電子フロンティア財団
デジタル権利擁護団体
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電子フロンティア財団(でんしフロンティアざいだん、英語: Electronic Frontier Foundation、略称EFF)は、1990年7月6日に創設された法律面での主張を行うアメリカ合衆国の非営利組織でデジタル権利擁護団体である。合衆国憲法修正第1条で保障されている自由な言論の権利を今日のデジタル社会で守ることを目的として、テクノロジーが関わる諸問題について政府からの自由の権利の擁護を啓蒙する活動を行う。カリフォルニア州サンフランシスコに本部を置き、カナダ・トロントとイギリス・ロンドンにスタッフを常駐させている。EFFは合衆国憲法修正第1条が保障する言論の自由や、修正第4条が保障するプライバシーの権利を、デジタル技術の領域において守ることを主眼としている[1]。
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| 設立 | 1990年7月6日 |
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| 種類 | 非営利団体 |
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| 座標 | 北緯37.78262度 西経122.42158度 |
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www |
EFFは、訴訟における法的弁護資金の提供、法廷への意見書(アミカス・キュリエ、法廷助言者意見書)の提出、濫用的とみなす法的脅威からの個人や新技術の擁護、政府の不正の告発、政府や裁判所への助言、政治的行動やキャンペーンの組織化、個人の自由やオンライン上の市民的自由を守ると考える新技術の支援などを通じて活動する。関連ニュースや情報のデータベースおよびウェブサイトの運営、個人の自由やフェアユースを侵害しうる法案の監視と異議申し立ても行っている[2]。また、インパクト訴訟、政策分析、草の根の市民活動、そして技術開発という複数の手法を組み合わせて活動する団体でもあり、2025年に創設35周年を迎えた[3]。
活動
歴史

電子フロンティア財団はミッチ・ケイパー、ジョン・ペリー・バーロウ、ジョン・ギルモアらによって1990年7月6日に創設された。創立者たちはWELL (en:WELL) を通じて知り合っていた。ケイパーは表計算ソフトLotus 1-2-3で知られるロータス社の創業者、バーロウは著述家でグレイトフル・デッドの作詞家、ギルモアは市民活動家である[2][4]。設立にあたっては、アップル共同創業者のスティーブ・ウォズニアックも支援した[4]。
財団の創立の動機は1990年初頭に起きたスティーブ・ジャクソン・ゲームズへのシークレットサービスの大規模な捜査と押収であった(スティーブ・ジャクソン・ゲームズ対アメリカ合衆国シークレットサービス事件)。その頃、公式には無関係とされる同様の司法組織による捜査が、サンデヴィル作戦の一環として合衆国のいたる所で行われていた。ジャクソン・ゲームズ事件は、EFFによるコンピュータやインターネットに関わる市民的自由を擁護する運動の出発点となった。EFFの関わった次の大きな事件は、シンディ・コーンが担当した、合衆国を相手どってダニエル・バーンスタインが起こした暗号規制訴訟だった。プログラマーで教授のダニエル・バーンスタインは、彼の暗号ソフトであるSunffleとその詳細を解説した論文を公表する許可を求めて政府を訴えたのだった。
主要な支持者
- エベン・モグレン:EFFはプロボノの法的支援を受けている。
- ローレンス・レッシグ:EFF理事会のメンバーでスタンフォード大学教授。
- コリイ・ドクトロウ:EFF特別顧問でSF作家。
歴史
設立の経緯
設立の背景には、当時の法執行機関や政策立案者がインターネットをはじめとする新しいコミュニケーション形態について十分な知識を持たないまま、人々の権利を軽視した捜査や政策決定を行っているという創設者らの懸念があった[2][4]。
