血中コレステロール
From Wikipedia, the free encyclopedia
生理的意義
コレステロール
コレステロールは生体膜の成分として哺乳類の細胞[注 1]に必須の脂質である。また、ステロイドホルモンや胆汁酸の生合成にも用いられる。 コレステロールは多くの有核細胞内で生合成されているが、生体のコレステロール恒常性には肝臓が中心的役割を果たす。 また、肝臓を始めとする各細胞の細胞膜にはLDL受容体が存在し、血漿中のコレステロールを含むリポタンパク粒子を取り込むことができる[1]。
コレステロールは必須栄養素ではない。経口摂取されるコレステロールは体内で合成されるコレステロールより少なく、三分の一から七分の一程度とされる。経口摂取量に応じ、体内(肝臓)での合成量はフィードバック機構で調整されている[2]。
リポタンパク質
コレステロールは疎水性が強く水への溶解性が低いため、血漿中では主にリポタンパク質の成分として存在している。 リポタンパク質は、脂質単分子層の外殻と疎水性の脂質コアで構成されており、外殻はアポリポタンパク質・遊離コレステロール[注 2]・リン脂質から成る。脂質コアは、疎水性の強い中性脂肪(トリグリセリド)とコレステロールエステル[注 3]を主成分とする。
リポタンパク質は、比重(密度)が低い順に、カイロミクロン(chylomicron)、超低比重リポタンパク質(very-low-density lipoprotein : VLDL)、 中間比重リポタンパク質(intermediate-density lipoprotein : IDL)、低比重リポタンパク質(low-density lipoprotein : LDL)、および、高比重リポタンパク質(high-density lipoprotein : HDL)の5種類に大別される(リポタンパクの英語名の density は、慣用的に「比重」と訳されているが[3][4][5][1]、近年は「密度」という表記もしばしば見られる。) [6]。また、近年は、この5種類に加え、特殊なリポタンパク質、リポタンパク(a)(lipoprotein(a) : Lp(a))も動脈硬化との関連で注目されている[1]。
リポタンパク質の分画は超遠心法が古典的なゴールドスタンダードであるが、費用と時間がかかるため、日常の臨床検査では、代替指標として各リポタンパクに含まれるコレステロール(HDL-C、LDL-Cなど)が用いられる[1]。
| リポタンパク質 | 直径(nm) | 概算分子量(MDa) | 密度(g/mL) | 中性脂肪 | コレステロールエステル | 遊離コレステロール | リン脂質 | アポリポタンパク質 | 主要なアポリポタンパク質 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| カイロミクロン | 75〜1,200 | 50〜1,000 | 0.93 | 86 % | 3 % | 2 % | 7 % | 2 % | A, B-48, C, E |
| VLDL | 30〜80 | 10〜80 | 0.93〜1.006 | 55 % | 12 % | 7 % | 18 % | 8 % | B-100, C, E |
| IDL | 25〜35 | 5〜10 | 1.006〜1.019 | 23 % | 29 % | 9 % | 19 % | 19 % | B-100, C, E |
| Lp(a) | 25〜30 | 4〜5 | 1.040〜1.090 | 8 % | 30 % | 8 % | 25 % | 29 % | B-100, a |
| LDL | 18〜25 | 2〜3 | 1.019〜1.063 | 6 % | 42 % | 8 % | 22 % | 22 % | B-100 |
| HDL | 5〜12 | 0.2〜0.4 | 1.063〜1.210 | 4 % | 15 % | 5 % | 34 % | 42 % | A, C, E |
以下、簡略化したリポタンパク質の代謝経路を述べる[1][7]。
- 内因性代謝経路
- 肝臓ではVLDLが合成・分泌される。VLDLはアポB-100を主要アポリポタンパクとし、中性脂肪を多く含む大きな粒子である。
