登記事項 (商業登記)
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商業登記の登記事項は、前述の様に各登記簿毎に異なっている。そのため、どのような登記簿が存するかが問題となる。以下には、商業登記簿の種類とその概要を挙げた(商業登記法6条)。
- 商号登記簿 - 個人商人の商号に関する事項を公示する登記簿(商法第11条 登記事項は商業登記法に規定)
- 未成年者登記簿 - 未成年者が、商法第4条の営業を営む場合に、必要な事項を公示する登記簿(商法第5条 登記事項は商業登記法に規定)
- 後見人登記簿 - 後見人が、被後見人のために商法第4条の営業を営む為に、必要な事項を公示する登記簿(商法第6条 登記事項は商業登記法に規定)
- 支配人登記簿 - 個人商人の支配人に関する事項を公示する登記簿(商法22条 登記事項は商業登記法に規定)
- 株式会社登記簿 - 株式会社に関する事項を公示する登記簿(登記の根拠条文、登記事項ともに会社法911条)
- 合名会社登記簿 - 合名会社に関する事項を公示する登記簿(登記の根拠条文、登記事項ともに会社法912条)
- 合資会社登記簿 - 合資会社に関する事項を公示する登記簿(登記の根拠条文、登記事項ともに会社法913条)
- 合同会社登記簿 - 合同会社に関する事項を公示する登記簿(登記の根拠条文、登記事項ともに会社法914条)
- 外国会社登記簿 - 外国会社に関する事項を公示する登記簿(登記の根拠条文、登記事項ともに会社法933条)
留意点としては、会社の商号に関する登記は、会社の登記簿にされるのは当然であるが、会社の支配人の登記も会社登記簿にされる。この点では、個人商人と異なっている。しかし、「本来、支配人の登記は、別個の登記簿にすべきもの」との考え方は有効なようで、会社の支配人に関する登記や登録免許税は、さまざまな点で会社の他の登記に比べて、特殊である。
区
前述の通り、各登記簿の登記事項は、共通する事項ごとに区に分けられ整理されている。いずれの登記簿にも、登記簿自身の創設・閉鎖の原因やその日付を示す「登記記録区」は必ずあるが、それ以外の登記事項の区分の仕方は、個人商人に関する登記簿(会社に関する登記簿以外の登記簿)と会社に関する登記簿では大きく異なる。そのためこの二つについて以下で論じる。
個人商人に関する登記簿の区
会社の登記簿以外の登記簿は、二つの区から成り立っており、「登記記録区」と「登記記録に関する事項以外を記録する区」からなっている。これらの登記簿には、それぞれの登記簿の目的が異なっているため、二区で構成されていること以外に共通点はない。具体的には以下のようになる。
| 商号登記簿 (別表第一) | 未成年者登記簿 (別表第二) | 後見人登記簿 (別表第三) | 支配人登記簿 (別表第四) | |
|---|---|---|---|---|
| 区 | 商号区 登記記録区 |
未成年者区 登記記録区 |
後見人区 登記記録区 |
支配人区 登記記録区 |
会社に関する登記簿の区
会社に関する登記簿はどの登記簿も「経済活動の主体の公示の要請」から生まれたものなので、会社の種類に関らず共通の登記事項については、原則的に同様の区分のし方で整理されている。しかし、会社はその種類ごとに性質が異なるため登記事項も異なり、それらについては区分のされ方も相異なっている。そのため、「会社の種類に関わらず共通の区」と「会社の種類毎に異なる区」が存在する。ただし、種類に関わらず共通の区であっても、その区中に記載すべき事項が同じとは限らず、会社履歴区及び会社状態区は、会社の種類毎にその区に記録すべき登記事項の内容が異なることは注意を要する。区を会社ごとに比較すると以下のようなものになる。
| 横:会社の種類 縦:区の種類 |
持分会社 | 株式会社 (別表第五) | ||
|---|---|---|---|---|
| 合名会社 (別表第六) | 合資会社 (別表第七) | 合同会社 (別表第八) | ||
| 会社の種類に関わ らず共通の区 |