直接のきっかけの一つは、1990年4月にバーロウの自宅を連邦捜査局(FBI)の捜査官が訪問した一件であった。これはアップル社のMacintosh ROMのソースコードの窃盗・流布に関連するものだったが、バーロウはこの訪問を、捜査官のコンピュータ技術への理解の乏しさゆえに困難なやり取りになったと述懐している。バーロウはこの体験を、政府が情報化時代に対する適切な法や概念枠組みを欠いたまま突入したことの症状と捉え、オンライン会議サービス「WELL」上にこの顛末を投稿した[2][6]。
この投稿を読んだミッチ・ケイパーが同様の経験を持っていたことからバーロウに連絡を取り、両者はオンライン上の市民的自由を擁護する必要性で意見が一致した。1990年6月下旬にはバーロウがサンフランシスコでコンピュータ業界の主要人物を集めた一連の会合を開き、対応策を練った。EFFは1990年7月10日に正式に設立され、ケイパーとバーロウは間もなくギルモア、ウォズニアック、スチュアート・ブランドを理事に選任した。初期の資金はケイパー、ウォズニアック、および匿名の篤志家によって提供された[2][4][7]。創設者たちは、オンラインコミュニティ「WELL」(The Whole Earth 'Lectronic Link)を通じて知り合っていた[4][8]。
初期の活動と本部の変遷
設立当初、EFFの事務所はマサチューセッツ州(ケンブリッジ/ボストン)にあるケイパーの会社の一角に置かれていた。1993年秋には主要な事務所がワシントンD.C.の単一のオフィスに統合され、事務局長ジェリー・バーマンが率いた。この時期、EFFの関心の一部が国政への影響力行使に向けられたことは、一部のメンバーから反発を招いた。1994年、バーマンはEFFを離れて民主主義と技術のためのセンター(CDT)を設立した。1995年、事務局長ロリ・フェナのもとで組織は縮小と再編を経てサンフランシスコに移転し、当初はギルモアの邸宅「トード・ホール」に仮住まいした後、ハムズ・ビルディングに入居した[2][6]。
その後、2006年春にはワシントンD.C.に再びオフィスを開設し、2012年にはサンフランシスコのミッション地区からエディ・ストリートへ本部を移転した[2]。
主な訴訟・活動
EFFは設立以来、デジタル領域の市民的自由をめぐる数多くの訴訟に、当事者代理人あるいは法廷助言者(アミカス・キュリエ)として関与してきた。以下は同財団の活動を象徴する代表的な事件・プロジェクトである。
背景:ハッカー摘発とEFFの誕生
1980年代末、電話網が交換機やトランクの内部をより露出するデジタル方式へ移行する中、電話会社は「フリーキング(phreaking)」による損失を訴えた。連邦当局には十分な法律も知見も乏しく、ハッカーの立件はほとんど行われていなかった。1990年5月、シークレットサービスは全米約15都市で電子掲示板(BBS)を一斉に摘発する「サンデヴィル作戦(Operation Sundevil)」を実施し、27通の令状で約42台のコンピュータと約23,000枚のフロッピーディスクを押収した。同作戦は後年、実効的な訴追をほとんど生まなかった広報的側面の強い措置と評されている。この一連の強硬な捜査への懸念が、EFF設立の直接の契機となった[9][10][11]。
なお、後述のスティーブ・ジャクソン・ゲームズへの捜索はしばしばサンデヴィル作戦の一部とされるが、EFF自身はこれを無関係でありメディアの誤りだとしている[9]。
スティーブ・ジャクソン・ゲームズ対シークレットサービス事件(1990年–1994年)
背景 — 発端は、アトランタの通信大手ベルサウスの緊急通報システム(E911)に関する内部文書であった。1988年、この文書がハッカー集団「Legion of Doom」のロバート・リッグス(通称"The Prophet")によって盗み出され、クレイグ・ナイドルフ(通称"Knight Lightning")が編集して電子雑誌『Phrack』第24号(1989年)に掲載された。シークレットサービスは、テキサス州オースティンのゲーム出版社スティーブ・ジャクソン・ゲームズ(SJG)の従業員ロイド・ブランケンシップ(SF作家兼ハッカー、通称"The Mentor")が別に運営するBBSにこの文書が存在すると見て、1990年3月1日、SJGを家宅捜索した[9][12][11]。