- VLDLは血管内皮細胞表面に結合しているリポタンパク質リパーゼ(LPL)により中性脂肪が加水分解されて、より小さなIDLとなる。
- IDLは肝臓で一部は取り込まれ、一部はHTGL(肝性リパーゼ)により中性脂肪が加水分解されて減少し、さらに小さなLDLとなる。
- LDLは主に肝臓のLDL受容体により血中から除去される。また、末梢組織の細胞もLDL受容体などが発現しており、LDLなどを細胞内に取り込む。
- 外因性代謝経路
- 小腸粘膜では吸収した脂質から大量の中性脂肪を含むカイロミクロンが合成される。
- カイロミクロンは小腸粘膜からリンパ管に移送され胸管から大循環に入る。
- 血中のカイロミクロンはVLDL同様に血管内皮上のリポタンパクリパーゼにより中性脂肪が加水分解されて、より小さなカイロミクロンレムナントとなる。
- カイロミクロンレムナントはLDL受容体などを介して肝細胞に取り込まれる。
- コレステロール逆転送系
- 未成熟のディスク状HDLは肝臓および小腸で合成される。
- 未成熟HDLは血流にのって移動しながら末梢細胞の膜のコレステロールを除去し、HDL上のLCAT(レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ)の作用でエステル化して内部に蓄えて成熟していく。
- HDLに含まれるコレステロールエステルは、CETP(コレステロールエステル転送タンパク質)の作用でLDLやVLDLに中性脂肪と交換で取り込まれる。LDLに移動したコレステロールは肝臓のLDL受容体を介して肝細胞に取り込まれる。また、HDL中のコレステロールエステルが肝臓のHDL受容体(SR-BI、スカベンジャー受容体BI)経由で直接肝細胞に取り込まれる経路も存在する。
アテローム性動脈硬化
アテローム性動脈硬化は動脈内のプラークの形成を伴う動脈の慢性炎症性の疾患である。 アテローム性動脈硬化が原因の心筋梗塞、脳梗塞、末梢動脈疾患などは 世界(特に生活習慣が欧米化した社会)の死因の重要な部分を占めるとされる[8]。
アポBを含むリポタンパク質(LDL、IDL、VLDLレムナント、カイロミクロンレムナント、リポプロテイン(a)など)はアテローム性動脈硬化の発生と進展に重要な役割を果たすと考えられており、これらの血管壁への累積曝露に応じて動脈硬化性心血管疾患のリスクが増加すると報告されている [9]。その機序としては、これらのリポタンパク質が動脈の内膜内に滞留し、酸化・変性して炎症を惹起するとともにマクロファージに取り込まれて泡沫細胞やアテローム性プラークの形成に関与する。コレステロールはマクロファージ内で分解されず蓄積してコレステロール結晶を形成すると考えられている[8]。
主な検査項目
コレステロールに関する臨床検査項目としては、総コレステロール(TC)のほか、HDLコレステロール(HDL-C)、LDLコレステロール(LDL-C)、および、計算指標としてnon-HDLコレステロール(non-HDL-C)がよく用いられる(non-HDL-Cとは、TCからHDL-Cを引いたものであり、LDLのみならずVLDL・IDLなどの動脈硬化惹起性リポタンパクに含まれるコレステロールを反映している[1])。いずれも、通常、血清で測定される[注 4]。
- 採血条件
脂質検査のうち、TC、HDL-C、non-HDL-Cは食事の影響が比較的小さいが、 食事で大きく変動する中性脂肪(TG)や、中性脂肪値に影響される検査項目(計算法のLDLコレステロールなど)も あわせて検査することが多いため、原則、空腹時が望ましいとされている[10]。 ただし、近年は随時の採血で測定した脂質をガイドラインに含める場合も増えてきている[7]。
- 日本と海外の差
本稿では、日本で広く用いられているJCCLSの共用基準範囲[11]や日本動脈硬化学会の「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版」[10]を主に参照しているが、 海外のガイドライン等とは異なる場合がある。