1.商号区 - その会社を特定するのに必要な事項が記載される区。商号のみ記載されるわけではない。 2.目的区 - その会社がどの様な事業を行なうのかが記載される区。目的のみ記載される。 3.会社支配人区 - その会社の支配人に関する事項が記載される区。 4.支店区 - その会社の支店に関する事項が記載される区。 5.会社履歴区 - その会社が、現状までの変遷が記載される区。原則的に会社が吸収してきた相手などが記載される。 6.会社状態区 - その会社の現状が記載される区。原則的には機関設計、解散、訴訟に関する内容が記載される。 7.登記記録区 - その会社の登記記録(登記簿)についての事項(登記記録の創設、閉鎖、復活の事由及び年月日等)が記載される区。 | |||
| 種類ごとに 異なる区 |
社員区 | 社員区 資本区 |
資本・株式区 新株予約権区 役員区 役員責任区 企業担保権区 | |
会社の種類ごとに異なる区
また、何故会社の種類ごとに異なる区があるのかは、「誰が何のために公示を要請しているのか」を考える必要がある。まず、会社の種類によって異なる区のほとんどが、社員および資本に関する事項である。これらの公示を必要とする者とその理由は以下の様になる。
- 会社の債権者………………自己の債権回収の可能性を把握するため。
- 会社の出資者(所有者)…出資(投下資本)及びその利益の回収の可能性を把握するため。
会社の債権者の立場からは、債務者となる会社が合名会社や合資会社の場合、無限責任社員の個性が、債権回収の蓋然性に直結する。そのため、これらの会社は、その登記簿で「社員」の公示が義務付けられる。しかし、合同会社や株式会社の場合、無限責任社員がいないため、債権者の関心は、専ら会社財産の多寡に集まることとなる。それゆえ、これらの会社は「資本金の額」を公示する必要性が出てくる。また、株式会社には、債権者保護の観点から、企業担保権も株式会社の登記簿で一体的に表示することになっており、他の会社とは異なって、企業担保権区が設けられている。
また、会社の所有者ないし出資者の立場に立った場合、投下した資本が誰によって運用されるかは非常に重要な情報であり、任務懈怠時の責任追及の為にも、経営陣の公示が必要となる。持分会社の場合には、所有者が経営者であるから社員区を見れば経営陣がわかることになるが、場合によっては業務執行社員や代表社員が定められている場合があり、その特定のためにも「社員区」が必要になる。株式会社の場合は、所有と経営が分離している為、「社員」の公示は必要ではないが、経営陣の公示の要請は株式会社でもあるので、「役員区」でそれを公示する事になる。
また、株式会社の役員がその職務を行うにつき損害賠償を請求される場合は、額が天文学的に莫大な数字になることも多々あるため、役員の地位に着く者(特に社外取締役)を確保するために責任を限定的にする手段が必要となるが、その手段の行使は、債権者や株主を害する結果につながりかねないため、そのような、役員の責任を軽減するような手段を導入した場合は公示が必要となる。その様な理由で、株式会社には特に「役員責任区」が設けられている。
更に、株式会社の場合、出資比率の変動が、出資者の利害に絡む場合が多いので、株式や新株予約権に関する事項の公示が要請される(詳しい出資比率などは株主名簿の閲覧によって知ることになる)。
登記事項
各登記簿の登記事項は、商法、会社法、商業登記法に規定されている。
従来は、登記を必要とする旨及び登記事項を商法で規定、商法に登記事項の定めがないものを商業登記法で定め、特殊な登記事項を規定することを命令(商業登記規則や商業登記準則など)に委任する形をとってきたが、会社法の制定に伴い、以下の様に整理された。
- 個人商人の登記簿 - 商法で登記を必要とする旨を規定し、登記事項を商業登記法で規定。
- 会社に関する登記簿 - 原則として、登記を要する旨と登記事項の両方を会社法で規定。
ただし、会社の登記簿に記載すべき事項は、会社法以外の法律や命令(破産法や会社更生法等とそれらに付随する命令)によって規定されているものもある。
株式会社の登記事項
株式の内容に関する事項
単一株式発行会社の株式の内容は、株式・資本区の「発行する株式の内容」の欄に記され、種類株式発行会社の各種類株式の内容は、「発行可能種類株式総数及び発行する各種類の株式の内容」に記される。
単一株式会社が種類株式発行会社となった時は、「発行する株式の内容」の欄は職権で抹消されて、新たに「発行可能種類株式総数及び発行する各種類の株式の内容」の欄が追加される。すべての種類株式に共通する事項が「発行する株式の内容」に記される訳ではないことに注意を要する。