押収の影響 — 捜査ではコンピュータ3台、300枚超のフロッピーディスク、電子掲示板「Illuminati」の全内容、そして刊行前のゲーム資料集『GURPS Cyberpunk』の草稿までが押収された。機器と原稿を失った同社は深刻な資金難に陥り、従業員を解雇せざるを得なくなった[9][12][13]。
論点 — SJGと個人利用者らは、押収がプライバシー保護法(Privacy Protection Act of 1980)、電子通信プライバシー法(ECPA)第1編(通信傍受)および第2編(蓄積通信)に違反すると主張した。中心的争点は、コンピュータに保存された未読の私的電子メールを押収・閲覧・削除する行為が、法律上の「傍受(interception)」に当たるか、それとも「蓄積通信(stored communication)」へのアクセスに当たるか、であった[14][15][16][13]。
結果 — 1993年、テキサス西部地区連邦地方裁判所のサム・スパークス判事は、シークレットサービスがプライバシー保護法およびECPA第2編に違反したと認定した。判事は令状準備を「ずさん(sloppy)」と叱責し、担当のフォーリー捜査官が弁護士でありながら同法を知らず、SJGが正当な出版社であることを数時間の調査で確認できたはずなのに怠ったと批判した。SJGには約5万ドルの損害賠償と約25万ドルの弁護士費用が認められ、私的メールを押収された各利用者にもECPAに基づき賠償が命じられた。一方で地裁は、押収時にメールが既にハードディスク上に蓄積されており送信と同時的な取得ではなかったとして、ECPA第1編の「傍受」には当たらないと判断。この点は1994年に第5巡回区控訴裁判所も支持し(EFHはこの控訴審で法廷助言者を務めた)、後の下級審に影響する解釈となった[17][13][18][15]。
その後の影響 — 本件は、法執行機関が令状なしに私的な電子メールを閲覧することは違法であること、そしてBBS上のオンライン表現も憲法の保護を受ける「言論」であることを確立した初期の先例として、デジタル市民的自由の分野で画期的と評価された。同時に「傍受」と「蓄積通信へのアクセス」を区別した判断は、電子メールのプライバシー保護をめぐる後年の議論の出発点となった。なお、並行して起きたナイドルフの刑事事件(合衆国対リッグス事件)では、問題のE911文書と同等の情報をベルサウス自身がわずか13ドルで一般販売していたことが暴かれ、開廷4日で訴追が取り下げられた[9][18][11][12]。
バーンスタイン対アメリカ合衆国事件(1995年–2003年)
背景 — カリフォルニア大学バークレー校の数学の博士課程学生(後にイリノイ大学シカゴ校教授)ダニエル・バーンスタインは、1990年に自ら開発した暗号アルゴリズム「Snuffle」のソースコードと解説論文を公表しようとした。当時、暗号技術は国際武器取引規則(ITAR)上、爆弾や火炎放射器と並ぶ「軍需品(munition)」として合衆国軍需品リストに掲載されており、公表(輸出)には武器商人としての登録と国務省の事前許可が必要とされた。バーンスタインはEFFの支援を受け、1995年に政府を提訴した[19][20][21]。
論点 — 主たる争点は、暗号ソフトのソースコードが合衆国憲法修正第1条の保護を受ける「言論(speech)」に当たるか、そして輸出規制(ITAR、のち商務省のEAR)が違憲の「事前抑制(prior restraint)」に当たるか、であった。政府は、ソースコードはコンピュータを制御する機能的性質を持つため言論の保護外だと主張した[22][21][23]。
結果 — マリリン・ホール・パテル連邦地裁判事は1996年、ソースコードが修正第1条上の言論に当たると認め、規制を違憲とした。1996年末に暗号の管轄が国務省から商務省(EAR)へ移された後も、判事は同旨の判断を維持した。1999年5月6日、第9巡回区控訴裁判所の3人合議体は2対1でこれを支持し、暗号研究者は「数学者が方程式を、経済学者がグラフを用いるのと同じように」ソースコードで科学的思想を表現していると述べ、EARの事前公表許可制度は「官僚に無制限の裁量を与え、適切な手続的保障を欠く」違憲の事前抑制だと判示した。ただし裁判所は、すべてのソフトウェアが表現に当たるわけではないと明確に留保した。政府は11人の裁判官による大合議(en banc)での再審理を請求し、原判決はいったん取り消されたが、再審理の前に政府が暗号輸出規制を緩和したため、事件は地裁へ差し戻され、最終的な違憲判断の確定には至らなかった[22][20][21][24][25]。