また、日本および米国ではコレステロールの検査値の単位には、通常、mg/dL が用いられるが、 国際的には mmol/Lで表示されることも多い。mg/dL から mmol/L へ変換する際は 0.02586 を乗じる (コレステロールの分子量は約387である)[1][11]。
総コレステロール(TC)
総コレステロール(total cholesterol、TC)は血清中の各リポタンパク質に含まれる遊離コレステロールおよびコレステロールエステル由来のコレステロールの総量である。血液中には赤血球などの細胞膜に含まれるコレステロールも存在するが、臨床検査としては血球を除いた血清中のコレステロールの定量が行われる[1]。
TCの臨床的意義
脂質異常症(旧称:高脂血症)の診断や治療管理に使用されるほか、栄養状態の評価にも用いられる[1]。 脂質異常症関連の検査としては、総コレステロールが単独で用いられることは少なく、 総コレステロール、中性脂肪、HDLコレステロール、LDLコレステロールの組み合わせがスクリーニングに用いられることが多い[1]。
- 脂質異常症
かつては、「総コレステロール値 220 mg/dL以上」が脂質異常症の診断基準に含まれていたが、 動脈硬化のリスクをより適切に反映する HDL-Cと LDL-Cの測定が普及し、 現在では脂質異常症の診断基準からは取り除かれている[1]。 TCとHDL-Cの両方を測定した場合は、TCからHDL-Cを引いたnon-HDLコレステロールが指標として用いられることがある(#non-HDLコレステロール参照)。
- 栄養指標
総コレステロールは栄養不良状態で低下するため、栄養状態の補助指標として用いられることがある。 総コレステロールを含む栄養指標の代表的なものにCONUTスコアがある[12]。 ただし、経口摂取以外に、炎症、肝障害、悪液質、甲状腺機能など様々な因子に影響されるので、 病歴や他の検査所見と合わせて判断する必要がある[13]。
TCの検査法
通常、酵素法による。 なお、血清コレステロールには遊離型とコレステロール分子の3位の水酸基に脂肪酸がエステル結合したコレステロールエステルの二種類が存在し、遊離型は四分の一前後が通常であるが、 検査に際しては、コレステロールエステラーゼにより、血清中のコレステロール全てを遊離コレステロールに変換し、遊離コレステロールを、コレステロールデヒドロゲナーゼまたはコレステロールオキシダーゼなどの酵素法を用いて定量する[1][14]。
TCの基準値
TCの成人基準範囲は、男女共通で、142〜248 mg/dLである(JCCLS共用基準範囲[11])。 なお、基準範囲とは基準集団(健康とみなしうる集団)の中央の95 %が含まれる範囲であり、この範囲内であれば病気ではないという意味ではない。詳細は基準値参照。
- 生理的変動
食事の前後では、ほとんど変化しない。男性では40〜50歳を頂点に60歳以後は徐々に減少するが、女性では閉経後に増加する[1]。
TCの結果の解釈
- 総コレステロールが高値を呈する病態
原発性のものとしては家族性高コレステロール血症を始めとする遺伝性高脂血症がある。 続発性のものとしては、甲状腺機能低下症(LDL受容体発現やコレステロール異化の低下) 、胆汁うっ滞(コレステロールの胆汁酸への異化抑制)[注 5]、ネフローゼ症候群(尿中タンパク漏出を代償するための肝臓でのリポタンパク合成亢進)などの他、 肥満、糖尿病などでは脂質異常症がみられることがある(TG高値、LDL-C高値、HDL-C低値も含む)[1]。
- 総コレステロールが低値を呈する病態
原発性のものとしては、無βリポタンパク血症、家族性低βリポタンパク血症、PCSK9機能喪失型変異[注 6]などがある。 続発性のものとしては、甲状腺機能亢進症(LDL受容体増加)、肝硬変(肝実質障害によるコレステロールやリポタンパク合成低下)、吸収不良症候群、悪液質を始めとする栄養状態不良などがあげられる[1]。
HDLコレステロール(HDL-C)