また、株式の譲渡制限規定は、株式の全部または、種類株式の内容として登記することができるが、他の株式の内容と違い、多くの利害を生む関係上、別途に「株式の譲渡制限に関する規定」の欄に記載される。
また、単一株式発行会社であれ、種類株式発行会社であれ、株式の内容を定めていない場合は、「発行する株式の内容」「発行可能種類株式総数及び発行する各種類の株式の内容」の欄に記録されるものは、経過措置やみなし規定に当てはまらない限り、ない。
種類株式の内容
種類株式発行会社が種類株式の内容として、以下にあげた事項である(会社法第108条1項各号同法第322条)。それに対して、非公開会社に認められる同法第109条2項の定款の定め(いわゆる属人的定め)は、株式の内容とはされていないので、登記することはできない。
| 登記事項 | 記載例 |
|---|---|
| 剰余金の配当 (108条1項1号) |
1.剰余金の配当 剰余金については、第一種から第三種までの優先株式を有する株主( 以下 「優先株主」という。) に対し、普通株式を有する( 以下「普通株主」 という。) に先立ち、1株につき2万円の剰余金を支払う。 |
| 残余財産の分配 (108条1項2号) |
1.残余財産の分配 残余財産の分配については、第一種から第三種までの優先株主に対し、普通 株主に先立ち、それぞれ次に定める額の金銭を支払う。 第一種優先株式1株につき300万円 第二種優先株式1株につき200万円 第三種優先株式1株につき200万円 |
| 議決権に関する事項 (108条1項3号) |
1.議決権 第一種から第三種までの優先株主は、株主総会において議決権を有しない。 ただし、剰余金の優先配当に係る議案が定時株主総会に提出されないときはそ の総会より、その議案が定時株主総会において否決されたときはその総会の終 結の時より、優先配当を受ける旨の決議のある時までは、議決権を有する。 |
| 譲渡制限 (108条1項4号) |
[「譲渡制限に関する規定」の欄参照。] |
| 取得請求権 (108条1項5号) |
1.第一種優先株式についての株主の取得請求権に関する定め 第一種優先株主は、いつでも当会社に対して当会社の株式を時価で取得することを請求す ることができる。 「時価」とは、当該取得請求日に先立つ45取引日目に始まる30取引日の株 式会社東京証券取引所における毎日の終値の平均値をいう。 |
| 取得条項 (108条1項6号) |
1.第三種優先株式についての取得条項に関する定め 当会社は、当会社が別に定める日が到来したときに、当会社の第三種優先株式を 時価で取得することができる。 「時価」とは、当該取得請求日に先立つ45取引日目に始まる30取引日の株 式会社東京証券取引所における毎日の終値の平均値をいう。 |
| 全部取得条項 (108条1項7号) | |
| 拒否権に関する事項 (108条1項8号) |
1.種類株主総会の決議を要する事項に関する定め 新たに配当優先株式を発行しようとする場合においては、第一種から第三種 までの優先株主の種類株主総会の決議を経なければならない。 |
| 役員選任権に関する事項 (108条1項9号) |
1.取締役の選任 普通株主は、種類株主総会において、定款所定の定数全ての取締役を選任す ることができる。 第一種から第三種までの優先株主は、種類株主総会において、取締役を選任 することができない。 |
| 法定種類株主総会排除 に関する事項 (322条2項) |
1.会社法第322条第1項の種類株主総会の省略 会社法第322条第1項に掲げる行為をする場合においては、 第一種優先株主及び第二種優先株主に損害を及ぼす恐れがある時であっても、 当該種類株主総会の決議を要しない。 |
全部の株式の内容
単一株式会社の株式に付すことのできる内容は、以下の三つである。
- 譲渡制限規定(会社法第107条1項1号)⇒「譲渡制限に関する規定」の欄に記載される。
- 取得請求権(会社法第107条1項2号)⇒「発行する株式の内容」
- 取得条項(会社法第107条1項3号)⇒「発行する株式の内容」
この三つは、種類株式発行会社が種類株式に付すことができる内容と原則として差はないため記載例は上記を参照。ただし、単一株式発行会社では、取得条項および取得請求権の対価(取得対価)として、当該会社の株式を設定できない点が、種類株式発行会社とは異なる。