その後の影響 — 本件は、ソースコードが憲法上の言論として保護されうるという「コードを書く権利(right to code)」を確立した画期的判断として、暗号研究や表現の自由の分野で広く参照されている。判決は暗号輸出規制をめぐる論争の力学を変え、規制緩和を後押しした結果、安全な国際的電子商取引の発展を促したと評価される。この訴訟でEFFの外部主任弁護士を務めたシンディ・コーンは、のちに同財団の法務部長、さらに事務局長に就いた[19][20][21][26][27]。
レックスマーク・インターナショナル対スタティック・コントロール・コンポーネンツ事件(2002年–2004年)
背景 — プリンタ大手レックスマークは、自社のレーザープリンタにマイクロチップによる認証機構を組み込み、純正のトナーカートリッジしか使えないようにしていた。これは、再生・詰め替えカートリッジの市場を排除し、利用者に高価な純正品の購入を強いる狙いがあった。互換チップを製造するスタティック・コントロール・コンポーネンツ(SCC)は、この認証をくぐり抜ける「SMARTEK」チップを開発し、再生業者に販売した。レックスマークは、SCCがデジタルミレニアム著作権法(DMCA)に違反し著作権を侵害したとして提訴した。EFFはSCCを支持する法廷助言者意見書を控訴審に提出した[28][29][30]。
論点 — 争点は、カートリッジ内チップに格納されたレックスマークのソフト(「トナー・ローディング・プログラム」および「プリンタ・エンジン・プログラム」)へのアクセスを制御する認証機構を回避する行為が、DMCAの技術的保護手段の回避禁止規定に違反するか、そして当該ソフト自体が著作権保護に値するか、であった。より広くは、企業が著作権とDMCA、技術的ロックアウト機構を組み合わせて、競合他社による相互運用性(インターオペラビリティ)製品の製造を阻止できるか、という問題であった[29][31][32]。
結果 — 第一審のケンタッキー東部地区連邦地裁は2003年、レックスマーク勝訴の見込みが高いとして予備的差止命令を出した。しかし2004年、第6巡回区控訴裁判所はこれを覆し、SCC勝訴の判断を示した。裁判所は、(1)問題のトナー・ローディング・プログラム等は創作性に乏しく著作権保護に値しない部分があること、(2)プリンタ所有者は他の開かれたインターフェースを通じて直接ソフトにアクセスできるため、認証機構はソフトへのアクセスを「実効的に(effectively)」制御していないこと、を理由に挙げた。EFFはこの結果を、レックスマークの「保護手段」が海賊行為ではなく正当な競争からの保護を狙ったものだと裁判所が結論づけたものと評価した[29][31][28]。
その後の影響 — 本判決は、DMCAの回避禁止規定が、著作権侵害(海賊行為)の防止という本来の目的を超えて、互換製品・アフターマーケット製品を市場から締め出す道具として濫用されることに歯止めをかけた重要な先例となった。企業がロックアウトチップと著作権を組み合わせて相互運用性を阻害することは許されないとの原則を示し、その後の消費者の「修理する権利(right to repair)」やアフターマーケット競争をめぐる議論の基盤の一つとなっている[32][28]。
後日談:ランハム法上の原告適格をめぐる最高裁判決(2014年)
DMCA・著作権をめぐる争いが決着した後も、レックスマーク訴訟は別の論点で長く続いた。SCCは反訴として、レックスマークが虚偽・誤解を招く表示を行ったとして、ランハム法(連邦商標法)第43条(a)の虚偽広告規定に基づく請求を提起していた。具体的には、レックスマークがカートリッジ包装上で利用者に使用済み品の返却義務があるかのように偽り、また再生業者に対しSCC製チップの使用が違法だとする虚偽の書簡を送ったと主張した[33][34][35]。
