Didot (書体)
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Didot(ディド)は、フランスの印刷業者・活字彫刻師・出版業者一族であるディド家にちなんで名付けられたセリフ書体群である[1]。ディドニ体(モダン・ローマン)に分類される。
最も著名なDidot書体は、1784年から1811年にかけて開発された。フィルマン・ディド(1764年 - 1836年)がパリで文字を彫刻し活字として鋳造し、その兄であるピエール・ディド(1760年 - 1853年)がそれを印刷に使用した。1818年にピエールが刊行した、ヴォルテール著『アンリアード』の版は、彼の最高傑作とみなされている。
この書体は、画線コントラストの拡大と、より凝縮された字形構造を試みたジョン・バスカヴィルの実験的書体から着想を得ている。ディド家による高コントラストかつ垂直的ストレスを強調した書体の開発は、イタリアのジャンバティスタ・ボドニによる類似の書体開発と同時代のものであった。しかし、Didotはわずかに早く成立したことから、最初期のモダン・ローマン体としてBodoniに先行した書体とみなされている[2]。
Didotは新古典主義的であり、啓蒙時代を想起させる書体であると評される。18世紀フランスにおいてこの潮流が広がるにつれ、その計算された構造と細身で削ぎ落とされた外観は、新古典主義の美意識に適合するものとして受容され、Didotは同地域を代表する書体となった[3]。
また、ディド家は独立直後のギリシャにおいて最初期に印刷所を設立した一族の一つでもあり、それ以降、Didot様式の書体はギリシャ語タイポグラフィにおいて広く用いられ続けている[4][5]。
リバイバルとデジタル化
Didot書体のリバイバル版は数多く制作されており、当初は金属活字による組版向け、その後は写真植字、さらにデジタルフォントへと展開していった。
現代における代表的なリバイバルとしては、アドリアン・フルティガーがライノタイプ社向けに制作したものや、ジョナサン・ヘフラーがH&FJ社向けに制作したものが挙げられる。ヘフラーによるデザインでは、小サイズ表示時にヘアラインが潰れる現象を見越し、小サイズ向けでは細線を相対的に太く設計している[6]。
一方、macOSに搭載されているフルティガー版Didotは、本文用ではなくディスプレイ用途を前提として設計されたものであり、さらに繊細な見出し向けウェイトも追加されている[7][8]。また、ロシアの歴史学者アレクセイ・クリュコフによって、キリル文字およびギリシャ文字を含む自由利用可能なオープンソース版「Theano Didot」も公開されている。
一方で、Didotのデジタル環境での使用には課題も存在する。規則的かつ合理的なデザインと極細のストロークによって非常に優雅な印象を与える反面、「ダズル (dazzle)」と呼ばれる現象が読者に生じることが知られている。これは、太い垂直画が視線を強く引きつけるため、文字を識別するうえで重要な極細線への注意が散漫になる現象である[9][10][11]。
そのため、ディドニ体(モダン・ローマン)では、使用サイズに合わせて調整されたフォント、すなわち「オプティカルサイズ(光学サイズ調整)」の採用が特に重要視される[12]。本文向けサイズのフォントでは、可読性を高めるため、ディスプレイ用よりも細線やセリフを太めに設計し(すなわちストロークコントラストを弱め)、文字間隔も広めに取られる傾向がある[13][6][14]。
金属活字時代には、サイズごとに個別の活字を彫刻していたため、オプティカルサイズは印刷技術上必然的な要請であった。しかし、デジタルフォントの普及によって単一フォントを任意サイズで使用できるようになると、この手法は一時的に衰退した。近年では再び復活しているものの、多くの場合は商用フォントに限定して提供されている[15][16]。
使用例
アレクセイ・ブロドヴィッチは、『カイエ・ダール』および『ハーパーズ バザー』誌面にDidotを導入した。『ヴォーグ』誌も1940年代以降たびたび表紙にDidotを使用していたが、1955年には同書体を正式に採用するに至っている[17][18]。
Didotの派生書体である「CBS Didot」は、放送ネットワークCBSによって委嘱され、同局の有名な「目」のロゴとともに長年使用された。近年ではその使用頻度は減少傾向にあり、2020年時点ではオンエア上での使用は主にCBSニュース、CBSテレビジョン・ディストリビューション、および深夜トーク番組『ザ・レイト・ショー・ウィズ・スティーヴン・コルベア』に限定されていた。CBSは2020年より、全社的なコーポレートフォントを「TT Norms」へ移行し始めたが、2026年にはトニー・ドコウピルのアンカー就任に伴い、『CBSイブニングニュース』のロゴへのDidot使用が再導入されている[19][20][21]。
2019年、スペインのファストファッション企業ザラは、極端にカーニングを詰めたDidotを用いた新しいロゴを導入した[22]。
画像
- 1867年刊行のガスパール・ド・シェルヴィル著『Histoire d'un trop bon chien』に使用されたDidot活字。細かな印刷のため、最後の「N」では縦の細線が完全に消失している。
- 同書にみられるフィルマン・ディド様式の本文組版。
- 2000年5月号のイギリス版『ヴォーグ』誌におけるDidotロゴ。
- 香港・セントラルのIFCモール内にあるザラ店舗。強くカーニングを詰めたDidotロゴが用いられている。
- 『ザ・レイト・ショー・ウィズ・スティーヴン・コルベア』のロゴにおける、多色使用されたDidot。
- Didotが再導入された『CBSイブニングニュース』のロゴ(トニー・ドコウピル出演版)。