高比重(高密度)リポタンパクコレステロール(high-density lipoprotein cholesterol、HDL-C、HDLコレステロール)は、高比重リポタンパク(HDL)に含まれるコレステロール[注 7]である。俗に「善玉コレステロール」と呼ばれることもある。HDL-CはHDL量の指標として用いられるが、必ずしもHDLの機能を直接反映するわけではない。 HDLはコレステロールの逆転送系を担う。すなわち、HDLは末梢組織の細胞膜から遊離コレステロールを取り込み肝臓に輸送する。そのため、HDL機能の低下はアテローム性動脈硬化の危険因子と考えられている。ただし、HDL-CはHDL機能を直接測定するものではなく、HDL-Cが多いほど動脈硬化のリスクが減るわけでは必ずしもない。たとえば、CETP阻害薬はHDL-Cを上昇させるが、動脈硬化性疾患に対する効果は一貫していない。また、著しい高HDL-C血症では動脈硬化のリスクが高いとされる[1]。
HDL-Cの臨床的意義
HDL-Cは動脈硬化に予防的に作用するとされ、脂質異常症(高脂血症)の診断や治療管理に使用される。
HDL-Cの検査法
通常、直接法が用いられる(HDL以外のリポタンパクとの反応を抑制した上で酵素法によりコレステロールを測定)。
HDL-Cの基準値
HDL-Cの成人基準範囲は、男性 38〜90 mg/dL、女性 48〜103 mg/dLである(JCCLS共用基準範囲[11]) [注 8][1]。 ただし、脂質異常症の診断基準は男女とも40 mg/dL未満である。 日常臨床でもちいるHDL-Cの基準値では、下限を脂質異常症の診断基準、上限を基準範囲に基づいて設定していることがある。
- 生理的変動
有酸素運動で上昇し、喫煙で低下する。また、アルコール摂取で上昇し、一日15〜30 gのエタノールはHDL-Cを2.49 mg/dL増加させると報告されている[15]。 ただし、アルコール摂取が健康に有益という証拠はなく、HDL-C上昇を目的としてアルコールを摂取することは推奨されていない[16][17]。
HDL-Cの結果の解釈
- HDL-Cが高値を呈する病態
CETP(コレステロールエステル転送タンパク質)欠損症、HTGL(肝性リパーゼ)欠損症では高HDL-C血症がみられる。 CETP欠損症・CETP変異はアジア人に多く、ヘテロ型も含めると日本人の7〜8 %でみられる[1][20]。ただし、高HDL-C血症では動脈硬化のリスクは低下せず[注 10]、 逆に、基準範囲上限付近の90 mg/dLを超えるような顕著な高HDL-C血症ではリスクが高いとされる[1][21]。
- HDL-Cが低値を呈する病態
原発性のものとしては、タンジール病、アポA-Ⅰ欠損症、LCAT欠損症、LPL(リポタンパク質リパーゼ)欠損症、アポC-Ⅱ欠損症などが知られている[1]。
続発性のものとしては、肝硬変(HDL生成の低下)、甲状腺機能亢進症(HDL代謝亢進)などの他、虚血性心疾患、糖尿病、肥満などで低値がみられることがある[1]。
LDLコレステロール(LDL-C)
低比重(低密度)リポタンパクコレステロール(low density lipoprotein cholesterol、LDL-C、LDLコレステロール)は低比重リポタンパク(LDL)に含まれるコレステロールである。俗に「悪玉コレステロール」と呼ばれることもある[1]。
LDL-Cの臨床的意義
LDL-Cは主要な動脈硬化起因性のコレステロールであり、その検査は脂質異常症(高脂血症)の診断や治療管理に使用される。
LDL-Cの計算法
総コレステロール(TC)、HDLコレステロール(HDL-C)、中性脂肪(TG)からフリードワルド(Friedewald)の式(F式)で計算する方法がスクリーニングでよく用いられる(空腹時採血の場合)[注 11][1]。
フリードワルド式: (単位は全てmg/dL)
ただし、食後採血の場合やTGが400 mg/dL以上ではこの式は用いることができない。また、TGが200 mg/dLを超える場合や、LDL−Cが低値の場合も精度が低下しうる。
F式の欠点を補い、中性脂肪高値やLDL-C低値においてもより正確にLDL-Cを推定できる式として、マーチン・ホプキンス式[22]とサンプソン・NIH式[23]がある[注 12]。米国の「2026年ACC/AHA脂質異常症管理ガイドライン」[24]では、LDL-Cの計算式としては、F式よりもマーチン・ホプキンス式[22]またはサンプソン式を推奨している。
