AIM2
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AIM2(absent in melanoma 2)は、ヒトではAIM2遺伝子によってコードされているタンパク質である[5][6]。
AIM2は造血系細胞などにみられるセンサー分子であり、細胞質に位置して微生物や宿主細胞由来の二本鎖DNAの存在を認識する[7]。現在のところAIM2をはじめとするALR(AIM2-like receptor)ファミリーは、ヒトゲノム中に4種類のメンバーが見つかっている[8]。活性化されたAIM2はASCをリクルートし、カスパーゼ-1の結合、そしてAIM2インフラマソームの形成を引き起こす。このシグナル伝達機構は細菌やウイルスのDNAを検知し、これらの病原体に対する防御機構に寄与している。AIM2インフラマソームは、PANoptosisを駆動するAIM2-PANoptosomeの中心的構成要素にもなっている[9][10]。
機能
AIM2は自然免疫系の構成要素の1つであり、細胞質における二本鎖DNAセンサーとして抗ウイルス・抗細菌防御機能を果たしているほか、自己DNAに対する免疫応答が関わる自己免疫疾患にも関与している。AIM2はアダプタータンパク質ASCとともに、AIM2インフラマソームを呼ばれるカスパーゼ-1活性化複合体を形成する。このAIM2インフラマソームは、PANoptosisを駆動するAIM2-PANoptosomeと呼ばれる、さらに大きな細胞死誘導複合体の中心的構成要素にもなっている[9][10]。
AIM2インフラマソーム形成の第一段階は、AIM2へのDNAの結合である。AIM2のHINドメインはB型二本鎖DNA(ウイルス、細菌、そして宿主由来のものである場合もある)に結合する。結合は配列非依存的であるが、少なくとも80塩基対以上の長さが必要である[12]。この相互作用は主に静電的であり、正に帯電したアミノ酸残基がDNA骨格のリン酸や糖部分に配位する。二本鎖DNAはPYDに置き換わってHINドメインに結合し、フリーになったPYDはアダプタータンパク質ASCのPYDに対し、homotypicなPYD-PYD相互作用による結合を行う[13]。ASCはPYDとCARDを有するタンパク質であり、ASCのCARDがCARD-CARD相互作用によってプロカスパーゼ-1を複合体へリクルートすることでAIM2インフラマソームの基本的な構造的要素が形成される。プロカスパーゼ-1は自己切断によってカスパーゼ-1へと活性化され、IL-1β前駆体、IL-18前駆体、ガスダーミンDを切断するプロセシングが行われる。ガスダーミンDのN末端断片はパイロトーシスを誘導し、成熟型サイトカインとなったIL-1βやIL-18の細胞外放出が可能となる。
AIM2はPANoptosisも誘導する。PANoptosisは自然免疫系のセンサーによって開始される顕著な自然免疫性・炎症性・細胞溶解性の細胞死を特徴とし、PANoptosomeを介してカスパーゼやRIPKによって駆動される[14][15]。PANoptosomeは、細菌、ウイルス、真菌などの病原体のほか、病原体関連分子パターン、ダメージ関連分子パターン、サイトカイン、そして感染症や炎症性疾患、がんに伴う恒常性の変化への応答として、パターン認識受容体から組み立てられる多タンパク質複合体である[15][16][17][18][19][20][21][22][23][24][25][26][27][28][29]。PANoptosomeが形成されるためには、Francisella novicida、単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)など特定の病原体に対する応答として、AIM2インフラマソームがさらにカスパーゼ-8、FADD、RIPK3、RIPK1と相互作用することが必要である。
調節
インフラマソームの組み立ての調節は、細胞の恒常性の維持のために必要不可欠である。マウスでは、AIM2の活性化はp202によって阻害される。このp202タンパク質は2個のHINドメインを有するが、PYDを欠いている。そのため、p202はASCタンパク質をリクルートすることはできない。HIN1ドメインはDNAに結合し、HIN2ドメインはAIM2と相互作用する。HIN2ドメインの結合はAIM2のDNA結合面を遮断するわけではないため、AIM2のDNA結合親和性は影響を受けない。p202のDNAとAIM2への結合は、宿主防御とDNAによって誘発される病理的炎症とのバランスを保っていると考えられている。p202とAIM2が等量存在する場合には、二本鎖DNAへの結合をめぐって競合が生じる[30]。