争点は、直接の競合関係にないSCCが、この虚偽広告について提訴する原告適格を有するかであった。当時、連邦控訴裁判所はこの問題に3通りの異なる基準を用いており、判断が分かれていた。2014年3月25日、合衆国最高裁はアントニン・スカリア判事執筆の全員一致の意見により、第6巡回区がSCCの適格を認めた結論を支持した。最高裁は既存の3基準をいずれも斥け、代わりに「保護利益領域(zone of interests)」テストと「近因(proximate cause)」の要件を組み合わせる新たな二段階基準を示した。すなわち、原告は(1)売上や事業上の信用という商業的利益への損害が法の保護領域に含まれること、(2)その損害が被告の虚偽表示から直接生じたこと、を示さなければならないとした。裁判所は、名誉毀損的な中傷による信用の損害を訴える場合、近因の認定に直接の競争関係は不要であると述べ、SCCの適格を認めた[33][34][35][36][37]。
この2014年判決は、ランハム法の虚偽広告をめぐる原告適格の基準を全米で統一した画期的判断であると同時に、連邦法上の請求一般における「思慮的適格(prudential standing)」という曖昧な法理を、より明確な保護利益領域・近因の枠組みに置き換えたものとして、標準的な先例に位置づけられている[34][37][38][33]。
アップル対ドウズ事件(2004年–2006年)
背景 — 2004年12月、アップルコンピュータは、開発中の製品情報を漏らした匿名の人物(氏名不詳の「ドウズ(Does)」=ジョン・ドウ)を営業秘密の不正取得で訴えた。問題となったのは、GarageBand向けのFireWireオーディオインターフェース(コードネーム「Asteroid」または「Q7」)に関する記事を掲載した、アップル系オンラインニュースサイト「PowerPage」と「AppleInsider」であった。アップルは情報源を特定するため、PowerPageの発行人ジェイソン・オグレイディのメールサービス業者Nfoxに対し、通信内容の開示を求める民事召喚状(サピーナ)を発した。EFFは、共同弁護人とともにこれらのオンライン記者を代理した[39][40][41]。
論点 — 中心的争点は、オンラインの記者・ブロガーが、印刷媒体の記者と同様に、情報源の秘匿を認めるカリフォルニア州の「記者盾法(reporter's shield law)」および憲法修正第1条の記者特権によって保護されるか、であった。アップルは、ウェブサイトへの投稿は盾法の想定外であり、単なる盗まれた営業秘密の再頒布であって「ジャーナリズム」に当たらないと主張した。加えて、Nfoxへの召喚状が連邦の蓄積通信法(Stored Communications Act, SCA)に違反しないかも争われた[40][42][43]。
結果 — 第一審のサンタクララ郡上位裁判所は2005年、当該人物らが営業秘密の不正取得に関与したとして保護命令の申立てを退けた。しかし2006年5月26日、カリフォルニア州第6地区控訴裁判所は全員一致でこれを覆した(オグレイディ対上位裁判所事件、O'Grady v. Superior Court)。裁判所は、(1)Nfoxへの召喚状は連邦蓄積通信法の明文に反して執行できないこと、(2)オンラインニュースサイトの発行人も州憲法・証拠法典が定める記者盾法の保護を受ける「定期刊行物」に該当すること、を判示した[40][39][44]。
その後の影響 — 本判決は、オンラインの記者・ブロガーにも従来の報道機関と同等の情報源秘匿の権利が及ぶことを明確にした画期的な先例として広く引用されている。カリフォルニア州議会も後年の決議で、本件が州の盾法の適用範囲を、オンラインで発行する記者による取材・情報収集にまで広げたものと位置づけている。多数の報道団体(報道の自由のための記者委員会、カリフォルニア新聞発行者協会など)が法廷助言者として参加し、デジタル時代における報道の自由の画定に寄与した[40][45][39]。
MGMスタジオ対Grokster事件(2005年)
背景 — メトロ・ゴールドウィン・メイヤー(MGM)を筆頭とする28の大手エンターテインメント企業が、ピア・ツー・ピア(P2P)ファイル共有ソフトの配布会社GroksterおよびStreamCast(Morpheusの開発元)を著作権侵害で訴えた。娯楽産業による新技術への訴訟は、映画業界が家庭用ビデオ録画機を訴えた1980年代にさかのぼる。EFFはStreamCastを弁護し、合衆国最高裁まで争った[46][47]。
