練上手
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練上手(ねりあげで)は、色の異なる陶土を組み合わせ、練り合わせ、重ね合わせ、切断、成形などによって、胎土そのものに文様を表す陶磁器の技法である。練上、練り上げとも表記され、広義には練り込みと関連して説明されることもある。器の表面に絵付けを施す技法とは異なり、文様は土の組み合わせによって形成されるため、切断面や成形面に色土の層、流れ、斑文、線文などが現れる。
複数の色土を用いるため、土ごとの収縮率や焼成時の性質の違いが割れや歪みの原因になりやすい。このため、練上手では文様の設計だけでなく、土の調整、乾燥、成形、焼成に高度な技術を要する。近現代日本では、陶芸家の松井康成がこの技法を深く研究し、色土の性質をそろえる工夫や、壺・陶筥などへの応用によって練上手の表現領域を広げた。松井は1993年(平成5年)、重要無形文化財「練上手」の保持者に認定された[1][2]。
練上手は、複数の色土を素材として文様を作る技法である。色土を層状に重ねたり、棒状・板状に組み合わせたり、切断した断面を利用したりして、器の胎土の内部にあらかじめ文様を構成する。成形後に表面を削ることで、内部に組み込まれた文様が現れる場合もある。
この技法の特徴は、文様が表面だけに加えられるのではなく、土そのものの構造として形成される点にある。絵付けや釉薬による装飾では、器の表面に色や絵を加えるのに対し、練上手では色土の配置そのものが文様となる。そのため、切断、伸展、圧着、削り、ろくろ成形、手びねり、たたら成形などの工程によって、文様の見え方が変化する。
一方で、色の異なる土を組み合わせることは技術的な難しさも伴う。土の性質が異なると、乾燥や焼成窯での焼成の際に収縮差が生じ、割れや剥離が起きやすい。松井康成はこの問題に対し、呈色剤や釉薬を試行しながら、同じ性質をもつ土に色を与えるなどの工夫を重ね、練上手の制作可能性を広げた[2]。
歴史
松井康成と重要無形文化財
練上手を近現代陶芸の重要な技法として発展させた作家に、松井康成がいる。松井は1927年(昭和2年)に長野県に生まれ、茨城県笠間市の月崇寺に窯を築いた[2]。日本、中国、朝鮮半島の古陶磁を研究するなかで、異なる色の土を組み合わせて文様を表す練上の技法に出会い、生涯にわたってこの技術を追求した[2]。
松井は、異なる色土を組み合わせる際に生じる割れや収縮差の問題に取り組み、呈色剤や釉薬を試行しながら、土の性質と発色を調整した。これにより、従来は皿や鉢などに限られがちだった練上手を、壺や陶筥などの立体的な器形にも応用した[3]。
また、松井は練上手を基礎に、象裂、堆瓷、晴白などの表現を展開した[2]。これらは、練上手を単なる文様技法にとどめず、土の層、裂け目、削り、釉調、器形を総合的に扱う現代陶芸の表現へと押し広げたものであった。
松井は1993年(平成5年)、重要無形文化財「練上手」の保持者に認定された[1]。練上手が重要無形文化財の技法名として位置づけられたことは、この技法が日本の陶芸史・工芸史において独立した価値をもつものとして評価されたことを示している。
継承と現代の展開
松井康成の没後も、練上手・練上技法は複数の陶芸家や窯元によって継承・展開されている。松井康成の長男である松井康陽は、1962年(昭和37年)に茨城県笠間市に生まれ、1985年(昭和60年)に筑波大学芸術専門学群彫刻科を卒業したのち、月崇寺陶房に入り、父に師事した[4][5]。松井康陽は練上げ、灰釉などを技法として制作し、日本工芸会正会員として作品を発表している[5][6]。
松井康陽は、練上の制作について、素焼きと本焼きの二度焼成を行い、外側を鉋で削り出して素焼きし、その後にやすりがけ、施釉、本焼きを行うと説明している[4]。この説明は、練上手が単に色土を混ぜるだけの技法ではなく、成形後の削り出しや焼成管理を含む複合的な工程によって成立することを示している。
また、佐賀県有田町の艸窯(そうがま)は、有田焼において練り上げ技法による器を制作する窯元として知られる。艸窯は、異なる色の土を組み合わせて文様を表現する練り上げ技法によるやきものを制作し、有田ならではの文様と練り上げの独特な趣を特色としている[7]。同窯では、練り上げ技法による制作工程の見学やワークショップも行われており、練上・練り上げが伝統工芸作品だけでなく、現代の器制作や地域の陶磁文化のなかでも展開していることを示している[7]。
このように、練上手は松井康成によって重要無形文化財として高く評価された一方で、松井康陽のような作家による継承、艸窯のような窯元による器制作などを通じて、現代の陶芸・陶磁器制作にも広がりをもっている。
類似技法・関連用語
練り込み
練り込みは、複数の色土を組み合わせ、成形時に生じる文様を利用する陶芸技法である。練上手と近い意味で用いられることがあるが、現代の陶芸制作や実技分野では「練り込み」の語が広く使われる場合もある。練上手が文化財・工芸史上の技法名として用いられるのに対し、練り込みはより広い装飾技法名として説明されることがある。
絞胎文
絞胎文は、中国陶磁に見られる関連技法で、色の異なる胎土を組み合わせて木理状・大理石状の文様を表す。練上手や練り込みの比較対象となる。
練理文
練理文は、朝鮮半島の陶磁器における関連技法である。色の異なる土を組み合わせて文様を表す点で練上手と共通する。
鶉手
鶉手は、日本の陶磁器で用いられる文様・技法名の一つで、色土の混ざりや斑状の文様が鶉の羽に似ることからこの名がある。練上手や練り込みと関連して説明される場合がある。