ヒトのIFI16βと呼ばれるアイソフォームも、AIM2インフラマソームの組み立てを阻害することが示されている。そのドメイン構造はマウスp202タンパク質と類似しており、2個のHINドメインを有する。IFI16βはp202と同様にAIM2と相互作用し、二本鎖DNAへの結合に競合し、ASCのリクルートを妨げる[31]。p202やIFI16βの研究によると、2個のHINドメインを有するタンパク質は1個しか持たないタンパク質よりも頑強に二本鎖DNAへ結合するようである[32]。
AIM2の翻訳後修飾に関しては、情報は限られている。しかしながら、TRIM11はAIM2に結合し、分解をもたらすことが報告されている。そのため、AIM2インフラマソームの負の調節因子として機能している可能性がある[33]。
臨床的意義
AIM2は広範囲の微生物を検知し、インフラマソームやPANoptosomeを介した宿主の保護応答を引き起こす。近年の研究では、AIM2インフラマソームが感染症以外の疾患も関与していることが示されている。
感染症
細菌
細菌の宿主細胞への感染時に細胞質へ放出された細菌DNAは、AIM2やその他の細胞質DNAセンサーによって認識される。AIM2は野兎病菌Francisella tularensis、リステリア・モノサイトゲネスListeria monocytogenes、肺炎球菌Streptococcus pneumoniae、マイコバクテリウム属菌Mycobacterium spp.、ポルフィロモナス・ジンジバリスPorphyromonas gingivalis、黄色ブドウ球菌Staphylococcus aureus、Brucella abortus、クラミジア・ムリダルムChlamydia muridarumなど、多くの病原性細菌を認識することが示されている[7]。I型インターフェロンは、細菌感染時のAIM2インフラマソームの活性を高める[34][35]。さらに、Francisella novicidaに対する応答においてはAIM2-PANoptosome複合体をが組み立てられ、炎症性細胞死であるPANoptosisが誘導される[9]。
ウイルス
AIM2インフラマソームは細胞質に入ったDNAウイルス由来の遺伝物質も認識するため、ウイルス感染防御にも重要な役割を果たしている。しかしながら、AIM2は全てのDNAウイルスに応答するわけではない。今日までにAIM2インフラマソームが誘導されることが確認されているのは、マウスサイトメガロウイルス(MCMV)、ワクシニアウイルス、ヒトパピローマウイルスである[7]。AIM2は単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)にも応答し、AIM2-PANoptosomeを形成してPANoptosisを誘導する[9]。
その他の病原体
AIM2は病原性の真菌であるアスペルギルス・フミガーツスAspergillus fumigatusや[36]、原生動物であるPlasmodium berghei[37]に対する宿主防御を媒介することが示されている。
がん
AIM2遺伝子はもともと、ヒトのメラノーマ細胞の発がん性を抑制する遺伝子として単離された[5]。一方、AIM2は広範囲の腫瘍組織にさまざまな発現パターンを示すことが観察されており、さまざまながんの種類においてそれぞれ固有の役割を果たしている可能性が示唆されている。がんにおけるAIM2の機能に関する研究では、AIM2変異と関連したがんにおけるAKT経路を阻害する治療の可能性が注目されている[7]。
炎症、自己免疫、その他の疾患
細胞質基質へのDNAの蓄積は、AIM2インフラマソーム形成の引き金となる、内因性デンジャーシグナルとして機能する。自己DNAによるAIM2の異常な活性化は、炎症性疾患や自己免疫疾患の主要な駆動因子となっている。乾癬、アトピー性皮膚炎、接触皮膚炎など急性・慢性皮膚疾患の患者の皮膚細胞では、AIM2の発現レベルの上昇が観察される。AIM2の発現上昇は、炎症性腸疾患や肝炎の患者でも報告されている。さらに、AIM2は脳の炎症と細胞死にも関与している可能性がある[7]。全身性エリテマトーデスにおいては、食作用によって取り込まれたDNAがリソソームの機能不全のために分解されずに細胞質基質へ漏れ出し、AIM2の活性化、そしてI型インターフェロン産生の増大が引き起こされている[38]。