論点 — 中核的争点は、実質的に適法な用途を持つ多目的技術の配布者が、利用者の著作権侵害についてどこまで二次的責任を負うか、であった。背景には、実質的に非侵害的用途を持つ製品の頒布者は利用者の侵害の責任を負わないとする「ベータマックス原則」(Sony対Universal City Studios事件、1984年)があり、ハリウッド側はこの原則の実質的な否定を狙っていた[46][48][47]。
結果 — 2005年6月、最高裁は全員一致で、侵害を「積極的に誘引(induce)」した配布者は責任を問われうると判示し、StreamCastに有利だった第9巡回区の判断を破棄・差し戻した。デイヴィッド・スーター判事執筆の法廷意見は、侵害を助長する「明確な表現その他の積極的な行為」があれば誘引責任が成立するとする「誘引理論(inducement doctrine)」を新たに示した。もっとも最高裁は、ベータマックス原則そのものは覆さず、技術企業に多目的技術の再設計を強制することも拒んだ[47][48][46]。
その後の影響 — 判決を受け、Groksterは2005年11月にサービスを停止し、音楽・映画業界に5000万ドルを支払った。EFFは、最高裁がベータマックス原則を維持した点を一定の成果と評価した一方、新たに導入された「誘引」責任が、既存の寄与責任・代位責任と並ぶ第三の不確実な法理として技術開発者に萎縮効果を及ぼし、投資を委縮させかねないと懸念を示した。EFFはあわせて、ベータマックス原則を大きく損なうおそれのあったINDUCE法案の阻止にも動いた[46][47]。
NSAによる令状なし監視をめぐる訴訟(Hepting事件・Jewel事件)
背景 — 2005年12月にニューヨーク・タイムズがNSAによる令状なしの通信監視を報じたことを受け、EFFは2006年、通信大手AT&Tを相手取った集団訴訟「Hepting対AT&T事件」を提起した。証拠の中核には、元AT&T技術者マーク・クラインによる内部告発があり、サンフランシスコの秘密の一室(Room 641A)でインターネット通信の複製がNSA管理下の設備へ分岐・送出されていたことを示すものであった。2008年には後継訴訟「Jewel対NSA事件」を提起し、通信会社ではなく政府機関そのものを直接の被告とした[49][50][51][52]。
論点 — 争点は、通信会社および政府によるAT&T顧客の通信の傍受・データマイニングが憲法修正第1条・第4条や連邦通信傍受法・FISAに違反するか、そして政府の「国家機密特権(state secrets privilege)」や原告適格(standing)の要件によって訴訟自体が却下されるべきか、であった[49][52][53]。
結果 — Hepting事件で地裁(ウォーカー判事)は当初、国家機密特権による却下を認めず、監視に協力した通信会社は顧客から提訴されうると判断した。しかし2008年、議会はFISA修正法(FISA Amendments Act)を可決し、監視に協力した通信会社に「遡及的免責(retroactive immunity)」を付与した。これを受けて2009年に同事件は却下され、2011年に第9巡回区がこれを支持、2012年に最高裁が上告を退けた。政府自身を被告とするJewel事件も、原告が自らの通信が監視された事実を国家機密の壁の中で立証できず原告適格を欠くとして退けられ、2023年に最高裁が上告を受理せず終結した。いずれの事件でも、監視プログラムの合憲性そのものについての本案判断は下されなかった[49][50][54][52][53]。
その後の影響 — 一連の訴訟は本案勝訴には至らなかったものの、NSAの大規模監視の実態を公の法廷に持ち込み、その後のエドワード・スノーデンによる暴露(2013年)と相まって、監視をめぐる社会的議論を大きく喚起した。他方で、遡及的免責の付与と、原告適格・国家機密特権の壁により、大規模監視プログラムが事実上司法審査を免れる構造(EFFが「キャッチ=22」と評した状況)を生んだとして批判を呼んだ。EFFは、その根拠法であるFISA第702条の見直しなど、監視制度の改革を求める活動を継続している[49][50][54][52]。