マーチン・ホプキンス式: (AFは調整係数)
- マーチン・ホプキンス式は、F式の固定の5の代わりに、中性脂肪値とnon-HDL-C値に対応する180セルの調整係数の表を採用している。例をあげれば、TGが57〜61 mg/dLでnon-HDL-Cが130〜159 mg/dLなら調整係数は4.0、TGが202〜220 mg/dLでnon-HDL-Cが160〜189 mg/dLなら6.0となる。詳細は文献[22]参照。
サンプソン・NIH式:
LDL-C検査の直接法
直接法では、LDL以外のリポタンパクとの反応を抑制した上で酵素法によりコレステロールを測定する。かつては試薬間差が問題とされたが、近年はある程度は解消されてきており、 食事の影響を受けにくい直接法が使用されることが増えてきている[10]。ただし、計算法に比べ費用がかかること、標準化や検証がまだ不十分なことが問題として指摘されている[24]。
LDL-Cの基準値
LDLコレステロールの共用基準範囲は、65〜163 mg/dLである[11]。一方、高LDLコレステロール血症と診断するためのカットオフ値は140 mg/dL以上である[10][注 8]。LDLコレステロール値が 140 から 163 mg/dLであれば、基準範囲内ではあるが、高LDLコレステロール血症として動脈硬化性疾患予防のための生活習慣改善などの治療的介入の対象になる[注 13]。検査結果を受診者が見た場合、検査結果値が上限と下限の間にあれば「正常」・「問題なし」と誤解される可能性があるため、検査結果報告書に表示される基準値は65〜139 mg/dLが採用されることがある[19]。
| 分類 | 区分・説明 | 値 |
|---|---|---|
| 基準範囲[11] | 基準集団の測定値の中央95% | 65〜163 mg/dL |
| 診断閾値[10] | 高LDLコレステロール血症 | 140 mg/dL以上 |
| 境界域高LDLコレステロール血症 | 120〜139 mg/dL | |
| 健診閾値 /予防医学閾値[18](*) |
受診勧奨値(特定健診) | 140 mg/dL以上 |
| 保健指導判定値(特定健診) | 120〜139 mg/dL | |
| 管理目標値[10] | 一次予防 (動脈硬化性心血管疾患は未発症) 患者のリスク区分(※)により異なる達成目標を設定 |
低リスク:160 mg/dL未満 |
| 二次予防 (動脈硬化性心血管疾患の既往あり再発予防) |
100 mg/dL未満 | |
| (参考)報告書表示基準値の例[19] | 下限に基準範囲下限、上限に診断閾値を採用 | 65〜139 mg/dL |
- (*)診断閾値と予防医学的閾値に同じ数値が設定されているが、前者は日本動脈硬化学会による疾患診断基準、後者は厚生労働省による特定健診事後指導の判定基準であり、目的が異なる。
- (※)リスク区分は、糖尿病/慢性腎臓病/末梢動脈疾患の有無、年齢、性別、収縮期血圧、糖代謝異常の有無、喫煙歴、血清HDLコレステロール値・LDLコレステロール値などから総合的に設定される。合併する疾患として、急性冠症候群/家族性高コレステロール血症/糖尿病/冠動脈疾患/アテローム血栓性脳梗塞などを有する場合はさらに厳格な管理を要する[10]。
LDL-Cの結果の解釈
LDLコレステロールは基本的に総コレステロールと連動して動く。 高値を呈する疾患と低値を呈する疾患は、#総コレステロールを参照[1]。
non-HDLコレステロール(non-HDL-C)
non-HDLコレステロール(non-HDL-C)は総コレステロールからHDLコレステロールを引いて算出される、 HDL以外の全てのリポタンパク質(LDL、IDL、VLDL、レムナントリポタンパク、リポタンパク(a)など)に含まれるコレステロール量である。 計算法で求めるLDL-Cと比較して、中性脂肪高値や食後採血でも評価可能である。
non-HDL-Cの臨床的意義
