定と繁栄で知られるエルズルBMの一員だった。キャシーアの義母となったティ・サンドラは最終的に火星暫定中央政府の大統領となり、キャシーアを副大統領に指名する。
地球と火星の間の緊張が高まる中、チャールズは惑星サイズの物体を瞬時に長距離移動させる技術を開発したことをキャシーアに明かす。キャシーアと指導者たちは、この技術が地球との対立を決定的なものにすることを恐れ、最後の手段にしか使おうとしない。キャシーアは新技術を深く理解するため、エンハンスメント処置を受ける。チャールズは物質の一部をその特性を持つ「反物質」に変換することで、技術の有効性を検証する実験を成功させた。
この実験により、火星側が得た決定的な能力を認識し 恐怖を抱いた地球は、進化子を起動させ火星を混乱に陥れ、火星政府に対し支配権を要求する。火星側は力を顕示するため、衛星の一つであるフォボスを地球の軌道上に移動させ 再び火星の軌道に戻したが、これは火に油を注ぐ形となった。
地球は要求を撤回し、技術の複製を急ピッチで進める。キャシーアとチャールズを伴う調査隊は、フォボスを拠点として 火星の移住候補地となる恒星系を探索する。その途上、思考体が他の「真実」を検証しようとして気を取られ、思考体とリンクしていたチャールズの精神を危うくする。
調査から程なく、地球はナノテクロボットを用いて火星に侵攻し、ティ・サンドラは死亡。代表者たちによる選挙を行う余裕もなく、惑星の大統領となったキャシーアが指揮を執ることになる。反撃の望みを絶たれた彼女は 深刻な危険性を承知しながら、火星を太陽系から離脱させ、1万光年離れた恒星の周回軌道に乗せる決意をする。
評価
出版年、パブリッシャーズ・ウィークリー誌はこの小説を『ベアは極めて興味深いハードサイエンスのアイディアを提示し、小説は緊迫感あふれるテクノスリラーへと展開していく。ベアは、テンポの速いプロット、リアルで魅力的なキャラクター、AIウィルス、ナノテクノロジー、そして不正取引に満ちた未来の地球を鮮やかに描き出す。そして、近年のSF小説の中でも最も説得力のある政治と科学の描写。これらすべてが相まって、本作は驚異的な傑作に仕上がっている。近年の火星小説の中では最高傑作と言えるかもしれないし、間違いなく今年のSF小説の中でも屈指の傑作と言えるだろう。』と評している[2]。
登場人物
主要人物
- キャシーア・マジュムダー
- 語り手であり、後に火星大統領となる主人公
- チャールズ・フランクリン
- キャシーアと恋仲になるものの破局。オリンピアンズを率いる科学者。
- ティ・サンドラ・エルズル
- 統一火星政府の初代大統領。キャシーアを副大統領に指名。
- ビスラス・マジュムダー
- キャシーアの叔父。地球訪問の代表者。古い政治体制とその文化的背景を体現。
- オリアーナ
- エンハンスメントやシムへの耽溺の象徴となる若い地球人女性
- アハメド・クラウン・ナイジヤー
- 策士の政治家。学生運動を押さえたり、地球勢力に火星を売ろうとする裏切りの象徴。
- ショーン・ディキンソン
- 反国家主権主義の学生リーダーとして登場するが、その後地球との交渉では自己中心的になる。
キャシーア学生時代の関連人物
- グレティル・ロートン
- ショーンのパートナー
- ダイアン・ヨハラ
- 学生時代のルームメイト
- フェリシア・オバガード
- 大学の同級生
- フリーチャイルド・ドーブル
- 火星国家主権主義者である知事
- キャロライン・コナー
- フリーチャイルド・ドーブルの旧友であり、火星大学シナイ校の校長
地球訪問時の関連人物
- アレン・パク・リー
- キャシーアと同じ見習い生
- ジョアナ・バンクロフト
- ハスキーヴォイスの美人担当ガイド
- ミリアム・ジャフリー
- 広い人脈を持つ、地球の要人との橋渡し役
オリンピアンズ
- スティーブン・リアンダー
- 主任研究員
- タマラ・クワン
- 数種の外的エンハンスメント処置を受けている最若手
- ネヘミア・ロイス
- シュタインブルク=レシュケBM出身の、背が高く澄んだ目をした男性
- チンジャ・パーク・アモイ
- 長い手足に短い胴体の小惑星帯人(ベルター)
- アイラ・ウィンクルマン
- 元カイェテの代言士
キャシーアの家族
- スタン
- キャシーアの兄
- イリヤ・ラビノヴィッチ
- キャシーアの夫
ポイント・ワンの関連人物
- ダンディ・ブレイカー
- キャシーアのセキュリティガード
- リエ・ウォーカー
- 通信監視チームのヘッド
- タレク・ファーカッツイ
- 保安全般の責任者
系外惑星調査の関連人物
- ジャクソン・ハーゲシャイマー
- 太陽系外惑星が専門の天文学者
- ガリーナ・キャメロン
- ジャクソンの助手
- ジェラード・ヴァクスラー
- シュタインブルク=レシュケBM出身の建築家で工学者