ハシェット対インターネット・アーカイブ事件(2020年–2024年)
背景 — 2020年、ハシェットら大手出版4社が、非営利の電子図書館インターネット・アーカイブ(IA)を著作権侵害で提訴した。争点となったのは、IAが物理的に所蔵する書籍をスキャンし、所蔵冊数と同数までを一度に貸し出す「管理されたデジタル貸出(controlled digital lending, CDL)」の仕組みであった。EFFはMorrison & Foerster法律事務所とともにIAを弁護した[55][56][57]。
論点 — 中心的争点は、著作権で保護された書籍を全部スキャンし、一対一の所蔵対貸出比率を保ちつつ無償でオンライン提供する行為が、著作権法上の「フェアユース(公正利用)」に当たるか、であった[56][57]。
結果 — 2023年3月、ニューヨーク南部地区連邦地裁のジョン・クートル判事は、IAのCDLはフェアユースに当たらないと判断した。2024年9月4日、第2巡回区控訴裁判所もこれを支持し、電子書籍のライセンス料が図書館に負担を課しうる一方、著作者には複製・頒布に伴う対価を得る権利があるとして、著作権法が定めた両者の均衡を維持すべきだと判示した。IAは2024年12月、最高裁への上告を断念し、判決が確定した[56][57][58][59]。
その後の影響 — 本判決はEFFにとって敗訴に終わり、EFFは深く失望したとしつつ、公共的サービスを守るためIAと共に闘えたことを誇りとする姿勢を示した。判決は、図書館による電子書籍の貸出とデジタル保存のあり方、およびフェアユースの適用範囲をめぐって、図書館関係者の間に懸念を残す先例となった[55][58][57]。
ヴァン・ビューレン対アメリカ合衆国事件(2020年–2021年)
背景 — EFFが長年、過度に広範だと批判してきたコンピュータ不正行為防止法(CFAA、1986年制定)の解釈が争われた事件。ジョージア州の元警察官ネイサン・ヴァン・ビューレンは、FBIのおとり捜査の中で、金銭と引き換えに、正規のアクセス権を持つ警察のナンバープレート照会データベースを、業務外の私的目的で検索した。彼はCFAAの「権限を超えたアクセス(exceeds authorized access)」条項違反で起訴・有罪とされ、第11巡回区もこれを支持していた。EFFはコンピュータ・セキュリティ研究者らを代理する法廷助言者意見書を提出した[60][61][62]。
論点 — 争点は、あるコンピュータ上の情報へのアクセス権を持つ者が、それを認められない目的で利用した場合に、CFAA第1030条(a)(2)の「権限を超えたアクセス」に当たるか否かであった。この文言をめぐっては、利用目的の逸脱まで含める広い解釈(第1・5・7・11巡回区)と、本来アクセスできない領域への侵入に限る狭い解釈(第2・4・9巡回区)とで、連邦控訴裁判所の判断が4対3に分かれていた。EFFやACLUは、広い解釈を採れば、利用規約(TOS)違反だけで「ほぼすべてのインターネット利用者が犯罪者になりかねない」と警告していた[60][63][61][64][65]。
結果 — 2021年6月3日、最高裁はエイミー・コニー・バレット判事執筆の法廷意見により、6対3でヴァン・ビューレンの有罪を破棄・差し戻した。裁判所は「権限を超えたアクセス」を、アクセス権を持つ者が「ファイル、フォルダ、データベースなど、自分には立入禁止の特定の領域」の情報を取得する場合に限定し、いわば「ゲートが開いているか閉じているか(gates-up-or-down)」で判断する立場を採った。これにより、正規の権限内でアクセスした情報を不適切な目的で使ったにすぎない場合は同条項違反に当たらないとされた[60][63][66]。
その後の影響 — EFFはこの判決を「すべてのインターネット利用者の勝利」「とりわけセキュリティ研究者にとって朗報」と評価した。利用規約違反や雇用主のコンピュータ利用規程違反だけを理由にCFAAの刑事責任を問うことができなくなり、セキュリティ研究者、調査報道記者、公開データを収集する研究者らが法的リスクを大きく減じられることになった。判決の翌週、最高裁はこの判断に照らして、公開データのスクレイピングをめぐるhiQ・ラボ対リンクトイン事件の第9巡回区判決を破棄・差し戻した。もっともEFFは、技術的なアクセス障壁の回避を要件とするか否かなど残された論点があるとして、CFAAのさらなる限定に向けた活動を続ける姿勢を示している[66][67][63][61]。