non-HDL-Cは動脈硬化起因性のコレステロールを反映し、その検査は脂質異常症(高脂血症)の診断や治療管理に使用される。 LDL-Cと比較して、全ての動脈硬化惹起性リポタンパク(LDL、IDL、VLDL、レムナントリポタンパクなど)を反映するという利点がある[24]。 米国の「2026年ACC/AHA脂質異常症管理ガイドライン」では、non-HDL-CはアポBレベルとよく相関し、特に中性脂肪が高値(150 mg/dL以上)で有用性が高いとされる。また、non-HDL-Cは、冠動脈疾患のリスク予測因子としては、アポBと並んで、LDL-Cよりも有用とされている[24]。
non-HDL-Cの基準値
「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版」[10]では、non-HDL-Cの基準値はLDL-C+30 mg/dLが適切とし、170 mg/dL以上をスクリーニング基準、150〜169 mg/dLを境界域としている。
| 分類 | 区分・説明 | 値 |
|---|---|---|
| 診断閾値[10] | 高non-HDLコレステロール血症 | 170 mg/dL以上 |
| 境界域高non-HDLコレステロール血症 | 150〜169 mg/dL | |
| 健診閾値 /予防医学閾値[18](*) |
受診勧奨値(特定健診) | 170 mg/dL以上 |
| 保健指導判定値(特定健診) | 150〜169 mg/dL | |
| 管理目標値[10] | 一次予防 (動脈硬化性心血管疾患は未発症) 患者のリスク区分(※)により異なる達成目標を設定 |
低リスク:190 mg/dL未満 |
| 二次予防 (動脈硬化性心血管疾患既往あり再発予防) |
130 mg/dL未満 |
関連する検査
sd-LDLコレステロール
粒子サイズが通常のLDLより小さい小型LDL(small dense LDL: sd-LDL)は 動脈硬化惹起作用が大きいとされ、sd-LDLに含まれるコレステロール(sd-LDL-C)は、俗に「超悪玉コレステロール」と呼ばれることもある。 メタボリックシンドロームにおいてはLDL-Cがそれほど上昇していなくともsd-LDL-Cが上昇していることがしばしばあるとされる[25]。 sd-LDLコレステロールの測定試薬も市販されているが、その臨床的意義は十分には確立されていない[26][1]。
レムナント様リポタンパクコレステロール
レムナント様リポタンパク(remnant-like particle: RLP)は、カイロミクロンやVLDLのような中性脂肪に富むリポタンパクが代謝される過程で生じ、動脈硬化症の危険因子と考えられている。 レムナント様リポタンパクコレステロールの測定キットは、抗アポA-Ⅰ抗体と抗アポB-100抗体に結合するリポタンパクを除去して、残存分画に含まれるコレステロールを定量しており、レムナント様リポタンパクを反映する検査であるが、脂質異常症の病態によっては、レムナント以外のリポタンパクも含まれてくる。食後に増加するため、通常は空腹時採血が行われる。臨床的意義は十分には確立されていない[13]。
中性脂肪
中性脂肪(トリグリセリドまたはトリグリセライド、TG)はグリセロールにさまざまな脂肪酸が3分子エステル結合したものである[1]。 血清中性脂肪値は、空腹時(10時間以上の絶食後)は主に肝臓からのVLDLの中性脂肪を反映している。食事の影響を受ける検査項目の代表であり、食後は小腸からのカイロミクロンにより高値となり、一般的には食事の3〜4時間後がピークである。。 中性脂肪値も動脈硬化性疾患と関連しており、空腹時150 mg/dL以上(随時採血なら175 mg/dL以上)は脂質異常症と診断される。 病態的には、中性脂肪分子そのものが直接的に動脈硬化を来しているのではなく、中性脂肪に富むリポタンパク(VLDL・IDL)や、VLDLレムナント、カイロミクロンレムナントなどが動脈の内膜に滞留して動脈硬化をきたすものと推定されている(カイロミクロン、および、VLDLのうち75 nmより大きいものは動脈の内膜に入りにくい。なお、中性脂肪はコレステロールとは異なりマクロファージの中で分解されてしまう)[27][28][7][10]。
リポタンパク分画

