錫杖経
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概要
仏具としての錫杖が日本に渡来したのは、仏教が伝来した(公伝であれ私伝であれ)6世紀頃と考えられており、『錫杖経』も同時に伝来したとされる。これが現在の『九条錫杖』ではないかともされているが、しかしこれを裏付ける文献や資料は見つかっていない[7]。『九条錫杖』は錫杖賛歌といった趣旨のもので、錫杖を持すことの功徳が述べられている。それは三宝を供養し、六波羅密を修行し、錫杖の音によって懈怠・破戒・不信などの悪心を浄め、外道・鬼神・毒獣・害虫なども菩提心を起こし、十方世界の餓鬼・畜生・受苦の衆生も直ちに解脱すると説く。
『九条錫杖』の文の初めの一段の4句は、実叉難陀訳八十華嚴中の偈文[8]であり、後の各段は『得道梯橙錫杖経』等の経意に依り、古徳が継ぎ作って九條としたもので、故に写本によっては『九條錫杖文』とし、『九條錫杖偈』とし、或いは単に九條錫杖と題したものであるが、『華嚴経』『梯橙錫杖経』の経文を転載したものであるから、『九條錫杖経』と名付けても差し支えない、とされる[9][10]。また、南都七大寺の悔過会等の法会[11]で用いられる錫杖の功徳を讃歎する唱文も、「経」文字を付されて流布している。
以下に『九條錫杖經』原文と訓読を示す[12]。
手執錫杖 當願衆生 設大施會 示如實道 供養三寶 設大施會 示如實道 供養三寶
(第一條 手に錫杖を執りて當に衆生を願うべし、大施會を設けて如實の道を示し三寶を供養す、大施會を設けて如實の道を示し三寶を供養す)
以淸淨心 供養三寶 發淸淨心 供養三寶 願淸淨心 供養三寶
(第二條 淸淨の心を以て三寶を供養し、淸淨の心を發して三寶を供養し、淸淨の心を願って三寶を供養す)
當願衆生 作天人師 虛空滿願 度苦衆生 法界圍繞 供養三寶 値遇諸佛 速證菩提
(第三條 當に衆生を願うべし天人の師と作りて、虛空の願を滿し、苦の衆生を度し、法界に圍繞して、三寶を供養し、諸佛に値遇し、速に菩提を證せん)
當願衆生 眞諦修習 大慈大悲 一切衆生 俗諦修習 大慈大悲 一切衆生 一乗修習 大慈大悲 一切衆生 恭敬供養 佛寶法寶僧寶 一體三寶
(第四條 當に衆生を願うべし、眞諦を修習して一切の衆生を大慈大悲し、俗諦を修習して一切の衆生を大慈大悲し、一乗を修習して一切衆生を大慈大悲し、佛寶法寶僧寶と一體の三寶とを恭敬し供養す。)
當願衆生 檀波羅蜜 大慈大悲 一切衆生 尸羅波羅蜜 大慈大悲 一切衆生 羼提波羅蜜 大慈大悲 一切衆生 毘梨耶波羅蜜 大慈大悲 一切衆生 禅那波羅蜜 大慈大悲 一切衆生 般若波羅蜜 大慈大悲 一切衆生
(第五條 當に衆生を願うべし、檀波羅蜜をもって一切衆生を大慈大悲し、尸羅波羅蜜をもって一切衆生を大慈大悲し、羼提波羅蜜をもって一切衆生を大慈大悲し、毘梨耶波羅蜜をもって一切衆生を大慈大悲し、禅那波羅蜜をもって一切衆生を大慈大悲し、般若波羅蜜をもって一切衆生を大慈大悲し。)
當願衆生 十方一切 無量衆生 聞錫杖聲 懈怠者精進 破戒者持戒 不信者令信 慳貪者布施 瞋恚者慈悲 愚癡者智慧 驕慢者恭敬 放逸者攝心 具修萬行 速證菩提
(第六條 當に衆生は願うべし、十方一切の無量の衆生、錫杖の聲を聞かば、懈怠の者は精進し、破戒の者は戒を持ち、不信の者は信ぜ令め、慳貪の者は布施し、瞋恚の者は慈悲し、愚癡の者は智慧ならん、驕慢の者は恭敬し、放逸の者は心を攝め、具に萬行を修し、速かに菩提を證せん。)
當願衆生 十方一切 邪魔外道 魍魎鬼神 毒獸毒龍 毒蟲之類 聞錫杖聲 摧伏毒害 發菩提心 具修萬行 速證菩提
(第七條 當に衆生を願うべし、十方一切の邪魔外道、魍魎鬼神、毒獸毒龍、毒蟲之類も、錫杖の聲を聞かば、毒害を摧伏して菩提心を發し、具に萬行を修して速かに菩提を證せん。)
當願衆生 十方一切 地獄餓鬼畜生 八難之處 受苦衆生 聞錫杖聲 速得解脱 惑癡二障 百八煩悩 發菩提心 具修萬行 速證菩提
(第八條 當に衆生は願うべし、十方一切の地獄、餓鬼、畜生、八難之處に苦を受くる衆生も、錫杖の聲を聞かば、速かに惑癡の二障、百八の煩悩を解脱することを得て、菩提心を發し具に萬行を修し、速かに菩提を證せん。)
過去諸佛 執持錫杖 已成佛 現在諸佛 執持錫杖 現成佛 未来諸佛 執持錫杖 當成佛
(第九條 過去の諸佛錫杖を執持して已に成佛し、現在の諸佛錫杖を執持して現に成佛し、未来の諸佛錫杖を執持して當に成佛し給ふべし)
故我稽首 執持錫杖 供養三寶 故我稽首 執持錫杖 供養三寶 南無恭敬供養 三尊界會 恭敬供養 顕蜜聖教 哀愍攝受 護持弟子
(流通分 故に我れ稽首して錫杖を執持し三寶を供養す、故に我れ稽首して錫杖を執持し三寶を供養す、南無して三尊の界會を恭敬し供養し、顕蜜の聖教を恭敬し供養す[13]、護持弟子を哀愍し攝受し給え)
— 蓮生観善著『九条錫杖経講義』昭和12年 藤井佐兵衛發行 収録のテキスト(訓読は蓮生観善による)