現在の活動
EFFは訴訟に加え、政策提言(政策分析・立法ロビイング)、草の根の市民活動、そしてプライバシー保護技術の開発という複数の手法を組み合わせて活動している[3][68]。
技術・ソフトウェア開発
EFFは、一般利用者のプライバシーとセキュリティを高める無償・オープンソースのツールを開発・維持している。主なものに、サードパーティによる非同意のトラッキングを自動的に検知・遮断するブラウザ拡張機能「Privacy Badger」(2014年公開)、ウェブサイト管理者が無料のTLS証明書(Let's Encrypt)を自動導入できるようにする「Certbot」、ブラウザのフィンガープリンティング耐性を測定する「Cover Your Tracks」がある[69][70][71][72]。
かつて主力ツールであったブラウザ拡張機能「HTTPS Everywhere」(Torプロジェクトと共同開発、2010年公開)は、主要ブラウザがHTTPS標準化を実現したことで役目を終えたとして、2023年初頭に提供を終了した。EFFはこれを、ウェブ全体の暗号化という当初目標が達成された「勝利」と位置づけている。Certbotは、2016年の公開以来、数百万台のサーバーで数千万のウェブサイトのHTTPS化を支えるまでに普及した[73][70][74]。
監視の可視化と防御支援
EFFは、法執行機関による監視技術の導入状況を可視化するプロジェクト「Atlas of Surveillance(監視のアトラス)」を運営している。ネバダ大学リノ校ジャーナリズム学部の学生らとの協働によるクラウドソーシング型のデータベースで、顔認識、ドローン、自動ナンバープレート読取装置(ALPR)など、全米の地方警察・保安官事務所が用いる7,000件超の監視プログラムを収録し、検索可能な地図として公開している。同プロジェクトは2021年、報道の自由に関するジェームズ・マディソン情報公開賞を受賞した[75]。
このほか、政府・企業による監視から身を守る実践的手引き「Surveillance Self-Defense(監視に対する自衛)」、地域社会に導入される監視技術を解説する「Street Level Surveillance」などの啓発資料を継続的に更新している[73][76]。
政策・立法分野の近年の取り組み
近年のEFFは、急速に普及する人工知能(AI)技術に対し、憲法上の権利を守る明確なセーフガードなしに政府が導入すべきではないと主張し、連邦議会の小委員会で証言するなどしている。また、ジオフェンス令状(特定地域内の端末の位置情報を一括収集する捜査手法)を憲法修正第4条の「捜索」に当たるとした2026年の最高裁判決(チャトリー対アメリカ合衆国事件)にも法廷助言者として関与するなど、位置情報プライバシーの保護に取り組んでいる。さらに、オンラインでの年齢確認義務化やVPN規制の動きに対して、表現の自由やプライバシーの観点から反対の立場を取っている[71][68]。
表彰活動
EFFは1992年以来、情報技術の分野で自由と革新を推し進めた個人・団体を表彰する「EFF賞(EFF Awards、旧称パイオニア賞〔Pioneer Award〕)」を毎年授与している。過去の受賞者には、パケット通信の考案者ポール・バラン、TCP/IPを開発したヴィントン・サーフら技術の先駆者から、監視技術と闘う市民団体まで幅広い顔ぶれが名を連ねる[76][17]。
出版活動
関連団体
EFFの活動趣旨に賛同する各国・各地の団体として、次のものがある。イギリスの非営利組織であるオープン・ライツ・グループ(ORG)、日本で2007年に設立されたインターネットユーザー協会(MIAU)などである。また「電子フロンティア」を冠する団体として、カナダ電子フロンティア協会(EFC)、イタリア電子フロンティア・双方向電子通信自由協会(ALCEI-EFI)、オーストラリア電子フロンティア協会(EFA)がある。