高解像度光ディスク規格戦争
From Wikipedia, the free encyclopedia
高解像度光ディスク規格戦争(こうかいぞうどひかりディスクきかくせんそう)とは第3世代光ディスクのBlu-ray DiscとHD DVDとの規格争いである。
この争いは「次世代DVD戦争」(じせだいディーブイディーせんそう)と呼ばれた。ここでの「次世代DVD」とはHD DVDの事を示す言葉では無く、それを含めた単にDVDの次のメディアを漠然と示す言葉である。かつてのVHSとベータマックスの「ビデオ戦争」に準えて「次世代ビデオ戦争」(じせだいビデオせんそう)[要出典]とも呼ばれていた。
2005年前半には規格統一の動きもあったが、記録層の薄さ(0.1mm)や両陣営の光ディスクに対するビジネススタンスの違いから同年夏には統一断念となり、結果として2陣営が混在する形となった。
その後日本時間の2008年2月19日において、東芝がHD DVDの「事業終息」(事実上の撤退)を表明したことでBlu-ray Discの勝利で終わった。
2005年4月21日の日本経済新聞朝刊には、東芝とソニーの間でHD DVD・BDの両者の長所を生かした規格を共同開発することで合意したと報道した。これにより第3世代光ディスクは一つに統一された規格となり、ユーザーやコンテンツ製作者のメリットは大きなものになることが期待された。しかしこの交渉は難航した末に中断された。以降は互いに譲歩すること無く交渉が再開されないまま、同年8月末には両陣営共に『交渉は時間切れ』として自陣営規格の本格的な製品化へ動き出した。
家庭用AV分野やノートPC分野に強い東芝、DVDドライブシェア世界一でありPCやMPEGといったデバイスに強いNECの2社で規格争いの主導権を握ろうとしており、BD陣営と対立した。積極的に支持する企業はHD DVDの方が少なかったが、DVDフォーラムの権威を借りて業界標準に相応しいフォーマットであると主張する構図となっていた。これによりベータマックス対VHS戦争の再来が不可避となり、2006年に規格争いが本格化。この顛末にユーザーは失望し、HD DVD陣営への反感と第3世代光ディスクの普及の遅れに繋がった。
シェア争い
両規格を巡ってハリウッドのエンターテインメント業界も2つに割れ、拮抗状態にあった。
※以下、カッコ内は姉妹会社・傘下企業などの関連会社。
- Blu-ray支持派
など。
- HD DVD支持派
など。
ちなみにパラマウント系やユニバーサル系の作品が多いスティーヴン・スピルバーグは、規格争いの形勢が明確になるまで慎重な姿勢を保ち、HD DVD規格では一切、映像ソフトを出さなかった。
一方で、パラマウントはHD DVD規格を後押しするために『宇宙大作戦』(『スタートレック』シリーズ第1作)をデジタル処理で刷新し、既存のDVDとHD DVDの両規格に対応したハイブリッドBoxセットを発売した。なお、HD DVD規格は敗退したが、既存のDVD規格は2011年現在も使用されている為、再生が可能である。
当初形勢がはっきりしなかった為に日本のソフトメーカーは当初は新規格には消極的で、消費者もこうした規格対立・新規格機器の高価さ・動画共有サイトなどの台頭などを理由に買い控えの傾向にあった。先行き不透明な状況から2006年には両規格への対応を決めるメーカーが増え、両規格に対応した機器としてパソコン用ドライブが発売された[1]。
2007年のCESでは、韓国のLG電子からBDとHD DVD両方のディスクに対応出来るプレーヤーの発売が発表された。既にリコーやNECといった企業が両規格対応の為の安価な部品開発に成功していた為に他のメーカーからも両規格対応のプレーヤーが発売されることも予想されたが、片方のみのプレーヤーに比べて割高な為に普及は進まなかった。ただしパソコン向けにはHD DVD-ROM再生およびBD-R/RE記録再生の両対応ドライブ(HD DVD-Rへの記録は非対応)が比較的普及した。
また、ワーナーからはHD DVDとBDを1枚のディスクの裏表に記録することでどちらのプレーヤーでも再生可能なTHD(Total Hi Def)ディスクが発表されたものの製造コストが極めて高く、第3世代光ディスクの規格争いは混迷を極めた。
ユニバーサルピクチャーズ・ホームエンターテイメントのクレイグ・コンブロー社長は2006年はHD DVDプレーヤー、対応PC、Xbox 360向けHD DVDドライブなど北米市場全体で17万5000台のHD DVD機器が普及したと発表した。またユニバーサルスタジオの発言やHD DVDプロモーショナルグループのプレスリリース[2]では北米のアタッチレート(プレーヤー辺りのビデオタイトル販売数)が4:1でHD DVDがBDに比べ1台のハードに対するタイトル販売数が多いと発表されたが、アタッチレートが4:1となる根拠であるそれぞれのハードウェア販売数とタイトル販売数のデータは示されていない。
BD優勢へ
この様に新規格が完全に普及しない状況でありながら、以下の理由により徐々にBD陣営に優勢に傾いていった。
- 技術的理由
- デッキの製造・販売に関する動きによるもの
- 日本家電メーカーの大半がBD陣営に付いたこと。それまで敵対していたパナソニックとソニーが何れもブルーレイ陣営であったことは特記に値し、HD DVD陣営は東芝と三洋電機とNECのみであった[注 4][注 5]。
- BD参入をするHD DVD陣営のメーカーが増える一方、HD DVD参入をするBD陣営のメーカーは前者より少なかったこと。特にBD単独支持からHD DVD単独支持に転換したメーカーはなかった[注 5]。