リポタンパクは超遠心法を用いて、比重(密度)に基づいて、 HDL、LDL、VLDLなどに分画される。 脂質異常症の分類や異常の全体像の把握にはリポタンパクの分画が有用であるが、 超遠心法は高価で時間がかかるため、日常検査においては、電気泳動法、HPLC法などによりリポタンパク分画の検査が行われる。 電気泳動法ではHDL(α)、VLDL(プレβ)、LDL(β)の3つの分画、HPLC法ではHDL、LDL、IDL、VLDL、その他(カイロミクロン)の5つの分画が得られる。 Ⅲ型高リポタンパク血症(高脂血症)の診断には、アガロースゲル電気泳動法によるbroad β(レムナントリポタンパク質)の証明が有用である[1][13]。
アポリポタンパクB
アポリポタンパクB (アポB)は動脈硬化惹起性のリポタンパク粒子(LDL、IDL、VLDL、Lp(a)など)に1個ずつ存在するアポリポタンパクである[注 15]。 LDL-Cと比較して動脈硬化惹起性のリポタンパク粒子を直接的に反映するため、LDL-Cと粒子数が乖離しやすい状況(たとえば、small dense LDL増加時)に有用とされる[31]。 なお、アポBには、LDL、IDL、VLDL、Lp(a)などに存在するアポB-100と、カイロミクロンおよびそのレムナントに存在するアポB-48があり、通常、アポB検査はB-100とB-48の両方を測定している。ただし、高度の高TG血症がない限り、多くの人では食後であっても血中のアポBの95 %以上がアポB-100であるとされている[31]。
米国の「2026年ACC/AHA脂質異常症管理ガイドライン」では、アポB検査が有用な臨床状況として、特に動脈硬化性心血管疾患患者、糖尿病患者、中性脂肪高値例、心血管・腎・代謝(cardiovascular-kidney-metabolic、CKM)症候群[注 16]などをあげ、糖尿病患者の脂質低下療法の方針決定に有用としている [24]。
リポタンパク(a)
リポタンパク(a)(Lp(a))は、LDLのアポリポタンパク(B-100)にアポリポタンパク(a)がジスルフィド結合した特殊なリポタンパクである。 Lp(a)はLDLにオーバーラップする比重(密度)を持ち、超遠心のみではLDLと完全に分離するのは困難である[32]。 Lp(a)は強い動脈硬化惹起作用を持つと考えられており、日本動脈硬化学会の「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版」でも動脈硬化性疾患の危険因子としてあげられている[10]。なお、通常の脂質検査では、Lp(a)中のコレステロールはLDL-Cに含まれる[注 17] [33]。
Lp(a)濃度には遺伝的要因が大きく関与しており、人種差・個人差が大きいが、同一個人内では、炎症で上昇するのを除けば、比較的安定している。その他、腎不全、ネフローゼ症候群、甲状腺機能低下症などで上昇する[1]。 米国の「2026年ACC/AHA脂質異常症管理ガイドライン」では、動脈硬化性疾患のリスク評価のため、一生に一回は測定することが推奨しており、高値が認められた場合はLDL-Cに対する治療や他の危険因子への対策の強化を推奨している[24]。ただし、Lp(a)はアイソフォームによりサイズが異なり、検査法の標準化・ハーモナイゼーション[注 18]の必要性は指摘されている[10][1]。 現在のところでは、Lp(a)を低下させる治療の有用性はあきらかではない[注 19][33][10]。
MDA-LDL
酸化・変性したLDLは動脈硬化惹起作用が強いと考えられている。マロンジアルデヒド修飾LDL(MDA-LDL)は血中の酸化LDLの指標であり、酸化ストレスを反映するとされている(マロンジアルデヒドはLDLの酸化変性時に最も多量に生成するアルデヒドである)。MDA-LDLは冠動脈疾患の予後予測因子などの目的で測定されることがあるが、臨床的意義は十分には確立されていない[34][1][13]。
コレステロールの分画間の比
TC/HDL-C比[35]、non-HDL-C/HDL-C比[36]、LDL-C/HDL-C比[37]など、様々なコレステロールの分画間の比が提唱されており、単独の項目より動脈硬化性疾患との関連性が高いと報告されている。 しかし、それらを治療の指標に用いることの有用性は十分には確立されていない[10]。