- ゲーム機のPlayStation 3にBDドライブが標準搭載されたこと。DVD普及に貢献したPlayStation 2を彷彿とさせた。一方でマイクロソフトのXbox 360用にHD DVD対応周辺機器が発売されたが、売上30万台程度と言われ(また一部再生出来ない不具合があった。)、影響力はあまり大きくなかった。2007年6月時点で米国内においてPS3が約140万台(BDプレーヤー全体の約93%)、Xbox 360用HD DVDプレーヤーが約15万台(HD DVDプレーヤー全体の約50%)を売り上げたというデータも存在する[3]。
- HD DVD陣営が過剰な低価格路線を図ったこと。この結果、中華人民共和国など海外メーカーの尻込みやHD DVDソフトの売れ行き不振露呈を生み、後述のワーナー離反・HD DVD終息へ繋がることとなる。
- マイクロソフトはWindows Vistaの発売以前に同OSでHD DVDを優先的にサポートすると表明していたが[4]、その姿勢はトーンダウンした様である。両フォーマットの物理構造以外の差は少ないこと、再生・書き込みアプリケーションがOSとは別に必要なこともあり、実際にVistaで利用する上でBDが不利になることはない。
- 小売店がBD支持に傾いた。
- アメリカ合衆国大手レンタル会社のNetflixや最大手のレンタルビデオチェーンであるブロックバスターが、BD支持を打ち出したこと。
- アメリカ合衆国の販売最大手ベスト・バイ、ウォルマート、サーキット・シティーなどが次々とBD支持に傾いたこと。
HD DVDの記憶容量はBDの約6割でしかなく、過去のベータマックス対VHS戦争と同じ様に記憶容量で劣るHD DVDは苦戦を強いられるという向きが強かった。これを打開すべく東芝はHD DVDプレーヤーの大幅値下げで対抗したが、逆に海外メーカーの参入尻込みやHD DVDソフトの売れ行き不振露呈を招いてしまった。
NECエレクトロニクスは「米国では、映画ソフトでHD DVDがBDの3倍売れている。」と発言していたが、2006年末時点でBDと拮抗した。また東芝の藤井美英執行役上席常務は2006年3月にBDとの規格争いに負けたらその時は土下座すると発言[5]、そして2006年度内100万台を販売目標とし「年末に売れてしまえばそこで決まる」と発言したが、同年末にHD DVDプレーヤーの年内販売台数が世界計で約10万台になるとの見通しを発表。その後2007年6月12日の東芝のHD DVDレコーダー発表会にて専用プレーヤーの生産台数累計が国内で1万台以下、北米で15万台であり、北米の専用プレーヤー累計シェアが6割であることが発表された。この発表会を睨んだとものと思われるキャンペーンで更なる低価格とバンドル戦略(5本無料クーポンも別途継続)を行った結果、5月に一時的に専用プレーヤーの単月のシェアで7割程度になったことも発表。しかしこうした低価格戦略にも関わらず、2006年末の発表時の北米の専用プレーヤー10万台から5万台しか上積みできなかった事から東芝は2007年初めの北米プレーヤーの販売計画を180万台から下方修正し100万台とした。
フォーマット戦争の終了
2007年第1四半期のBDソフトのシェアはHD DVDの倍以上となり差を広げていった。同年の年末商戦でHD DVDの国内シェアは1割未満まで落ち込む。2008年1月頃にはドライブ開発メーカーはかつてのベータマックス対VHSの時のように勝ち馬に乗る形でBD規格に流れ、米大手映画会社のワーナー・ブラザースやスーパーマーケットチェーン大手のウォルマート等が相継いでBD支持を表明するなどBD支持の動きが広がり、HD DVD陣営は苦境に立たされた。
米国時間の2008年1月4日、ワーナー・ブラザースが「Blu-ray Disc単独支持」への路線変更を行い、2007年8月20日からHD DVD単独表明をしていたパラマウント・ピクチャーズも単独表明の際の契約条項による「ワーナー・ブラザースが選択したフォーマットを追従出来る権利」[注 6]を行使するかどうかの決断を行っていた[6]。
2008年2月16日にはNHKなどでHD DVDを主唱する東芝が撤退を検討しており、同月中にも決定を発表する見込みと報じられた[7][8]。
そして同年2月19日、東芝はHD DVD事業についての記者会見を開催。東芝の西田厚聰社長は「HD DVD事業を終息する」と正式発表[9]し、「異なる規格が併存することによる自社事業への影響、消費者への影響の長期化を鑑み、早期に姿勢を明確にすることが重要と判断した」と説明した。HD DVDレコーダーならびにプレーヤーの開発/生産を中止の上で出荷も縮小し同年3月末には事業を終息させる。PCやゲーム機向けのHD DVDドライブについても量産中止すると発表。出荷されたHD DVD関連製品についてはサポートを継続し、補修用部品は最低保有期間[10][11]を満たす製造終了後8年間について保有しサポートする他、HD DVDドライブを搭載した同社製ノートPCについては「今後の市場ニーズを踏まえて、PC事業全体の中での位置づけを検討する」と発表[12]、HD DVDドライブ搭載モデルの生産を打ち切った。HD DVD記録用メディアはメディアメーカーに継続した製造と販売を要請し調整を図るとした[13]。
ハリウッド業界で最後までHD DVD陣営に残っていたパラマウント映画も現地時間の2月28日にHD DVDの生産を停止し、2002年のHD DVDの誕生から6年弱(製品化からは2年弱)で第3世代光ディスクの規格争いに終止符が打たれ、BDへの完全一本化が決定した[14]。